MCUで再審される正義と悪…「Disney+」ドラマシリーズ『デアデビル:ボーン・アゲイン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にDisney+で配信
ショーランナー:ダリオ・スカルダパン
人種差別描写 ゴア描写 恋愛描写
であでびる ぼーんあげいん
『デアデビル ボーン・アゲイン』物語 簡単紹介
『デアデビル ボーン・アゲイン』感想(ネタバレなし)
準備運動ばっちりでMCUに本格参加
マルチバースの宇宙スケールで巨大化してしまった「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」。今ではすっかり映画とドラマシリーズが連動していますが、以前はやや複雑な時期がありました。
それは2008年の『アイアンマン』から始まったフェーズ1がなんとか成功をおさめ、勢いづいたフェーズ2(2013年の『アイアンマン3』から)の時期です。
この当時はまだ「Disney+(ディズニープラス)」なんてものもなかったですが、マーベルは独自にテレビ部門があり、「マーベルテレビジョン(Marvel Television)」というプロダクションでドラマシリーズを制作していました。
これらのドラマシリーズは映画群とは世界観は一応は共通するものの、薄っすらとした繋がりしかなく、ほとんど独立しているような感じになっていました。
その中でもニューヨークの裏社会を舞台にしたストレートものの作品群がこの当時の「マーベルテレビジョン」ドラマシリーズの顔になっていました。
具体的には、『デアデビル』、『ジェシカ・ジョーンズ』、『ルーク・ケイジ』、『アイアン・フィスト』、『パニッシャー』、『ザ・ディフェンダーズ』です。これら全てが「Netflix」で配信されていたので「Netflix版マーベルドラマ」と呼称されることもあります。
しかし、フェーズ3の終了間近の2019年に「マーベルテレビジョン」自体が閉鎖したため(「マーベル・スタジオ」に一本化した)、このドラマシリーズ作品群も一斉に終了し、MCUのサーガからは忘れられていきました。
ところが2024年からMCUは「マーベルテレビジョン」のプロダクションを復活させ、ドラマシリーズは基本的にこの部門で制作することになりました。
さらに、あのニューヨークの裏社会を舞台にしたストレートものの作品群の看板作である『デアデビル』が再始動することに…。これにはファンも大喜びです。
それが本作『デアデビル ボーン・アゲイン』。
ただ、製作は試行錯誤があって、当初は“チャーリー・コックス”を始めとする主要キャストは同じでも完全に物語をリブートする予定だったみたいですが、結局、Netflix版『デアデビル』と地続きになることになり、よりファンに配慮した構成になりました。
Netflix版『デアデビル』はシーズン3まで製作されたので、この『デアデビル ボーン・アゲイン』は実質シーズン4とも言えなくもないですけど、序盤のある出来事によって人間関係が仕切り直しとなるのでNetflix版『デアデビル』を未見の人でも楽しめるギリギリのバランスを確保している感じです。
主人公の“チャーリー・コックス”演じるデアデビル(マット・マードック)と、後はその敵対ヴィランである“ヴィンセント・ドノフリオ”演じるキングピン(フィスク)が大きなキャラクターとして物語を動かします。
デアデビルは以前のMCUだと『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』や『シー・ハルク:ザ・アトーニー』に登場し、キングピンは『ホークアイ』や『エコー』に登場したので、顔みせは済ましています。いよいよMCUでも本格的に対峙です。
『デアデビル ボーン・アゲイン』のショーランナーはドラマ『パニッシャー』を手がけていた“ダリオ・スカルダパン”。
『デアデビル ボーン・アゲイン』のシーズン1は全9話(1話あたり約40~60分)です。
『デアデビル ボーン・アゲイン』を観る前のQ&A
A:主にニューヨークで弁護士として働くマット・マードックという男性で、「デアデビル」として自警団活動もしています。目が見えないですが、他の感覚が超人的に研ぎ澄まされており、格闘に長けます。
A:可能であれば、「Disney+」で配信中のドラマ『マーベル/デアデビル』全3シーズンを観賞することをオススメします。なお、2003年の『デアデビル』という映画がありますが、無関係なので注意です。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 激しい暴力描写があり、物語は大人向けとなっています。 |
『デアデビル ボーン・アゲイン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
マンハッタンのウェスト51ストリート、通称ヘルズ・キッチン。マット・マードックはフォギー・ネルソンとカレン・ペイジと夜のこの街でくつろいでいました。マードックにとって2人は数多の苦難を共にした気の知れた仲であり、一緒に法律事務所「ネルソン、マードック&ペイジ」をやっています。
マットはデアデビルとして自警活動もしていましたが、フォギーとカレンはそれも理解してくれています。
行きつけのバーでくつろいでいると、フォギーが匿っていたベニーという人物からの連絡があり、どうやら身の危険を感じているようでした。そこでマットがデアデビルの格好で建物の屋上を飛び回って現場へ急ぎます。
しかし、その合間にポインデクスターという名で凶行に及んできた過去があるブルズアイが無防備なフォギーを狙撃。フォギーは胸を撃たれ、地面に横たわり瀕死の虫の息。カレンはその傷跡を手でおさえ、必死に声をかけますが…。
状況を察知してデアデビルは舞い戻り、室内でポインデクスターと戦闘し、屋上へ追い詰めます。けれどもフォギーは息を引き取り、怒りに絶叫するデアデビルは他者の命を奪わないという信念に反して相手を突き落としてしまいました。虚しさだけが残り、マットはマスクをとって打ちひしがれます。
1年後、ニューヨーク市長選が報じられ、ウィルソン・フィスクの出馬によって流れが変わっていました。フィスクは裏仕事をヴァネッサに任せていましたが、今は完全にそこから手を引き、自身は公で活動したいようです。
一方、マットはデアデビルとしての活動を辞めていました。マットは「マードック&マクダフィー」という新しい法律事務所を立ち上げ、ポインデクスターの裁判に証人として出廷。現在はサンフランシスコで働くカレンとは距離ができており、もう心を閉ざしていました。自警活動に意味はないと感じて…。
マットは職場同僚のキルスティン・マクダフィーに勧められて、ヘザー・グレンというセラピストと親交を深めます。また、調査員として雇った元刑事のチェリーからは社会の裏の情報を得て、仕事に活かしていました。それでもマスクは二度と被りません。
フィスクはヴィジランテの一掃を掲げ、ニューヨーク市長に当選。街が騒乱に包まれる中、マットは新しい時代を感じて佇むしかできず…。
白人クリスチャンヒーローを今だからこそ

ここから『デアデビル ボーン・アゲイン』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『デアデビル ボーン・アゲイン』は「ボーン・アゲイン(再誕)」のタイトルにふさわしいデアデビルというキャラクターを「Netflix」版から「MCU」版へ正式移行する見事な技を披露してくれました。それだけでなく、デアデビルをより現代社会の地に足のついた存在にまで仕上げ直してくれたと思います。
第1話はフォギーの殺害というファンにもショッキングな出来事から始まります。ただ、こういう全てを失ってゼロからリスタートするヒーローというのはこの手のジャンルでは定番の流れですから(MCUでも何度見たことか)、非常に王道を突っ切る開幕です。ここは想定の範囲内。
私が本作でとくに良かったと思ったひとつは、非常に「ヴィジランテ」という概念に対しての自己批判性が強いことです。ときに言葉がひとり歩きして自己中心的な使われ方もする「ヴィジランテ」。今の時代、ヴィジランテを主題にするならこれくらいは真摯に向き合わないといけないという模範を示すようなプロットでした。
まず前半はマット・マードックの白人特権を浮き彫りにします。そのために「ホワイト・タイガー」というヴィジランテとして自警活動していたプエルトリコ出身のヘクター・アヤラが対比的に配置されます。
ヒスパニック系またはラテン系のヘクターは人種正義に根差して自警活動しており、それを手放すことはできません。一方のマットは正義感はあれど白人かつ職業も確保している身なので、自警活動をしなくてもアイデンティティそのものを喪失はしません。この置かれている根本的な差ですよね。
さらに畳みかけるように出現するのがヘクターの命まで奪ったあの「パニッシャー」マークを利用して「悪人を罰する」行為に自己陶酔する汚職警察たちです。彼らには正義はなく、あるのは処罰感情です。
そんな警察権力を咎めるように、今回、本来のパニッシャーことフランク・キャッスルが再登場。自分のマークを勝手に使う連中にハッキリとモノを言います。「パニッシャー」マークは現実でもオルタナ右翼などの集団の一部に悪用されてしまったという苦い状況があったので、シンボルを取り戻すためにも、本作もかなり明確に姿勢を示しましたね。
また、マットのアイデンティティとして正義を支えているのが宗教…キリスト教です。彼は熱心なカトリック信者で、同時に第5話でムスリムのユスフ・カーンとも難なく打ち解けられるように、とても融和的な柔軟性があります。
本作にてクリスチャンのスーパーヒーローとしてしっかり存在感を誠実に放つことができていたのは素晴らしかったです。ただでさえ、今はこの「クリスチャン」も権力に悪用されている時代ですから…(ドキュメンタリー『Bad Faith』を参照)。

後半は殺した他人の血でグラフィックアートを街中に作るミューズ(正体はバスティアン・クーパー)への対処にとって、マットはデアデビルとして確実に自分を再構築。ヘザーによる「マスクは本性を引き出すのか、アイデンティティを奪って獣にさせるのか」というセラピーの中の葛藤にも答えをだします。
そして、最後のピースになるのが、あのフィスクをポインデクスターの暗殺狙撃から身をていして守ることでした。誰であろうと人権を守る…ヒーローとしても弁護士としても覚悟を決めた瞬間を最高のサスペンスの中で物語る展開でした。
「I Love New York」はお前の言葉じゃない
ドラマ『デアデビル ボーン・アゲイン』でマットと双璧をなす影の主人公がフィスクです。こちらも「フィスク ボーン・アゲイン」というタイトルをつけてもいいくらいの貫禄のある骨太なストーリーをかましてくれました。
フィスクはドラマ『エコー』でトラウマを克服したようで、今回のニューヨーク市長になるという人生の新しい挑戦も彼なりの「生まれ変わった自分」を内外に示す意味があった様子。
しかし、政治はそう簡単に上手くいくものではなく、イラついていき、しだいにあの暴君としてのフィスクがまた内底から這い戻ってくる…。MCUのヴィランの中でも屈指のリアリティがあったのではないでしょうか。
「ヴィジランテ」という言葉を「敵」を都合よく表すスケープゴート的に駆使し、警察権力を手駒にして自警団制圧チームを作り、メディアをコントロールし、レッド・フック宣言まで引っ張り出して法律も味方にし、ヴァネッサとも半ば支配的によりを戻し、以前よりさらに凶悪になったキングピンが帰ってきました。市長代理に任命された凡人のダニエル、どんな悪事にも手を染めるキャッシュマン…周囲にいる人間も既視感があります。非常にタイムリーな政治権力ヴィランとその取り巻きを完璧に表現してみせていました。
ドラマ『ザ・ボーイズ』のようなダークユーモアに傾かずに、ここまで現実味をもって政治とヴィランを逃げずに描き切ったのは凄いです。何度も言うけど、2025年の時代性を掴んだのもデカいですね。
治安回復法の施行を宣言し、全ての自警活動を違法にして、近い将来に戒厳令を敷くと言い切ったキングピンの事実上の独裁都市国家が確立一歩手前。
続きとしてこのシリーズの飛躍の鍵になるのは「いかにリアリティを維持するか」と「いかにファンを満足させるか」の2点だと思います。
リアリティという意味では、今作のフィスクは市長なので政治劇なわけです。単にフィスクをぶん殴っておしまい!というわけにはいきません(ドクター・ストレンジなら魔術でひょいっと片づけられるでしょうね)。政治・社会的に勝たないといけないのです。それをまさにフィスク的な存在に怯えて暮らす私たちにどう納得させて描くかです。
シーズン1の最終話では、マットがデアデビル姿でカレンと一緒に馴染みのバーで全員が一丸となって「抵抗、反乱、再建(Rebel, Resist, Rebuild)」に取り組もうと呼びかけていましたし、これが彼の「部隊」になるのでしょう。ツンデレなパニッシャーも加わってくれそうです。
あとはファンとしては「ディフェンダーズ」の面々がまた揃ってくれるかですね。これは契約上の問題に左右されるでしょう。そしてスパイダーマンの参戦もファンの最大の夢のはず。これは権利上の問題なので…どうかな…。
シーズン2では決着はつかないでしょうが、その正義の戦いを見守りつつ、現実社会での闘いの糧にしていきたいところです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品の感想記事です。
・『アガサ・オール・アロング』
・『ミズ・マーベル』
作品ポスター・画像 (C)Marvel Television デアデビル ボーンアゲイン
以上、『デアデビル ボーン・アゲイン』の感想でした。
Daredevil: Born Again (2025) [Japanese Review] 『デアデビル ボーン・アゲイン』考察・評価レビュー
#アメコミ #マーベル #MCU #スーパーヒーロー #チャーリーコックス #ヴィンセントドノフリオ #ヴィジランテ #弁護士 #法廷劇 #政治 #視覚障害