コーラ戦争は気が抜けない…ドキュメンタリー映画『COLA WARS コカ・コーラvsペプシ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:ニコラス・ウォード
COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ
こーらうぉーず こかこーらぶいえすぺぷし
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』あらすじ
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』感想(ネタバレなし)
1970年代から起きたこの戦争を知ってる?
その相手を倒すべく100年以上にわたり激しく戦っている「2つの勢力」。
アメリカとロシア? 保守とリベラル? 高齢者と若者? いいえ、今回はそれではありません。
今回、取り上げるのは…コカ・コーラとペプシです。あの炭酸飲料のコカ・コーラとペプシのこと。
皆さんは、コカ・コーラ派ですか? ペプシ派ですか? 今ならこんな質問をぶつけてもそんなにピリピリする空気にはならないはず。でも数十年前は違ったのです。
ところで私はと言えば、小さい頃から「黒茶色でシュワシュワするジュース」は全部「コーラ」だと思ってました。いや、それはそれで合っているのですけど、コカ・コーラとかペプシとか会社の種類があるなんて考えもしていなかった…。それくらいコーラはコーラとしての絶対的な存在感がありましたね。大人になった今はすっかり炭酸飲料自体を飲まなくなってしまったのですけど…。
そんな今も飲み物の定番となっているコーラ。たいていの飲食店にはコカ・コーラかペプシがあります。ある意味では永遠のライバルみたいな関係性の2つのメーカーの炭酸飲料ですが、実はその関係には複雑な歴史がありました。そして1970年代のアメリカで、そのコカ・コーラとペプシはついに激しい火花を散らすことになり、なんと「Cola Wars(コーラ戦争)」と呼ばれるほどの対決として世間を賑わせたのです。
当時を知らない人にしてみれば「何それ? コーラ戦争? ふざけてるの?」と思うでしょうが、本当にこれは戦争だ!というレベルの激しすぎる対立が生じ、それこそ国民を2分するほどの過激な分断を招いてしまったというから事態は尋常ではありません。
そのコーラ戦争、どういう状況だったのだろう…と興味が湧いた人はぜひこのドキュメンタリー映画がオススメです。
それが本作『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』です。
このドキュメンタリーはもうタイトルで一発でわかると思いますが、コカ・コーラとペプシのかつてないバトルが勃発した歴史を、当時を知る各企業の重役や専門のジャーナリストにあれこれ語ってもらいつつ、その凄まじさをまとめたもの。本作を見ると「コーラ戦争、とんでもねぇな…」ってことがわかるでしょう。
面白いのは、これがアメリカの二大政党制と重なるような構図を持っていることです。偶然ですが、コカ・コーラは赤色をトレードカラーにしており、対するペプシは青色。アメリカの共和党の赤色、民主党の青色と一致します。別に共和党支持者はコカ・コーラ派で、民主党支持者はペプシ派だというわけではないのですが、あの過度なアピール合戦とバッシングの応酬が繰り広げられるあまりにも極端な炭酸飲料大激戦は、まさしくアメリカの大統領選挙を彷彿とさせるもので、これは実にアメリカらしい直球のアメリカ的な政治文脈を持ち合わせた対決イベントだったんだなということが納得できると思います。
また、マーケティングなどの仕事に関わっている人も必見のドキュメンタリーです。企業における商品の開発、広報、ブランドイメージの確立、消費者との向き合い方、はたまた炎上案件に関する対処など、ビジネスでは避けては通れない一連の全てがこのドキュメンタリーには詰まっており、本作を見れば「お手本」もしくは「反面教師」にできる…かもしれません。でも本当に役立つドキュメンタリーですよ。何よりわかりやすくまとまっていて、難解さなんて皆無ですから。
さらに、映画業界にも関わる話題も飛び出してくるので、映画好きの人も注目です。思えば、映画にはこの手の炭酸飲料、いろいろ登場していましたよね。
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』はアメリカ本国ではテレビ映画だったのですが、日本では「U-NEXT」で配信されているようです(ただし配信状況は変化すると思います)。
ぜひとも炭酸飲料を手元に用意して鑑賞してみてください。コカ・コーラとペプシの両方を揃えれば、なお完璧。飲み比べしたくなってきますからね。
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :コーラがもっと好きになる? |
友人 | :コーラ好き同士で |
恋人 | :コーラが互いに好きなら |
キッズ | :コーラ好きになってしまう |
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』予告動画
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』感想(ネタバレあり)
コーラの誕生の歴史
『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』の本格的な感想に入る前に、そもそも「コーラ」とは何なのかをおさらい。
「コーラ(cola)」とは炭酸の入った黒っぽい色の飲み物の総称で、始まりは1886年にアトランタの薬剤師である“ジョン・ペンバートン”が発明したものでした。当時は禁酒法の時代で、“ジョン・ペンバートン”はコーラをアルコールの代用として利用できないかと考え、要するに治療目的の代物だったそうです(当時は炭酸水は薬効を謳って売り出されていたみたいです)。コーラという名前の由来は「コーラ」と呼ばれる「コラノキ」の実から抽出したエキスを用いていたからであり、今の一般で販売されている飲料としてのコーラとは成分が全然違いました。
そのコーラが普及し始め、各社がマネをしだし、1893年に“キャレブ・ブラッドハム”によって開発されたのがペプシコ社が製造するソフトドリンク飲料「ペプシコーラ」でした。ちなみにペプシの名前の由来は消化酵素のペプシンが含有されていたからとのこと。
なんで他社がマネできてしまったのだろうと思いますけど、実は発明者の“ジョン・ペンバートン”はビジネスが成功したにもかかわらずコカ・コーラの権利を持たず、売ってしまい、権利関係でかなりゴタゴタと当初は揉めていたそうです。
コカ・コーラの権利は1888年に“エイサ・キャンドラー”の手に落ち、「コカ・コーラ・カンパニー」を設立します。そして絶対王者として君臨することになるのです。
なお、本作でも頻出する「コーク(coke)」とはコカ・コーラ社の商品であるコカ・コーラの愛称。日本では「コーラ」と言えばコカ・コーラを指していたりもしますが、「コーラ」は先ほども書いたように本来は総称です。
こうしてコーラ戦争の土台は築き上げられていきました。あとは戦うだけ…。
2位を目指す! ペプシの戦略の上手さ
1970年までコカ・コーラのコークは世界で確固たる地位を確立し、市場を独占。どこに行ってもコーラの看板があり、「OK」と並ぶ世界で通じる英単語として「coke」が知れ渡りました。
そんな中、ペプシは市場で2位になるという堅実な目標を立てていました。『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』はこのペプシの非常に巧みな戦術が随所に光りますね。明らかにペプシの方がセンスがあるというか、戦略的にビジネスできています。
そのペプシの最初の一手となった、テキサス州ダラスの地方社員が思いついたというある意表を突くキャンペーン…商品名を伏せて行う味覚調査…通称「ペプシ・チャレンジ」なんてまさに発想力の賜物。今でいえば「バズり方」というのを心得ている。ペプシ・チャレンジは大ウケし、「本当か?」とみんなやりだし、まんまとこの広告でコーラのライバルはペプシだと印象づけることに成功。ドクターペッパーの次の3位だったペプシの怖いもの無しな大胆な戦法でした。
また、1980年代の大量消費時代が到来すると、“マイケル・ジャクソン”を500万ドルの契約金額で起用したCMで勝負に出ることに。CM撮影中に“マイケル・ジャクソン”の髪に引火して負傷する騒ぎもありましたが、完成したCMは超クール。首位まで5%差に迫ることに成功。
それと同時にスターを起用するCMが主流になるという消費者扇動型のイメージ・マーケティングを軸にした業界の新しい流れまで作ってしまうという…。ペプシ、凄いな…。
なお、ペプシは“マイケル・ジャクソン”、コカ・コーラは“ビル・コスビー”を起用していましたが、どちらも後に未成年への性的暴力で告発されるという皮肉なシンクロも…。
ともかく以降は競合他社名を露骨に持ち出してのディスり合戦に発展するのですが、ペプシはやはり2番手という挑戦者側のせいか、アプローチが尖っていて、煽り方もわかっている。明らかにムーブメントを作るのが上手いメーカーだったんですね。
そう言えば、日本でも1990年代後半に「ペプシマン」が流行っていたなぁ…(当時の日本ではペプシはサントリーが事業を行っていました)。
こんな風に書くと私がペプシ派のステルスマーケティングでもしているように見えますが、ペプシも広告で炎上することはありました。例えば最近だと“ケンダル・ジェンナー”を起用した広告が「Black Lives Matter」を軽く扱って便乗していると猛批判を受け、広告を取り下げる事態になったり…(この話題はドラマ『ザ・ボーイズ』でパロディにされていましたね)。
絶対王者のコーラ。その保守性と油断
一方のコカ・コーラは端的に言っていかにも昔の企業体質…つまり保守的で秘密主義的です。先駆者としての優位性に胡坐をかいている面が大きく、それが後に大きな命取りになってしまうのですが、でも王者としての貫禄はあります。
コークのダイエット炭酸飲料として当初は「TAB」という商品名で女性向けを売りにしましたが、1982年に「ダイエット・コーク」を販売し、男性もターゲットに。これで3位の炭酸飲料に躍進し、ダイエット・コークを2位にしようと画策。敵が2位に着くなら我々が1位と2位を独占してやる!という、なんとも暴君みたいな手を使ってきます。
かと思えば、ハリウッドとしっかり関係を深め、1980年代の大作映画ブームに乗っかって、いろいろな映画にさりげなくコークを登場させたりも…。慌てたペプシも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に商品を登場させ、CMも映画のようになり、“リドリー・スコット”など有名監督も雇われるなど、CMと映画業界の接点も生まれるきっかけになったのですから、映画史においてもコーラ戦争は無視できないんですね。
それでもペプシの執拗な攻撃に王座が揺らぎ始めたコカ・コーラは焦った結果、ある禁じ手にでます。それはコークの調合を変える…味を変えるということ。コークの調合は絶対的な秘密主義で守られ、それが商品の特別さを保持していました。調合の詳細は社内でもわずかしか知らず、いつの間にか伝説化し、「3人しか知らず、3人同時に飛行機に乗らない」という噂まで流れたとか、この秘密主義ゆえにインド市場から撤退もしたとか、とにかく逸話に事欠かない。それなのに調合を変えるなんて…。
この「ニュー・コーク」。要は大炎上したわけです。ペプシは薄ら笑いが止まりません。これは既存のコークの撤退を意味するじゃないかと「勝利の味は甘い」と全面広告。戦勝記念日で従業員に休日を与えて上機嫌。一方のコークの記者会見は抽象的でどんな味かさっぱり説明できず(まあ、調合を大半の社員は知らないですしね)、勝ち誇るペプシ。追い打ちをかけ、CMでいじりまくり、ニュー・コークは世間の笑い者に…。
首位を独走して図に乗っていたコークが完全にヘマをし、勝負どころを読み間違えたのは明らかですが、ビジネスにはありがちな転落ですね。
そしてアメリカの象徴に…それで終わりなのか?
そんなコーラ戦争の模様が『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』では映し出されていきますが、印象的なのは企業だけでなく、消費者も対立するということ。変な話ですよ。たかが炭酸飲料では?と思うのですが、でもそこには熱狂的な信者がいて、コーク派とペプシ派に分かれて凄まじい対抗意識を持っている…。
ニュー・コーク騒動の時もコーク派が「前のコークが消えるのか?」と焦りだし、「アメリカの伝統が失われる!」と不買運動に発展し、もはや聖書の内容を変えますとでも言ったかのような阿鼻叫喚です。
結局、コーラ戦争の末期は、コークの味を戻すと発表され、ニュー・コークはコーク、昔のはクラシック・コークとして販売され、「コーラはアメリカの象徴だね」という空気で解散します。
80年代終わりは大量消費時代のバブルが終わる時期でもあり、今や多様性の時代。それぞれ好きなモノを選び、みんな同じものを飲むなんてことはない。炭酸飲料は不健康な印象が強くなり、文化は変わりました。2社は商品を多様化させる方向で今も競争はしていますが…。
本作は「コーラ戦争は終わったのか?」という問いかけを残していますが、私なりの答えを言えば、このコーラ戦争は別の商品戦争の先駆けだったのだと思います。
なんだろう、今でいうところの「トキシック・ファンダム」の前兆と言いますか、狂信的な愛好家が社会さえも分断してしまうこと…その対立をイチ企業が作り上げてしまい、利益ありきの商業主義で成り立ってしまうこと。2020年代に振り返ると色々考えたくなることが無数にあるコーラ戦争ですね…。
単なる商品が消費者の中で神聖化され、力を持ちすぎるということの危険性について考えざるを得ない。それこそ現在の「ポリコレで作品がダメになる!」と騒ぐ一部の消費者とそっくりな構図ですし、「ただの商品なんだよ?」という前提が崩れちゃうとこうも怖いのか…。
コーラで戦争しているだけならまだ平和だったと言えるのかもですけどね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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食品を扱ったドキュメンタリーの感想記事です。
・『スーパーサイズ・ミー ホーリーチキン!』
・『Seaspiracy 偽りのサステイナブル漁業』
作品ポスター・画像 (C)Herzog & Company コーラ・ウォーズ コカコーラvsペプシ
以上、『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』の感想でした。
Cola Wars (2019) [Japanese Review] 『COLA WARS コカ・コーラvs.ペプシ』考察・評価レビュー