カラー・アウト・オブ・スペース
映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Color Out of Space
製作国:ポルトガル・アメリカ・マレーシア(2019年)
日本公開日:2020年7月31日
監督:リチャード・スタンリー

カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』あらすじ

ガードナー家族は大都会の喧噪から逃れるため、閑静な田舎に移住してきた。しかし、前庭に謎めいた隕石が激突して以来、一家の生活に異変が生じるようになる。心と体に影響を及ぼす違和感。それはしだいに血をみる事態にまで深刻化し、やがて理想としていた静かな田舎暮らしは悪夢へと変わってしまう。そこにいたのは人間の家族ではとうてい太刀打ちできない人知を超えた存在だった。

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』感想(ネタバレなし)

クトゥルフの世界へようこそ!

「クトゥルフ神話」というものをご存知でしょうか。

知らない人は全くのちんぷんかんぷん、知っている人は「当然!あれでしょ!」としたり顔で答える感じですかね。でも説明はできなくともそのワードを目にしたことはあるのではないかなと思います。よくグログロで気持ち悪いモンスターとかに対して「クトゥルフっぽい」という言い回しを使うこともあります。なんかわかる人には伝わる用語になってますよね。

クトゥルフ神話というものは「神話」と名前についていますが、ギリシャ神話みたいな正規の歴史ある神話ではありません。比較的最近になって創作された特定の架空世界観を指す用語です。

このクトゥルフ神話の原型を作ったのが、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという1920年代から1930年代にかけて活躍したアメリカ人の小説家です。このラヴクラフトは46歳で癌で亡くなってしまい、短命だったのですが、SFホラーの先駆者として語り継がれています。後世のクリエイターにも多大な影響を与え、それこそスティーブン・キングなんかもそのひとりです。

ラヴクラフトの小説は独特な世界観があり、「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」と本人は呼んでいたそうですが、とにかく人知を超えた何か(俗に言う“クトゥルフっぽい”何か)が登場し、人間ではどうしようもないままに翻弄されていくのが定番です。そのラヴクラフト亡き後、他の友人の作家たちが彼の世界観を引き継ぐようにあれこれ体系化し、できあがったのがクトゥルフ神話です。

要するに「俺たちの考えたオリジナル神話!」みたいな、極めてオタクっぽいノリで生まれたと雑に言うこともできます。

そんなオタク妄想の具現化みたいなクトゥルフ神話が現代になっても愛されているのはやはりそれだけの魅力があったということでしょう。ラヴクラフトの小説が映画化されたこともあり、例えば『ダンウィッチの怪』(1970年)なんかがあります。ただ、直接的な映画化でなくとも、『ミスト』や『クローバーフィールド HAKAISHA』などなど、明らかにクトゥルフ神話成分が色濃く反映されている映像作品なんてものはわんさか存在するので、もはやクトゥルフ神話はミームとして生き続けていますね

このようなクトゥルフの侵食が蔓延した世界で、あらためてラヴクラフトの代表作小説が映画化されることになりました。それが本作『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』です。

原作はラヴクラフトが1927年に執筆した「宇宙からの色」という小説。1965年にも『襲い狂う呪い』として映像化されているのですが、今回またも私たちの前に映像世界として登場することになりました。でもこの作品は映像化が難しいものです。なぜなら襲ってくる謎の存在は人間には認識できない不可視の生命体だからです。これをどう映像で見せてくるのか、そこも本作の注目ポイント。

そしてこれは太鼓判を押せますが、ラヴクラフトの世界をしっかりリスペクトした、なんとも奇抜で神々しいビジュアルになっています。非常に映画館の大画面で映える、見ごたえがあります(ちょっと目がチカチカするけども)。

あ、もちろんグログロ、グッチャグチャなのですけどね。そこはクトゥルフですから、当然。苦手な人は…どうしようか、ポップコーンでも食べていようか…でも食欲も失せる容赦ないグロテスク映像の連発ですが…。私はポップコーンよりもこういう映像の方が大好物なんだけど…。

監督は“リチャード・スタンリー”という人で、南アフリカ出身で、最初の監督作は『Hardware』という1990年の映画。その後もH・G・ウェルズの小説「モロー博士の島」の3度目の映画化作品である『D.N.A./ドクター・モローの島』の脚本を手掛けたり、基本的にSF&ホラージャンルにどっぷり浸かってきた人物でした。どうやらかなりのラヴクラフトのマニアらしく、『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』を第1弾に今後もどんどん映像化していきたいようです。本作の評価も高いので、これはラヴクラフトならこの人にお任せ!と言われる安心の鬼才クリエイターになるかもですね。

さらに忘れてはならない俳優陣。主演はオカルトとの相性が抜群すぎることで信頼のある“ニコラス・ケイジ”です。最近もとにかく仕事量が多く、ヘンテコな映画にいっぱい出演しているのですけど、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018年)みたいな批評家も称賛を贈る映画でも最高に輝いていたし、年をとってもキレキレです。『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』の“ニコラス・ケイジ”もぶっとびまくっているので期待してください。

他には『レッド・スパロー』の“ジョエリー・リチャードソン”、『好きだった君へのラブレター』の“マデリン・アーサー”、『ザ・ゲスト』の“ブレンダン・マイヤー”、ドラマ『アメリカン・ゴシック』の“エリオット・ナイト”などが脇を揃えます。

原作が原作なだけにクセがやたら強いSFホラーですが、ハマる人は大好きなはずです。クトゥルフを知っている人も知らない人も一緒に融合しようではありませんか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(クトゥルフの沼へようこそ)
友人◎(話のネタにはじゅうぶんすぎる)
恋人◯(耐性があるなら一緒に)
キッズ◯(かなりグロいけど!)

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』感想(ネタバレあり)

それは人間にはどうすることもできない

女性が独りでなんだか謎めいた儀式っぽいことをしています。火をつけたり、本人は真剣です。おそらく足に記されたペンタグラムから「ウイッカ」と呼ばれる魔女術信仰のネオペイガニズムなんだろうな…というのが推測できます。

そんな熱心な女性のもとに通りかかったのはひとりの青年。彼の名前はウォード・フィリップス。水文科学者で、近くのダム企業で働いているようです。

ちなみにこのウォード。ラヴクラフトのフルネームを見てもらえるとわかるように「Howard Phillips Lovecraft」から抜き出した名前であり、プロヴィデンス出身だとも言ってますし、実質、彼はラヴクラフト本人の投影のように解釈することもできます。映画を最後まで観れば、これは彼の見届けた物語だというのも理解できますしね。

話を戻します。ウォードはその女性と少し会話。女性はラヴィニア・ガードナーだと名乗って馬に乗って去っていきました。

家に帰ってきたラヴィニア。さっそく父であるネイサン・ガードナーに小言を言われますが、無視です。アルパカを飼育している小屋に行くと家族の長男ベニーがいます。最年少のジャックは井戸を覗いていました。屋根裏では母テレサがパソコンで仕事をしています。

ガードナー一家は大都会の喧騒を離れて、この静かな森に佇む家に引っ越してきたのでした。自然の風音と虫や鳥の声のみしかない、落ち着いた場所です。ここでトマトの栽培アルパカの飼育をしつつ、のんびりテレワークしているというライフスタイル。

その夜。ラヴィニアとジャックは各自の部屋のベッドで横になり、ベニーは自室のパソコンに犬のサムと向き合っていました。夫妻は仲良くいちゃついています。すると微かに振動が…。
 
ジャックは起き、部屋を出ます。そして紫の光が部屋いっぱいに入り込み、電気が消え、アルパカも何事かとザワザワする中…ドン!

ジャックの絶叫を聞いて、事を中断して駆け寄る夫妻。怯え切ったジャックは何も語りません。

家の前の庭には謎の光を放つ岩が落ちていました。それはまるで隕石のような何か。紫っぽい色を放ち、蒸気をあげながら、この世のものとは思えない不気味な存在感を放出しています。

翌朝、保安官たちがその例の隕石のようなものの調査にやってきます。しかし、何の手がかりもないのでお手上げです。一方、ウォードは周辺の水質が何かおかしいことに気づき始めます。

また夜。稲妻が何度も隕石に落ちます。その明らかに怪しい光景をネイサンとラヴィニアはどうすることもできずに眺めているだけでした。

フィリップスは夜に何かの気配を感じてライトで照らします。でもよく見えません。突然、車のエンジンがかかり、ヘッドライトに照らされます。かと思えばラジオがかかり…。

食事の準備中、テレサは指を切り落としてしまい、急いで車で病院へ向かう父を見送り、3人の子どもたちは留守番することになります。

アルパカの世話に追われるベニーをよそに、ジャックは井戸に向かって口笛を吹いています。その状況をさっぱり理解できないラヴィニア。しかし、何か得体のしれない気配を感じるような気がしてきます。父からの電話に出るラヴィニアでしたが、ノイズでまともに会話はできません。ジャックは奇妙な絵を描き始め、ふと井戸に向かって歩いていき、井戸を覗くと、中に何かいるのを発見。それはピンクのカマキリみたいな虫で、井戸から出てきて飛びたってしまいました。

何かが起きている。でも言葉では説明できない。

いつのまにか家の静かな庭は、奇妙な花が咲くようになり、風景が少しずつ変貌していっていました。そしてあの隕石は姿かたちもなく消滅しています。

そしてついに目撃してしまうのです。“あれ”を…。

マゼンタは不自然な色

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』はまず前半の不吉な予感がどんどん蓄積していくパートの空気感がとても良いです。「あれ、おかしく…なっている?」みたいな、少しずつ現実を非現実にすり替えていく感覚といいましょうか。見慣れた世界が壊れているのに適切に自覚できないという怖さです。

そもそもあのガードナー一家は隕石落下前からちょっと変なんですよね。ネイサンがおかしいのは、まあ、“ニコラス・ケイジ”だからそうなのですけど(失礼)。でもいくら都会が嫌だからってこんな森の中でアルパカを育てる奴はやっぱり世間からズレています。

テレサも「え?そこでそんな仕事しているの?」と思わずツッコミたくなる感じです。屋根裏はないだろう…と。ちなみに原作は1880年代が舞台で普通に農家なんですよね。それをそのまま現代に置き換えつつ、絶妙にちぐはぐにしている設定も面白いなと思います。

ラヴィニアもオカルトに夢中です。このラヴィニアというキャラクターの名前は原作にはなく、「ダンウィッチの怪」という別のラヴクラフトの作品から引っ張ってきたもので、そちらでは魔術が出てきます。一瞬、「宇宙からの色」ではなくてそっちの映画化なのかと錯覚する冒頭でしたね。

そしていよいよ起こる隕石。この落下シーン。最初はネイサンとテレサがセックスに興じており、あの揺れもその振動なのかと思わせる嫌らしい演出になっています。同時に人間の生殖のすぐそばで人知を超えた何かが飛来するという対比もまた象徴的です。

また、ここで寝ているジャックは恐竜みたいな大きめのぬいぐるみを抱いています。これもジャックが遭遇する生命体のフラグのような感じがしてきますよね。恐竜よりもさらに未知な存在に出会うという…。

ここから不吉さを印象的に醸し出す演出に多用されるのが「色」。とくにマゼンタ色です。自然界にあるとどうしたって目立つ色であり、あんな牧歌的な森林景観ならなおさら。ガードナー一家はそのマゼンタ色にじわじわと染色されるように支配されていきます。

ちなみにインクジェットプリンターを使っている人ならわかると思いますが、そのインクは「CMYK」という、「シアン(Cyan)」「マゼンタ(Magenta)」「イエロー(Yellow)」「黒(Key tone; Black)」の4色で構成されています。「色の三原色」ってやつですね。そのうちマゼンタはスペクトル外の色、つまり少し特徴が違うものです(虹でもマゼンタの色がでないことからもわかります)。要するにああやってマゼンタ色の光が頻繁に自然に発生するのはオカシイことなのです。

マゼンタ色を発生させる“何か”がいる…ということ。本作ではこの宇宙生命体は一切姿を見せずに終わるのですが、あの光だけでもじゅうぶんに存在感を表現できており、ここは演出のセンスが冴えわたっていました。

いでよ、アルパカ(クトゥルフ形態)

物語後半になるとついにスタンバイしていたクトゥルフさんも本気モードに突入。

その前に壊れていく“ニコラス・ケイジ”をお楽しみくださいと言わんばかりに狂っていくネイサンの姿がもう危なっかしくて。だいたいもとからちょっと変で、妻が指を平然と切断したのにそんな態度で帰りの車はいるのか…とかツッコミの嵐です。個人的にはあのトマトを食べるくだりが面白すぎます。奇形になってしまった歪なトマトに若干テンション高めで食らいつき、マズいと吐き出しては、また別のを食べ、また吐き出すという、もうかなりヤバイ状態のトマト野郎でした。ほんと、あのトマトとアルパカに対する情熱はなんなの…。

“ニコラス・ケイジ”が何の役にも立たずにそうこうしているうちに、ついにやってきました、融合タイム。あのテレサとジャックの融合ビジュアル。最初は直接見せず、声だけ見せて、ソファにやってきたラヴィニアのシーンで初めてお目見え。このもったいぶる感じもいいです。

そして家畜小屋には無残にウルトラ合体してキングギドラのなりそこないみたいになってしまった可哀想なアルパカさんたち…。アルパカ大好きなネイサンもあれを撃つのは心苦しかったでしょうね…。私としてはあのアルパカ(クトゥルフ形態)がもっと活躍してほしかったのですけど、でもいまだかつてないアルパカの見せ場があったのでおおむね大満足です。無害なのだとしたら家に飾っておきたい…。

ラストはワインセラーに隠れて生き残ったウォードの前に広がる一面が白の世界。ここで最後に黒人のキャラクターが生存する展開にしている仕掛けが効いてきますね。色のある世界で差別を受けている人種が、色のない世界というゾッとする不気味さを経験する…そういう観点でも意味深くもなりますから。

これほど完成度の高い映像化になるとは嬉しい驚きであり、私も“リチャード・スタンリー”監督には期待一色です。

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』でクトゥルフ神話に興味を持った人、今後にも大注目してください。

なぜなら、ジョーダン・ピールやJ・J・エイブラムスが製作総指揮を務めるHBOのドラマ、その名も『Lovecraft Country』という作品が制作中。そのタイトルどおりラヴクラフトに愛を捧げたホラー作品らしく、これはもうアメリカの映像作品業界に空前のクトゥルフ神話ブームが到来しているんじゃないでしょうか。

クトゥルフ神話の侵食はまだまだ止まりません。

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 82%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved  カラーアウトオブスペース

以上、『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』の感想でした。