見るのは拒否できない…Netflix映画『バード・ボックス: バルセロナ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:スペイン(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:ダビ・パストール、アレックス・パストール
交通事故描写(車)
バード・ボックス バルセロナ
ばーどぼっくす ばるせろな
『バード・ボックス バルセロナ』あらすじ
『バード・ボックス バルセロナ』感想(ネタバレなし)
バルセロナ観光映画?
マドリードに次いでスペインで人口が2番目に多い都市、バルセロナ。
有数の観光都市であり、毎年大勢の観光客が来訪します。観光名所もたくさんあり、たくさんの人を楽しませていますが、その中でもこのバルセロナの地をはるか昔からずっと見下ろしてきた歴史ある場所が「モンジュイック(ムンジュイック)」です。
モンジュイックはサンツ・ムンジュイック区にある丘で標高は184.8m。その地形上の優位性から歴史的に戦略的要所として重宝され、古来から要塞があったそうです。今は「モンジュイック城」という要塞があり、これは1640年に原点があります。
1640年から1659年の間にカタルーニャで起きた戦争、通称「カタルーニャ反乱」において、スペイン王国はカタルーニャ軍への攻撃を開始。このカタルーニャの反乱軍が陣取るモンジュイックは1641年に戦場となり、カタルーニャ軍は地形を生かして上手くスペイン側を撃退していきました。
その後はフランシスコ・フランコ独裁時代までこのモンジュイック城は刑務所と拷問の地として機能し、非人道的行為が繰り返し横行していきました。
現在のモンジュイック城はバルセロナ市の管轄となり、完全に観光地化され、ケーブルカーとゴンドラで行き来でき、かつての難攻不落の面影はありません。
今回紹介する映画はこのモンジュイック城が重要な舞台のひとつになりますので、この歴史とかも覚えておくといいかもしれません。
それが本作『バード・ボックス バルセロナ』です。
2018年に「Netflix」で独占配信された『バード・ボックス』というオリジナル映画がありましたが、これが高視聴率を記録したので、Netflixは「バード・ボックス」シリーズとして拡張することに決定し、スピンオフとして生まれたのがこの『バード・ボックス バルセロナ』となります。
あくまでスピンオフであり、前作と物語は直接的に接続しません。ただ、世界観は同じであり、舞台がタイトルどおりバルセロナになっています。ある意味、スペイン版『バード・ボックス』といった感じ。
『バード・ボックス』はどんな物語だったかと振り返ると、突如として人間が自殺衝動に駆られてしまうという異常現象が起きるポストアポカリプスな世界で展開するストーリーでした。その原因はどうやら「何か」を目で見ることがトリガーになるらしく、生存したければ目を覆って視界を無くすしかありません。その正体不明の「何か」に怯えながら、人間たちは必死に生き延びようとする…そんなサバイバル・スリラー映画です。
『バード・ボックス バルセロナ』もスピンオフと言え、二番煎じっぽくならないかと心配したのですが、さすがにそこは考えていて、独自の仕掛けを新たにセットしていました。
それについて言及するとネタバレになるので口を閉ざしますが、前作よりもオカルトじみています。なので正直、観る人を余計に選ぶ癖の強い映画になったのではないかな、と。オカルト好きは楽しいでしょうけど。あまりリアリティを気にしたらダメなやつです。
そしてモンジュイック城を含めてバルセロナの観光地があちこちで登場するので、ちょっとした観光映画にもなっています。まあ、みんな凄惨な廃墟になるのですが…。
前作の監督などは続投しておらず、今回の『バード・ボックス バルセロナ』の監督&脚本を手がけるのは、『その住人たちは』を監督し、ドラマ『THE HEAD』のシナリオも担当している“ダビ・パストール”&“アレックス・パストール”。
俳優陣は、『チリ33人 希望の軌跡』『ヤシの木に降る雪』『クローズド・バル 街角の狙撃手と8人の標的』の“マリオ・カサス”が主人公を熱演。他には、『バーバリアン』の”ジョージナ・キャンベル”、『バビロン』の“ディエゴ・カルバ”、『ボルベール〈帰郷〉』の“ロラ・ドゥエニャス”などが共演しています。
前作を観ておく必要はないので、『バード・ボックス バルセロナ』からいきなり観てもOKです。
なお、「自死」の警告ラベルは貼っていませんが、設定上、登場人物が盛大に自ら死にまくるので、そこは留意してください。
『バード・ボックス バルセロナ』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年7月14日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :ジャンル好きなら |
友人 | :気楽に暇つぶしに |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :人が死ぬ描写多め |
『バード・ボックス バルセロナ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):目を開いて光を見て
目を開けるひとりの少女、アンナ。目の前にいるのは、ローラーシューズを抱えている父、セバスティアン。ここは体育館で「滑りたかっただろ?」とセバスティアンは語りかけ、アンナは笑みがこぼれます。父と楽しそうに滑る時間…。
そのとき、何か物音がして、2人は警戒します。暗い建物内部を急いで走り抜けようとするも、横から3人の集団に襲われます。相手は目が見えていないようです。アンナは気配を消して座り込んでいました。
一難去ってセバスティアンとアンナは黒いゴーグルをして外へ。荒廃した街が広がっています。
しばらくすると何人かが荷物を引きずって道を横断している音を耳にします。セバスティアンはアンナにまた気配を隠してもらいつつ、その一団に声をかけます。「悪いが助けられない」と相手は歩き続けますが、セバスティアンは「発電機の場所を知っている」と持ちかけ、相手は考えます。
しかし、そこに「あれ」の気配。じっとしていられないので、セバスティアンを連れて行くことに決めたようです。セバスティアンは「ひとりだ」と説明します。
そのマルシアルについていき、建物内へ。互いに目隠しを外し、警戒を解きます。なんとかここを拠点に何人かで生存しているようです。そこにはリリアナという医者もいて、診てもらいます。
みんな集まって食事。目の潰れた男ラサロが「あれ」よりも危険な存在について語りだします。それは目を開けたまま行動している集団で、狂ってるとしか思えないと言います。その集団は人を捕まえては額に目の模様を描き、強制的に目を開かせて、相手が死ぬのを眺めているようです。その男は自分の身を守るために自分の目をナイフで傷つけたと口にします。
その後、セバスティアンはみんなが寝ているバスを勝手に動かして走行させます。マルシアルは止めようとしますが、人を轢いても、他のバスにぶつかっても気にしないセバスティアン。外へ飛び出すとバスは激しく横転。
間髪入れず、「あれ」の気配がします。マルシアルは「それ」を見てしまい、ガラス片で自分の首を切り裂き絶命。セバスティアンはマルシアルから光が上空へ放出されるのを目にします。次にリリアナの目も開かせ、回るタイヤに顔を押し付け、死んでしまいます。また光…。
見えないラサロは放置し、バスは別の男が付けた火で爆発炎上。たくさんの光が天に上ります。
「みんなを救えたね」といつの間にか横にいたアンナが手をとり、声をかけます。
9カ月前。エンジニアだったセバスティアンは、風力発電の現場にいたとき、水力発電の1号機と2号機で自殺が相次いでいると電話を受けます。会社に戻るとテレビでは世界各地の原因不明の集団自殺を報じていました。
街は大混乱です。「アンナを迎えに行って」と妻ラウラから電話を受け、地下鉄へ。しかし、何かの気配を感じると、みんな線路に身投げしだします。
アンナのいる学校へ到着し、彼女を保護してラウラのもとへ急ぐも、ラウラは目の前で車に轢かれてしまい…。
主人公はこの映画の視聴者と同じ
ここから『バード・ボックス バルセロナ』のネタバレありの感想本文です。
最初に言ってしまうと、私は『バード・ボックス』はそんなに世界観を広げるのには不向きじゃないかと思っていました。こうした特定の制限されたシチュエーション下で展開するスリラー映画と言えば、最近は『クワイエット・プレイス』がシリーズ化を踏み出しています。
ただ、どうしても「音を立ててはいけない」とか「目で見てはいけない」というシチュエーションありきのホラーは世界観を継続させるのが難しいです。厳密性を問われてしまうので、だんだんと「あれ、そこおかしくない?」みたいにツッコまれてしまいます。
それに対して、『バード・ボックス バルセロナ』は潔く新しい仕掛けを導入し、そのシチュエーション縛りを貪欲に踏み台にしています。これを前作軽視だと怒る人もいるでしょうし、逆に予測不可能で楽しいと思う人もいるでしょう。
具体的には、本作の主人公、セバスティアンの特質です。彼は「あれ」を目で見たにもかかわらず、自殺しません。ただし、確実に正気を失っているようで、死んだ娘のアンナが常に傍に見えています。加えて他の人が死ぬと魂の光のようなものが見えるようになります。
あの神父集団(預言者)といい、あの光は本当に実在するのではなく、「あれ」の効果のせいで「望んだものが見えてしまっているだけ」なのだと思われます。
とは言え、「あれ」を見てもすぐに死なない人物を登場させたのは、この世界観にとっては一大事です。
でもこのおかげで新しいサスペンスが生まれていて、そこがこの映画の面白さです。
私は前作の感想でも、「外で目を開けたら終わり」という作品の根幹を成す部分がエンターテインメント性と相性が悪すぎると書いていましたが、やっぱり観客は普通に光景を見ているので、作中の登場人物とシンクロできません。
今回の「すぐに死なない人物」はそのエンタメの弱点を克服しました。セバスティアンだけが目で見て、目を塞いでいる人たちが外で右往左往する姿を眺めている。これは観客側と一致します。ある意味ではセバスティアンは観客側の能力を有している存在であり、だから妙に視聴者としても嫌な気分にさせられる主人公なのだろうなと思います。
本作はとにかく主人公が反道徳的な人間なので、そこにどこまでついていけるかに左右されますけど…。
やっぱりそこではあれが行われる
『バード・ボックス バルセロナ』はバルセロナの観光映画(惨劇バージョン)で、そんな不謹慎な主人公セバスティアンと一緒に巡っていくことになります。嬉しくない? なら目を閉じて…。
バルセロナの地下鉄では集団飛び込み自殺が発生。サグラダ・ファミリアを始め教会が名所になっているこの地で神父がカルトを組織し、熾天使(セラフ)が暗黒へと誘う…。
なんかこうやってまとめると、バルセロナのイメージダウンでしかないな、この映画…。
しかし、最後の最後でアイツがやってくれます。モンジュイック城です。やはり歴史がその堅牢さと鉄壁さを証明しているように、バルセロナ近辺で籠城するならモンジュイック城は最適でした。モンジュイック城に惚れ直す…!
セバスティアンは、クレア、ソフィア、ロベルト、イサベル、オクタビオ、ラファ、そして犬のホナスとディマスの集団と出会い、ソフィアの母がいるかもしれないモンジュイック城に向かうことにします。道中でどんどん死んでしまうのですが(多くはセバスティアンのせいだけど)、現実を直視することにしたセバスティアンはクレアとソフィアをモンジュイック城行きのゴンドラまでナビゲート。自分は下に残ってあの神父を捨て身で串刺しにします。
ここもいろいろ思うところはありますよ。「あれ」は物理的にそんな移動する存在だったの?とか…。空は飛べたりしないのか、サルとかスパイダーマンみたいにロープをつたって来られるなら、モンジュイック城も役立たずですが、そういうことにはならないようです。
しかも、今作はラストで随分と思い切った謎を放置しましたけどね。無事に逃げ切って、ソフィアも母とモンジュイック城の居住地で再会させることができたクレア。ところが、その軍のキャンプでは怪しげな実験が行われており、「あれ」を捕獲までしていて(どうやった?)、何やら抗体を作っているらしい…。
これは前述したとおり、モンジュイック城でかつて非人道的な拷問が行われていたこと、そして刑務所だったということ、その歴史を反映した展開です。この地では歴史は繰り返されるのです。加えてコロナ禍を意識してか、ワクチンで「あれ」に対抗する術を見い出そうとしている描写まで挿入され、盛沢山のエンディングでした。このラストが一番この映画で盛り込みまくっている気がする…。
バルセロナの歴史を最後まで露悪的に突きつける映画でした。
「バード・ボックス」シリーズが続くのかは知りませんが、東京とかを舞台にするならどうなるだろうと妄想してみると、あまり良い隠れ家がないように思いますね。東京って脆弱だな…。いっそのこと、冬の札幌みたいに、全然違う環境を舞台にしてほしいですね。除排雪ができなくなって崩壊した札幌の街とか、そこで目隠ししたままどう生活するのかとか、ちょっと映像で見てみたいし…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 47% Audience 42%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix バードボックス2 バルセロナ
以上、『バード・ボックス バルセロナ』の感想でした。
Bird Box Barcelona (2023) [Japanese Review] 『バード・ボックス バルセロナ』考察・評価レビュー