2026年の「CPH:DOX」は3月11日~22日にわたって開催されました。
「CPH:DOX」はデンマークのコペンハーゲンで毎年開催されている映画祭で、ドキュメンタリー映画を対象にしています。別名は「コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭」です。2003年からの歴史があり、ドキュメンタリー映画の国際映画祭としては世界最大級のもののひとつとなっています。
2026年は、アメリカとイスラエルがイランを一方的に攻撃して戦争を始め、極めて世界情勢が緊迫する中での開催となりました。
今回はその「CPH:DOX 2026」における、取り扱われたドキュメンタリー映画を紹介しています。
なお、作品数がかなり多いので全ての映画を紹介はしていません。私が気になったものを選別しています。ご了承ください。
- 長編映画
- 『80 Angry Journalists』
- 『A Child of My Own』
- 『A Fox Under A Pink Moon』
- 『A Life Illuminated』
- 『A Little Gray Wolf Will Come』
- 『A Song Without Home』
- 『A Sweetness from Nowhere』
- 『A Very Good Boy』
- 『A World Gone Mad. the War Diaries of Astrid Lindgren』
- 『Aanikoobijigan [ancestor / great-grandparent / great-grandchild]』
- 『Adam's Apple』
- 『All About the Money』
- 『All Rivers Spill Their Stories to the Sea』
- 『Almost Forever』
- 『Amadou & Mariam - The Blind Couple From Mali』
- 『Amazomania』
- 『American Doctor』
- 『Amílcar』
- 『Amongst the Birds』
- 『An Eye For an Eye』
- 『Arctic Link』
- 『Atlas of Disappearance』
- 『Barrio Triste』
- 『bauhaus forever.』
- 『Becoming Ema』
- 『Belleville Beats』
- 『Below the Clouds』
- 『Better Go Mad in the Wild』
- 『Birita』
- 『Bouchra』
- 『Boy George & Culture Club』
- 『Broken English』
- 『Bulakna』
- 『Burning Voice』
- 『Cambodian Beer Dreams』
- 『Celtic Utopia』
- 『Christiania』
- 『Cinema Kawakeb』
- 『Collapse』
- 『Conscious』
- 『Construction Site』
- 『Creatures of the Mind』
- 『Daughters of the Forest』
- 『Desire Lines』
- 『Do You Love Me』
- 『Double Trouble』
- 『Dracula』
- 『Dream of Another Summer』
- 『Dreaming of Serenada』
- 『Dry Leaf』
長編映画
『80 Angry Journalists』
“アンドラーシュ・フォルデス”(András Földes)と“アンナ・キス”(Anna Kis)監督が記録するのは、2020年、ハンガリー最大の独立系ニュース・メディア「Index.hu」がその報道の自由を失う瞬間と、それに最前線で抵抗するジャーナリストたち。政治権力に忖度し、政治批判に逃げ腰になるというステージに日本も佇んでいる中、この政治的圧力でジャーナリズムが崩壊したハンガリーの姿は少し先の未来なのかもしれません。
『A Child of My Own』
女なら子どもを産んで当然というプレッシャーに対して若いメキシコ人女性がとった行動は「妊娠を偽装すること」だった…。ジェンダーロールの圧力が個人の女性をどこまで追い込んでしまうのか。どの国にもあるこの苦悩が、今回の場合、どんな結末を迎えるのか。目が離せそうにありません。監督は『エターナルメモリー』の“マイテ・アルベルディ”(Maite Alberdi)。日本でも「わたしの体は母体じゃない訴訟」が行われたりしている最中。タイムリーなドキュメンタリーでしょう。
『A Fox Under A Pink Moon』
アフガニスタン難民の娘としてイランで育った16歳の“ソラヤ”(Soraya)は、父親は早くに亡くなり、母親は後にヨーロッパへ逃れ、暴力的な叔父のもとに残されてしまい、八方塞がり。そこで、彼女は逃げ出すことを決意し、その数年に及ぶ逃亡の旅路を自身でスマホで映像に記録していく…こうして作られたドキュメンタリーとのこと。セルフ・ポートレイトの作品として生々しく、何よりも力強い作品になっていそうです。
『A Life Illuminated』
“タシャ・ヴァン・ザント”(Tasha Van Zandt)監督が、先駆的な海洋生物学者であり深海探検家でもあるアメリカ人のエディス・ウィダー博士の半生を追いかけたドキュメンタリー。生物発光が専門だそうです。単なる科学ドキュメンタリーというだけでなく、女性としてガラスの天井だらけの科学の世界でどうキャリアを築いたのかも掘り下げられる様子。フェミニズム×サイエンスは欠かせない組み合わせです。
『A Little Gray Wolf Will Come』
ロシア人ジャーナリストの“ジャンナ・アガラコワ”(Zhanna Agalakova)監督が、西洋的な考え方を持つ自身の娘とのすれ違いを映し出すドキュメンタリー。プーチン政権? ロシアの美しさ? プロパガンダでしょ?…冷たい娘の視線が突き刺さる。こちらも報道の自由を扱っていますが、より身近な家族の問題として捉えており、そういう視点こそこのテーマを実感させやすいのだと思います。
『A Song Without Home』
保守的なジョージアの村に長年閉じ込められ、自分を隠してきたトランスジェンダーのアデリーナが、ここから飛び出し、ミス・トランスの美人コンテストに参加してダンサーになるという夢を掴もうとする姿を映す“ラティ・ツィテラゼ”(Rati Tsiteladze)監督のドキュメンタリー。題材としてはクィア当事者の国外逃避行ものですが、日本だって「この国から逃げ出したい」と思っている人はたくさんいますからね…。
『A Sweetness from Nowhere』
スウェーデンのアーティストである“エステル・ベルグスマルク”(Ester Bergsmark)監督のアート・パフォーマンス・ハイブリッド作品らしいですが、「ホルモン、クラゲ、そして触覚を通して、感覚的で夢のような、グロテスクでありながらも優しさに満ちた旅」と評されており、監督自身が経験したトランスフォビアのヘイトクライムを反映しているとのこと。なんだかよくわかりませんが、観てもわかるかどうかは私にも予想できない…。
『A Very Good Boy』
『リトル・ガール』などLGBTQドキュメンタリーを丁寧に作り続けてきた“セバスチャン・リフシッツ”(Sébastien Lifshitz)監督の新作は、フランスのゲイポルノ界の巨匠クロード・ロワールの人生をノスタルジックに映すものだそうです。私はこの主題の人物のことを全然知らないのですが、だからこそドキュメンタリーの意義があるわけで、どんな軌跡を残していったのか気になります。
『A World Gone Mad. the War Diaries of Astrid Lindgren』
『長くつ下のピッピ』などでおなじみのスウェーデンの作家「アストリッド・リンドグレーン」。1930年代のストックホルムで生きていた若かりし頃の日記をもとに、戦争体験の中で、いかにしてアストリッド・リンドグレーンというクリエイターが形成されたのかを振り返る“ヴィルフリート・ハウケ”(Wilfried Hauke)監督のドキュメンタリー。これは日本でも観たい人は多そうですし、宣伝しやすいのではないでしょうか。
『Aanikoobijigan [ancestor / great-grandparent / great-grandchild]』
アメリカのアーティスト集団「New Red Order」に属する“アダム・カリル”(Adam Khalil)と“ザック・カリル”(Zack Khalil)が手がけるのは、博物館、大学、研究機関のコレクションに保管されている祖先の遺骨を取り戻すための闘い。先住民に対するアカデミアの現在進行形の加害史は、日本でも変わりませんので、もし公開するなら日本の取り組みとも重ねた宣伝が最適かなと思います。
『Adam’s Apple』
『Instructions on Parting』の“エイミー・ジェンキンス”(Amy Jenkins)監督が、自身のトランスジェンダーのティーンエイジャーである息子を20年間カメラを通して撮り続けたドキュメンタリー。若者の性別移行の記録を映すドキュメンタリーはすでにいくつもありますが、監督の我が子を題材にするのはとてもプライベートで、それでいて侵襲的な見世物っぽさをださない最良の安心がある気がします。
『All About the Money』
巨大企業「Cox Enterprises」を保有するアメリカ屈指の大富豪一家。その家族の縁をあえて切り、マサチューセッツ州で資本主義の打倒を目指す共産主義集団に協力するようになった「ファーギー・チェンバース」を映す“シニード・オシェイ”(Sinéad O’Shea)監督のドキュメンタリー。もうその主題の人物の紹介だけで面白いので、私もこのコミュニストのことがもっと知りたいです。
『All Rivers Spill Their Stories to the Sea』
ブレグジット後のイギリスは毒に侵されたカニの大群に襲われている? 『Your Fat Friend』の“ジーニー・フィンレイ”(Jeanie Finlay)監督は、イングランド北東部の海岸沿いの小さなコミュニティをとおして、現在のイギリスの混乱と打開に奔走する地元の人たちを映し出している様子。そう言えば、イギリス、EUから脱してもう何年になるやら…。やっぱり苦労しているようで…。
『Almost Forever』
“リア・ヒエタラ”(Lia Hietala)と“ハンナ・ライニカイネン”(Hannah Reinikainen)監督が映すのは、スウェーデンの首都ストックホルムで青春をおくる若者たちの今。友情、恋愛、自己発見…いつの時代でも同じように思えるけど、そうではないところもある。最も被写体として飽きさせないのはやっぱり若者なのでしょうか。どんなふうに撮って、編集しているのかが、気になるところです。
『Amadou & Mariam – The Blind Couple From Mali』
“ライアン・マーリー”(Ryan Marley)監督は、世界中をツアーで回ってきたマリ出身の盲目のミュージシャン夫婦である「アマドゥ・バガヨコ&マリアム・ドゥンビア」を紹介してくれます。残念ながらアマドゥは2025年4月4日に亡くなってしまったそうで、その音楽の功績を振り返るには今しかないでしょう。
『Amazomania』
FIPRESCI賞 受賞作
1996年にアマゾン奥地で遭遇したとある部族の映像はセンセーショナルな話題となるも、数十年後、この映像が再び注目を集め、新たな疑問を投げかける…。“ネイサン・グロスマン”(Nathan Grossman)監督のこのドキュメンタリーは、白人の視点で物語を語ることのグロテスクさを突きつけるとのこと。個人的にはぜひとも観たいドキュメンタリーの一本です。
『American Doctor』
HUMAN:RIGHTS賞 Special Mention
パキスタン人・ユダヤ人・パレスチナ人…異なるルーツの3人が人命救助のためにガザ地区で活動する姿を追う“ポー・シ・テン”(Poh Si Teng)監督のドキュメンタリー。医療と政治の狭間で板挟みになるのは避けられない空間。それでも救わなければならない命はいくらでも待っている。医療従事者の政治性を問う作品は今後も増えていく一方だと思いますが、こういう世の中だとね…。
『Amílcar』
反植民地主義運動における最も象徴的で謎めいた人物のひとりである「アミルカル・カブラル」の存在を伝える“ミゲル・イーク”(Miguel Eek)監督のドキュメンタリー。歴史的な肖像を映し出す典型的なアーカイブ・タイプだと思いますが、その人物の特筆性はかなりさまざまな切り口があると思われ、面白そうな作品だな、と。反植民地主義の偉人は日本で紹介されづらいですしね。コロンブスの歌、作ってる場合じゃないんです。
『Amongst the Birds』
鳥のドキュメンタリー。でも鳥が人を襲うわけではないのでご安心を。“ミカ・カウリスマキ”(Mika Kaurismäki)、“ラグナル・アクセルソン”(Ragnar Axelsson)、“イングヴァル・ソルザルソン”(Ingvar Þórðarson)の3名がみせてくれるのは、アイスランドの大地で起きている老夫婦と鳥たちの愛らしいユーモラスな出来事。みんな、SNSをみるのをやめて、バードウォッチングしないか? 心が平和になりますよ。
『An Eye For an Eye』
虐待してくる夫に耐えかねて殺害してしまったらそれは正当防衛にならないのか。残念ながら多くの国々では(おそらく日本でも)妻のほうが責められるでしょうが、このドキュメンタリーが映すイランではまさにその行為をした女性が死刑の危機に直面している…。“タナズ・エシャギアン”(Tanaz Eshaghian)と“ファルザド・ジャファリ”(Farzad Jafari)の両監督は何を突きつけるのでしょうか。
『Arctic Link』
インターネットに繋がらない地域なんていまどきあるのか?と思うのですが、どうやらあったようです。ではそんな地域で初めてインターネットが繋がったらどうなるのか? “イアン・パーネル”(Ian Purnell)監督のこのスイスのドキュメンタリーはその知りたいようで知りたくないような疑問の答えを、AI要約よりも雄弁かつ独創的に教えてくれるようです。そしてネットに繋がることの物理的な大変さも…。
『Atlas of Disappearance』
スペインのかつてのフランコ政権の恐怖政治時代に消息を絶った家族の遺骨を探し続ける人々を追う“マヌエル・コレア”(Manuel Correa)監督のドキュメンタリー。葬り去られた歴史の復元と伝承は現在を生きる者の責任。これらの活動をとおして、いろいろな刺激も受けられるはず。それにしてもこの規模の活動ができること自体、業界の使命への敬意を感じます。儲かる博物館だけを残せばいいものじゃないですよ。
『Barrio Triste』
“STILLZ”という映像クリエイターが手がけた作品らしいけど、説明を読んでもさっぱり内容がわからないのですが、一体なんなんだ…。とりあえず「Letterboxd」ではわりと評価が良さそうだったから、きっと面白いのだろう(あまりに雑なシネフィル的放言)。“STILLZ”は「バッド・バニー」のミュージックビデオで知られているそうで(そうだったのか)、じゃあ、きっと良い人かな(こちらも雑な期待)。
『bauhaus forever.』
1919年のヴァイマル共和政期ドイツ東部のヴァイマルに設立された美術学校である「バウハウス」。“ニコ・ウェーバー”(Nico Weber)監督はその20世紀における最も重要な文化運動の拠点をみつめ、当時の精神と、今の激動の中での揺れ動きを映している様子。アートの歴史を主題とするドキュメンタリーとして、これ自体も良い資料となるでしょうし、公開して損はありません。
『Becoming Ema』
一瞬、『ミッドサマー』みたいなものかとフラッシュバックしたけど、当然ながら全く違いました。“パトリシア・ドラティ”(Patricia Drati)監督がカメラに撮ったのは、社会の規範を全て振り切って、田舎で暮らすことに決めた若い女性の姿。田舎でのんびりスローライフ!…というほど呑気にはいかないようで、でも自己受容を探求する物語がそこにあるようです。日本だと田舎に行くほうが社会規範に飛び込んでしまう感じだけど…。
『Belleville Beats』
パリのベルヴィル地区で若者たちが音楽フェスティバルを企画し、手探りでそのアイディアを実現する姿を映す“ヒューゴ・ソベルマン”(Hugo Sobelman)監督のドキュメンタリー。トレイラーを観ただけですが、すごくハイテンションで「やってやるぞ!」というエネルギーが溢れていました。下層階級だろうがなんだろうが、自分たちの作りたいものを作ることにそのエネルギーを注げるのは最高ですね。
『Below the Clouds』
“ジャンフランコ・ロージ”監督の2025年の新作です。正直、もうこの監督は名前だけだしていれば紹介はいらない気がします。『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(2013年)、『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』(2016年)、『国境の夜想曲』(2020年)、『旅するローマ教皇』(2022年)ときて、次はナポリのヴェスヴィオ山の麓の人たちを題材にしているそうですが…。
『Better Go Mad in the Wild』
“ミロ・レモ”(Miro Remo)監督が、チェコ出身の60歳近い双子を題材にしているのですが、どうやらこのおじさん(?)2人はだいぶヘンテコなキャラクターのようで…。本国チェコではかなり話題作になるくらいに型破りな作品だったらしいので、これはもう観て確かめないことには何も言えませんね。トレイラー、観ましたけど…すでに面白すぎじゃないか? これ、絶対に日本でも一部の界隈でバズるんじゃないかな。
『Birita』
『リア王』の上演を行うのは別に珍しくないですが、このフェロー諸島での話はシェイクスピアも興味持ってくれそうなアプローチです。なぜなら、この演劇の主演を重度のアルツハイマー病を患う母に務めてもらおうと家族が決心したからで…。その家族の一員である“ブイ・ダム”(Búi Dam)監督はそんな家族の試みの内部事情を素直に映し出している様子。悲劇にはならない…ですよね。
『Bouchra』
アメリカのニューヨークとモロッコのカサブランカ。この2つを繋ぐのは、複雑な母娘関係。そして明かせないクィアなアイデンティティ。精神的な隔たりをどう埋めるのか、“メリエム・ベナニ”(Meriem Bennani)と“オリアン・バルキ”(Orian Barki)の2人の監督は、アニメーションでそれを実践したようです。心の交流を表現する方法としてはベストでしょう。
『Boy George & Culture Club』
保守的な抑圧が激化したサッチャー政権時代、「カルチャー・クラブ」、そして「ボーイ・ジョージ」はそこにいた…。秘めたクィアネス、当時の常識に挑戦する過程で経験した葛藤や苦痛。当人だけが理解している赤裸々な真実を『Let the Canary Sing』の“アリソン・エルウッド”(Alison Ellwood)監督がまとめてくれるドキュメンタリー。
『Broken English』
“ジェーン・ポラード”(Jane Pollard)と“イアン・フォーサイス”(Iain Forsyth)の2人の監督は、伝説のイギリスの歌手「マリアンヌ・フェイスフル」の波乱万丈な人生をドキュメンタリーにしてくれました。クィア・アイコンとしても有名ですが、そこらへんは掘り下げられるのかな。語るところはいくらでもある人だけど…。
『Bulakna』
“レオノール・ノイヴォ”(Leonor Noivo)監督の長編デビュー作は、2人のフィリピン人女性の姿を追うもので、「ケアが商品として扱われるグローバルな論理の中で生きることを強いられる2人」の共通点や違いを映しているとのこと。監督は短編でいくつも作品を重ねているので、すでに手慣れている感じがあります。
『Burning Voice』
女性の権利について声をあげれば、猛烈な勢いで集中砲火を受ける。それはイラクだとさらに厳しいものになるようで、その事情をよく知る“アンナ・ブルーン・ノラガー”(Anna Bruun Nørager)監督は、ひとりのイラク育ちの女性のデジタルプラットフォームでの活動を追いかけつつ、その困難をあらためて突きつけているようです。
『Cambodian Beer Dreams』
政治社会の問題を抉り出すのが得意な“ラウリッツ・ナンセン”(Laurits Nansen)監督の新作では、カンボジアにおけるビール業界の腐敗と不正を暴き、それが貧困層の搾取にも接続していることを提示している様子。新植民地主義的なアルコール資本主義…という言葉が印象的なのですが、やはりアルコールはいろいろ根深い。酔っている場合ではないです。
『Celtic Utopia』
アイルランド・フォーク・ミュージックとは何? その質問に応えるなら、“デニス・ハーヴェイ”(Dennis Harvey)と“ラース・ロベン”(Lars Lovén)の両監督のこのドキュメンタリーを観てもらうのが一番いいのかもしれません。アイルランド語とアイルランドの国民性を誇りに思う若い世代の間で、またこの音楽の人気は復活しているそうで、そんな今の姿もみられるのかな。
『Christiania』
数百人の若者がコペンハーゲンの廃墟となった軍兵舎を占拠して自分たちだけの理想郷となるコミュニティを作ったら…。1971年に起きたその試みの全容を“カール・フリイス・フォルヒハマー”(Karl Friis Forchhammer)監督はどう映すのか。クリスチャニア自由都市については私もよく知らなかったので、ちょっと気になるドキュメンタリーですね。
『Cinema Kawakeb』
ヨルダンの首都アンマンの老朽化した建物の中にある小さな映画館についてのドキュメンタリーらしいですが、“マフムード・マサド”(Mahmoud Massad)監督が映すそれは日本の映画館にも共通項は多そうです。経営難はどこの国でも同じか。世界各地における映画文化の出発点はいつでも映画館であってほしいものですが…。
『Collapse』
あなたの今立っている場所から何が見えるか。このドキュメンタリーの監督である“アナト・エヴェン”(Anat Even)には、フェンスの向こうでガザ地区に爆弾が降り注いでる光景と音が聞こえ見える…。イスラエル南部のキブツを故郷とするその監督の目線では、非人間化のすえに世界が崩壊していくさまはどう映されるのでしょうか。
『Conscious』
“スキ・チャン”(Suki Chan)監督のこのドキュメンタリーは認知症のイメージを変えてくれるのかもしれません。認知症と言えば、どうしてもこれまでの生活が壊れていくような悲痛な体験を描くものですが、この作品で神経科学者の案内する認知症の世界は、どうやら新しい自分への到達として解釈できる可能性を提示している…らしいです。
『Construction Site』
こちらも映画館を描くドキュメンタリーですが、“ジャン=ステファン・ブロン”(Jean-Stéphane Bron)監督のこの作品は、規模がデカいです。レンゾ・ピアノの建築プロジェクトなので当然なのかもしれません。舞台がパリであるので、地域性と映画文化の交差としても、気になってくる人は一定数いるのではないでしょうか。
『Creatures of the Mind』
“マルセロ・ゴメス”(Marcelo Gomes)監督は自分が夢をみなくなったことで、この夢という概念を探ってみることにしたようです。ブラジルの先住民族の人々にまで辿り着きながら、夢の謎を調査する旅は一体どこに向かうのでしょうか。私は最近も昔もずっとろくな夢をみないので、夢をみなくなるのは全然OKなのですけども…。
『Daughters of the Forest』
全国のキノコ・ドキュメンタリーを欲する皆さん。どれくらいの数がいるのかはわかりませんが、“オティリア・ポルティージョ”(Otilia Portillo)監督が新しい作品を準備してくれました。メキシコの菌類専門家たちがSFと先住民文化を融合させてサイケデリックにお届けするようです。私の偏見かもですが、キノコのドキュメンタリーっていっつも変じゃないか…?
『Desire Lines』
ボスニア出身の“デーン・コムリェン”(Dane Komljen)監督のスローシネマは謎めいた寓話であり、観客をどこに誘うかはわかりそうにありません。あまりネタバレを踏みたくないのでよく調べませんでしたが、日本ではたぶんまだ配給がない監督なので、どこかで掘り出される日は来るのか。そのときが来たら反応をみるとしましょう。
『Do You Love Me』
“ラナ・ダーハー”(Lana Daher)監督による、祖国レバノンと故郷ベイルートへの、他に類を見ない独創的な映画のラブレターとのこと。映画、テレビ番組、ホームビデオ、写真などから膨大なクリップを巧みに組み合わせたアーカイブ・ドキュメンタリーだそうです。レバノンのことをろくに知らないので、クリップだけでどこまで理解できるのか不安はありますが…。
『Double Trouble』
夫たちはとうの昔にこの世を去り、子どもたちは仕事を探しに海外へ移住してしまい、残された女2人には…自由がある。とはいかなくて、ウクライナ国境に近いルーマニアのポーランド人の村に、すぐそこまでロシアからの侵攻が迫り来る…。この“エミリア・シニエゴスカ”(Emilia Śniegoska)監督のドキュメンタリーは、老後と戦争の重なりを直視させるのかな。
『Dracula』
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』や『世界の終わりにはあまり期待しないで』でおなじみの奇才“ラドゥ・ジューデ”がルーマニア本家のドラキュラをみせてくれる…はずですが、何かが変…。まあ、この監督はいつも変なのですが。「ルーマニアの映画産業は実質的に存在しないので、大きなリスクはありません。“AIに取って代わられたら何十億ドルも失うことになる”などと言う人はいません。大したことではありません」と言い切る監督はさすが。
『Dream of Another Summer』
NEXT:WAVE賞 受賞作
ベイルートを拠点としているバルセロナ出身の“イレーネ・バルトロメ”(Irene Bartolomé)監督は、2020年8月4日に起きたベイルート港爆発事故を間近で経験。200人以上が亡くなったその惨事をじっくりと受け止めていく過程がこのドキュメンタリーには綴られるようです。
『Dreaming of Serenada』
デンマークとウガンダの二重国籍を持ちながら、幼少期を過ごしたウガンダの自然や風景、父の故郷である熱帯雨林、その地を脅かす存在について整理する個人的なドキュメンタリー。“カトリーヌ・ウェーバー”(Katrine Weber)監督は視覚人類学の知見で作品を構築する新人のようです。
『Dry Leaf』
ジョージアの田園地帯を舞台に、失踪した娘の謎を追う父の姿を映す作品らしいですが、古いソニー・エリクソンの携帯電話だけで撮影されているとのこと。ソニー・エリクソンという響きが懐かしい…。というか、まだ動く端末があって、それでよく撮れたものです。“アレクサンドレ・コベリゼ”(Alexandre Koberidze)監督のこだわりなのか。
以下の「PART2」の記事に続きます。
●Films – CPH:DOX
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