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『ブロンド Blonde』感想(ネタバレ)…Netflix;2022年のマリリン・モンロー映画としてこれはどうなの?

ブロンド

2022年のマリリン・モンロー映画としてこれはどうなの?…Netflix映画『ブロンド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Blonde
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:アンドリュー・ドミニク
性暴力描写 DV-家庭内暴力-描写 児童虐待描写 性描写

ブロンド

ぶろんど
ブロンド

『ブロンド』あらすじ

幼い頃から錯乱した母親の育児放棄によって壮絶な体験を過ごしてきたノーマ・ジーン。大人になり、ピンナップ・ガールのモデルとして活躍していた彼女は映画業界に羽ばたくことを夢見る。その感情の背景には、かつて母親から教わった自分の父親だという男の姿があり、家族愛を欲するノーマは映画の世界に吸い寄せられていく。しかし、その世界であっても彼女が求めていたものは手に入る兆しはなく…。

『ブロンド』感想(ネタバレなし)

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2022年の最大の問題作

映画などの感想を語るとき、あまり「問題作」という表現を安易に用いるべきではないと思っているのですが、でも実際、激しい論争が巻き起こる映画というのは年に何作かは現れるものです。

2022年の問題作の筆頭は間違いなくこの映画なのではないでしょうか。

それが本作『ブロンド』です。

『ブロンド』はセックスシンボルとして絶大な人気を集めた「マリリン・モンロー」を題材にした映画であり、話題作になることは間違いなしとして公開前から注目の一作でした。

公開前から多少の批判はすでにありました。例えば、マリリン・モンロー役として抜擢されたのは、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』『グレイマン』と大作にも続々起用されている人気急上昇中の“アナ・デ・アルマス”。ただ、キューバ系の“アナ・デ・アルマス”が白人のマリリン・モンローを演じていいのかという議論が持ちあがりました。

しかし、そんな批判は映画の中身を観ればわりと吹き飛ぶくらいにもっと深刻な問題が浮上しました。

そもそもこの『ブロンド』は伝記映画ではありません。原作小説があり、それは2022年で84歳になる大御所の作家“ジョイス・キャロル・オーツ”が2000年に出版したものです。この小説自体が「マリリン・モンロー」というキャラクターだけを引用して作り上げた二次創作みたいなフィクションになっています。

その小説を映画化したのが『ブロンド』ですが、映画は小説にないシーンが満載になっており、ほとんど監督で脚本も手がけた“アンドリュー・ドミニク”(代表作は『ジェシー・ジェームズの暗殺』『ジャッキー・コーガン』など)の独自の創作になっています。

つまり、この『ブロンド』を観て「マリリン・モンローってこんな人生だったのか…」と理解することはできないということ。ちょっと変えたどころではなく、ほぼデタラメな内容しかないのです。捏造的ですらあります。

で、その変え方も問題極まりなく、雑に言ってしまえば、マリリン・モンローを「悲劇のヒロイン」として誇張しまくっており、ひたすらに酷い目に遭う展開が続きます。児童虐待、性暴力、セクハラ、DVなどの直接的な描写が連発。しかも、上映時間が160分以上あり、ずっとこんな調子が続くのですから…。

“ラース・フォン・トリアー”監督作のような嗜虐的な悪趣味さを感じますし、『レクイエム・フォー・ドリーム』みたいな異様に恐怖を煽る禍々しい演出ばかりで…。

他にも挙げきれないほどに問題山積しているのですが、そのへんは後半の感想で…。

描写が過激だから問題視しているのではありません。もちろんこういう描写や演出が一様にダメというわけでもないのですが、実際の故人をここまで好き勝手に捻じ曲げて扱っていいのか…そんな非難が噴出しました。「The New York Times」は「マリリン・モンローが、この彼女を搾取するための最新の屍姦エンターテインメントを観なずに済んだのがせめてもの救いで幸いだった」と皮肉たっぷりに批評しているほど。確かにマリリン・モンロー本人がこの『ブロンド』を鑑賞しためちゃくちゃ傷つくでしょうね…。

『ブロンド』を観るかどうかは皆さんの自由ですが、本作はマリリン・モンローが人生で実際に経験してきた歴史を描いているわけでは全くないことはとりあえず最低限おさえておいてください。

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『ブロンド』を観る前のQ&A

Q:『ブロンド』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年9月28日から配信中です。
✔『ブロンド』の見どころ
★俳優の迫真の演技。
✔『ブロンド』の欠点
☆トラウマを煽るような描写が連発する。
☆史実に全く基づいていない展開の多さ。
日本語吹き替え あり
水樹奈々(ノーマ・ジーン)/ 野沢由香里(グラディス)/ 諏訪部順一(キャス)/ 福山潤(エディG)/ 谷昌樹(ジョー・ディマジオ)/ 宮本充(アーサー・ミラー) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 2.0:内容に注意だけど
友人 2.0:盛り上がりはしない
恋人 2.0:気まずい空気
キッズ 1.0:R18+相当
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブロンド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):パパを探し続ける少女

1933年、ロサンゼルス。母親の隣にいる幼い女の子、ノーマ・ジーン。誕生日のサプライズがあると言われ、期待をしながらワクワクと部屋に行くと、ベッドの上に大人の男性の写真が飾ってありました。

「あれがパパよ」「有名な人、でも名前は言えないの」

触ろうとすると「汚い手で触らないで」と怒られます。心の中では結婚していると母は言いますが、ノーマにはよくわかりません。「パパはどこ?」

ある夜中、母に連れられて車に乗せられるノーマ。空中には塵が舞い、あたり一帯が炎に包まれていました。視界がなくなるほどの煙に覆われる中、警官に車を止められます。屋敷に避難するとノーマは主張しますが、「Uターンしてください」と警官に警告され、「撃たれたい」と自暴自棄な発言をする母。警官はとにかくトラブルを起こすなと追い返します。

戻る道すがら車の中で「パパはどうして会いに来なかったの?」とノーマは疑問を口にしますが、それを聞いた母はノーマを殴りつけるのでした

家に帰ると、母はノーマを浴槽で溺れさせようと熱湯に沈めてきます。隙をみて逃げるノーマは隣の家に駆け込みます。そんな背中に母は「あんたのせいで夫は去った。あなたが邪魔だったから」と叫ぶだけ…。

それからしばらく後、ノーマは隣人の女性から「お母さんに会いに病院に行く? あなたのママは病気よ、私もあなたの母親じゃない」と言われ、車に乗せられます。しかし、ノーマが連れて行かれたのは孤児院で、父が来るはずと信じるノーマの訴えも無視され…。

1940年代、ノーマは「マリリン・モンロー」の芸名でピンナップ・ガールとなり、雑誌の表紙やカレンダーを飾っていました。ノーマは映画業界に興味があり、そこへと転身する道を探っていました。

そして映画スタジオの社長のミスターZ(ダリル・F・ザナック)に会う機会を得られますが、その男はノーマの体を求めてきて、応えるしかありません。

こうして映画に起用され、次にノーマは『ノックは無用』のオーディションを受けます。もう1度できますかとお願いするもチャンスは得られませんが、でも役を得ることができました。

ノーマはノーウォーク病院へ足を運び、10年会っていない母と再会し、泣きつきます。無反応な母に今の仕事を必死に伝えるも、「パパも映画会社に契約していたの?」と質問すると「娘はどこ?」と大声をだしてくるのみです。

1952年。ノーマのキャリアは確実に積み重なり、金髪美女のアイコンとして定着していました。どこへ行ってもマスコミが群がり、セクシーな彼女を撮らえようとします。

ノーマはチャールズ・”キャス”・チャップリン・ジュニアエドワード・G.・”エディ”・ロビンソン・ジュニアという2人の若い男に出会い、3人で一緒に性的関係を築きます。しかし、その関係を報道され、エージェントに注意するように言われてしまいます。

そんな中、ノーマはキャスの子どもを妊娠。お腹に宿った命に喜ぶノーマでしたが、母の病気が遺伝するのではと不安が膨れ上がり、やむを得ず中絶することを決心します

ノーマの苦難はそれで終わりません。彼女に圧し掛かるプレッシャーは増し、心も体も疲弊していき…。

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史実ではない犠牲者の人生

『ブロンド』は冒頭から凄惨な児童虐待描写から始まります。とにかく痛々しく可哀想です。

でもこれは史実ではありません。マリリン・モンローは幼少期に母に虐待された事実はなく、むしろ仲が良かったとされています。母が統合失調症で病院に入院していたのは事実ですが、この映画ではまるでそういう精神疾患のある人物は子どもを危険に晒すサイコパスのように描かれています。

この冒頭で観るのを諦めた人もいると思いますが、この後も酷い描写が続きます。

ノーマはマリリン・モンローの芸名で映画業界へ。そこで枕営業的にミスターZと呼ばれるダリル・F・ザナックにレイプされるシーンが入ります。これも事実ではありません。そしてキャスとエディの2人の男性とポリアモリーな関係を深めますが、これも事実ではありません。なんでことごとく男性との性的関係がビジュアル的に過激な方向に捏造されているのか…。

なお、マリリン・モンローは性的暴行を受けたと思われる唯一の可能性が高いものは子ども時代です。

そして映画ではジョー・ディマジオと出会い、結婚する展開へ。やっと史実っぽくなってきます。それでもマリリン・モンローの最初の結婚はジェームズ・ドハティと16歳のときにしたもので、この事実は映画内では丸々消去されています。

ジョー・ディマジオがマリリン・モンローに暴力的で支配的だったというのは実際どおりで、離婚します。その後はアーサー・ミラーと結婚。このへんも事実です。

なんとか人間関係は事実に基づいた描写になってきたなと思ったら、ここで例の大統領との描写ですよ。こういう噂は絶えなかったのは確かにそのとおりですが、ちょっと匂わすどころではなく、こんな屈辱的な性描写で描かれるとは…

他にも「どうなの?」と思うシーンはやはり中絶に関連したものです。あんな妊娠を示す直球すぎる演出ある?と思ったら、唐突に胎児CG映像が何回も挿入され、拒否しているのに中絶を強行する手術場面に移り…。ものすごくプロライフ的なプロパガンダ映像になっているという…。物語自体、マリリン・モンローは子どもを産めなかったから希望を失って自殺した…みたいな展開になっていますしね。

この中絶の件も映画の嘘で、実際のマリリン・モンローは子宮内膜症ゆえに流産していたと考えられています。

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「male gaze」が充満する

もちろんマリリン・モンローは全く何も犠牲を背負ってこなかったとは思いません。あの醜悪な男社会のハリウッドで活躍するには相当な困難があったのは想像できます。セックスシンボルとしての扱いもセクシュアル・オブジェクティフィケーション的であり、消費される苦悩は当然あるでしょう。

ただそれにしたってこの『ブロンド』はマリリン・モンローを犠牲者として強調しすぎです。

しかもトラウマポルノ的な作品になるだけなら、まだマシなのですが、『ブロンド』は業界を批判しているわけでもないのが問題で…。それこそ「MeToo」ムーブメントを意識して、映画業界の暗部を掘り起こしました…ということでもない。『スキャンダル』や『ジュディ 虹の彼方に』のような映画とは立ち位置が全然違います。

本作『ブロンド』自体は批判構造を持たず、むしろ本作自体も乗っかってマリリン・モンローを“犠牲者”鑑賞会のように消費しているようにすら思えてしまうという…。なんか性犯罪裁判において恥辱に苦しむ被害者を眺めに興味本位で傍聴しにくる気持ち悪い男向けみたいな映画な気がする…。

『ブロンド』のマリリン・モンローは徹底して脆い存在として描かれています。無垢で、とくに幼稚な者として…。それを象徴するのがあの「ぬいぐるみ」というアイテムであり、本作のマリリン・モンローは子どもの心のまま大人らしい肉体と魅力を無自覚に手に入れてしまったという感じです。

マリリン・モンローは本人の意思に反して作られた虚像であり、実際は真に理想的なお父さん(男)を初心に求めていただけなんだと言いたげな…。

ほんと、男の視線(male gaze)がこれほど全編にわたって充満している映画だとは…。

ちなみにマリリン・モンローの実の父は2022年にその名がDNA鑑定で判明していて、母親の勤め先の同僚の男性だったそうです。

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私たちが見たかった2022年のマリリン・モンロー

『ブロンド』を見終えた今、これが2022年のマリリン・モンローの映画でいいのか?という疑問が拭えない…。2011年にも『マリリン 7日間の恋』という映画がありましたけど、あれよりもさらに後退しているのでは…。

例えば、『ブロンド』ではマリリン・モンローは男性のファンしかいなかったみたいに描かれていますけど、実際には女性のファンもいて、間違いなく女性に対してエンパワーメントを与えていた側面もあったはずなんですよね。

そうやって「男の視線」と対比的に「女の視線」を描くことで、マリリン・モンローを新しく輝かせることもできるわけで…。ドラマ『パム&トミー』はこの2つの視線の違いというものを浮き彫りにさせて、搾取的な消費とそうでないものの違いを上手く説明している作品でしたが、そういう物語にはできなかったのか…。

また、マリリン・モンローは女性とも性的関係があったと言われています(ジョーン・クロフォードなどが挙げられる)。それを排除してしまうのはあまりに異性愛規範的です。

それにマリリン・モンローの死後に発表された自伝「My Story」では、「性について関心が無かった」ということを打ち明けており、「なぜ周囲の人がこんなに自分に魅了されるのか理解できなかった」という趣旨のことも書いています。これらの記述や人生の背景から、マリリン・モンローは何らかのアセクシュアルのスペクトラムであったのではという説も持ちあがっていたりもします。

マリリン・モンローをこの2022年に描く切り口はいくらでもあったはず。

『ブロンド』はそういう時代を捉えた試行錯誤を怠り、本人へのリスペクトも殴り捨て、男性の作り手の自己満足に委ねてしまったことが最悪の搾取コンテンツを生んでしまったのではないでしょうか。

『ブロンド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 45% Audience 36%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
2.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ブロンド』の感想でした。

Blonde (2022) [Japanese Review] 『ブロンド』考察・評価レビュー