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『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』感想(ネタバレ)…人形劇の最高峰

ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス

人形劇の最高峰…シリーズ『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Dark Crystal: Age of Resistance
製作国:アメリカ(2019年)
シーズン1:2019年にNetflixで配信
監督:ルイ・レテリエ

ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス

だーくくりすたる えいじおぶれじすたんす
ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』あらすじ

惑星トラは1000年以上スケクシス族に支配され、7つのクランに分かれたゲルフリン族はずっと彼らを支配者として支えてきた。スケクシス族は長年の間、真実のクリスタルから生命力を得て、永遠の命を享受してきたが、それに限界がみえてくる。そして、禁断の行動に出る。一方で、ゲルフリン族の若者は世界の恐るべき秘密と危機を知り、運命を変えるための冒険に旅立つ。

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』感想(ネタバレなし)

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ダーククリスタル、再び

日本人のどれくらいがNHK教育テレビを幼い頃に見て育ったのかは知りませんが、そんな幼少の過程を辿った人ならば、「人形劇」は慣れ親しんだものでしょう。日本の人形劇の歴史は深く、それこそ「文楽」など無形文化遺産になるほどです。しかし、人形劇が素晴らしいのは、過去の歴史的存在としてクラシック化することなく、ちゃんとNHK教育テレビの子ども向け番組のように、現在でも身近な存在として受け継がれていることだと思います。

もちろん人形劇は日本だけの専売特許ではありません。世界中で独自の伝統を土台に、さまざまな発展を遂げています。

アメリカならば、『セサミストリート』や『マペット・ショー』でおなじみの「ジム・ヘンソン」というレジェンドが有名です。操り人形師(Puppeteer;パペティア)としても一流でありながら、「The Jim Henson Company」という会社を拠点に、人形劇で競争激しいエンタメ業界に挑むという、とてつもない挑戦を続けてきました。1990年に亡くなってしまいましたが、会社自体は子どもが引き継ぎ、そのチャレンジも続いています。

そのジム・ヘンソンの息子であるブライアン・ヘンソンが監督として2018年に挑んだ映画が『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』でした。“人形劇の可能性を今の世の中に見せてやるぜ!”とおそらく張り切っていたのでしょうけど、結果は惨敗。下ネタありきの悪ノリに、批評家からは総スカンで、正直、人形劇の顔に泥を塗った感も否めない(私は好きですけど)。

ところが、ジム・ヘンソンの娘である“リサ・ヘンソン”が名誉挽回してくれました。

それが本作『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』というシリーズ作品です。この作品は、1982年に公開されたジム・ヘンソン映画である『ダーククリスタル』の世界観を継承する、前日譚(プリクエル)となっています。

私はジム・ヘンソン作品の中でも『ダーククリスタル』が一番好きです。子ども向けなイメージの強いコミカル&カラフルなパペット作品とは違い、『ダーククリスタル』は不気味なタッチで描かれるダークファンタジー。『ラビリンス 魔王の迷宮』などダーク寄りな作風の作品は他にもありましたけど、実写の人間が一切介入しない、全てが人形劇で構成される作品として『ダーククリスタル』は異彩を放っていました。
その『ダーククリスタル』に関連する作品が、オリジナルの公開から35年以上経ってまた始動するとは…驚きです。しかし、どうやら驚いたのは製作陣も同じだったようです。

というのも、“リサ・ヘンソン”はもともと「アニメにしよう」と企画していたそうで、Netflixに話をもちかけます。そして、Netflixのディレクターはこう言ったそうです。「アニメの企画は作れない」「でも実写版を作らないか」…つまり人形劇でいこうという大胆な提案をしてきたのでした。当然、アニメと比べて人形劇は予算が莫大にかかります。企業としてリスクがありすぎるので、躊躇するのは当然です。でもNetflixのディレクターが根っからの『ダーククリスタル』ファンということで、人形劇以外の選択肢はないとの英断。テストパイロット版では、キャラクターを人形とCGと混ぜ合わせてみたそうですが、やっぱり全部人形劇でやろうと決意。ほ、惚れる…。

そして生まれた『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』は人形劇の最高峰と言っていい、究極進化を遂げていたのでした。これは全ファンタジーファン必見ですよ。私はもう心底、“生きていて良かった”と人生に感謝しました、ええ。

『ダーククリスタル』を観たことがないという人でも『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』から触れるので全然OKでしょう(1982年の『ダーククリスタル』は物語の性質上、最終章という感じですしね)。

本作は以下のとおり、全10話で各45~60分程度の長さ。計9~10時間近い大ボリュームで、手を出しにくいかもしれませんが、時間を犠牲にしてでも観る価値はあると保証します。

シーズン1の各エピソードタイトル(邦題)

  • End. Begin. All the Same.(終わりも始まりも同じこと)
  • Nothing Is Simple Anymore(一体どうすれば)
  • What Was Sundered and Undone(かつて砕け分かたれしもの)
  • The First Thing I Remember Is Fire(試練の記憶)
  • She Knows All the Secrets(全ての秘密を知っている)
  • By Gelfling Hand …(ゲルフリンの手で …)
  • Time to Make … My Move(行動を起こす時が来た)
  • Prophets Don’t Know Everything(予言が全てじゃない)
  • The Crystal Calls(クリスタルが読んでいる)
  • A Single Piece Was Lost(失われしクリスタルのかけら)

監督は、『トランスポーター』『インクレディブル・ハルク』でおなじみの“ルイ・レテリエ”で、シリーズ全話の監督を務めるだけでなく、脚本・撮影・製作・編集にもガッツリ関わっています。素晴らしい仕事ぶりです。

声をあてるオリジナル声優陣も豪華で、“タロン・エジャトン”“アニャ・テイラー=ジョイ”“ナタリー・エマニュエル”がメイン3人の主人公の声を担当し、他にも“アリシア・ヴィキャンデル”、“カトリーナ・バルフ”、“ハリス・ディキンソン”、“マーク・ストロング”、“サイモン・ペグ”、“オークワフィナ”、“ベネディクト・ウォン”、“マーク・ハミル”と実に多彩な顔ぶれ。他にもいます。

ちなみに日本語の吹替は、主役3人を“鈴木達央”、“伊藤静”、“東山奈央”といった実力派声優陣があてており、クオリティはじゅうぶんです。

人形劇はチープ? キッズ向け? いえいえ。あなたの人形劇のイメージを一新する極上の幻想的な体験をぜひどうぞ。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(初心者もマニアも必見)
友人 ◎(思わず夢中になる面白さ)
恋人 ◎(二人でドハマりして)
キッズ ◎(子どもも大満足)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』感想(ネタバレあり)

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あの世界がさらに深掘り

ファンタジー作品と言えば壮大な世界観。このシリーズもそれはそれは宇宙規模の話であり、オリジナルの『ダーククリスタル』から世界観は継承しつつも、『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』はさらにその世界観を掘り下げるかたちで奥行きを見せています。

作中でも説明されていますが、ざっくり世界観を解説していくと…。

舞台は3つの太陽に囲まれた惑星「トラ(Thra)」。その中心には「真実のクリスタル」という物質が存在し、すべての命の源。その星にとって欠かせないクリスタルを守護する者が「オーグラ」と呼ばれます。年老いた魔女的な存在であり、太古からいたらしいですが、その出自は謎。予知能力があるなど、明らかに他の生命体を超越しており、作中ではひとりしか登場せず、どちらかといえば神に近いのかもしれません。

そんなトラに大昔、宇宙から「ウルスケク族」という存在が来訪してきます。このウルスケク族はある過ちによって二つに体が分離してしまい、それぞれ「スケクシス族」「ミスティック族」という別種族として生きることになります。

スケクシス族はオーグラを上手くそそのかし、クリスタルではなく宇宙を見守ることに夢中にさせ、太陽系儀の館にオーグラを軟禁します。その間、スケクシス族はまんまとクリスタルを支配下におさめ、城で悠々自適な生活を送ることに。

このスケクシス族はゴテゴテしたハゲワシみたいな醜悪な姿ですが、生殖能力がなく、その代わり、無限とも言える不死の存在。しかし、生命力は衰えるために、クリスタルからエネルギーを奪って、自らの肉体の新鮮さを保っているのでした。この本来の用途とは違う悪用によって、クリスタルは「ダーククリスタル」と化してしまいます。なお、繁殖できないので、スケクシス族は同族を殺してはいけないという掟があって、その代わり、独自の罰を与える文化があります。作中でも目を奪ったりしていましたね。

一方、ミスティック族は隠居状態にあり、ほとんど幻の存在に。

このトラには最も栄えている種族がいて、それが「ゲルフリン族」です。小柄ですが、数が多く、7つの民族(クラン)があります。ヴァプラ、ストーンウッド、グロッタン、ドレンチェン、シファ、スプライトン、ドゥーサン。それぞれが独自の文化を持っており、例えば、ストーンウッドは武勲で有名なほど戦闘派、グロッタンは洞窟暮らしで外に出ず、他のクランからあからさまに差別されています。砂漠に暮らすドゥーサンは死を崇拝しているとか。スプライトンとドゥーサンについてはシーズン1の段階では詳細はわからないですね。

ただ、全てのゲルフリン族がクリスタルを支配するスケクシス族に仕えるという意味では一致しています。ハラール山に住むヴァプラは教養があり、7つの民族を束ねており、それぞれの民族の代表(モードラ)が集まり、その中でトップの「オルモードラ」に選出されているのもヴァプラです。

本作ではストーンウッドの「リアン」、ヴァプラの「ブレア」、グロッタンの「ディート」がメイン主人公となり、運命を交差させながら、旅をしていく物語です。

他にも奴隷のように扱われている知能が低い「ポドリン族」や、かつては存在感があったと思われる謎の「アラシム」、機械に詳しいらしい「グルーナック」、そしてたくさんの個性豊かな野生動物&家畜が登場し、世界を生命で彩っています。

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人形劇はここまで進化した

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』を観ていて真っ先に思うのは「これ、本当に人形劇なの?」ということ。人形劇だと知らずに鑑賞した人なら、人形じゃなくて全部CGだと思うでしょうし、人形劇だと理解したうえで鑑賞しても、従来の人形劇にあった“綻び”のような消すに消せない違和感を感じさせません。

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンスの裏側』というメイキングのドキュメンタリーが同時配信されていますが(絶対に視聴すべき)、それを見れば一目瞭然。ちゃんと正真正銘の人形劇です。

ゲルフリン族は人形師の人が下から腕を入れて操作するいつものパペットですし、比較的体の大きいスケクシス族も人形師の人がボディスーツをすっぽりかぶり、それでもやっぱり頭部は手で動かしているのがわかります。

ただ、表情などにアニマトロニクスが採用されており、遠隔操作で細かく動きがつけられています。また、スケクシス族のスーツは中にモニターがあって自分の演技を映した映像を人形師が見ながら操作できるなど、技術的なサポートが随所に。アニマトロニクスの合わせ技は以前からあったので今回が特別でもないですが、パペット・ショーにありがちな大袈裟なコメディとは違う繊細な表情描写が実現したことで、物語の深みがグッと底上げされていました。

そんな人形師とキャラが同時に動けるように設計された超巨大セットは作り方が特殊で、下で人形師が操作するスペースがあり、ゼロからここまでオリジナルな世界を構築したことは本当に信じがたいです。

一方で最新のVFXを組み合わせることで実現した映像もあり、全身青スーツの人形師をVFXで消すことで、人形師を隠せないようなキャラやシーンも表現できるようになりました。従来ではその制約上、下を見終えるような映像やアクロバティックな動きをする映像は撮れない(人形師が見えてしまう)のですが、その縛りが最新技術で消えました。結果、泳いだり、飛んだり、巨大キャラも動かせるように。岩を積み上げたような姿の「ロア」は3人がかりで動かしていますし、腕が4本あるスケクシス族やミスティック族は4人で操作。オリジナル版よりも映像の幅が格段に広がっています。

伝統的手法と最新技術のコラボレーションが光る本作の白眉は最終話のストーン・イン・ザ・ウッドでのゲルフリン族vsスケクシス族の一大決戦シーンでしょう。この場面では、空中戦と地上戦が同時展開し、人形劇の次元を限界突破していました。

個人的には、太陽の輪での異端者とミスティック族が世界の歴史を人形劇で教えるという「人形劇 in 人形劇」の構図が愉快(しかもその直前に演劇やオペラをさぞかしつまらないものとして描いておくという自画自賛)。また、アラシムがスピッターという蜘蛛を使って顔を形づくらせて意志を伝えるのもメタ的な人形劇スタイルでしたね。

CGは最小限。ダイナミックな背景、無数に蠢く小さな生物と、エフェクトに使うのみです。

『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』で人形劇が限定的に使われるなど、あくまで補助でしかない(もしくは懐かしさの遺物;ノスタルジーとして)現代の映画界における人形劇の存在価値ですが、『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』は徹底して人形劇中心主義で創作をしている。人形劇の力に全幅の信頼を置いている。その純粋な創作魂は称賛するしかありません。

人形師の方々は賞が与えられることはほとんどないですが、間違いなくベストアクトだったとこの感想では絶賛しておきます。

ドキュメンタリーでの言葉を借りるなら「全てが誰かが作った芸術」…まさにそれですね。

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現代社会にも響く「団結と女性」

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』はハイ・ファンタジーですが、ストーリーは非常に私たちの現代的社会に突き刺さる風刺とメッセージ性に富んだもので、御伽噺でありながらも古臭くはありません。そこも良いところ。

例えば、スケクシス族の策略によって分断されたゲルフリン族のクランたちが、疑心暗鬼や差別意識を乗り越え再び一つになるという、全体の物語のメインテーマ。まさに反グローバル・排外主義者の横行に直面する現代社会に、理想を示す教訓譚です。そのゲルフリン族の民族を超えた協和が、ゲルフリン族特有のビジョンを共有する能力で示されていく展開も、子どもでもわかりやすい可視化になっていてシンプルながら上手い演出です。

また、ゲルフリン族が母権制の社会を構築しているのも重要な点。クランのトップを司るモードラも、ゲルフリン族全体のトップに立つオルモードラも女性。その女性社会が、スケクシス族という権力と見栄だけを気にするいかにもな“父権社会”を象徴する者たちに抑圧され、言葉もなく従っている。そんな始まりから、知識と真実の力で声を上げ、一丸となって立ち向かうのは、フェミニズム的にもパワフルな構成です。

もともとオリジナルの『ダーククリスタル』の時点で「女性の解放」というのはテーマにあったと思います。オリジナルでは、ゲルフリン族の女性が実は飛べる!というのがひとつのサプライズな仕掛けになっていました。弱者に見えた存在が意外な能力を秘めている…圧力に屈しないで自分らしさを信じよう…そんなテーマ性を受け継ぎ、パワーアップした『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』は、見事な正統続編的な前日譚だったのではないでしょうか。

苦言を言うなら、キャラの数が多いのが難点ですよね。とくにスケクシス族はわかりにくいです。彼らは名前も「スケク・なんとか」で基本は役職で呼ばれており、そうは言っても将軍と科学者以外は仕事らしい仕事をしている感じでもないので、個性がつきにくい。とりあえず醜悪で野蛮な奴らくらいの印象しか残りません。作中では11人くらいいましたけど、物語上の役割もなく、持て余している感じも…。

一応、オリジナルの『ダーククリスタル』で最終的な物語のオチが決まっている以上、後はそこにつなげていくだけですからね。ただ、そうなるとかなり悲壮感強めにならないだろうか…。

ともあれシーズン2が楽しみです。ゲルフリン族の社会があそこまで掘り下げられたので、いくらでも現代社会とシンクロさせる描き方ができそうです。絶対に作ってほしいですし、配信されれば感想を追記していきます。

人形劇の反撃(レジスタンス)はまだまだ続く…。

『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 92%
IMDb
8.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)The Jim Henson Company ダーククリスタル エイジオブレジスタンス

以上、『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』の感想でした。

The Dark Crystal: Age of Resistance (2019) [Japanese Review] 『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』考察・評価レビュー