世界で最も嫌われた猫映画?…映画『キャッツ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:イギリス・アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年1月24日
監督:トム・フーパー
キャッツ
きゃっつ
『キャッツ』あらすじ
人間に飼いならされることを拒み、逆境の中でもしたたかに生きる個性豊かな「ジェリクルキャッツ」と呼ばれる猫たち。満月が輝くある夜、年に一度開かれる「ジェリクル舞踏会」に参加するため、街の片隅のゴミ捨て場にジェリクルキャッツたちが集まってくる。その日は、新しい人生を生きることを許される、たった一匹の猫が選ばれる特別な夜だった。
『キャッツ』感想(ネタバレなし)
2019年を最後の最後で騒がした問題作
世界最大の映画市場アメリカ。その冬のホリデーシーズンは毎年激戦が行われます。
2019年はディズニーが絶好調で、この12月も『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』というビックタイトルが目玉となるのは関係者も一般観客も誰の目にも明らかでした。きっとこの宇宙銀河大作がこの時期の話題をかっさらい、賛否吹き荒れるのだろうと私も余裕で推察していたら、それ以上の“大穴”が映画業界を震撼させるとは…。
それが『スター・ウォーズ』と同日公開日でユニバーサルから世に送り出された映画。本作『キャッツ』です。
正直、予告動画の発表時から世間の評価は低かったです。でも映画というのは本編を鑑賞するまでわからないもの。映画ファンならそれを肝に銘じて実際に観たうえでその作品を語るのがマナー。そういう紳士淑女な態度を一応表面上は私もとっていました。
それに監督はあの『英国王のスピーチ』や『レ・ミゼラブル』、『リリーのすべて』の“トム・フーパー”ですよ。アカデミー賞で作品賞や監督賞を受賞した経歴の持ち主である彼が、そうそう下手なことをするわけないじゃないですか(不安から逃避)。
しかも、脚本は素晴らしい音楽映画であった『ロケットマン』の“リー・ホール”、製作総指揮には“スティーヴン・スピルバーグ”も入っているのですよ。
製作陣の座組だけ見れば完璧に見えます。見えたはずなのに…。
いざ『キャッツ』が公開されると、それはもう酷評のオンパレード。久しぶりにここまでコテンパンにボロクソ言われる大作を見た気がする。本国の批評家たちの愛ある皮肉たっぷりのコメントはこれを読んでいるだけでも大ボリュームで楽しくなってきます。
「2019年のダントツのワースト」「2010年代でも最悪の一本」と純粋に最低評価を下す人も続出し、星5つのうち星ゼロというちょっと普通ではあり得ない評価値の低さも。「猫が嫌いになった」「猫にとって最悪の出来事は犬の登場とこの『キャッツ』だ」という辛辣な意見さえも聞かれる始末。
ただここまで評価が低いと一種の大喜利状態になり、むしろ祭りみたいなものだとも言えなくはないのですが…。
さすがにユニバーサルも静観できないと思ったのか、急遽、公開済みなのに映像を差し替えるという異例の対処をとる事態に発展。改善版にアップデートされましたが結果は実らず。
いや酷評しているのは批評家だけであって一般観客には評判がいいといういつものパターンだ…そう考える人もいたはず。『グレイテスト・ショーマン』だってそうだったし…。しかし、『キャッツ』はそういう次元ではなかったようで、観客からもそっぽを向かれ、完全に捨て猫の状況に。可愛くニャンニャン鳴いてもダメだった…。
結局、ユニバーサルもお手上げで諦めモードになり、賞レースでも非常に評価が高い『1917 命をかけた伝令』に注力。こちらは予想を超えて大ヒットしたのでした。めでたしめでたし(ん?)。
あまりネタバレなしの感想前半で映画の酷評とか書きたくないのですけど、『キャッツ』の低評価っぷりは日本のメディアすらも報じたことですし、今さら隠してもしょうがないので、素直にレポートとしてまとめました。こういうのも大事。ほら、10年後、20年後に未来の映画ファンがこの『キャッツ』の公開当時の反応を知りたがるかもしれないし…。
これから観ようと思っている人は、ハードルを下げるだけではダメです。「とんでもないもの」を見てしまったときに心をシャットアウトする能力を磨いておいてください。
でも今さらながらお決まりの言葉を書いておきます。
映画の評価は人それぞれ(かっこつけた言い方で)。
いくら世間がその映画にブーイングを送っても、その映画を好きになる人もいる。『キャッツ』だって面白かったと言っている人はいます。宣伝のとおり「極上のエンターテインメント」だと満足する人もいます。これを観て猫が大好きになる人もいます(いるかな…)。日本では天皇もご覧になられたと言うし…(マジですか)。
つまりどういうことか。そう、映画館に行きましょう!ということです。
猫みたいに上手く着地したな(自画自賛)。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(美味しいポップコーンを食べよう) |
友人 | ◯(話題性はじゅうぶんです) |
恋人 | △(気の利いた謝罪を考えて) |
キッズ | △(子どもには退屈か怖がるかも) |
『キャッツ』感想(ネタバレあり)
そもそも「キャッツ」の物語って?
ここでなんですが、すごく基本情報を書きますけど、『キャッツ』はそもそも世界的に大成功をおさめた超有名なミュージカル劇「キャッツ」の実写映画版です。名前だけでも聞いたことがある人もいっぱいいるでしょう。
なお、お恥ずかしながら私は「キャッツ」というミュージカル劇を観たことはありませんでした。つまり、この映画『キャッツ』が人生初の「キャッツ」体験です(これが幸せなのかどうかはさておき)。
「キャッツ」という作品も猫っぽい姿の人がなんやかんや集まって歌ったり踊ったりしている…くらいのイメージしかありません。そう言えば「キャッツ」ってどういう物語なんだろう、そもそもストーリーがあるのか…それさえもわからないレベルでした。
「キャッツ」は原作があって“T・S・エリオット”による1939年の詩集が基になっています。「キャッツ」は観たことがなくても“T・S・エリオット”は私は知っています。すごく有名なイギリスの詩人で、よくいろいろな作品に引用されることも多いです(『地獄の黙示録』なんかも影響を受けています)。
その詩集の原題は「The Old Possum’s Book of Practical Cats」で、邦題は出版によっていろいろなバリエーションがあり、「キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法」「おとぼけおじさんの猫行状記」「袋鼠親爺の手練猫名簿」「キャッツ ポッサムおじさんの実用猫百科」「キャッツ ボス猫・グロウルタイガー絶体絶命」「魔術師キャッツ 大魔術師ミストフェリーズ マンゴとランプルの悪ガキコンビ」など。…さっぱり意味不明です。後半にいたってはバトルアクションファンタジーにすら思える。
結局どういう話なのか。
「ジェリクルキャッツ(Jellicle cats)」という猫たちがいて、この猫たちは人間に飼いならされることなく、自由に生きています。そんなジェリクルキャッツから尊敬を集めて束ねている老猫「オールドデュトロノミー」は「ジェリクルの選択」という行事を行い、そこで選ばれた1匹の猫だけが新たな命を生きる道を獲得できます。そしてこのジェリクルキャッツたちに新しく仲間入りしたヴィクトリアという若い白猫がそのジェリクルの選択に参加していくことになり…。
まあ、要するにファンタジーであって、子ども向けの童話に近いです。ジェリクルキャッツは英国文化に由来するネーミングになっている猫が多く、子どもたちに学んでもらおうという意図もあるのでしょう。
お話としてはとてもシンプルなのでストレートに描けば30分くらいで終わりそうな内容。それを歌と踊りのパフォーマンスで全く新しい魅力に変えたのがミュージカル劇「キャッツ」でした。劇の方はそういう新規性があったんですね。
じゃあ、今回の映画版は? 本作はストーリー自体のアレンジはそこまで劇的な変化もなく、従来を継承しており、やっていることは同じです。
なので一般的に言われるミュージカル映画以上に正真正銘のミュージカルだけでストーリーテリングするミュージカル映画になっています。ここがちょっと面食らいます。だったら映画でやる意味はあるのか、と。劇の映像を映画館で流すのでも同類の体験ではないのかなと思うものです。
もし本作が映画独自のミュージカルだけに頼らないストーリー演出が加わっていれば、また違った評価になったのではないかな…。
ゴキブリは映像化いりますか?
実写映画『キャッツ』がミュージカル劇との違いとして明らかにオリジナリティにしているのが映像面なのは言うまでもないでしょう。
そしてここが酷評の最大の理由となることに…。
ミュージカル劇では役者の人が猫の衣装を身に着けてパフォーマンスをしています。一方でこの映画版では演技している素の段階では俳優たちはモーションキャプチャーに対応した比較的ピタっとしたスーツを身にまとっているだけであり、全然猫の格好ではありません。演技を撮り終えてその後からVFXで猫の見た目にCG加工しています。
今のCG技術は俳優を若返らせたりも簡単にできるほどですから(『アイリッシュマン』とか)、結果、かつてないほどにリアルな猫が完成しました。ビジュアル・エフェクトに携わった「Industrial Light & Magic」「Moving Picture Company」といった企業のデジタルアーティストの仕事は素晴らしかったと思います。ほんと、大変だったろうに…。
ただ残念なことにその苦労が作品の評価に繋がるとは限らず、むしろその技術力が逆に仇になってしまったのかもしれません。
妙にリアルすぎるんですよね。ゆえに不快感を想起させる。いわゆる「不気味の谷」現象という奴です。私としては作品のリアリティバランスの落ち着きどころを製作陣すらも迷っている感じがしてなりません。毛並みはすごくリアルなのに、それ以外は不自然なほどにリアルじゃなかったり…。そこがイチイチ引っかかります。
例えば、基本的に猫のキャラクターたちは毛皮だけしか身にまとっていないので、いわば全裸です。でも股間は何もないし、乳房も強調されない…すごくウェットスーツっぽいです。これを「そういうものだ」と強引に納得させようと思うのですが、一部のキャラはなんか知らないけど“服を着ている”のですよね。なんなんだ、これ…。
生物としても意味不明で、観客はどう咀嚼すればいいのか困惑するのも無理はない…。そんな猫人間たちが伸び伸びとポーズを決めて体をくねらせるのですから、確かに一部の批評家が指摘するように「ポルノ」にも見えなくもない。たぶん一部のケモナーの人しか喜ばないけど…。
しかも、ネズミやゴキブリまで人間化する…。誰得…。これ、企画時点で「STOP」と言わなかった製作陣は何をしていたのか(それともゴキブリ・フェチな人がいたのか)。私、テリー・ギリアムの映画でも観ているのかと不安になりましたよ。序盤で登場するものだからさっそく観客の精神力が持っていかれます。あの猫たちはあの小動物を捕食したりするのかな…(想像したら恐怖すぎる。『進撃の巨人』だ…)。
もちろんVFXだからこそできる猫のしっぽや耳の表現がパフォーマンスを底上げしてくれていたり、そういう部分は楽しいです。でもよく考えるとミュージカル劇の役者はそういうのに頼らずに演技力だけで魅せているわけです。対して映画版は衣装もなしで比較的動きやすい恰好で演技をしているのであって、単純に考えれば演技難易度は劣化していると判断されかねません。
まあ、要するに映像を修正してどうこうなる問題ではなく、根本的な企画自体が間違っていたのではないか、そう結論したくなるのもしょうがないような…。
ある批評家が言ってましたけど、「作品にはそれぞれに適切なメディアがある」というのはまさにこれこのことです。
誰が一番「猫」が似合っているかショー
苦言の連発になりましたが、俳優陣のパフォーマンスはすごく良かったです。
主人公であるヴィクトリアを演じた“フランチェスカ・ヘイワード”。彼女はバレエダンサー兼女優だそうですが、独特な猫のプラトニックさをそのまま抽出したような佇まいで、豪華俳優陣の中でも埋もれることなく輝いていました。彼女の魅力がケモナーに目覚めさせる以外のことに活かされてほしかったところですけど…。
本作のヒロイン枠といってもいいグリザベラを演じた“ジェニファー・ハドソン”は、『ドリームガールズ』(2006年)以来の久々に映画で見た気がしますが(まあ、いろいろな不幸がありましたからね…)、相変わらずの素晴らしい歌唱力で、今作でも「Memory」の熱傷で観客を魅了。『キャッツ』で気になった人はぜひ『ドリームガールズ』(こちらも音楽映画)も観てほしいです。
悪役であるマキャヴィティを演じた“イドリス・エルバ”はこんなダークな猫は見たことがないくらいのハマり方をしていて、やっぱり“イドリス・エルバ”はなにをやらせてもカッコいいなと痛感しました。
オールド・デュトロノミーを演じた“ジュディ・デンチ”と、ガスを演じた“イアン・マッケラン”の老猫組は、見た目が猫でもその存在感の威厳の深みは変わらず、ただものじゃないなと思わせるのはさすがの貫禄。でも実際の年寄り猫はあんなに毛並みがフッカフカに綺麗になることはあんまりないのだけど…。
ジェニエニドッツを演じた“レベル・ウィルソン”は…いつもどおりだった。あそこはネズミ&ゴキブリショックが大きすぎてそれどころじゃなかった…。ちなみに“レベル・ウィルソン”は猫アレルギーだそうです。
そんな中、この『キャッツ』で一番美味しいところをかっさらっていったのはボンバルリーナを演じた“テイラー・スウィフト”でしょうか。あの奇妙な猫スタイルも“テイラー・スウィフト”がやるなら許される気がする。それくらいの説得力があります。それに出番が少ししかないのが逆に功を奏していますね。なんかズルいな…。
『アリータ バトル・エンジェル』とか『ライオン・キング(超実写版)』とか、2019年はさまざまな映像実験映画がありましたけど、ときどき想定外の奇怪生物も生まれちゃいます。そんな動物たちを愛するのも映画ファンとしての楽しみのひとつかな。
私はこの『キャッツ』はぜひともカルト映画として末永く愛されていってほしいなと心から願っています。
ということで私は普通の猫が好きです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 20% Audience 53%
IMDb
2.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
以上、『キャッツ』の感想でした。
Cats (2019) [Japanese Review] 『キャッツ』考察・評価レビュー