パペット大捜査線じゃないよ…映画『パペット大騒査線 追憶の紫影』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年2月22日
監督:ブライアン・ヘンソン
パペット大騒査線 追憶の紫影
ぱぺっとだいそうさせん ついおくのしえい
『パペット大騒査線 追憶の紫影』あらすじ
フィル・フィリップはロス市警初のパペット刑事として活躍していたが、現在は私立探偵。ある日、依頼された調査のため、パペット経営のアダルトショップへと向かったフィルは、店主を含めたパペットが全員殺害されるという事件に遭遇。ロス市警からフィルのかつての相棒だった刑事コニーがやってきて、フィルとともに事件の捜査にあたるが…。
『パペット大騒査線 追憶の紫影』感想(ネタバレなし)
セサミストリートも激怒
日本では「ゆるキャラ」が相次ぐ炎上事件や組織投票による人気水増しの発覚によって、そのゆるくないダーティな側面がつまびらかになり、次の波に乗りたい抜け目のない人たちはすっかり「VTuber」に流れてしまった感じもある昨今。
一方のアメリカでは、昔から「マペット」が根強い人気を集めています。マペットという言葉を聞いたことがなくても、だいたいの人は見たことがあるはず。糸や棒を使って体を動かし、腕で口パクさせて声をあてる、操り人形のアレです。「セサミストリート」なんかが日本でも知名度がありますね。
マペットというのは、操り人形を意味する「マリオネット(marionnette)」と指人形を意味する「パペット(puppet)」を組み合わせた造語です。このマペットというものを発明したのが、“ジム・ヘンソン”という操り人形師で、1955年頃のこと。まさに操り人形の歴史を作った男なのですが、1990年に亡くなってしまいました。
しかし、その意志は脈々と受け継がれ、誰よりも“ジム・ヘンソン”の息子である“ブライアン・ヘンソン”が活躍しています。
そんな“ブライアン・ヘンソン”が監督として生み出したマペット映画の問題作が本作『パペット大騒査線 追憶の紫影』です。
何が問題作なのかというと、どこから話せばいいのか…ツッコミどころが360度あるから困るのですけど、まず本作は超下品ということですね。マペットは子ども向けという印象が強いですが、本作はその評判を綺麗に粉砕するレベルの“やっちゃった”感。まあ、“ジム・ヘンソン”もマペットを子ども向けで終わらせたくないと思っていたそうなので、これはこれで意志を継いだ結果なのかもですが…。
そしてそれに関連して本作は「セサミストリート」の権利を持つセサミ・ワークショップに訴えられたことで話題に。あっちは子ども向け教育番組なので関連付ける雰囲気は嫌だったのでしょうけど、その訴えは退けられ、本作を語るネタが増えただけに終わったのでした。
ちなみに本作は作中でも宣伝でも「マペット」ではなく「パペット」という表現を使っています。これはマペットの権利を持つジム・ヘンソン・カンパニーがディズニーに買収されているからなのだと思います。無論、本作はディズニーは関わっていません。
ただし、これで終わりではなく。アメリカで公開されると、予想どおり(?)そのあまりにもアホすぎる内容に評価は最悪で大コケ。その年の最低映画を決めるゴールデンラズベリー賞に多数の部門でノミネートされ、しっかり汚名伝説を作りました。
それほどの問題作ですし、日本で公開されるのかなと思ったら、しっかり公開されましたね。しかも、とんでもない邦題と宣伝で。「相棒」「踊る大捜査線」「名探偵コナン」と日本コンテンツをパロディにしていくアグレッシブ・スタイル。日本の配給はわかっているなと思いましたけど、ちゃんと「セサミストリート」へのパロディは避けているのが、喧嘩を売る相手を選んでいる感じでまた…。
ちなみに邦題は「パペット大“捜”査線」ではなく「パペット大“騒”査線」ですからね。映画メディアサイトですら間違っていることがあるので注意です(確かに変換ミスするけど、これは)。
本作は日本では何をどう判断したのか「PG-12」なのですが、内容は相当な下ネタ度です。『テッド』より上、『ソーセージ・パーティ』と同格くらいですかね。
間違っても初デートで映画館に来たピュアな中学生カップルがチョイスする作品じゃないので、無難に好印象で恋人と良い関係を維持したいなら、この映画はオススメしません(断言)。
『パペット大騒査線 追憶の紫影』感想(ネタバレあり)
助言・指導してください
さっきも言ったように『パペット大騒査線 追憶の紫影』は日本の映倫の審査では「PG-12」…つまり「12歳未満の年少者の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要」として公開されています。
でもどうですか、鑑賞者の皆さん。
これの何をどう助言・指導すればいいんですかね…。
一応、頭を捻らせて具体例別に少し考えてみましょうか。
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- パペットが経営するアダルトショップ&大殺戮のシーン
映倫「パペットだからセーフ。助言・指導よろしく」
保護者「これは成人しないと入ってはいけない店だからね。だから当分は関係ないから見たものは忘れるんだ。えっ、お父さんはこんな店に行ったことがあるかって? このアイテムはどう使うのかって? いや、それは…あ、人形は大事にしないとダメだよ、バラバラにするのは良くない。うん」
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- ラリーが犬に体をひきちぎられて無残な死を遂げるシーン
映倫「パペットだからセーフ。助言・指導よろしく」
保護者「犬は適度なストレス発散が必要だからね。ちゃんと遊んであげないと、健康にも悪いし、スキンシップは大事だ。なるべく犬用のグッズを使うのが望ましいけど、近所のペットショップで探してみるのがいい。もちろんやってはいけないことをしたら、しつけをして怒るのも忘れずに」
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- コニーがドラッグでハイになるシーン
映倫「パペット用だからセーフ。助言・指導よろしく」
保護者「いいかい? どんなにオイシイ話を聞いても、薬物にだけは手を出してはいけないよ。人生を破壊することになって、自分だけでなく、家族や友人にも大きな取り返しのつかない迷惑をかけるからね。コニーは、これは…捜査、うん、捜査のためにやむを得ず、ああしたんだよ」
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- フィルがホワイトとアレして大量噴射するシーン
保護者「………あの、うん、これは…その…そうだな、えっと、人間っていうのはね、どうしても抑えられない感情が体を迸ることもあるんだよ。まあ、これはパペットだけどね。でも同じことだ、たぶん…。だから、しょうがない。そう、やむを得ないんだ。あと避妊具は大切だ」
- 警察にて足を組んで座るホワイトのスカートからアレがチラリするシーン
映倫「パペットだからセーフ。助言・指導よろしく」
保護者「そういえば学校の宿題はちゃんとやっているのか? 勉強っていうのはな、今はその意味がわからないかもしれないけど、大人になればあとでやっておけばと後悔することもいっぱいあるんだぞ。えっ、映画の話をしろって? いや、今は学校の話をしよう。そうだ、友達とはうまく(以下、略)」
無理だ、無理だよ、映倫さん…。
とことんヤる
もう少し頑張って真面目に感想を書いてみようと思います。
本作は曲がりなりにもジャンルとしては「バディもの」の体裁を保っています。むしろ王道と言っていいぐらいです。
かなり堅物の元警官の男(パペット)であるフィル・フィリップスは、今の時代では珍しくさえもあるハードボイルドさを全開にしたキャラクターなせいか、なんだかちょっと懐かしさも感じます。そんなフィルの相棒役となるのが、現役刑事の女(人間)のコニー・エドワーズ。演じているのはコメディならおまかせの“メリッサ・マッカーシー”。きっと“メリッサ・マッカーシー”ならパペットと同列に取っ組み合いをしても絵になると思ったのかな…。
ちなみに“メリッサ・マッカーシー”はコメディ女優というイメージですが、2018年は『ある女流作家の罪と罰(原題:Can You Ever Forgive Me?)』というシリアスなドラマ映画で、アカデミー賞の主演女優賞に見事ノミネートされるほどの名演を披露しているので、確かな才能を持っている人です。それだけはしっかり覚えていてほしいところ。『パペット大騒査線』ではこんな下品な感じになっているけれども…。
そのフィルとコニーの二人がバディを組んで悪者を倒して事件を解決するのですから、とてつもなくオーソドックス。“普通に”作ればド定番のストーリーでそこまで変な寄り道もしようがありません。
ただ、その予定調和を全部上書きしてしまうのが、本作の下品さ部分。もう、なんでしょうか、パペットを使ってできる限り酷いことをしてやろうという露悪な精神を隠してすらいません。だいたいパペットなので「死」という概念もあってないようなもの。同じく“作り物”だから不謹慎な死ネタもOKなノリの映画として、最近は『レゴ ムービー』シリーズがありましたが、『パペット大騒査線』の場合はたがが外れているので収拾がつかないんですね。ここまで遠慮のない映画、なかなか今のご時世、見られませんよ。
『テッド』はなんか知らないけど一般観客層にもそれなりにウケたみたいですが、本作はストリートすぎて厳しいだろうなぁ…。
ポリティカル・コレクトネスのせいで映画が平凡になったとぼやいている人は、絶対に本作を観た方がいいです。世の中にはどんなに世界が常識を維持しよう力を働かせても、そこに外れる問題児というのは常に一定数いるんです。それを身をもって証明してくれました。よし、ありがとう、帰っていいよ。
そこにはパペッターがいる
あとはなんといっても「パペット操作師(Puppeteer)」の妙技はやっぱり凄いなということ。
当然のように本作はパペット・キャラクターをCGで全部表現することはせずに、全てが人が動かすパペット人形の実物です。なんでも125体の人形が使用され、そのうち40体は特注品だったそうで(一部は過去作品で使ったパペットの流用)、本作だけでずいぶんバラエティに富んだパペットが見られます。
人間とパペットが共存している世界というスケールが地味にデカイ映画をさりげなく文字どおりハンドメイドで実現しているのは、褒められずにスルーされそうなことですが、あらためて考えるととんでもないです。
なので「メイキングを見るのが一番面白い」という結論に達してしまう映画でもあります。
パペット操作師の人は極力画面に映らないようにかなり無理ありそうな体勢で人形を操っているのですけど、よくあんなことできるなと。ちなみに監督の“ブライアン・ヘンソン”はカニの操作と声を担当していたようです(コニーに蹴り飛ばされるやつ)。
もちろん最終的にはパペットと実写を違和感なくなじませるために映像処理しなくてはいけないので、VFXチームも本作では相当に大変だったみたいですが。ご苦労様です、ほんと。
パペッターという職業は直接的にパペットが登場する映画のみならず、他にも多くの作品の撮影で陰ながら活躍している仕事人だったりします。たいていは後にCGでキャラクターを当てはめる際の土台として、または役者が演じやすいように仮の相手として、パペッターの操作する人形が使われることが多々あります。『パペット大騒査線』ではそんなパペッターの人たちがいつもより身近に感じられたので、そこはとても有意義なポイントでした。みなさんもぜひCGキャラがバンバンでてくる映画を観たときは、パペッターの人が頑張っているんだと想像してみてください。
『パペット大騒査線』はそんな大切なことを教えてくれる映画でした。あ、そうか、この話を子どもにすればいいんだ…。
日本も「ゆるキャラ」と「VTuber」が利権をめぐって血みどろの争いを繰り広げるバトル・ロワイヤル映画とか作ればいいのに…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 22% Audience 41%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★
作品ポスター・画像 (C)2018 STX PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
以上、『パペット大騒査線 追憶の紫影』の感想でした。
The Happytime Murders (2018) [Japanese Review] 『パペット大騒査線 追憶の紫影』考察・評価レビュー