作らないよね?…「Apple TV+」ドラマシリーズ『サニー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にApple TV+で配信
原案:ケイティ・ロビンズ
さにー
『サニー』物語 簡単紹介
『サニー』感想(ネタバレなし)
京都でロボット珍事件?
ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」。最近は見ないなぁ…と思ったら、すっかり生産は停止されていました。
世界で初めて量産化されたロボットということで「そんなロボットが日本で生まれるなんて日本らしいな!」と思うかもしれませんが、案外と知られてませんけど、この「Pepper」の原型となったロボットは「Aldebaran Robotics」というフランスのロボット企業が開発したものであり、ソフトバンクがこの会社を買収して「Pepper」に至っています。
人型ロボットはどこの国でも未来の技術の目指す夢として設定されやすいようで、他にも多くの国々が開発しています。「Pepper」は人型ロボット(厳密には半分だけが人型なのですが)としてはそこまで普及しませんでしたが、まだ人類は諦めていません。
2024年時点、いくつかの世界各地の企業が人型ロボット(ヒューマノイド・ロボット)を実用化に向けて進めており、まず製造や物流の業界での実用が最初の一歩になるようです。
やっぱり一般家庭で人型ロボットが当たり前になる時代は相当に先なのかな…。
そんな中、今回紹介するドラマシリーズは、その未来を先取りしています。半人型ロボットが家電のように家庭で普及したちょっと未来の社会、しかも日本を舞台にした作品です。
それが本作『サニー』。
本作は原作があって、アイルランド出身の“コリン・オサリバン”という作家が2018年に執筆した「The Dark Manual」という小説です。“コリン・オサリバン”は現在は妻と2人の子どもたちと一緒に青森で暮らしており、この地に居住してからかれこれ20年以上も経っているそうです。1999年に1年間だけ英語教師として来日したのが最初の日本との接点。今も教師の仕事をしながら作家としての執筆活動を続けているのだとか。
私は全然知らない作家だったのですが、国際的に翻訳出版されているくらいには知られている人だったようで…。
物語はなかなかに珍妙です。日々の生活をサポートする高性能な半人型ロボットが家電のように家庭で普及したちょっと未来の京都が舞台。そこで暮らすひとりのアメリカ人女性は、日本人の夫と結婚し、幼い息子を育てていましたが、その夫と息子が不可解な飛行機事故で消息不明になり、そこからロボットをめぐる謎の事件に巻き込まれていく…。
奇妙なミステリー・サスペンスとシュールなユーモアが混ざり合う、独特の肌触りのストーリーとなっています。
いわゆるハリウッドが描いてきた「ヘンテコなクール・ジャパン」とはだいぶ様相が違う世界観です。日本生活経験の長い“コリン・オサリバン”だからこその視点が生み出したのであろう、”日本社会”批評と”日本で暮らす外国人”批評に溢れています。
それをハリウッドで映像化したのは「A24」。しかも「Apple TV+」で独占配信。
『サニー』のショーランナーはドラマ『アフェア 情事の行方』の“ケイティ・ロビンズ”で、ドラマ『ステーション・イレブン』の“ルーシー・シャーニアク”などがエピソード監督を務めています。
注目は俳優陣で、まあ、日本が舞台なので日本人が出演しているのが当然なのですが、なんと“西島秀俊”が主演のひとりです。日本国内ではじゅうぶんキャリアのあるベテランですけども、2021年の“濱口竜介”監督作の『ドライブ・マイ・カー』で「あの俳優は何者だ!?」と一気に海外で注目に火がつき、ついにはハリウッドで堂々の演技。別に海外で仕事することが全てじゃないけど、こうやって才能を海外でも発揮できる機会が得られる日本人が増えるのは嬉しいですね。
その“西島秀俊”と共演する妻役の主人公を演じるのは、『オン・ザ・ロック』やドラマ『サイロ』の“ラシダ・ジョーンズ”。最近はドラマ『アザー・ブラック・ガール』など製作でも活躍されていますね。
シンガーソングライターであった”アニー”、日本の数々のドラマなどに出演してきた経歴のある台湾出身の“ジュディ・オング”、もうすっかりワールドワイドな”國村隼”と、「あ、この人もでてるんだ!」と毎度びっくりさせてくれます。
個人的に一番の印象をかっさらっていくのは“YOU”。なんというか…“YOU”だな!って感じのキャラクターを癖たっぷりに演じまくっていて…(全然説明になってないけど)。
ドラマ『サニー』のシーズン1は全10話。1話あたり約30分なので見やすいです。
隣にロボットは…いませんよね。
『サニー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :変わった作品を楽しんで |
友人 | :気軽に眺められる |
恋人 | :癖はかなりあるけど |
キッズ | :やや大人向けの風刺 |
『サニー』予告動画
『サニー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
京都、スージー・サカモトは喪失感に沈んで何も手が付けられない状況でした。夫のマサと幼い息子のゼンが北海道行きの飛行機405便に乗ったものの悲惨な事故が起きてしまったのです。墜落現場では救助活動が現在も行われていますが、生存は絶望的と報じられています。
家族の思い出が残る家で息子のベッドの上に横たわって天井を見つめるスージー。それだけでもいられず、夫の母ノリコと一緒に被害者の調査聞き取りに応じます。スージーは夫の服装は漠然としか覚えていません。最後に2人に会ったのは空港での見送り。ホームボットはあるかと質問されますが、スージーの母親は自動運転車に轢かれて亡くなったため、彼女は家にロボット関連のものを置くのを避けていました。夫のマサは「ImaTech(イマテック)」で働いていましたが、冷蔵庫の専門です。
犠牲者の遺族のためのケア集会に参加するも、空気に混ざって涙を流す気にはなれず遠慮します。それでも促されて夫の電話に発信すると留守電メッセージではなくコールが鳴り続けます。まだ電話は機能しているのか…。夫の母は生存を期待できると言いますが、スージーは楽観視していません。
ふと白髪の男が会場にいるのが気になりますが、ヤクザだと夫の母は小さな声で説明します。
ある夜、家の前に夫の同僚だというユウキ・タナカと名乗る男がやってきて最新ホームボットのサニーを届けてきます。嫌いなロボットにうんざりするスージー。
しかし、夫が作ったと聞いて驚きます。なんと冷蔵庫部門だというのは嘘だったのです。このサニーはスージー用にプログラムされていると説明され、タナカは「ロボットは心を癒す」「マサは善人です」と語ります。
しょうがなく受け取り家にいれますが、「サニー、スリープ!」と指示してオフにし、クローゼットにしまいます。そしてワインで酔いつぶれるのでした。
それでもなぜかサニーはひとりでに起動してはスージーの面倒をみようとします。そのたびスージーは拒絶。
けれども、何か知りたくなり、ImaTechのクリスマスパーティーに足を踏み入れます。他の社員いわくマサは厳しい性格だったらしいです。賑やかな場を避け、スージーは裏階段を降りて「坂本研究室」とある秘密施設に立ち入ります。犬がいる黄色い部屋には壁とカーペットに血痕が…。夫は何をしていたのか…。
整理できぬままバーで困惑していると、バーテンダーのミクシーと少し打ち解けます。そこでホームボットをいじるプログラム・コードが裏で出回っていると教えてくれ、伊藤という政治家が自宅のホームボットに殺されたという噂もしてくれます。
家に帰ると、床にあの研究室の部屋と同じ血痕のような赤ワインが床に残っており、やはりホームボット絡みの事件に夫が関与している疑惑が脳裏にこびりつきます。
不気味に感じてサニーを川に捨てようとしますが、重すぎて無理なので橋に置き去りにします。
翌朝、スージーが目を覚ますと、サニーは家にいました。スージーはサニーを壊そうとしますが、サニーはマサが飛行機に乗る前にした独特の手振りを真似してきて、それを目にしたスージーは手を止めます。
このロボットは自分の知らない夫のことをどこまで知っているのか…。
一番現実の日本と違うのは…
ここから『サニー』のネタバレありの感想本文です。
こういう日本を舞台にした作品をハリウッドが作る場合、どうしたってオリエンタリズムにならないかと懸念が浮上するものですが、本作『サニー』は単純に「エキゾチックな日本」を消費して終わるのではなく、物語に”日本社会”批評(さらにはそんな”日本で暮らす外国人”批評)を練り込んでおり、一筋縄ではいかない作品でした。
オリエンタリズムが全くないわけではないです。昭和歌謡みたいなオープニング・クレジットで毎度始まりますし…。
ツッコミどころも、まあ、あるにはある。「こんなところあるかよ」という古風な京都警察署はだいぶ無理がありました。
ただ、何でしょうかね…。逆によくぞここまで作り込んだなというのもあって、ちょっと勢いに押されて感心してしまったものも…。とくに終盤の第9話、人を殺めるという禁断の一線を越えたサニーの思考内を可視化したシーン(ロボットなんだけど)。ここはまさかの日本のテレビ・バラエティー番組風になってます。ちゃっかりワイプ芸まであって、演出がキレキレでした。
また、社内のARゴーグル一斉ラジオ体操とか、これは一周回って実際にやる企業がいそうだな…と冷や汗になることも…。
一方、最もあり得なさそうだなと思うのは、白物家電を作っていたメーカーがホームボットなんて新ジャンルの製品を開発するリソースが、今の日本企業にはないだろうなという残念な現実。現在の日本電機企業はどんどん縮小・撤退し、開発力を衰えさせ、中国メーカーやアメリカのIT巨人にシェアをごっそり奪われていますからね…。
本作の世界観のアイディア元は、だいたいが1990年から2000年代初頭(まだ日本の技術力が!と強気でいられた時期)の日本のイメージっていう感じではありました。配信時の2020年代の日本と重ねようとするとチグハグにはなってしまいますかね。
引きこもりの敵は…
肝心の『サニー』の”日本社会”批評(さらにはそんな”日本で暮らす外国人”批評)ですが、そのミステリアスなキーキャラクターとなるのが「サニー」というホームボット。
『M3GAN ミーガン』みたいな二足歩行でヌルヌル動く高機能アンドロイドではなく、あからさまに段差も登れそうにないロボットで、リアルと言えばそうなのですが、実用性のところは怪しい存在でした。
でも第9話で明かされるように、このサニーと同型のボットは社会復帰のサポート・ツールとして開発されたもので、主目的はコミュニケーション。複雑な家庭事情ゆえに「引きこもり」となってしまっていたマサの過去がその開発背景にありました。
正直、この本作の社会現象としての「引きこもり」の描写はそんなに精度高くもないとは思います。やっぱり90年代~00年代っぽい古さがあるんですよね。そもそもあんな何でも世話してくれるボットを傍に置いたら、余計に引きこもり状態が悪化しそうではある…(ボットのせいで就職機会も奪われて余計に社会的居場所が減るだろうし…)。過保護化して攻撃的になる欠陥があるなら、「私の主は引きこもりでも別にいいだろ!」と歪んだ擁護で暴走しそうだ…。
でもその「引きこもり」を、「日本」という異国の地で殻に閉じこもってしまっているスージーにも重ねていて、あまり日本国内作品では見られない視点もあったのは良かったですけど。
マサというキャラクターを不憫さを醸し出しつつ、全体としては作中では同情が強めなのは、日本と海外では評価が割れるのではないかな。やっぱり海外だと「日本的な男らしさの葛藤」というあたりで納得するのかもですが、日本からすればマサの夫や父としての大人の責任不在の部分を批判する意見は当然でるでしょうから。これ、あくまでマサのパートナーが外国人だからなんとか成り立っているバランスであり、マサの妻が日本人だったら全然別の印象になるでしょうね。
もうひとつ本作の物語にサスペンスを持ち込むのが、ヤクザの陰謀です。とあるヤクザの組の幹部であるヒメは、頭を失って次期の頭の座をめぐって権力闘争が勃発する中、弱体化する組を憂い、自分がトップに立とうと画策。そこでマサの作った高度なプログラムに着目し、それを改変してどんなボットも殺人マシンに変えさせる「ダーク・マニュアル」のコードを探し求めます。
ヒメの苦悩は男社会であるヤクザで女性である自分がどう頂点に上り詰めるかという苦悩でもあるのですが、“YOU”の演技がノリノリすぎるので、このキャラの葛藤を忘れそうになる…。
スージーのパート、マサのパート、ヤクザのパートと、この3つの組み合わせがようやく混ざり合ってもカタルシスが薄めなので、少し物足りないところはありました。しかも、最終話で密かに暗躍していたミクシーのパートまで浮上しますからね。
個人的にはヤクザはもういいので、もっと絞ってテーマをひとつに深めて、「引きこもり」に特化したドラマにしてほしかったですけども…。私は引きこもり当事者にとってホームボットみたいな存在はむしろ敵なんだと思ってますよ。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
「Apple TV+」で独占配信しているドラマシリーズの感想記事です。
・『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』
・『インベージョン』
・『アフターパーティー』
作品ポスター・画像 (C)Apple
以上、『サニー』の感想でした。
Sunny (2024) [Japanese Review] 『サニー』考察・評価レビュー
#ミステリー #ロボット #夫婦 #ヤクザ