白石和彌監督もついに続編の新境地…映画『孤狼の血 LEVEL2』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年8月20日
監督:白石和彌
性暴力描写 動物虐待描写(ペット) ゴア描写
孤狼の血 LEVEL2
ころうのち れべるつー
『孤狼の血 LEVEL2』あらすじ
3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて策略が蠢いた結果、無惨に殺害されることになった伝説のマル暴刑事・大上。その跡を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡。権力を武器にヤクザが闊歩する裏の社会を取り仕切る日岡に立ちはだかったのは、上林組組長として現れた上林成浩だった。暴虐の限りを尽くす上林によって、なんとか調整していた呉原の危うい秩序が一気に崩れていき、日岡の立ち位置も揺らぐことに…。
『孤狼の血 LEVEL2』感想(ネタバレなし)
孤狼もついにシリーズ化!
ヤクザ映画というジャンルはまだまだ人気です。さすがに興行収入で上位トップ10とかに入るほどではないかもしれませんが、何かとヤクザ映画はなんだかんだで作られています。
そしてシリーズ化に踏み出したヤクザ映画が登場しました。それが本作『孤狼の血 LEVEL2』です。
1作目はもちろん2018年公開の『孤狼の血』。昭和63年の広島・呉原を主な舞台に、刑事が激化するヤクザの組同士の抗争に首を突っ込んでいくというベタな物語。原作は“柚月裕子”による長編小説です。
ヤクザ映画のシリーズものと言えば、ご存じ超有名な1973年からの『仁義なき戦い』シリーズや、1986年からの『極道の妻たち』シリーズ、2000年代以降だと2010年からの『アウトレイジ』シリーズがありました。
ここに『孤狼の血』も並んだわけです。これは監督の“白石和彌”もさぞかし嬉しいのじゃないでしょうか。日本のヤクザ映画史に刻まれる功績ですからね。
“白石和彌”監督も2010年の長編監督デビューからたったの10年で凄いキャリアに到達しました。一時は年3本くらいは映画を公開していくというハイスペースで(2018年は『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』、2019年は『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』)、ついていくこっちも大変だったのですけど、今後はドカンと大作を一発入魂していくスタイルになるのか、それともやっぱり多作でいくのか。なんにせよ日本映画界を先導している映画監督のひとりなのは間違いありません。
そんな絶好調の“白石和彌”監督が満を持して送り込んできた『孤狼の血』の続編となる2作目『孤狼の血 LEVEL2』。なお、原作小説は3部作あるのですが、この映画の2作目は原作とは関係のないオリジナル・ストーリーになっています。それにしてもなんで「LEVEL 2」なのだろうか。日本らしく「弐」とか「第2章」とかにすればいいのに。これだとデスゲームものみたいだ…。
『孤狼の血 LEVEL2』でもごった返す俳優陣は大きな見どころです。
主人公は“松坂桃李”。今作では1作目の経験を経て豹変しており、「松坂桃李(悪タイプ)」です。ちなみに「松坂桃李(善タイプ)」は『パディントン』です。
前作ではかなりの大波乱があったので退場した人も多いですが続投組として特に目立つのは、まず広島県警の側を演じる“滝藤賢一”。前作では“松坂桃李”演じる日岡秀一を呉原東署に送り込んだ張本人でしたが、今作では何かするのか…。
警察を嗅ぎまわる新聞記者を演じる“中村獅童”も相変わらず。そして“白石和彌”監督作品と言えばもはや定番の“音尾琢真”。今回はどんな酷い目に遭うのか、乞うご期待。
ただやっぱり新規勢の方が充実しています。一番は本作のヴィランとなるコントロール不能な狂気のヤクザを怪演する“鈴木亮平”。『ひとよ』とは全然違う…。
また『るろうに剣心 最終章 The Beginning』でも活躍した若手の“村上虹郎”、『blank13』で長編監督としても輝いている“斎藤工”、他にも“吉田鋼太郎”、“宇梶剛士”、”寺島進”、“中村梅雀”など。
基本的に男臭い顔ぶれですが、今作では元「乃木坂46」の“西野七瀬”が雰囲気を変えて出演。主演作『あさひなぐ』とはガラっと変わってます。ファンの人なら“白石和彌”監督作になんて出たらどんなに酷い目に遭うのかと心配するかもですが、一応そこまでは…少なくとも自分自身に暴力の被害は受けない…かな(曖昧な言及)。
前作以上にバイオレンスで過激になっており、「レベル2」というのはレーティングに関わりそうな表現の程度が上がったってことなのかもしれない…。念のために通知しておくと、嗜虐的な拷問シーン、性暴力シーン、犬を殺すシーンなどがありますので注意です。
『孤狼の血 LEVEL2』を観る前のQ&A
A:前作を知っておくと、主人公の変貌やその動機がよくわかります。前作の登場人物もいくつか出てきます。一応、軽いおさらいのようなものが本作の冒頭にあります。
オススメ度のチェック
ひとり | :前作の雰囲気が好きなら |
友人 | :ヤクザ映画好き同士で |
恋人 | :デートムービー向けではない |
キッズ | :非常に残酷描写多め |
『孤狼の血 LEVEL2』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):悪魔がシャバに出る
「兄貴の出所祝いじゃ!」と拳銃を持って調子に乗りながら車を飛ばす集団。彼らは五十子会上林組のヤクザたちです。運転係のチンタと呼ばれる若い男を残して、3人はクラブに乗り込み、「尾谷の橘はどこじゃい!」と威勢よく脅してみせます。ライバルである尾谷組の若頭である橘優馬に一発お見舞いしようと狙っていたのでした。
ところがその思惑は吹き飛びます。そこにいたのは警察だったのです。「全員逮捕じゃ」…呉原東署刑事二課・暴力班捜査係の日岡秀一が中心に一斉に動き出す警官たち。びびったひとりが逃走するも建物の前にも警察がズラリ。あえなく逮捕されます。
ところが後ろから日岡を刃物で刺す若い男が…。例の車の中で居残りだったチンタという奴です。日岡はその場に倒れ…。
そのチンタこと近田幸太は捕まり、警察に尋問されます。そこへ怪我が大事にはならなかった日岡がやってきて、他の者には外してもらい、2人きりになります。すると2人の態度は一気に和やかに。「チャカを使う約束だっただろう」と囁く日岡。気楽に謝るチンタ。実は2人は裏で繋がっており、近田幸太は日岡が五十子会上林組に送り込んだスパイだったのです。チンタの姉である近田真緒とは親しく、いつになったら弟は解放されるのかと文句を言われたりもしています。
日岡は尾谷組に顔を出します。若頭の橘優馬にも面会し、「五十子会はもう組織としてダメだ」と話します。この日岡こそかつての五十子会を率いる広島仁正会と尾谷組を手打ちにして、抗争を終わらせたキーマンでした。
しかし、彼らは知りません。今まさに新たな抗争の火種が出現したことを…。
その頃、ある男が出所します。五十子会上林組の構成員たちが出迎え、初代会長で亡くなった五十子正平の遺影を持っています。その出所した男の名は上林成浩。上林はある女のもとに行き、仲間に暴行させつつ、「なんでそないな目でわしを見よるんじゃ!」と自らの両手で女の目を潰し…。
広島県警本部は女性殺害事件の捜査が始まり、応援で日岡も呼び出されます。被害者の名前は神原千晶で、眼球が破壊されるなどの酷いありさま。五十子会の犯行の可能性もあり、その周辺の捜査は日岡に担当してもらうと広島県警本部・捜査一課の嵯峨大輔に言われます。そして、定年退職前の瀬島孝之が相棒になることに…。
一方、上林成浩は初代会長の五十子正平の3周忌に参加。二代目五十子会・会長である角谷洋二や広島仁正会会長の綿船陽三から「昭和はもう終わったぞ。抗争ではなくビジネスだ」と口を挟まれるも不満そうです。五十子正平の妻である五十子環は「どいつもこいつも牙を抜かれた。金儲けしか考えていない。お父ちゃんを成仏させてやりたいんよ」と言い、上林成浩の闘争心に火がつきます。
日岡たちは被害者の兄で徳島刑務所の刑務官である神原憲一に聞き込み。上林成浩を担当していたそうで、彼はずっと懲罰房にいたらしく、コントロール不能で、早く厄介払いしたくて模範囚という建前で出所させたのだとか。
上林は元広島仁正会・加古村組・構成員で、今は手を洗い、「パールエンタープライズ」社長として国や県相手にビジネスで調子に乗っている吉田滋から資産を奪い、権力の基盤を手に入れます。そして、その牙は同じヤクザにさえも向けられ…。
白石和彌監督は男の群れは描けるけど…
『孤狼の血 LEVEL2』では安定の“白石和彌”監督の得意分野が炸裂しており、やっぱりこのシリーズは“白石和彌”監督の才能を発揮するのに絶好の遊び場なんだなと再確認。
『孤狼の血 LEVEL2』を見ていてもあらためて思いましたが、“白石和彌”監督は男優たちの演技をフルパフォーマンスで化学反応を起こさせる群れを即席で構築するのが本当に上手いですね。本作は1作目があるとは言え、結構な割合で新規の出演者が多い構成になっています。ジャンルの特性上、キャラクターがガンガン死にますからね。あまり登場人物の成長を積み重ねていくことがしづらいです。しかし、しっかりその都度で各俳優をギュっとかき集めて魅力的に輝かせる…この瞬発力はスゴイなと思います。
バイオレンスありきの絵作りではないアプローチもあって、本作でも窮地に陥った近田幸太がトンネルで追い詰められていくシーンなど、印象的なカットがありました。あとカーチェイス。『ひとよ』に続いてですが、“白石和彌”監督はたぶんこういう派手なアクションも予算が許すかぎりいっぱいやりたいとは思っているんでしょうね。
とは言いつつ、本作で最大級に脳裏に焼き付くのは“鈴木亮平”演じる上林成浩。残虐の盛り合わせで場を支配していくこの存在感。リアルというか完全にフィクションに振り切ったヴィランですね。このキャラクター作りは明らかに韓国映画の影響を受けていると思いますし、暴力描写自体の特出した面白さは正直あんまりないとは思います。目潰しとかつい最近も『ドント・ブリーズ2』でも観たばかりですからね。近年は韓国映画でさえもこういう悪役は古臭くなっており、若干の日本映画界の出遅れを感じないでもない。
ただそれ以上に出遅れているのが女性の描写。“白石和彌”監督は男性キャラクターはそれはもう多彩に描けています。しかし、女性キャラクターになると途端に貧相でワンパターン化してます。犠牲者か悲劇のヒロイン、もしくは男ありきの存在。結局は男の群れを飾るためのアイテムに過ぎないので、全然面白みはないです。
これは日本の男性監督全般によくありがちな課題ですし、日本映画界の男性偏重の証なんですけどね。
そのへんはまさにイギリスのヤクザドラマ『Giri/Haji』で見抜かれている部分でもありますが…。
ヤクザ映画になると欠点が滲みだす
また、ヤクザ映画という主戦場において日本映画の周回遅れが目立つ感じもします。『ヤクザと家族 The Family』でもそうでしたが、ヤクザ映画というジャンルになると日本映画業界のダメな部分が露骨に染み出るというか…。
なぜなのかと考えてみると、おそらく「マイノリティだなんだと言うけれど、男だって辛いんだ」という弱者男性論とヤクザ映画が共鳴しやすいからなのかなと思います。本来であればこういう弱者男性論はインセル的な立場の人がよく主張するイメージですが、実際のところホモ・ソーシャルの中に立つことしか知らない多くの様々な男性が(場合によっては女性も)口にしているものです。いや、さすがに今は公で堂々と口にしづらい空気を感じている人も多い…だからこそヤクザ映画という世界の中だけはそれをフィクショナルなオブラートに包みつつ打ち出して発散しているような…。
例えば、作中でも正義の暴走を揶揄するセリフを瀬島孝之に言わしたり、記者の高坂隆文を通して表現の自由(実際は報道の自由だけど)に言及したり、ネット界隈のオルタナ右翼系が持ちだしそうな今流行りっぽい言葉をうわべだけ拾ってきて作中に散りばめているのですが、全部空振りしている。映画上におけるテーマに対する議論を全部ヤクザコーティングしているけど、それは作り手がそうしないと上手く扱えないからで、それは結局下手ってことじゃないかとも思ったり。ヤクザ映画ならその欠点をカッコよく描けると思い込んでいる節があるような気もします。
やっぱり本来は自己批判こそ求められるものであり、ナルシシズムに浸る要素は1ミリもあってはならないと思うのです。じゃないと勘違いする。実際、作中でニホンオオカミは狂暴すぎて絶滅したみたいな主張がなされ、排斥された古き良きヤクザとニホンオオカミを重ね合わせるエンディングになっていましたが、史実ではニホンオオカミは狂暴ゆえに駆除されたわけではなく、ニホンオオカミはヤクザのような権力を仕切る人たちの儲け主義や男性社会そのものによって絶滅に追い込まれたわけで、どちらかといえばヤクザに蹂躙される庶民や社会的弱者に近いですよ。
“白石和彌”監督は映画業界のハラスメント対策にも意欲的でそれはとても良いと思うので、ぜひ作品の物語にも深く反映されるといいですね(暴力描写を減らせという意味ではないですよ)。
『孤狼の血』をシリーズ化を続けていくなら、日本のヤクザ映画を全く新しいステージへと変貌させていってほしいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
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・『ひとよ』
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作品ポスター・画像 (C)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会 孤狼の血2 孤狼の血レベル2
以上、『孤狼の血 LEVEL2』の感想でした。
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