ニール・ブロムカンプ監督が戻ってきた…映画『デモニック』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:カナダ(2021年)
日本公開日:2022年2月4日
監督:ニール・ブロムカンプ
デモニック
でもにっく
『デモニック』あらすじ
『デモニック』感想(ネタバレなし)
ニール・ブロムカンプ監督、戻ってきました
あれ、そう言えばあの監督、最近見てないな…。そういう人もいる。
例えば、“ニール・ブロムカンプ”監督とか…。
ここ数年で映画ファンになったような人は“ニール・ブロムカンプ”監督の名を知らないかもしれませんが、そのかつての監督デビュー作は大きな話題になりました。
“ニール・ブロムカンプ”監督が強烈な才能を見せつけたその映画が2009年の『第9地区』。この映画、本当にとんでもない内容でした。私も最初に観た時はたまげました。こんな作品を作るなんてどんな奴なんだ…。
ざっくりと紹介すると、エイリアンが地球に難民としてやってきて人間の管理のもとでとある区画に居ついているという設定のSF。その社会風刺の奇抜さと映像センスでSFファンのみならず高評価を獲得。なんとこれほど異色のデビュー作ながらアカデミー賞で作品賞・脚色賞・編集賞・視覚効果賞の4部門にノミネートという快挙。みんなこのときは思いました。“ニール・ブロムカンプ”監督、とんでもない奇才出現だ…と。
しかし、続く監督作の『エリジウム』(2013年)はいかにもハリウッドっぽい大作になり、やや“ニール・ブロムカンプ”監督の持ち味が減退。そして“ニール・ブロムカンプ”監督が原点回帰しようと頑張った『チャッピー』(2015年)もイマイチな評価に…(私は好きですけどね)。
なんというか大手の映画企業と相性が悪いということを“ニール・ブロムカンプ”監督自身も痛感したんだと思います。『エイリアン5』の企画を進めているという話が2015年にありましたが、それも雲散霧消し、“ニール・ブロムカンプ”監督は映画業界から話題が消えていきました。2018年には『ロボコップ』の新作を撮るなんて話もあったけど、それも企画倒れに…。
じゃあ、“ニール・ブロムカンプ”監督はそれから何をしていたのか。エイリアンと一緒にどこかに隔離でもされたのか。そんなことはなく、自分のスタジオ「Oats Studios」を設立。自らで自由にできる短編映画を作りまくっていたのでした。
この短編映画、やっぱり自由に作っているだけあって“ニール・ブロムカンプ”監督の個性が強く出ているものが多く、私としても楽しかったです。「Oats Studios」の公式ウェブサイトで視聴できますので時間があるときにぜひどうぞ。
その“ニール・ブロムカンプ”監督が随分と唐突に映画業界に戻ってきました。それもコロナ禍の真っただ中に。そして生まれた“ニール・ブロムカンプ”久しぶりの監督作となる長編映画が本作『デモニック』です。
なんでいきなり長編映画を作りだしたのか。インタビューによれば、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』のように超低予算で成功したホラー映画のような挑戦を自分でもしてみたかったようです。
そうです、この『デモニック』。これまでの“ニール・ブロムカンプ”監督作の中でも比べ物にならないほど予算少なめで製作されており、スケールも小さいです。なので過去作みたいな感じを期待しているとガッカリするかもしれません。あくまで長編映画と言ってもインディペンデント映画としてのミニマムなサイズだと思ってもらえれば…。
とはいっても中身は“ニール・ブロムカンプ”監督作なだけあって「なんだこりゃ!?」という展開が起きていくので、そういう奇抜さを求めているなら好奇心を刺激してくれる映画…かも。
ネタバレは全然できないのでストーリーを語りづらいのですが、主人公はある事件のせいで母親と確執を抱えた女性。その個人的亀裂が予想外の広がりを見せていきます。このジャンルとあのジャンルとそのジャンルの融合…みたいな感じでしょうか(具体的にジャンル名を言ってしまうとネタバレを踏むのですけど)。
俳優陣は、主人公を演じるのは“ニール・ブロムカンプ”監督の短編映画『Rakka』にもでていた“カーリー・ポープ”、他には『第9地区』の“ナタリー・ボルト”、『ラブ・ギャランティード』の“キャンディス・マクルーア”、『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』の“クリス・ウィリアム・マーティン”、ドラマ『スーパーナチュラル』の“マイケル・J・ロジャーズ”、ドラマ『エクスパンス 巨獣めざめる』の“テリー・チェン”など。
『デモニック』は日本ではヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2022」内での上映作品となり、限定公開というかたちにとどまっているのですが、そのうちデジタル配信も始まるでしょうし、観たい人はチェックリストに加えておくといいのではないでしょうか。
オススメ度のチェック
ひとり | :監督ファンであるなら |
友人 | :小規模作が好みなら |
恋人 | :人を選ぶクセのある映画 |
キッズ | :ホラー描写あり |
『デモニック』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):母はなぜそこに?
「母さん?」…ひとりの女性が草原を歩いています。すると「カーリー、助けて」という声がどこからか聞こえてきます。目の前には家。中にはいると真っ暗です。明かりは無し。「ここにいるの?」「助けて」
その悲痛な助けを求める声に誘われるようにライトで照らしながら探索するカーリー。そして、ある部屋でベッドに憔悴した母が座っているのを発見。その母、アンジェラは何か企みでもあるような不気味な表情を浮かべ、おもむろにライターを投げて火をつけます。あたり一帯が炎上し…。
ベッドで目覚めるカーリー。朝です。アラームが鳴っています。
カーリーは母親の悪夢をいまだに見ていました。カーリーの母であるアンジェラは以前に老人ホームに放火して大量殺人を犯したという過去があり、今は完全に縁が切れていました。
友人のサムから電話を受け、彼女に会います。なんとか母の記憶を振りほどいて、今を楽しまなくては…。
そんなある日、カーリーは旧友のマーティンから会って話をしたいというテキストを受け取ります。そしてカフェで落ち合うと、アンジェラが今は昏睡状態(COMA)にあるという事実を聞かされます。唐突な母の話題に動揺するカーリー。でもなぜ昏睡しているのか…。
そして母が入居しているという施設から電話があり、「何が起こったの?」と訊ねますが「説明できないので来てほしい」と言われるだけ。
しょうがないのでその施設へ向かいます。待っていたのはダニエルとマイケルの2人の専門家風の2人。彼らいわく、母は仮想空間(シミュレーション)の中に意識だけあるそうで、母の意識へと繋がる仮想空間に入って母を呼び戻してほしいと言われます。じっと話を聞いていましたがにわかには信じがたいことです。
とりあえず言われるままで部屋に立ち、周囲がカメラに囲まれた空間で撮影、3Dモデルデータを形成します。そして次にベッドで謎の機器を頭部に着けてチューブに繋がれた母を見ます。変わり果てた姿に言葉を失うカーリー。その隣のベッドに行き、自分も装置を頭部に装着。機械が作動し、深く息を吸いながら、目を閉じる…。
気が付くと周囲のエリアが構築されるところでした。リアル…でもどこかゲームっぽい空間。少し荒っぽいビジュアルの自分の身体。建物に入ります。こんなのありなのか…子どもの頃の家です。
奥に進むとベッドに母が背を向けて座っています。「カーリーよ」と声をかけるも、久しぶりの会話でつい自分の想いをぶつけてしまい、どれくらい憎んでいたことかと気持ちを吐き出してしまいます。それでも母は振り向きもしません。あげくに「帰って」と言われ、その態度に怒ったカーリーは罵声を浴びせてしまいます。
仮想空間から戻るとまた、ダニエルとマイケルと面談。これを続けて何が意味があるのか、正直わかりません。
帰宅すると、カラスの死骸を使ったような謎の悪魔的儀式を映す夢を見ます。なんだか気分がすぐれません。
また施設へ行き、仮想空間にダイブ。今度はあの家に見たこともないようなトンネルが忽然と出現。それを進んでいくとアンジェラが働いていた古い療養所に到着します。
母は外にいて、また話しかけるのですが、突然異常を起こします。体がゲームのバグのように挙動がおかしくなり、宙に浮かび…。さすがに怖くなってその場を離れるカーリー。しかし、不意に悪魔のような鳥に襲われ、腕に深い切り傷を負います。
なんで現実でも傷が生じたのか…。目覚めた後にてダニエルとマイケルに文句を言うカーリー。
しかし、事態はさらに深刻なことになり…。
ゲームが好きな監督
『デモニック』、世間的な評価は批評家も一般人の間でもとても低く、“ニール・ブロムカンプ”監督作の中では最低評価です。喜んでいるのはよほどのモノ好きくらいなものです。まあ、私もそのモノ好きのひとりなんですけど…。
でも評価が低いのもわかります。かなり“ニール・ブロムカンプ”監督作としては異色ですし、どちらかと言えば短編映画でやりそうな実験的な題材です。それをあえての長編映画で撮っているので、全体的に助長で回りくどいところもあります。
しかし、この観客の反応なんてまるで気にせずに自分の作りたいものを撮っている感じはいかにも“ニール・ブロムカンプ”監督らしいですし、やっぱりこの監督はこうでなくちゃと思いますね。
冒頭は主人公カーリーが母親アンジェラに対して抱えるトラウマが紹介されます。それはちょっと親子喧嘩したとか、虐待を受けたとか、そういう日常で起きうるレベルを超えており、まさかの放火大量殺人というかなりの壮絶さで、同情するにも許容オーバーな過去にこちらも閉口するしかないのですが…。けれどもこの過剰とも言える凄惨な悲劇も真実を知ってしまうと「ああ、そういう存在を匂わせる伏線なんだな」とわかります。
で、次に展開するのがこれまたびっくり。母親は今は昏睡状態で仮想空間に引き篭もっているというじゃないですか。なんだその、ネットゲーム廃人みたいなの…。そしてカーリーがなんだか実感がわからないまま(観客も理解が追いつかないまま)、自分も仮想空間にログイン(この言い方でいいのかな)することに。
するとその描写がユニークで、いかにもゲーム風なアバター(自分に似ているけどポリゴンなどの処理の関係上ちょっと粗雑なボディ)で自分が存在し、ゲームっぽい空間を歩き回れる。雰囲気としてはVRですね。でも現実でモニターしている面々には俯瞰視点で観察できるという…。すごいヘンテコなことになっています。
“ニール・ブロムカンプ”監督はゲーム好きでも有名で、ゲームエンジン「Unity」を使用してリアルタイムでレンダリングされた映像で短編映画(『Adam』など)を作っていたこともあります。なのでこういうゲーム的な見せ方が好きなのでしょうか。『マトリックス』みたいだけど、よりゲームに近い実在感がある。これはこれで面白い設定ですし、私は「何が起きるんだろう…」とワクワクして観ていましたが…。
まさかのジャンル合体
『デモニック』はこの仮想空間をベースにSF映画テイストで進むのか。なんだ、“ニール・ブロムカンプ”監督作らしいじゃないか…と思いながら鑑賞していると、さらなる展開でひっくり返されます。
仮想空間にいきなり出現する悪魔っぽい化け物。なんだよ、誰かこの仮想空間と「バイオハザード」をコラボレーションでもさせたのかよ…と思ってしまうような異次元の恐怖。
そして混乱するカーリーに友人のマーティンが語る信じがたい説。教会? バチカン? ブラックオプス? 悪魔憑依の患者を収容する施設? なんだか陰謀論臭くなってきてさすがにカーリーも呆れます。
本当だった…。事実でした。この『デモニック』、まあタイトルやポスターでも明示されてはいるのですが、本当に悪魔が主題でした。それだけだと『死霊館』的なベタなやつを想像するのですが、ここに“ニール・ブロムカンプ”監督はSFを大胆結合しており、悪魔を仮想空間でコントロールしようとするという…なんともぶっとんだ世界観で展開してきたのです。
ここまでくると観客の理解はどこまで考えても意味不明なので考察も何も無駄です。だってあの仮想空間の時点でわりと何でもありなのに、そこにさらに何でもありな悪魔の存在を導入するんですよ。「仮想空間(何でもあり)」×「悪魔(何でもあり)」の掛け算で答えが全然想像できない…。近頃のデーモンはバーチャルな空間にもログインできるの? ということはデーモンもバーチャル空間でVtuberアイドルの追っかけとかできるんだなぁ…。楽しそう…友達になれるかもしれない…。
そんな妄想はさておきこの『デモニック』では大変なことになりました。あのブラックオプス・チームも案外と弱い。ほんと「ゴーストバスターズ」を見習いなさいよ、最近は子どもでもバスターしているんだよ…。
『デモニック』のラストはカーリーとデーモンの一騎打ち。このへんはわりとよく見るやつ。正直、この最後でもう一発びっくりな展開を用意してほしかったですけどね。
ジャンルは連鎖的に変化していく楽しさを味わえる作品としては『マリグナント 狂暴な悪夢』にも通じるものがありましたが、『デモニック』はやっぱり場当たり的な綻びが隠しきれていないので勢いが足りなかったかもしれません。
でも私は司祭がどこぞのメタバース産業に乗り出しているこの世界観も結構気に入っているので、これはこれでしっかり掘り下げてデザインしていけば、ドラマシリーズの題材になるくらいのポテンシャルはあると思いました。
ということで“ニール・ブロムカンプ”監督、もっと映画を作ってください。デーモンと一緒に待ってます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 15% Audience 17%
IMDb
4.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)AGC Studios
以上、『デモニック』の感想でした。
Demonic (2021) [Japanese Review] 『デモニック』考察・評価レビュー