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『マリグナント 狂暴な悪夢』感想(ネタバレ)…ジェームズ・ワンもたまには残虐になりたい

マリグナント 狂暴な悪夢

ジェームズ・ワン監督の久しぶりのオリジナル単独作…映画『マリグナント 狂暴な悪夢』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Malignant
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年11月12日
監督:ジェームズ・ワン
DV-家庭内暴力-描写 ゴア描写

マリグナント 狂暴な悪夢

まりぐなんと きょうぼうなあくむ
マリグナント 狂暴な悪夢

『マリグナント 狂暴な悪夢』あらすじ

ある日を境に、目の前で恐ろしい殺人が繰り広げられるビジョンを目撃するという悪夢に苛まれるようになったマディソン。彼女の夢の中で、謎めいた漆黒の殺人鬼が、予測不能な素早い動きと超人的な能力で次々と人を残酷に殺めていく。やがてマディソンが夢で見た殺人が、現実世界でも起きていることを知り、事態を飲み込めずに混乱だけが広がる。そして、少しずつ自らの秘められた過去に導かれていくが…。

『マリグナント 狂暴な悪夢』感想(ネタバレなし)

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今度のジェームズ・ワンは久しぶりに残酷極まりない

英語で「malignant」という単語は何を意味しているのか知っていますか? なかなか義務教育の英語では習うことのない単語ですし、たぶん英語圏の人も頻繁に使う言葉ではないでしょう。

「malignant」は「悪性」を意味し、例えば「悪性腫瘍(malignant tumor)」とかを表現するときに使います。悪性腫瘍というのは要するに「ガン(癌)」ですよね。国立がん研究センターによれば、私たちの体にある正常な組織のうち、遺伝子に傷がついた異常な細胞ができ、それがガンの発生源になるとのこと。この初期の異常な細胞を「上皮内新生物」と呼ぶそうです。「新生物(neoplasm)」なんてなんだか別の生き物みたいでおどろおどろしい表現にも思えますが、自分の細胞が自分を殺しにかかってくるというのはなんとも嫌な現象です。

今回はそんな「malignant」をタイトルに冠した映画の紹介。それが本作『マリグナント 狂暴な悪夢』です。

「マグリナント」ではありません。「“マリ”グナント」です。ちなみに「malignant」の由来はラテン語の「male」でこれは「悪い」という意味(英語だと「male」は「男」を意味しますけど、なんだか皮肉)。

『マリグナント 狂暴な悪夢』は何と言っても監督です。あの『ソウ』シリーズ、『インシディアス』シリーズ、『死霊館』シリーズを立て続けに成功させてホラー映画界の寵児となり、『アクアマン』といった大作映画も成功させ、さらには『モータルコンバット』などマニアを笑顔にさせる偏愛な映画も届けてくれる…今最もノリに乗っているアジア系アメリカン人監督の“ジェームズ・ワン”

これまではほぼシリーズものやフランチャイズとして地盤があるものを手がけてきたのですが、ここにきて小規模なオリジナル単独映画を撮りたいと思ったらしく、そこで送り込んできたのが『マリグナント 狂暴な悪夢』でした。

そしてその意気込みを如実に表すかのごとく、この『マリグナント 狂暴な悪夢』は尖りまくっており、まず年齢レーティングが「R18+」なのです。その理由はバイオレンス描写で、本作はゴア表現が強烈。人体破壊描写の乱れうちなのですけど、まあ、どっちかというとグロテスク方面の映画かな…。

『マリグナント 狂暴な悪夢』、案の定、ネタバレできなくて…。なお、日本の宣伝では「先入観なしで観てください」と言っているわりには「新次元ホラー」と先入観与えまくりな煽り文句がついていて「どっちだよ!」と思うのですが、まあ、こういうジャンル映画を先入観ゼロで鑑賞するのは無理ですよね。

個人的には“ジェームズ・ワン”監督がこれまでの監督作ではやってこなかったタイプのホラーに挑戦しており、そこが新鮮でした。そのタイプ自体は他の監督はやっているのですけど、「“ジェームズ・ワン”監督はこうやるのか~」と。あえて言うなら“M・ナイト・シャマラン”というよりは“ヴィンチェンゾ・ナタリ”監督の映像性に近いかもしれないですね。

今作の原案ストーリーは“ジェームズ・ワン”監督の他に、監督の配偶者パートナーであり、『ありがとう、トニ・エルドマン』にも出演していた“イングリット・ビス”、さらにドラマ『ルーク・ケイジ』の脚本を手がけていた“アケラ・クーパー”が参加しています。

俳優陣は、主人公を演じるのが『アナベル 死霊館の人形』の“アナベル・ウォーリス”、他にはドラマ『ねじれた疑惑』の“マディー・ハッソン”、ドラマ『4400 未知からの生還者』の“ジャクリーン・マッケンジー”など。“ジェームズ・ワン”監督らしくアジア系俳優も起用しており、今回はマレーシア系中国人を父に持つ“ジョージ・ヤング”が刑事役で登場。さらに『gifted/ギフテッド』『アナベル 死霊博物館』で愛らしさを見せ、最近は『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』や『ジャスト・ビヨンド 怪奇の学園』で大人っぽく成長した姿で熱演を披露もしている“マッケナ・グレイス”も主人公の少女時代で登板しています。

“ジェームズ・ワン”監督もスッキリと発散したであろう『マリグナント 狂暴な悪夢』。皆さんも日頃のクソな社会への鬱憤をこの映画で晴らすのはいかがですか。

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『マリグナント 狂暴な悪夢』を観る前のQ&A

Q:怖いのが苦手でも観れる?
A:残酷なゴア描写が満載です。ゲームの「バイオハザード」が好きな人は楽しめると思います。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:残酷描写を堪能できる
友人 3.5:趣味が合う者同士で
恋人 3.5:残酷描写が平気なら
キッズ 2.0:過激な残酷描写満載
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マリグナント 狂暴な悪夢』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):殺人鬼の正体は…

1993年。辺鄙な場所に仰々しく建つ屋敷風の精神病院。ウィーバー博士が呼ばれます。患者の様子が危ないようです。病院内は電気がチカチカ。廊下を進むと、ある一室のドアから人が吹き飛ばされてきました。すぐさま警備員が銃を取り出し、恐る恐るドアの中へ。しかし、腕を攻撃され、骨が見えるほどの大怪我。相手は狂暴です。ウィーバー博士が銃を取り、部屋の中にめがけて発砲。

中は悲惨な惨状で、スタッフの死体がたくさん転がっています。パンダの靴下の患者を運び、固定するとその患者は人とは思えない奇声を発しながら暴れます。

「ガブリエル」と呼びかける博士。スピーカーを通して恐ろしい声を届けるガブリエル。博士は決心します。

「時は来た」「取り除くときが…」

それから数十年後。シアトルに住む妊婦のマディソン(マディ)は車から降りるのも辛そうです。家にはベビーベッド。でも夫のデレクはベッドでのんびりテレビを見ており、高圧的な態度に後ろに下がるマディソン。 しかし「触らないで」と押しのけると、怒った夫がマディソンを壁に叩きつけ、壁にヒビがはいるほど後頭部を打ちつけてしまいます。血が出ているのを確認して震えながらも部屋にこもるマディソン。デレクは大人しそうな声で「あれは事故だ」と謝ってきますが、恐怖は消えません。

夜中、デレクはソファで寝ていると物音を聞きます。マディソンなのか。いきなりミキサーが起動し、止めに行くと今度は冷蔵庫がひとりでに開く…。テレビがついてチャンネルが頻繁に切り替わり、ソファに誰か座っていたような…。周囲を警戒するデレク。そのとき背後に…。

目を覚ますマディソン。枕には血が…。昨日壁に打ちつけた後頭部に触れると血でべっとり。しかし、もっと驚愕の事態が待っていました。下に降りるとデレクが無残な姿で死亡している…。

そのデレクの遺体から奥からヌっと現れる“何か”。逃げようと必死に2階へ。自室にこもるもドアごと吹き飛ばされ、頭をうち…。

翌朝、マディソンは病院で目を覚まし、そばには妹のシドニーがいました。けれどもお腹の赤ん坊は亡くなっており、現実を受け止めきれずに狼狽。刑事のケコア・ショーが事情を聞きにきますが、覚えていることはほとんどありません。いきなり襲われただけ。

事件の動揺も少し収まり、家に戻った夜。外の電球がチカチカして消え、家の電気までおかしくなります。不安を感じたマディソンは急いで部屋を施錠しようとするも裏口が開いており、侵入されたのかと怯えます。また部屋にこもり、ドアを閉め、落ち着つかせます。きっと頭の中でパニックになっているだけ…。

翌朝、マディソンはデレクに頭を打ちつけられてヒビの入った壁を見つめます。

そこへシドニーが現れたので、マディソンは養子だと告げ、家族のことを口にします。そうして自分と向き合うつもりでした。

ところがなぜか他の人が謎の殺人鬼に殺されるビジョンを連発して見る状況に陥ってしまい…。

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アイツと同じだね!

『マリグナント 狂暴な悪夢』、さっそくオチを言います。隠してもしょうがない。

マディソンは実は双子で、しかも生まれた時から自分の身体の背面に片方がくっついた状態で生まれてきた、いわゆる「奇形」なのでした。その片方は異常な暴力性を持っており、病院でも手が付けられず、結局は切除することにしますが、脳と脊髄はマディソンの体に残ったままで…。それがマディソンが夫の暴力で後頭部を打ったときに目覚めてしまい、夜な夜なマディソンは凶悪化した片方に支配されて、殺人や誘拐に手を染めていた…という全容。

このオチは序盤ですぐにわかった人もいたと思いますが、内容としての新規性があるわけではありません。スティーブン・キング原作で1993年に映画にもなった『ダーク・ハーフ』にも似ていますし、最近だとやっぱりあれです、『ヴェノム』ですよ。

『ヴェノム』は地球外生命体に身体が乗っ取られているだけですが、『マリグナント 狂暴な悪夢』はぶっちゃけもっとあり得ない設定で荒唐無稽。ツッコんではいけないやつです。

でも終盤の大暴れは正直楽しかったですね。私はああいうアクロバティックに人を殺していく感じのスリラー映画は好きなんです。後頭部に顔がある設定なので、後ろ向きで人を八つ裂きにして戦闘していく、あの異様な映像がまたクセがあって良し。

百歩譲ってああいう意思の乗っ取りが起きると仮定しても、「なんであそこまで強いんだよ」と言いたくなるほどに活きがよすぎるマディソン(悪性)。『プレデター』みたいな戦闘能力だ…。“ジェームズ・ワン”監督も『アクアマン』を経験してアクション要素の強いスタイルに舵を切ったのか。なんか『モータルコンバット』(映画じゃなくてゲームの方ね)にああいうモンスターめいた異形の奴、いなかったかな…。

まあ、ともあれ明らかにゲームっぽいノリで暴走しまくる映画でしたけど、これはもう「Fatality」でこっちも残酷に殺してやらないと倒せない気がしてくる…。

いや、これは次の映画『モータルコンバット』の続編にマディソンが参戦するフラグなのか(勝手に妄想)。

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大暴れ前の丁寧な伏線

そんなこんなで後半はハチャメチャになっていく『マリグナント 狂暴な悪夢』ですが、序盤はわりとそんな本性を見せずに何食わぬ顔で丁寧に伏線を張っているあたりは、さすが“ジェームズ・ワン”監督の真面目さです。

前半のマディソンの家庭でのシーンはいかにもこの家の心霊現象によって第3者の何かが襲ってきているように観客を錯覚させます。わざとらしく『死霊館』風のホラー演出を入れたり。あそこはミスリードとしてはかなりの強引さだとは思うけど…。

でもここで壁に頭を打ちつけるという発端となる出来事を描き、同時にマディソンの支配権がガブリエルに移ったことがわかる象徴的なシーンも取り入れています。あのデレクの死体を発見したときに迫ってくる一連のシーンは現実にあったことではなく、マディソンの脳内イメージなんでしょうね。だからこそ逃げた時に吹き飛んだはずのドアが病院から帰宅時には何事もなかったかのようにそのまま通常どおりになっていますし…

帰宅時に不安に襲われて部屋をウロウロするシーンでは、わざわざ頭上俯瞰の凝った撮り方になっており、これ自体がゲームっぽいのですが、ここでも結局はこれはマディソンというプレイヤーで完結する話だと暗示させています。

ついにガブリエルが電話してくるシーンでも、後ろの鏡越しにマディソンの後頭部を映しており、しっかり自分と対話していることを提示していますし、案外と細かく気の利いた演出をしているのです。

誘拐された女性がなかなかに高い位置から落下してきて真相がわかるシーンもちょっと大袈裟すぎるのですけど、そこもアホっぽさもあって私は好きです。

個人的には序盤はいかにも男社会の抑圧によって虐げられている女性像を描くものだからそういうのがテーマなのかなと思ったら(『透明人間』みたいに)、それ以降はサクっと男は殺して、後はもうジャンルを満喫する暴走モードに突入するのですが、でも最終的に男に救われるでもなく、血縁のない姉妹愛でまとまるあたりはほどよい着地だと思います

まあ、でもあれだけの大量殺戮、絶対に擁護できないですけどね。どうやって裁き、どうやってコントロールすればいいんだ…。あれかな、後頭部に常に催涙効果のある液体を染み込ませたマスクとか被っていればいつガブリエルが目覚めても撃退できるかな(そんなのでいいのか)。

みんな、頭を強く打ったらそのときは異常がなくてもすぐに病院に行きましょうね。

『マリグナント 狂暴な悪夢』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 52%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

以上、『マリグナント 狂暴な悪夢』の感想でした。

Malignant (2021) [Japanese Review] 『マリグナント 狂暴な悪夢』考察・評価レビュー