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インド映画『ドゥランダル作戦』感想(ネタバレ)…究極のナショナリズムが映画に宿るとき

ドゥランダル作戦
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映画の感想を書けなくなる…映画『ドゥランダル作戦』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Dhurandhar
製作国:インド(2025年)
日本公開日:2026年7月10日
監督:アーディティヤ・ダール
ゴア描写 恋愛描写
ドゥランダル作戦

どぅらんだるさくせん
『ドゥランダル作戦』のポスター

『ドゥランダル作戦』物語 簡単紹介

犠牲者をだすテロ事件が相次いだことでインド政府は極秘裏に準備していた「ドゥランダル作戦」を始動させる。その真相を知る者はわずかだった。パキスタンの都市カラチのリヤリ地区に、ひとりの男が降り立つ。そして、その地で地味な職を得ながら、地元の有力なギャング組織の一員として信頼を深めていく。そのギャングのリーダーは地域の民衆に愛される男で…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ドゥランダル作戦』の感想です。

『ドゥランダル作戦』感想(ネタバレなし)

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インドの2025年最大ヒット作は問題作でもある

インドの映画界は2025年の12月は特大ヒット作で迎え、2026年もその勢いのままに迎えました。

さっそくその映画の話をしましょう。それが本作『ドゥランダル作戦』です。

『ドゥランダル作戦』は、2026年5月時点でインドの国内興収ランキングで5位にランクインし、その続編でインドでは2026年3月に公開された『Dhurandhar: The Revenge』2位に到達。

1位『ダンガル きっと、つよくなる』
2位『Dhurandhar: The Revenge』
3位『バーフバリ 王の凱旋』
4位『プシュパ 君臨』
5位『ドゥランダル作戦』
6位『RRR』
7位『K.G.F: CHAPTER 2』
8位『JAWAN ジャワーン』
9位『PATHAAN パターン』
10位『カルキ 2898-AD』

現状、『ドゥランダル作戦』シリーズは最も興収を叩き出したインド映画のフランチャイズとなっています。

これだけだと、まあ、良かったねという話で終わるのですが、そう単純に喜ぶだけの話題にならないのがこの『ドゥランダル作戦』の大ヒットのややこしいところで…。日本の配給はこの話題に触れないでしょうし、この私の感想では伏せることなくそこも含めて感想を書くことにします。

要するにこの映画『ドゥランダル作戦』、インド国内で極めて物議を巻き起こしたのです。その主な論点は「この映画はあまりにプロパガンダすぎるのでは?」ということで…。

どういうことか、背景を説明していくと、まずこの『ドゥランダル作戦』は、ジャンルとしてはスパイものギャングものと組み合わせなのですが、それ自体はインド映画では珍しくないです。しかし、本作はインド政府からパキスタンへ送り込まれた潜入エージェントが主人公なんですね。

そのうえ、本作には、1999年のインディアン航空814便ハイジャック事件、2001年のニューデリー・インド国会襲撃事件、2008年のムンバイ同時多発テロ事件…といった実際に起きたテロ事件が部分的に映しだされ、実在の人物も登場しまくるという構成になっています。

それだけだとまだリアリティを求めているで済まされるのですけど、さらにさらにヒンドゥー語映画である本作『ドゥランダル作戦』の物語は結構露骨にインドの現政権の政治姿勢、とくにヒンドゥー・ナショナリズムを全肯定し、推進しまくる内容に全編がなっていて…

『ドゥランダル作戦』の監督は“アーディティヤ・ダール”というニューデリー生まれの人で、2019年の初監督作『URI サージカル・ストライク』も愛国思想を全面に演出に駆使していたので、この作風はもう確信犯なんだと思います。

つまり、この『ドゥランダル作戦』の大ヒットの理由は、観客の愛国心を刺激させ、興奮させたから…というのがどうしたって多大に影響していることは容易に察せます。

インドとパキスタンは長年にわたって対立関係にありますが、2025年は4月22日のパハルガムのテロ事件も起き、政治的緊張が一段と増していました。本作は完全にその世相に乗っかることができました。

それでも「別に映画はエンタメなんだし、政治とか置いておいて、楽しければ何でもいいでしょ?」という意見もありますが、そうも言ってられないことが現実で起きてしまい…

この映画の中の詳細はどうなっているのか、そしてこの映画の外では何が起きたのか…そのへんの話は以下の後半の感想で書いていこうと思います。

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『ドゥランダル作戦』を観る前のQ&A

『ドゥランダル作戦』の見どころ
★良くも悪くも今のインドの映画と政治の関係がよくわかる。
『ドゥランダル作戦』の欠点
☆映画時間が200分超えと長い。
☆政治的な問題は傷跡が根深い。

鑑賞の案内チェック

基本 拷問のシーンがあります。
キッズ 1.0
非常に激しいゴア描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ドゥランダル作戦』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1990年12月30日、カンダハール空港。旅客機が1機、滑走路に停止しています。インディアン航空814便で、カトマンズからニューデリーに向かうはずでした。しかし、空を無事に飛ぶことはできませんでした。なぜなら6日前にハイジャックされたからです。

犯人グループとの交渉は続いており、インド情報局長のアジャイ・サニヤルは決断を迫られていました。このまま膠着状態が続くわけにはいきません。

サニヤルは機内で野蛮な殺しが行われたであろう凄惨な血の跡を見ます。ハイジャック犯はIS(ISIL、イスラム国)出身で、自身の兄を含む3人の仲間の解放と1000万ドルの身代金を要求。今も大勢の乗客が席で身動きが取れないでいます。サニヤルはその要求を呑み、「もう心配はいらない」と乗客に告げます。

犯人は要求が叶って嬉しそうでした。この手段しかとることができなかったサニヤルの表情は暗いです。

それから数年後、2001年12月13日。インドのニューデリーのインド国会議事堂にて、穏やかな1日は、突然侵入した1台の車で一変。降りてきたのは武装集団で躊躇なく発砲し始め、警備員が撃ち殺されていきます。爆弾を身につけての攻撃に多大な犠牲者がでてしまい、しかも犯人の中にはあのハイジャック犯も混じっていました。

サニヤルはこの失態に直面し、極秘裏に進めていた「ドゥランダル作戦」の本格的な実行を覚悟します。

2004年、パキスタンの都市カラチで最も危険なリヤリ地区にあるひとりの男が送り込まれました。その名はハムザ・アリ・マザーリー。身軽な荷物でやってきた、この長髪で髭面の長身の男。彼の内には明確は目的がありましたが、それを明かすことはしません。

ハムザは街にある小さなジュースの店に目をつけ、1杯飲み干すと、「仕事はないか」と店長に質問。最初はあっけなく追い返されます。

しかし、その夜、ひと気のない通りで股間を触ってくる不良に絡まれ、思わず抵抗して手がでそうになります。けれども、あの店長が見ているのに気づき、殴るのをやめ、ボコボコにされてしまうハムザ。ちょうど警察が来て、なんとか助かります。

翌朝、倒れたハムザをあの店長は起こしてくれ、食事をくれます。そして店の仕事を与えてくれます。ウェイター、ジュース作り、荷物運び、なんでもこなすます。

1年後、ハムザはこの地が2つのギャング勢力の抗争の中にいることをはあくしていました。ひとつは、バーブー・ダカェート率いるパターン人組織。それに対峙するのが、レヘマーン・バローチ率いるバローチ人組織です。

ハムザはある出来事がきっかけでこのレヘマーンと近づくことができ…。

この『ドゥランダル作戦』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2026/07/12に更新されています。

ここから『ドゥランダル作戦』のネタバレありの感想本文です。

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政治的に計算された過激な暴力

とても長尺な『ドゥランダル作戦』ですが、キャラクター関係はそこまで複雑ではありません(登場人物がでるたび、デカデカと名前が表示されるし)。

主人公のハムザはパキスタンのテロリスト勢力を内側から崩壊させるべく、リヤリ地区の覇権争いのギャング抗争にあえて潜入。とくに潜り込んだのが、レヘマーン・バローチ率いるバローチ人組織で、このレヘマーンはパキスタン大衆党のジャミール・ジャマリと親しく、地元人気が非常に高いです。対立するのは、バーブー・ダカェート率いるパターン人組織だけにとどまらず、チャウドリ・アスラム警視(SP)が治安維持の名目のもと、このレヘマーンを倒そうと画策します。

レヘマーンは実在の人物で、地元ではロビン・フッドみたいな感じで支持されていたそうです。ちなみに本作ではムンバイ同時多発テロ事件にレヘマーンが関与したみたいな描写になっていますが、実際はとくにそうした証拠はなく、主人公の存在と合わせてフィクションです。

個人的にこのレヘマーンを演じた“アクシャイ・カンナー”の二枚目俳優な佇まいが好きですね。セクシーさを発揮するシーンはほぼ用意されてなくて、そこは主人公が全部持っていくのですけど、そんなのなくとも目が離せない魅力がこの俳優にはありました。

『ドゥランダル作戦』は日本でいうヤクザものにポリティカルな背景をぶっこんだジャンルですが、まず目をひく特徴は過激な暴力です。『K.G.F CHAPTER 1/CHAPTER 2』『ANIMAL』など、昨今のインド映画はハイパーマスキュリン全開で激しい暴力を描きまくるのがトレンド。インドは検閲があるので一部のゴア描写はカットされますが、フルバージョンだと全部観れます(日本では後者が劇場公開されている)。

ジェイソン・モモア風の毛量を蓄える大男の主人公ハムザは、最初は不釣り合いなジュース・ウェイターですが、どう考えても強そうな見た目のとおり、戦闘力は突出しています。だいぶ出し惜しみするのですけども。

終盤の対決は見ごたえありました。ハムザはシヤヒと対決し、その後にチャウドリと戦うレヘマーンについに拳を振るう。「レヘマーンもこんな肉弾戦できるやつだったのか!」とこっちはびっくりでしたけど…。

この『ドゥランダル作戦』の過激な暴力描写は見境なく映し出されているわけではありません。非常に政治的に計算された暴力です。

というのも、インド側はパキスタン男しかボコボコにしませんが、パキスタン側は女も子どもも容赦なく残忍に殺す暴力が描かれます。要は過激な暴力の方向性が明確に線引きされているんですね。

「私はパキスタン人やイスラム教徒を嫌悪しているわけではない。敵はあくまでIS、もっと言えば野蛮人だ。だから当然の報いだ」というおなじみの正当化(敵の非人間化)をもたらしてくれます。

中国映画の『1950 鋼の第7中隊』『1950 水門橋決戦』の感想でも書きましたが、プロパガンダ的な映画というのは往々にして非常に娯楽性が高く、こうした表面上はただのエンタメとして受け入れられる映像こそ国威発揚の効果を無自覚に観客に発揮できます

『ドゥランダル作戦』は完全にその演出の狙いがありありと伝わってくる映画でした。

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これが新しいインド?

さらにこの『ドゥランダル作戦』の国威発揚の効果をみていくと、最も強力なインパクトを与えるのがやはり主人公のハムザです。

まず本作は冒頭で実在のテロ事件を映し、「犯人と交渉する」という姿勢がテロリストをつけ上がらせたことを突きつけます。「対話なんて軟弱だ」「国益にならない」と言わんばかりに。

そんなインドの従来の姿勢を恥じる愛国主義者にとって、汚名返上を約束するインドの究極の武器…それがこの保守的な男らしさで完全に武装されたハイパーマッチョ「ハムザ」。AIに「男性優位主義のインフルエンサーのアイコンとなる男性を生成して」と頼んだらこんな男が出来上がりそうな、そんなコテコテの風貌。

ハムザは観客の愛国主義の男たちをうっとりさせるためだけに存在しているわけではありません。

この寡黙な男は、敵を排除しているとき以外は、政権の言いたい国威発揚のセリフを言わせるために機能します。

映画が最後に言い放つ「これは新しいインドだ。敵の家に入り込んで叩く」という言葉は、現在、インドで長期政権を維持し、ヒンドゥー・ナショナリズムによる軍国主義を推し進めるナレンドラ・モディ首相の言葉そのもので、国のトップの政治をあからさまに称賛しています。受け身な自衛ではなく、国境を越えて攻めこめという方針を今のインドは実行し、パキスタンとの対立はさらに激化しています。

加えて作中で「インド人の最大の敵はインド人だ」なんてセリフもあります。これもまさに権威主義的な言葉です。「良い国民」と「悪い国民」に選別させるのは常套手段ですから。

そして確かにこのセリフは効果的だったようです。本作が煽りに煽ったかいあって、この『ドゥランダル作戦』を低評価で批評した国内の批評家の何人かは愛国主義的なインド人から「敵」認定され、殺人やレイプの脅迫など誹謗中傷に晒され、レビューを削除せざるを得ない事態に…Feminism in India

「この映画は傑作です!」と言わないと真の愛国者として認められず、ネット上で集団リンチに遭う世の中になってしまいました。

歴史的に散々繰り返されてきたことですけど、現代のインドでこういう事件が盛大に起きると「ここまで悪化したか…」という気分にはなりますね。それを後押ししたのが映画だという事実は、いち映画ファンとしては悲しくなります。

私はそんなインドを遠くで見つめつつ、日本でも明日にでも同じ現象が起きるのでは…と杞憂が止まりませんが…。

この映画が推奨する「暴力には暴力だ」という姿勢は犠牲者を増やすだけで、インドを強い国に変えることはできないようです。それが本作公開後の2026年初めに「アメリカ&イスラエルによるイラン軍事攻撃にともなう中東危機」が原因で立証されました。石油資源を海外に依存するインドは一瞬で経済が不安定化。モディ首相は「愛国心とは、国境で命をささげる覚悟だけを意味しない。このような時代においては、日常生活で責任ある行動を取り、国家への義務を果たすことだ。現在の状況では、外貨の節約に最大限の重点を置かなくてはならない」と述べましたBBC。皮肉なことにこの中東危機で和平交渉を主導したのはパキスタンです。

次に作る映画はマッチョな大男がせっせと資源節約をする物語でしょうか、それともホルムズ海峡でアメリカとイランの攻撃をかいくぐりながらその大胸筋を使ってタンカーを引っ張る物語でしょうか…。

『ドゥランダル作戦』
シネマンドレイクの個人的評価
–(未評価)
LGBTQレプリゼンテーション評価
×(悪い)

以上、『ドゥランダル作戦』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Reliance Industries Limited, Mumbai, 2025. All Rights Reserved. ドウランダル作戦

Dhurandhar (2025) [Japanese Review] 『ドゥランダル作戦』考察・評価レビュー
#インド映画 #アーディティアダール #スパイエージェント #ギャング #テロリズム #ツイン配給