それもグレイト…映画『エレノアってグレイト。』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2026年6月12日
監督:スカーレット・ヨハンソン
えれのあってぐれいと

『エレノアってグレイト。』物語 簡単紹介
『エレノアってグレイト。』感想(ネタバレなし)
ついに監督になれたスカーレット・ヨハンソン
デンマーク人の父とユダヤ系の母との間で、ニューヨークのマンハッタンで生まれた“スカーレット・ヨハンソン”は、「ジュディ・ガーランドのようになりたい」との子どもの頃からの憧れから、子役として活動を始めました。
オフ・ブロードウェイの演劇でたった2行のセリフでデビューしたそうですが、その時点で“イーサン・ホーク”と共演しており、その将来のキャリアの躍進はなんにせよここが出発点でした。
1994年の『ノース 小さな旅人』で映画に本格的に顔をだし、早くも1996年に『のら猫の日記』で主演作を獲得。これが高い評価を受け、子役ながら注目を集めます。1998年の『モンタナの風に抱かれて』でもその演技は称賛されました。こうした初期を得て、“スカーレット・ヨハンソン”は一流の監督とどんどん仕事し、キャリアを確立していくことに…。
そんな“スカーレット・ヨハンソン”でしたが、その『モンタナの風に抱かれて』に出演していた12歳のとき、監督&主演だった“ロバート・レッドフォード”を間近で見ながら「監督になりたい」という願望を抱いていたのだとか。
『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)の“ソフィア・コッポラ”など、女性監督との仕事も経験してきた“スカーレット・ヨハンソン”ですが、やはり自分が監督になるハードルはなかなかに高かったようです。
それでも“トリー・ケイメン”の執筆した脚本に感銘を受け、2025年、ついに“スカーレット・ヨハンソン”は監督デビュー作となる映画を生み出しました。
それが本作『エレノアってグレイト。』。
本作は90歳の高齢女性が主人公ということでまず特異なのですが、脚本家の“トリー・ケイメン”いわく、自身の祖母との交流が着想のきっかけなのだそうです。残念ながらその祖母はコロナ禍で亡くなってしまったとのことですけど、独立心の強い祖母との新鮮なやりとりが映画に活かされているのだとか。
物語自体はホロコーストも主題にしているのですが、ユーモアを中心にコミカルなタッチになっているのも特徴的です。決してその残酷な歴史を矮小化するわけではないですが、かと言って生々しくなりすぎず、絶妙な距離感でその過去のトラウマと向き合う現代のストーリーが展開されます。
このホロコーストの部分は“スカーレット・ヨハンソン”のほうが親近感を感じているところだったのでしょうね。“スカーレット・ヨハンソン”は母方のルーツにホロコーストの犠牲者がいて、自身もユダヤ人としてのアイデンティティを大切にしていると公言しています。2019年の出演作の『ジョジョ・ラビット』ではホロコーストの犠牲者そのものを演じましたが、今回は監督として送り出す側ですね。
『エレノアってグレイト。』で主人公演じるのは、1929年生まれで、もう95歳を超える“ジューン・スキッブ”。映画では2024年の『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』でも主演をしていましたが、演劇でも2025年のブロードウェイ『Marjorie Prime』で絶賛されており、“ジューン・スキッブ”、なんだったら今もキャリアの輝きが増し続けています。
共演は、『28年後… 白骨の神殿』の“エリン・ケリーマン”で、レズビアンを公表していおり、出演作のドラマ『ウィロー』ではクィアな役柄でしたが、今作『エレノアってグレイト。』でもクィアな役です。
他には、『The Atlantic City Story』の“ジェシカ・ヘクト”、『サンキュー、チャック』の“キウェテル・イジョフォー”など。
悲しみを乗り越えようとする人に寄り添ってくれる映画なので、独りでツラいときにこそぜひどうぞ。
『エレノアってグレイト。』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 死別が描かれます。 |
| キッズ | 大人向けの物語です。 |
『エレノアってグレイト。』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
フロリダに暮らす94歳のエレノアは、同年代の高齢女性であるベッシーと同棲していました。穏やかに起床し、隣のベッドではベッシーも同じタイミングで起きます。そして一緒に朝ご飯を食べ、並んで日課の散歩に出かけ、いつもの海辺でのんびりと座り、体操をして、景色を眺める。この時間が人生の全てでしたが、幸せでした。
ベッシーと近所のスーパーマーケットで買い物をしているときも、若い店員相手でもエレノアは口で負けることはありません。積極的な性格でした。
しかし、そんなとき、ベッシーが急に倒れてしまいます。そしてこの世を去ってしまいました。
もう起床しても隣のベッドには誰もいません。一緒に散歩に行ってくれる人もいません。家が急に寂しくなってしまいました。
エレノアの娘のリサは気を利かしてエレノアを自分たちの住むニューヨーク・シティの家に連れて来てくれます。しかし、孫のマックスはスマホばかりで、リサも口が達者な母にたじたじで、どうも対等に話せる相手はいません。
そこで疎外感を感じていたエレノアのことを考えて、リサは地元のユダヤ人コミュニティセンターに行けばきっと話し相手くらいいるだろうと思いつきます。
こうして、そのユダヤ人コミュニティセンター送り届けられたのですが、たまたまそこで開催されていたホロコースト生存者の自助グループの参加者だと勘違いされてしまい、あれよあれよという間に輪の席に座らされていました。
実はエレノアの亡き親友であるベッシーはホロコーストのサバイバーであり、よくエレノアにその体験を聞かせていました。
エレノアはそのことを思い出し、ベッシーの体験をまるで自分のことのように語ってしまいます。それは思いのほかリアルなものと周囲に認識され、同情と称賛を集めてしまいます。
そのグループに勉強として参加していたのが、ジャーナリスト志望の学生であるニナでした。ニナはエレノアに近づき、もっと話を聞きたいと声をかけ、交流を深めていきます。
ニナも最近になって母を亡くしたばかりだそうで、父のロジャーとは関係もギクシャクしているらしいです。そんなニナに寄り添ってあげるエレノアでしたが…。

ここから『エレノアってグレイト。』のネタバレありの感想本文です。
現実の空間でメンターに出会える安心感
高齢女性を主人公にする映画は今なお珍しいですが、たいていは両極端な2つに大別されます。「狂気で恐ろしい老婆」か「愛嬌のある可愛いおばあちゃん」か…です。
『エレノアってグレイト。』の場合は、どちらかと言えば後者であり、主演の“ジューン・スキッブ”は間違いなくチャーミングなのは否定しようがありません。
ただ、本作はその“ジューン・スキッブ”演じるエレノアをただ愛でるだけでは終わらず、物語の核心にあるテーマは死別との向き合いです。とくに「死別を経験した若い世代が、同じような死別を経験済みの熟練の“一風変わった”大人に導かれていく」という、年齢と人生経験の異なる2者の独特の交流を主軸にしており、レジリエンス(困難な状況に直面したときの個人の持つ回復力のこと)が育まれていく過程を優しく映し出します。これは『違国日記』などと同様の関係図です。
死別というショッキングな出来事に対して、こういう年齢や人生経験の全く異なる他者との交流は確かに現実でも有効です。セラピーでグループ・セッションが重視されるのもそういう背景があるわけですし。
エレノアと出会うことになる今作の若い世代に該当するのがニナです。“エリン・ケリーマン”演じるニナはいかにも今の若者という感じで、ゲイであることを当然のようにオープンにしており、ジャーナリズム専攻ということで、アクティビズムにも積極的そうな人柄です。
しかし、現代的な価値観を持ち、社交性があり、社会問題への強い積極的関心があろうとも、やはり身近に起きる死別には脆弱。それは当然の弱さです。ニナは母の死への喪失感を抱え、父との関係も上手くいかなくなってしまっています。
そのニナにとってのエレノアは強烈に異質な存在でありながら、ストレスのない安心できる他者であり、メンターにうってつけなのもよくわかります。
正直、今の時代、SNSなどのオンライン空間は明らかに他人と安全に交流できる場ではなくなっており、むしろ極めて有害で、精神状態を悪化させるだけです。大学生という若者であるニナにとって、オンラインではない現実の空間で、理想的な安心できる人物と出会えることは、本当に心の拠り所になるのだと思います。
本作のエレノアはそういう現代の若者が心の底から欲しているであろう安心さを体現していましたね。
リアルとフィクションの付き合いかた
ところが『エレノアってグレイト。』ではそのニナの理想どおりにはいきません。
エレノアは確かに90歳以上も生きているので死別もたくさん経験してきているでしょうが、やはり良き同居人であったベッシーの死は深く喪失感を残しており、一見何でもなさそうな態度でも心は動揺していました。
道徳的にも精神的にも完璧なスーパーおばあちゃんなんかではなかったのです。
そして、こともあろうに不謹慎を飛び越えて、だいぶアウトなことをやらかしてしまいます。
作中でもエレノアの行為を正当化は一切していませんが、しかし、やはりその行動の奥にある感情は理解できないものではありません。人は苦しみを乗り越えるとき、嘘に頼ることがあります。もっと言えば、それはフィクションです。
ドキュメンタリー映画『ミーシャと狼』でも取り上げられたような行為と似ているのかもしれません。嘘の物語が癒しには必要になることがある、と。
全部が嘘ではありません。主体者や展開の細部を改変して「現実の悲惨な出来事」を「物語」にすることで、やっと乗り越えられるものがある…。そのフィクションがまた現実の他の人物のトラウマを癒す…。
それはそれこそ多くの映画がやってみせていることでしょう。
『エレノアってグレイト。』はホロコーストが絡んできますが、例えば、『リアル・ペイン 心の旅』はホロコーストの凄惨な歴史と個人の悲しい体験を重ね合わせ、乗り越えかたを模索していました。
『エレノアってグレイト。』の場合は、ベッシーの存在のリアルさがまたこの物語をグっと深めていたと思います。これだけときにのほほんとした空気の漂う本作で、あのベッシーの存在感は別格で、抜群の効果を引き出していましたね。
ちなみにベッシーを演じた“リタ・ゾーハー”は、第二次世界大戦中の1944年に生まれ、しかもその生まれた場所がウクライナの強制収容所でした。まだ記憶もない赤ん坊だったとは言え、ホロコースト・サバイバーの当事者なんですね。その“リタ・ゾーハー”の口から語られる本作のセリフには重みがあります。
“リタ・ゾーハー”だけでなく、作中でホロコースト生存者の自助グループの参加者として出演している面々も、本当のホロコースト・サバイバーの当事者を起用しているそうです。
こういうリアルの混ぜかたもさりげなく上手かったのではないでしょうか。
“スカーレット・ヨハンソン”監督は、作家性が癖たっぷりに際立っているわけではないですが、初監督とは思えない安定感と、リアルとフィクションの付き合いかたの上手さを合わせ持っており、クリエイターとしてもまた好きになれました。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
以上、『エレノアってグレイト。』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 ELEANOR INVISIBLE FILM, LLC AND TRISTAR PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED. エレノア・ザ・グレイト エレノアってグレート
Eleanor the Great (2025) [Japanese Review] 『エレノアってグレイト。』考察・評価レビュー
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