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『13人の命 Thirteen Lives』感想(ネタバレ)…ロン・ハワード監督作なのに劇場公開されないなんて

13人の命

ロン・ハワード監督作なのに劇場公開されないなんて…映画『13人の命』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Thirteen Lives
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にAmazonで配信
監督:ロン・ハワード

13人の命

じゅうさんにんのいのち
13人の命

『13人の命』あらすじ

2018年6月23日、タイのクンナムナーンノーン森林公園にあるタムルアン洞窟に地元のサッカーチームの少年とコーチ計13人が遊びで入っていく。しかし、この時期としては異例の豪雨が突然降り注ぎ、洞窟内はあっという間に水没してしまい、少年たちは途中で取り残されて出れなくなってしまう。世界中が固唾を飲んで見守り、多くのボランティアが現場に駆け付ける中、ベテランの水中洞窟ダイバーが行動にでる…。

『13人の命』感想(ネタバレなし)

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Amazonに水没したMGMだけど…

かつてハリウッドの「ビッグ5」と呼ばれる映画スタジオのひとつだった「メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)」。あのライオンが「ガオォ~~」と吠えるロゴのあの会社です。多くのスターを輩出したことで知られ、その歴史の一端は『ジュディ 虹の彼方に』でも覗けます。

1950年代から他の大手と同じようにスター主演の大作ありきのビジネスが成り立たなくなり始め、MGMは経営や配給の主導権を握る主体がコロコロと変わり始めます。1973年にはユナイテッド・アーティスツ(UA)、1986年にはターナー・ブロードキャスティング・システム、2005年からはソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの資本が入ったりもしました。

それでも経営難は改善せず、2010年に連邦倒産法の適用を申請。破産寸前の中、なんとか大ヒット作でかろうじて持ち直すものの、その努力も2020年のコロナ禍でノックアウトされました。結局、2021年、MGMはAmazonとの買収交渉に入り、その年の5月、84億5000万ドル(約9200億円)でAmazonに買収されることが正式に発表されました。ハリウッドの黄金時代のなれの果てがこういう終焉を迎えるとは…。

で、2022年3月に買収は完了し、本格的にMGMはAmazonのコンテンツ部門のレーベルのひとつとして第2の人生を送ることになったわけですが、ではそれまで製作途中だった映画はどうなるのか。

残念ながらいくつかは劇場公開されず、Amazonプライムビデオでの配信になってしまっています。今回紹介する映画もそんなスタジオの激震に巻き込まれた作品です。

それが本作『13人の命』。原題は「Thirteen Lives」

本作は何と言ってもあの“ロン・ハワード”監督の最新作だということを語らねばなりません。“ロン・ハワード”監督と言えば、それはもう現在のハリウッドを代表するベテラン監督であり、最近も『白鯨との闘い』(2015年)、『インフェルノ』(2016年)、『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)、『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』(2020年)など話題作を手がけてきました。

その“ロン・ハワード”監督の最新作が劇場未公開なんて…(前作の『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』もNetflix配信でしたが日本では一部の劇場で限定公開された)。ただでさえ『13人の命』は、“ロン・ハワード”監督にとっては『アポロ13』級の久々の実録ドラマの大作が拝めて、とても劇場映えするダイナミックな映像が盛り盛りの映画なのに…(アメリカでは一部で限定劇場公開されています)。

『13人の命』は、2018年6月に起きたタイのタムルアン洞窟に子どもたちが取り残された事件を描いたものです。増水した洞窟に取り残されて身動きがとれなくなった子どもを含む13人を救うべく、前例のない救出劇が実行され、当時は世界中で報道されました。

この事件は『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち(ザ・レスキュー タイ洞窟救出の奇跡)』というドキュメンタリーにもなっていますし、『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』というタイ・アメリカの合作映画も公開済みですが、今回の『13人の命』はあの“ロン・ハワード”監督ということで、クオリティは一級品です。

さまざまな当事者の視点から物語が展開し、かといってブレることもなく、骨太のストーリーと映像で観客の心を揺さぶってきます。やっぱり“ロン・ハワード”監督はこういう映画が合いますね。

脚本は『グラディエーター』『マンデラ 自由への長い道』『エベレスト 3D』の“ウィリアム・ニコルソン”です。こっちも大ベテラン。

俳優陣は、『はじまりへの旅』『グリーンブック』の“ヴィゴ・モーテンセン”、『ジェントルメン』『THE BATMAN ザ・バットマン』の“コリン・ファレル”、『ある少年の告白』『キング』の“ジョエル・エドガートン”、『ナイル殺人事件』の“トム・ベイトマン”。この4人がダイバーの役を熱演し、実際に潜っています。

『13人の命』は先ほども言ったとおり、Amazonプライムビデオでの独占配信。でも絶対に大画面で観るべき一作なのは間違いありません。水中洞窟での決死の救出シーンは圧倒的映像体験です。閉所恐怖症の人にはキツイかも…。147分緊張しっぱなしです。

今後もMGMは新作映画を制作するのかも不透明ですが、『13人の命』はMGMの最後の底力を見せてくれた映画ですね。

日本語吹き替え あり
大塚芳忠(リック)/ 森川智之(ジョン)/ 中博史(ナロンサック)/ 田村真(ハリー)/ 多田野曜平(ジェイソン)/ 谷内健(クリス) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:圧巻の映像体験
友人 4.0:一緒に手に汗握る
恋人 3.5:ロマンス要素は無し
キッズ 3.5:少し長いけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『13人の命』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):前代未聞の救出劇になるとは…

2018年6月23日、土曜日。タイ、チェンライ県、バーンチョーン。少年たちが元気にサッカーをしていました。このサッカーチームのひとりであるプレムの誕生日が今日だったので、練習が終わって、友人たちは誕生日会の前に洞窟探検をしようと提案。コーチもついていき、ひとりを除いて自転車で一斉に向かいます。

行先はクンナムナーンノーン森林公園のタムルアン洞窟。現地で信仰されているナーンノーン王女の祭壇があり、そこで祈りつつ、少年たちは自転車を置いて中へ。時間は午後3:07。懐中電灯片手に暗い洞窟を無邪気に進んでいき、入り口から800メートルの第3空間まで余裕で辿り着きました。さらに鍾乳石のある狭い場所もどんどん奥へ進んでいきます。

その頃、外の天候は急激に悪化し、土砂降りになっていましたが、子どもたちはそんなことを知るはずもなく…。

午後7:32。サッカーチーム所属のチャイの母が誕生日会の家にやってきます。でも肝心の子どもがいません。子どもたちは洞窟に行ったらしいと知り、みんな車で見に行きます。雨季が始まるのは7月でしたが、今は酷い雨でした。

滝のような雨が降りしきる中、洞窟の前に自転車を確認。子どもたちはまだ中にいるのか。しかし、洞窟は冠水しており、救助要請をするしかありませんでした。

午前12:47。海軍特殊部隊が到着。現場は慌ただしくなっていきます。

県知事のナロンサックは救出を指揮する軍隊のアーノン・スリウォン大尉から状況を教えてもらい、潜水チームを送ることになっていると知ります。近くに住んでいる洞窟探険家のヴァーン・アンズワースは洞窟内部の地図を資料として提供しました。県知事はマスコミに事情を説明します。

午前5:06。保護者たちはただ立って待つしかできない中、潜水チームが戻ってきます。しかし、見つけらなかったようで、鉄砲水で負傷者をだしていました。

翌日、世界中の注目が集まり、ボランティアが殺到する中、水抜き作業が展開されていました。雨はまだ降っています。

大臣も現場に駆け付け、県知事にこの件が終わるまで残留してもらうと命令します。

一方、バンコクから自主的にやって来た水道技師のサネットは、雨水が洞窟に流れ込むのを防ぎたいと考え、地元の人に山を案内してもらい、水が流れこむ穴を塞ぎ、水の流れを変えようと試みます。

5日目の6月27日。イングランドのコヴェントリーに暮らすリック・スタントンのもとにジョン・ボランサンから電話がありました。「タイの洞窟を知っているか」と言われ、ヴァーンが自分たちの名前をタイ政府に伝えたらしく、要請が来るかもとのこと。2人とも水中洞窟ダイビングを趣味にしていました。

リックとジョンが現地に到着。さっそく潜水スーツを着て洞窟の前に行きますが、海軍は「アマチュアでは?」と2人を警戒。なんとか「知事からの派遣なら入っていい」と許してくれます。

足場の悪い険しい洞窟内はすでに相当に水没し、今なお水位が上がっていました。2人は潜水を開始。900メートル進むとものすごく狭く、人ひとりがやっと通れる幅です。1600メートル先のT字路で鉄砲水が襲い、2人は引き返すことにします。途中で作業員の人がひとり取り残されているのを発見し、一緒に潜りましたが、パニックになって危ない状況でした。

リックとジョンも内心では子どもたちは生きていないだろうと考えていましたが、事態は思わぬ方向へ…。

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よく撮ったなという驚愕の洞窟シーン

『13人の命』はやはり映像の迫力に圧倒されます。当然ながら物語の大半が洞窟を舞台にしているのですが、実際の洞窟で撮影するのは困難すぎます。そこで本作は本物と錯覚するくらいの精巧にできた洞窟セットを設営し、そこで多くのシーンを撮るという大規模なことを実行してみせています。

この巨大な洞窟のセットが本当に凄くて、よくある巨大水槽での撮影とは全然次元が違うもので、作りはリアルな洞窟そのもの。メイキングを見ると、かろうじて上部はカメラが動かしやすいような構造になっていますが、それ以外は洞窟の岩の質感も水の濁りも全部本物に見える。

ここで実際に潜って撮るのですから、そりゃあリアリティは抜群です。しかも、映画内ではダイバーが必死に自分ひとり通れる狭い水中を泳いでいますが、撮影ではそれを撮るカメラマンもいるわけで…。よく撮ったな!と驚く難易度の高さです。

加えて、今回は俳優自身が実際に潜水したというから二重に驚かされます。普通はスタントを利用するものですし、今作でもその予定だったそうなのですけど、俳優側からスタント無しで自分でやりたいと要望があり、予定を変更。安全面を最優先に考えつつ、実現してみせたとか。

そこで活躍したのは本作の物語内でもヒーローとなったリック・スタントン本人。彼が安全面のアドバイザーとなり、俳優や撮影班をサポート。いや~、映画の撮影現場まで救っているじゃないですか。

“ロン・ハワード”監督の実力もあってこそでしょうけど、主演の“ヴィゴ・モーテンセン”や“ジョエル・エドガートン”は監督や脚本経験もあって、製作時はあれこれと意見もだしたそうで、“ロン・ハワード”監督もそれを柔軟に受け入れているし、そういうチームワークが良い効果を引き出したんでしょうね。

そのかいあって見事な映像クオリティが完成しています。息の詰まるような圧迫感、その過酷なミッションを達成したときの解放感。演技を超えた何かがあるような…。

『13人の命』は題材になった救出劇と同様に、映画の撮影もチームの連携が輝いたからこそ実現できたという意味で、作品そのものがクリエイティブな仕事を讃えている感じがします。

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当事者それぞれの苦悩が伝わる

映像面は言うことなしのハイクオリティである『13人の命』ですが、ドラマ面も全部盛りな勢いがあり、目頭が熱くなる良質なラインナップです。しっかり当事者それぞれの葛藤に焦点があてられ、心理描写が深く掘り下げられているあたりも、綿密に当事者に向き合っている姿勢が伝わります。

基本的な主役は海外ダイバーたちです。

水中洞窟ダイビングという一風変わった趣味を持つアウトローな奴らがこの騒然とした洞窟に集うことになる。この時点でもうなんだかベタな映画みたいな背景がありますよね。

そして見つけるために潜ったのに…生きているのは嬉しいはずなのに…救う手立てがないという絶望(死んでいた方がまだマシだったのではと思ってしまう自分が許せなくなるあの苦痛)。待ってても遺体の回収しかできないという現実。そこに直面させられる辛さ。

それでも努力だけはしようと、子どもを麻酔で眠らせて運ぶという作戦に頼るしかなくなり、人間扱いじゃないモノとして子どもを扱うことになる倫理的苦悩に押しつぶされ、いざ救出作業中でもそのプレッシャーに苛まれ…。今作では一時的に迷って道を失うクリスにハリーが声をかけてフォローするシーンがとくに刺さりました。ここは実写ドラマならではのドラマチックな演出ですね。

子どもひとりあたり7時間30分の救出作業ですが、映画にすれば数分しか描かれません。それでもその苦悩が映画から放水のように溢れてくる…。

他の登場人物も忘れられません。万が一の責任をなすりつけられる役として留め置かれている県知事の覚悟とか、自分たちの稲を台無しにしてでも臨時ダムに協力する農民たちとか、責められるんじゃと責任を感じているコーチとか…。

こうしたタイの人々も平等に描き切り、なおかつダイバーの姿勢が非常に謙虚ということもあって、『13人の命』はひと昔前のハリウッド映画にありがちな「ホワイト・セイバー」(白人を救世主として描く物語構造)に陥らないようになっているので、そういう点でも配慮が行き渡っている映画化だったと思います。

この救出劇に関してより批評的な分析を知りたいのならば、ドキュメンタリーの『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち(ザ・レスキュー タイ洞窟救出の奇跡)』がオススメです。こちらは海外ダイバーのもっと素の感情が見えてきますし、彼らから見たあの現場の評価が赤裸々に語られています。『13人の命』では描かれなかった事実も露わになっているので、このドキュメンタリーも補足として興味深いです。

『13人の命』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 93%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Metro-Goldwyn-Mayer, Amazon サーティーン・ライブス

以上、『13人の命』の感想でした。

Thirteen Lives (2022) [Japanese Review] 『13人の命』考察・評価レビュー