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『ドリームプラン King Richard』感想(ネタバレ)…ウィル・スミスにはプランがある!

ドリームプラン

ウィル・スミスにはプランがある!…映画『ドリームプラン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:King Richard
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年2月23日
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
人種差別描写

ドリームプラン

どりーむぷらん
ドリームプラン

『ドリームプラン』あらすじ

リチャード・ウィリアムズは自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意する。テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成し、がむしゃらに実行に移す。ギャングが蔓延るカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判や数々の問題に立ち向かいながらセオリーに従わずに奮闘する父のもと、2人の娘の姉妹はその才能を開花させていく。

『ドリームプラン』感想(ネタバレなし)

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あの有名テニス選手の伝記映画

女子プロテニス選手として破格の強さで頂点に上り詰めて話題沸騰となった“大坂なおみ”。そんなトッププレイヤーが全仏オープンの棄権を表明したことが2021年5月31日に報じられました。その直前には試合後の記者会見を拒否するという行動を見せ、大会側と対立する姿勢は大きな論争となりました。しかし、鬱病を告白し、自身のメンタルヘルスを重視するべきだという正しさを貫いた“大坂なおみ”の姿には多くの共感も寄せられました。スポーツ選手と言えどもひとりの人間。組織や業界の駒ではないのです。

そんな闘う“大坂なおみ”を支持する姿勢を見せたテニスプレイヤーのひとりが“セリーナ・ウィリアムズ”でした。「私が感じているのは、なおみのことだけ。彼女の心がわかるから、抱きしめてあげたい」と語った“セリーナ・ウィリアムズ”も、自身の人生を通して共有できる気持ちがあったのでしょう。

“セリーナ・ウィリアムズ”はマイノリティな人種の女子プロテニス選手として業界で道を切り開いた先駆者。そこには多くの苦労がありました。

今回紹介する映画はそんな“セリーナ・ウィリアムズ”とその姉の“ビーナス・ウィリアムズ”を初期の人生を描く伝記作品です。

それが本作『ドリームプラン』

本作は前述したように、ビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズの伝記映画であり、姉妹の子ども時代に焦点をあてています。2人がどのようにしてテニス選手として花開いたのか…そのエピソードが描かれるものです。

ただ、『ドリームプラン』の主人公はこの姉妹というだけではありません。実はこの姉妹をテニス選手に育てあげた立役者を主役にしています。それが父親です。父親が何をしたのか、どんな人なのか…本作を観ればその意外な姿が浮き彫りになるはず。

そしてこの姉妹の父親を演じ、『ドリームプラン』の製作を務めるのが誰であろうあのスター俳優である“ウィル・スミス”。“ウィル・スミス”については説明不要ですが、最近は『スーサイド・スクワッド』(2016年)、『ブライト』(2017年)、『アラジン』(2019年)、『ジェミニマン』(2019年)、『バッドボーイズ フォー・ライフ』(2020年)と、エンタメ大作に出演してばかりで、すっかりそういうキャリアで本人も満足しているのかなと思っていました。昔は『ALI アリ』(2001年)、『幸せのちから』(2006年)でアカデミー賞の賞レースにも上がりましたけど、今は完全にその輝かしい評価の舞台から遠ざかっていましたし…。直近で高評価で賞に手を伸ばしていたのは『コンカッション』(2015年)くらいですかね。

その“ウィル・スミス”が久しぶりに賞の世界に帰ってきました。『ドリームプラン』では主演男優賞として高く評価され、悲願の受賞も夢ではない感じ。伝記映画を引っ提げてやってきた“ウィル・スミス”は本当に強いですよ。最近は『自由の国アメリカ: 闘いと変革の150年』『ウェルカム・トゥ・アース あなたの知らない地球』などで、社会政治や地球環境保護などの案内役としても活躍していますし、善きお手本としてのキャリアに磨きがかかっていますね。

ビーナス・ウィリアムズとセリーナ・ウィリアムズの2人を演じるのは、『フェンス』の“サナイヤ・シドニー”と、ドラマ『ゴッドファーザー・オブ・ハーレム』の“デミ・シングルトン”。今後のキャリアアップに期待の若手です。

他には、『クラーク・シスターズ -First Ladies Of Gospel-』の“アーンジャニュー・エリス”、『消えない罪』の“ジョン・バーンサル”、『ザ・シークレットマン』の“トニー・ゴールドウィン”、ドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー』の“ディラン・マクダーモット”など。

『ドリームプラン』の監督は、『ジョー・ベル 〜心の旅〜』の“レイナルド・マーカス・グリーン”です。

日本ではわりと早々と公開されて良かったとひと安心。というのもワーナー・ブラザースは去年は受賞実績のある『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』を劇場未公開にしたという汚点がありますからね。忘れていないですよ。黒人主体の映画は日本での扱いが弱いのは以前から不満でしたが、さすがに“ウィル・スミス”主演なら…ということなのか。

でもこの『ドリームプラン』という邦題は正直ちょっと…。なんですかね、日本の映画会社は『ドリーム』のときといい、黒人ならとりあえず「ドリーム」と言っとけばいいと思っているのだろうか…。さすがの平和主義のキング牧師もそんな雑なレッテル扱いには文句あると思いますけど…。

確かに「plan」という単語はしきりに作中にも登場しますが…せめて「リチャード・プラン」とか「ウィリアムズ・プラン」という邦題にすればいいのに。もちろん原題どおり「King Richard」でもいいのですが…。

『ドリームプラン』は王道なスポーツ映画になっていますので、観やすい作品です。テニスに興味あるなし関係なく、周りに流されずに夢に向かって進む親子の姿を見たい人はぜひ。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:スポーツ映画好きの人に
友人 3.5:俳優ファン同士でも
恋人 3.5:温かい物語を観たいなら
キッズ 3.5:テニス好きの子は注目
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ドリームプラン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):プランがあります

リチャード・ウィリアムズはあちこちを回っていました。目的はひとつ。自分の娘であるビーナスセリーナを最高のテニス選手として成功させること。そのためのプランはもう考えていました。娘たちが生まれる前から成功のための計画を準備していたのです。

その野心を胸に、各所のコーチを渡り歩き、パンフレットを配って、ビーナスとセリーナの将来的可能性を熱烈にアピールするのですが、さすがにそれだけでは相手を説得できず、みんなに断られます。それでもリチャードは諦めません。

近所からは子どもに厳しすぎるとクレームもついていましたが、チャンピオンを育成していることに絶対の自信を持っていました。

バンを運転してビーナスとセリーナ含む5人の娘たちを練習に連れて行き、独学で身につけた知識でコートで自ら指導します。

そのとき、男たちがやってきてフェンスの外から娘のひとりのタンデに絡んできます。リチャードは「あの子はまだ16だ。放っておけ。関わるな」と忠告しますが、不良な男たちに頭突きを受け、膝をつきます。

痛みを抑えながら車に戻り、帰宅。家では娘たちの凄さを妻ブランデーに語ります。「2人は世界で活躍する」と。今は呑気に娘たちは部屋で歌いまくっていますが、歌手で活躍するわけじゃない…。

リチャードは有名なテニスコーチであるヴィック・ブレーデンを訊ね、娘のビデオテープを見せ、ニコニコでプレゼン。しかし、「家に天才が2人いるなんてありえない」と信用されません。

夜のコートでしょんぼりしていると、男たちにまた絡まれ、酷い言葉にキレてラケットで殴ってしまいます。そのせいで男たちに暴行を受け、銃を突きつけられる始末。リチャードは男たちに復讐しようと銃を持って近づくも、1台の車が遠い過ぎると同時に銃を乱射し、男を射殺するという現場に遭遇。思わずその場から逃げます。

ボロボロで帰宅。妻が手当てしてくれますが、やはり諦める気はありません。

「地球上で最もパワフルでデンジャラスな生き物は女性なんだ」と娘たちに熱弁。ある日、リチャードはビーナスとセリーナを連れて、ジョン・マッケンローとピート・サンプラスと一緒に指導練習しているポール・コーエンに会います。著名人を前に浮足立つ娘たち。

「ぜひコーチを」と娘を直接紹介するという強引な手段にでて、根負けしたポールは「少しだけ」とボールを2人相手に打ってくれます。次はビーナスだけを相手し、それが終わると「君たちの将来の望みは?」と聞いてきます。

ついにコーチをしてくれる人が現れました。しかし、ビーナスだけ…。家に残るセレーナは母と練習するしかありません。リチャードはビーナスの練習風景をビデオに録ります。リチャードもいつものノリでコーチに参加してしまい、ポールと指導内容をめぐって言い合いに。しょうがないので口を閉じて脇に座るリチャード。

ジュニアに参加するべきだと進言され、試合に臨みます。ビーナスは最初は緊張するもすぐに能力を発揮し、家族総出で応援もあって、どんどんトロフィーをゲット。ジュニア・トーナメントの優勝者になりました。

しかし、リチャードは露骨に喜んで調子に乗ることもなく、謙虚さを娘に教えます。

この父にはもっと先のプランがあるのです。

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良き父親の手本として

『ドリームプラン』は、良き父親の手本を示すような映画です。

もともと映画によく出てくる黒人家族の父親というのは、家父長的で有害な象徴であることが多く、『フェンス』なんかはまさにそれです。それも事実かもしれませんが、それ自体がステレオタイプになってしまうこともありました。

一方で、“ウィル・スミス”は基本的にそういう黒人父親像の負のイメージをひっくり返し、善き父親になれることを見せるというスタイルでずっと頑張ってきている俳優です。『ドリームプラン』はその“ウィル・スミス”の到達点ですね。

冒頭、熱心に娘の潜在的可能性をアピールして宣伝するリチャードの姿。半ズボンのスポーツ・スタイルでいかにもという感じですが、本人はテニス素人です。カタチだけ。独学でしかなく、娘をテニス選手にしたいと思ったのもバージニア・ルジッチというルーマニアの女子テニス選手をテレビで見たのかきっかけらしいです。

要するに傍から見るとただの「親バカ」に見える。信用されないのも無理はないような…。でも本人は意思を曲げません。

かといって娘たちにテニス選手としての人生を押し付けることはしません。いわゆるスポーツ特有の支配構造はそこにないわけです。あくまで娘の人生を尊重し、練習を休んでディスニーのテーマパークに行ってもいい。学校にも行かせるし、友達と遊んでもいい。

リチャードがここまで娘をテニス選手にしたいのはなぜなのか。それは才能を伸ばして成功しないと黒人差別の闇から抜け出すことはできないからであり、やはりそこにはそういう人種的な背景が無視できません。作中でもテレビでさりげなくロドニー・キングの事件が報道されていたりしましたね。

ロドニー・キングは、1991年3月3日に警官から暴行を受けた黒人男性で、ロサンゼルス暴動のきっかけとなりました。
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良きテニス選手の手本として

『ドリームプラン』ではビーナスとセリーナの2人の成長が描かれていきます。

しかし、ここでも単に勝つだけが全てであるという教えはありません。リチャードがしきりに娘たちに伝えるのは「謙虚であれ」ということ。わざわざ『シンデレラ』を鑑賞させて、そこから「苦境の中でも謙虚でいることで成功を掴める」ということを教え込む。

一方で、「謙虚である=大人しくする」ではない。リチャードもそうですが、不公平や不平等に対しては毅然とした態度で反論し、交渉も拒否することもあります。著名なエージェントと会っても、スポンサーから巨額の資金援助を提示されても、安易にそういった権力にはなびかない。ジェニファー・カプリアティを育てたリック・マッチというコーチとも頻繁に衝突。

ジェニファー・カプリアティは、作中では燃え尽き症候群(バーンアウト)での低迷がクローズアップされていましたが、その後は復帰してまた活躍しました。

そこまでしないといけない理由も、やっぱりそれはそれほどの人間性を獲得していなければ、この人種差別が吹き荒れる世界ではやってはいけないからで…。強いテニス選手というだけではダメで、良きテニス選手の手本にならないといけないのでした。

そんな中でもリチャードは妻のブランデーと口論したり、自身の子離れも描かれます。最終的にはビーナスの試合出場を認め、アランチャ・サンチェス・ビカリオと対戦することに。ここで負けてしまうも、しっかり勝ち負けではない教訓を提示するのが本作らしさですね。

ちなみに、リチャードは実際はかなり子だくさんで3回結婚しています。作中で登場するあの5人姉妹も異父姉妹で、ビーナスとセリーナはリチャードとブランデーの間に生まれた子ですが、他の3人はブランデーが以前の夫の間で生んだ子です。そしてリチャードはブランデーと結婚する前にも最初の妻との間に5人も子がおり、3人目の妻ともひとり子をもうけています。作中では完全にビーナスとセリーナとの関係に絞って描かれていますね。

また、妻のブランデーはその後はテニスコーチとして有名になり、ビーナスとセリーナのキャリアを導いたほか、フェミニズムなど人権活動家としてもモデルケースになりました。個人的にはもっとこのブランデーの功績も観たかったですけど、それはまた別の映画ですかね。

全体的に良作なのは間違いないですが、マイルドというか理想的な象徴化が濃い作品であり、白人層にも受けやすいだろうなと思ったりも。まあ、でもそれもまた“ウィル・スミス”ならではであり、“ウィル・スミス”の手がけてきたことのプランとしてこれはひとつの達成なんじゃないでしょうか。

『ドリームプラン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience 98%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved キング・リチャード

以上、『ドリームプラン』の感想でした。

King Richard (2021) [Japanese Review] 『ドリームプラン』考察・評価レビュー