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『エジソンズ・ゲーム』感想(ネタバレ)…電流戦争に痺れ、俳優に痺れる

エジソンズ・ゲーム

電流戦争に痺れ、俳優に痺れる…映画『エジソンズ・ゲーム』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Current War
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年6月19日
監督:アルフォンソ・ゴメス=レホン

エジソンズ・ゲーム

えじそんずげーむ
エジソンズ・ゲーム

『エジソンズ・ゲーム』あらすじ

19世紀、アメリカは電気の誕生による新時代を迎えようとしていた。白熱電球の事業化を成功させた天才発明家エジソンは、大統領からの仕事も平然と断る傲慢な男だった。そんな彼も黙っていられない事態が起こる。実業家ウェスティングハウスが交流式送電の実演会を成功させたというニュースに激怒したエジソンは、自分が有利になるようにさまざまな画策をするようになる。

『エジソンズ・ゲーム』感想(ネタバレなし)

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公開に至るまでも対立が…?

突然ですがあなたのスマホの充電器を確認してください。何か書いてあるでしょう。おそらく「ACアダプタ」とあり、「入力:AC 100V、出力:DC 5.0V」みたいに表記されていると思います。

見慣れ過ぎているので気にしていなかった人もいるでしょうが、この「AC」とか「DC」って何を表しているのでしょうか。

「AC」は「Alternating Current」の略で「交流」、「DC」は「Direct Current」の略で「直流」のことを意味し、どちらも電流です。では何が違うのか。それは向きが周期的に変化するか一定かの違いです。実は送電の段階では「交流」で電流が送られてくるのですが、スマートフォンやパソコンなどの電化製品は「直流」で電気を使うので、ああやってアダプタを通して「交流」から「直流」に変換する必要があります。

だったらふと思いますよね。最初から「直流」で送電していればあんな煩わしいアダプタももっとスリムなケーブルだけになるのでは?と…。

どうして「直流」ではなく「交流」で送電しているのか。その疑問の答えはネットで調べればすぐにわかりますが、映画で知ってみるのも楽しいです。そんな謎を解き明かすことにもなる映画が本作『エジソンズ・ゲーム』です。

主人公はおそらく知っている人も多いであろう「トーマス・エジソン」。彼は白熱電球の普及に一役買った人物ですが、1880年代後半、まだ電力というものが一般的ではなかったアメリカで電力の送電を一般化しようと事業を開始します。そのとき、エジソンが考えたのが直流を利用した送電

ところがそこにライバルが出現します。「ジョージ・ウェスティングハウス」「ニコラ・テスラ」交流を利用した送電を中心としたシステムを提案してきます。これによってビジネス上の対立が勃発。直流か交流かの両陣営のプライドをかけた対決、それを描くのが本作なのです。

原題は「The Current War」。「current」は「現在の」という意味がありますが「電流」の意味もあります。あのエジソンとウェスティングハウス&テスラ勢の対決が「電流戦争」と呼ばれているので、そのままのタイトルですね。

ただ、邦題は「エゾソンズ・ゲーム」になってしまいましたが。たぶん、これ、同じく“ベネディクト・カンバーバッチ”主演の『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』を意識した邦題なんじゃないかな…。

ともあれこの『エジソンズ・ゲーム』、実話モノとしての見ごたえもさることながら、俳優陣の豪華さで以前から注目を集めていました。主演は先ほども言ったとおり“ベネディクト・カンバーバッチ”。共演は“トム・ホランド”。まさにドクター・ストレンジとスパイダーマンが揃いました。魔術と若きイノベーターのタッグか、最強そうだなぁ(『エジソンズ・ゲーム』は違います)。対するのは“マイケル・シャノン”“ニコラス・ホルト”。こちらもアメコミ映画出演経験がありますね。他にも『ファンタスティック・ビースト』シリーズでおなじみの“キャサリン・ウォーターストン”など。
監督は私も大好きな『ぼくとアールと彼女のさよなら』“アルフォンソ・ゴメス=レホン”です。これまたガラッと違う題材に乗り出しましたね(『ぼくとアールと彼女のさよなら』も映画好きにはたまらない素朴な優しさが詰まった青春映画なのでぜひ)。

ところでこの『エジソンズ・ゲーム』、実は2017年にいったん完成し、その年のトロント映画祭で公開しています。でもアメリカでの公開は2019年です。なんで?という話なのですが、当初、本作を手がけていたのは「ワインスタイン・カンパニー」で、それがご存知ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行問題が露呈し、会社は潰れます。その後は別会社に配給権が映り、公開に至ったという流れ。

しかし、それでもこの作品だけ妙に公開が遅いです。それには苦労だらけの理由があって、ワインスタイン時代にハーヴェイ・ワインスタインは本作にやたらと手を加えたがったらしく、結果、監督の意思もガン無視で映画が強引に編集されてトロント映画祭で上映。その後、うざい男は自滅し、“アルフォンソ・ゴメス=レホン”監督としては当然自分の納得いく編集で映画を手がけたかったので再撮影&編集を求めた…という事情。なんか映画の題材である電流戦争並みに熾烈なバトルがあったのかな…。

ということで日本で公開されているのは「ディレクターズ・カット」と呼ばれているもので、「ワインスタイン・カット」ではありません(まあ、ワインスタインの方を見たい人もいないでしょう)。

俳優陣のゴージャス共演に体に電流が走るように痺れてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(豪華俳優陣を見物しに)
友人 ◯(俳優ファン同士で)
恋人 △(恋愛的なものはほぼない)
キッズ ◯(科学や発明に興味あるなら)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『エジソンズ・ゲーム』感想(ネタバレあり)

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実在の人物をおさらい

『エジソンズ・ゲーム』は実在の人物が総出演します。知っていそうで案外と知らない人もいたり、映画ではそこまで深掘りされない一面があったりするものです。ちょっとだけ各人を解説してみました。

まず主人公「トーマス・エジソン」。彼は世間的な評判では「傑出した世紀の発明家」とか「努力の象徴」のように語られていますが、実際はかなり違った人物だということが本作を観ていても窺えます。

事実、エジソンが独自に発明したものは案外と少なく、白熱電球だって本当の発明者はジョゼフ・スワンという人で、エジソンは実用化して商用として普及させただけです。要するにエジソンは実業家としての側面が強く、いろいろな技術の特許をとりまくっては展開させて儲けを出す人だったんですね。

そして猛烈に自分の事業に対するこだわりが強く、頑固で、プライドの塊。その性格がまさに電流戦争を引き起こしていくわけです。

そんなエジソンの妻として本作で登場する「メアリー・スティルウェル・エジソン」。自社の子会社の従業員であった16歳のメアリーと結婚するも、仕事中毒なエジソンはたいして構うこともなく、なんと彼女は29歳で亡くなっています(そうやって振り返るとすごく可哀想な人です)。なお、妻の死から2年後、エジソンは「ミナ・ミラー」と結婚するのですが、そのへんはそこまで光をあてることはしていませんでしたね。ちなみに自動車王の「ヘンリー・フォード」とは生涯の友人だったというのも有名な話ですが、それもあまり描かれず…。

その代わり『エジソンズ・ゲーム』でのエジソンの隣にいる存在として目立っていたのが「サミュエル・インサル」です。エジソンを陰で支えた男として、インサルの方を褒める人もいるくらい。その後は巨万の富を得るのですが、なんと資産横領で犯罪者となり、しかも国外逃亡するという波乱万丈の人生を送ります。まあ、あれです、今の日本でいうカルロス・ゴーンですね。

そしてエジソン勢と対立するのが「ジョージ・ウェスティングハウス」。この人も技術者兼実業家で、鉄道のブレーキシステムを開発しました(作中でも冒頭で列車が出てきましたね)。電力戦争に最終的に勝ったわけですが、単なる技術勝負の勝ちだったのか。妻「マーガリート・アースキン・ウェスティングハウス」とも良好な関係を持ち、最後に出てくるナイアガラの滝での水車発電機に貢献したアメリカで初めての女性電気技術者バーサ・ラメの存在など、彼の周りは多様性に富んでいるのは気のせいでしょうかね。

エジソンからウェスティングハウスに鞍替えするのが「ニコラ・テスラ」。彼は奇抜な言動が多かったらしく、今ではヘンテコ疑似科学の奇人みたいに扱われている傾向が強いです(クリストファー・ノーラン監督の『プレステージ』なんかはまさにそれ)。そもそもオーストリア帝国出身でセルビア系ということで、アメリカ人からは偏見の目で見られていたのかもですけどね。

他にもアメリカの5大財閥の1つであるモルガン財閥の創始者である「ジョン・モルガン」も登場。大物中の大物です。作中時点ではモルガニゼーションと呼ばれる鉄道再建計画に次々と着手していた頃です。

なお、『エジソンズ・ゲーム』で登場する実在の人物たちですが、顔は全くと言っていいほど似ていないです。このへんは似せる気はゼロなので、完全に役者が演じるフィクション史みたいな感じになっています。

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史実とはどこが違う?

ではキャラクターはわかったとして『エジソンズ・ゲーム』で描かれる出来事はどこまでが本当なのか。史実どおりか、脚色されたものか、それとも真っ赤な作り話か。

まず作中で強烈に描かれるエジソンによるライバルへのプロパガンダ的なネガティブキャンペーン…というかほぼ悪質な嫌がらせという名の営業妨害。あんなの見せられたら私たちの中にある偉人としてのエジソンのイメージが雲散霧消しますが、残念なことに紛れもない事実なのでした。

とくにあの馬などの動物を感電死させるデモンストレーション。あれも実際にやったことだというから驚きですけど、現代の私たちの常識的には「それって交流とか関係なく、電気全般の危険性では?」と総ツッコミできるのですが、まあ、当時の教養では電気に対する知識もなく、あの恐怖扇動も有効だったのかなぁ…。結果的に電気そのものの誤った使い方をすると大変なことになると世間に広めたので、皮肉な話ですけどね。やっぱり当時の電気に対する認識はどこか疑似科学的だったのかな(推進派がこんなんだし)。

エジソンの妨害粘着行為はこれだけにとどまらず、法律を含むあらゆる手段で攻撃を展開。たぶんエジソンが現代のSNS時代に存在していたら、さぞかし鬱陶しいネットストーカーになっていただろうに…。

一方で嘘もあって、わかりやすい脚色はハッキリしているので、そんなに混乱しないと思うのですが、一番言及したくなるのは「映画」絡みの話です。

エンディングの雰囲気といい、まるでエジソンが映画を発明したかのような空気感を漂わせていますが、エジソンが実際に作ったのは作中でも登場するとおり「キネトスコープ」という上映装置。これは箱を覗くと観られるというものですが、基本的に「映画=スクリーンに投影するもの」であり、そう考えると言わずもがな映画を発明したのは「リュミエール兄弟」です。

まあ、ちょっとあの陰惨なネガティブキャンペーン首謀者という一面のせいでエジソンの株が落ちたので、ここでエジソンの株をあげておこうと思って、ああいう描写を入れたのかな。

なんとなくこの『エジソンズ・ゲーム』はエジソンの善を前に出したいのか、悪を前に出したいのか、迷っている感じはありますよね。主人公としてはウェスティングハウスの方が正統派にすら見えますし…。

エジソンはなかなかに描くのが面倒な複雑なキャラクターですね。

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電流戦争も死を招く

「電流“戦争”」だなんて物騒な言い方をすることもないのに…と思うかもしれませんが、でもそれは適切だったと思います。少なくともこの映画のタイトルに「war」を入れたのはぴったりでした。
なぜなら本当に戦争のように死者が出てしまうからです。

それは作中でも描かれるとおりの「電気椅子」の発明。これは基本は史実そのもの。絞首刑に代わる新しい処刑方法として電気が注目され、実際に「ウィリアム・ケムラー」という内縁の妻を殺害した男は電気椅子で処刑が決定。その電気椅子の推進の裏にはやはりエジソンの戦略も内在していました。しかし、いざ電気椅子で処刑をするも、一発では致死にならず、なんどもやるハメに。その光景は見るのも耐え難いほどに残酷そのもので、記者も酷評した記事を出し…。

それと同時にカットバックで描かれるのは街に電気が灯っていく明るい姿。非常に皮肉のこもったシーンです。

さらにもう少し深読みするならば、この後、アメリカは恐慌に突入し、経済は大混乱。そして第一次世界大戦、第二次世界大戦へと突き進むわけです。

1893年のシカゴ万国博覧会でエジソンとウェスティングハウスは対話しますが、そこで日本の習字を見ています(実際に日本はかなり力をいれて出展をしていました)。何気ないシーンですが、これも勘ぐるならば、これからのアメリカが戦うことになる敵国の存在を前にしているとも言えます。

エジソンとウェスティングハウスの電流戦争は、いわば内戦です。そしてアメリカというのは建国時から国内で争い合ってきました。それがこの電流戦争の集結と共に終わり、今度は国外の敵との戦いにシフトチェンジする。しかも、その戦いには電気が活躍していき、大量の破壊兵器が生まれる。

『エジソンズ・ゲーム』は一見するとビジネス上の駆け引きを描く映画ですが、それはやがてこのアメリカが直面していく戦争という暗い歴史に紐づいていく。送電線のように真っ直ぐに。そう考えると本作はとても暗澹とした作品なのかもしれませんね。

決して「発明万歳!」とはいかないのは本作が大戦前の時代を描いているからであり、権力者の内幕を描いているからでもあります。そのスタンスは忘れていないのは正しい視点だと思います。

また、本作は撮影が良いなと思って、手がけているのが“チョン・ジョンフン”という『お嬢さん』の撮影も担当した人なんですね。あの電流戦争の勢力図をアメリカの地図に電球をつけたもので表現するあたりも上手いです。実際は送電線がどんどん建てられていくだけですからね(しかもこの当時の送電線、相当に見苦しいもので、まるで機織り機みたいに電線がびっちり引かれていました)。

脚本に関してはもう少し思い切ったアレンジでも良かったと思いますが、当時の電流戦争に想いを馳せるにはじゅうぶんな映画だったのでないでしょうか。

今は直流も交流も仲良く併用されている時代。エジソンたちの喧嘩なんてどこへやら。持ちつ持たれつが一番いいのです。

『エジソンズ・ゲーム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 59% Audience 79%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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・『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』

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作品ポスター・画像 (C)2018 Lantern Entertainment LLC. All Rights Reserved. エジソンズゲーム ザ・カレント・ウォー

以上、『エジソンズ・ゲーム』の感想でした。

The Current War (2019) [Japanese Review] 『エジソンズ・ゲーム』考察・評価レビュー