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『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』感想(ネタバレ)…大人気ミュージカルを映画化

ジェイミー

大人気ミュージカルを映画化…映画『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Everybody’s Talking About Jamie
製作国:イギリス・アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonで配信
監督:ジョナサン・バターレル
LGBTQ差別描写

Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー

えぶりばでぃずとーきんぐあばうとじぇいみー
ジェイミー

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』あらすじ

高校生のジェイミーはドラァグクイーンになることが夢だった。母も親友もそんな自分らしさを見つけようとするジェイミーを心から応援してくれている。けれども学校の教師は夢を見すぎるのは良くないと諭す。ところがその夢への道が思わぬかたちで切り開かれる。ドラァグクイーンの先人たちの力強い言葉を背に浴びて、初々しいジェイミーは夢への一歩を踏み出す。キラキラのヒールと美しいドレスと共に…。

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』感想(ネタバレなし)

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名作ミュージカルが映画化

子どもの頃は夢をよく聞かれます。なりたい職業は? なりたい未来は? それぞれが思い思いの回答を無邪気に口にするでしょう。

でも中には素直に答えられない子もいる。なぜなのか。夢なんだから叶いそうにないものでもとりあえず答えてごらんと言われても口ごもる。その理由はわかる人にしかわからない。

そうです、その子が性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)ならばクィアなアイデンティティに関わってくる夢や職業について答えるのが難しい状況だってあります。事実上のカミングアウトになってしまいますし、仮にもうオープンにしていたとしても不必要に注目を集めてしまい、さらには嫌悪を向けられるかもしれない…。

夢を語る…そんな些細なことだってそこにはマジョリティとマイノリティの間には格差があります。大きな溝があるのです。それでもマイノリティ側に追いやられている子でも夢は秘めている。

誰でも夢について語れる日が来ればいいのですが…。

今回紹介する映画はクィアな高校生の夢を叶えたいという純真な気持ちが爆発していく、爽やかな青春ミュージカル・ムービーです。それが本作『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』

本作はもともとはミュージカル劇でした。実話が基になっており、それは2011年に放映されたBBCのドキュメンタリー『Jamie:Drag Queen at 16』が大枠の題材です。そしてその実話が2017年にイギリスのシェフィールド劇場で初演され、話題沸騰。その後にウエストエンドへとステージが広がったという経緯です。劇自体は大好評で、世界各地に公演は拡大していき、日本でも“森崎ウィン”主演で舞台が2021年に開始となりました。

で、どういう物語なのかという肝心なことを説明すると、主人公は16歳のジェイミーという男子高校生。彼の夢はドラァグクイーンになること。

ドラァグクイーンというのは、クラブなどのエンターテインメント業界でパフォーマンスをするために、衣装・仕草・メイクなどで女らしさを身にまとう人のこと。たいていは男性で女装をしているということになります。仕事時だけ女装をする人もいれば、普段から女装をする人もいます。よく誤解されがちですがトランスジェンダーと同一ではありません(ドラァグクイーンの中にはトランスジェンダーやノンバイナリーの人もいます)。

『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』はその主人公がドラァグクイーンになりたいという夢を抱いて保守的な空気を吹き飛ばしていく痛快なミュージカル映画です。『ザ・プロム』が好きだった人は本作も気に入るのではないでしょうか。

監督は舞台劇の方でも手がけた“ジョナサン・バターレル”がそのまま登板し、本作で長編映画デビューとなっています。

主演を務めるのは本作で華々しいデビューを飾ることとなった“マックス・ハーウッド”。私はこのキャスティングが何よりも本作の素晴らしさだなと思います。作品を売るためにネームバリューのある俳優をどうしてもクィアな役でも起用してしまうことが多いのが今の映画業界の現実ですが、今作はこのクィアなキャラクターを最もシンクロして演じられる人を新人でもいいので掘り起こしているのですから。

共演としては、数々の受賞歴を持つベテランの“サラ・ランカシャー”が主人子を支える母親を熱演し、そして主人公を導くかつてのドラァグクイーンのスターを演じるのは“リチャード・E・グラント”です。さすがの“リチャード・E・グラント”の貫禄で「前からドラァグクイーンをやってたのかな?」というくらいにはなりきっています。ちなみに舞台劇で主人公を演じていた“ジョン・マックレア”(最近は『クルエラ』に出ていましたね)も本作で“リチャード・E・グラント”演じるメンターとなるドラァグクイーン現役時代の姿としてちょこっとカメオ出演しています。

『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』は日本では劇場公開されずにAmazonプライムビデオでの独占配信となってしまったのですが、落ち込んでいるときに元気を注入するくらいの気軽さで観れると思います(作品内にホモフォビアな描写がありますのでそこだけ注意)。

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『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』を観る前のQ&A

Q:『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』はいつどこで配信されていますか?
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2021年9月17日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:元気をもらえる
友人 4.0:気分を盛り上げる
恋人 4.0:互いの夢を語り合って
キッズ 4.0:どんな子でも夢を応援
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):実際の物語に歌とダンスを加えました

イギリス、シェフィールド。この刺激の少ない田舎の町で、手が届くかもわからない夢に向けてひたむきに頑張る10代の少年がいました。

ジェイミー・ニューは自室のベッドから目覚めると、大雨も気にせず自転車で飛び出し、新聞を配っていく仕事に取り組みます。帰りに母のマーガレットが「ハッピーバースデー」と通りすがりに声をかけます。そうです、今日はジェイミーの16歳の誕生日。帰宅すると「最高の息子」と書かれたカードが机にありました。ジェイミーはお気に入りのティアラを頭に被り、気持ちを高揚させつつ、それを名残惜しそうに置いて学校へ。

11年生は職業ガイダンスの説明があり、ヘッジ先生は「将来どんな職業につけるのか、現実的に考えるように」と忠告。優等生のプリティは「医者」と真面目に答えますが、他の生徒は「YouTuber」「ジェダイ」などとふざける子も。

そんな中、ジェイミーも「どんな仕事がしたい?」と聞かれます。言い迷って「わかりません」と口にするジェイミー。ヘッジ先生のヒールが目に入り、「ステキな靴ですね」と褒めます。実はジェイミーの夢は決まっていました。ドラァグクイーンです。でもそれを言えず「パフォーマーです」と濁しますが「叶わない夢だ」と先生はたしなめます。

家では母が友人のレイと誕生日パーティーの準備。しかし、別居中のジェイミーの父が来る予定でしたが、行けなくなったというメールを受け、母は父からの手紙を偽装します。

ジェイミーが帰ってきて、さっそく母はプレゼントを渡します。中には120ポンドの赤いヒール。このために貯金していたものです。初めてのヒールに有頂天。

ジェイミーは自習室でプリティにヒールを見せ、「女装をしたい」と熱く語ります。「女性になりたいの?」「違う、男のままで女の格好をしたい。ドラァグクイーンになりたい」…そう言われて反応に困るプリティ。2人は変わり物としていじめられていました。

とくにディーンはゲイだと揶揄ってきます。そんな彼にジェイミーは「僕はゲイだ。その言葉は侮辱にならない」と毅然と対応。追い払うのでした。

それを見て納得したプリティは「そのヒールをプロムで履いて」と応援。

勢いに乗るジェイミーはドラゥグ・クチュールの衣装店へ。その店主ヒューゴにも夢を語り、「ドラァグクイーン・ネームは?」と聞かれますが、考えていませんでした。ヒューゴは熱弁。「ドラァグクイーンは愛し畏れられる存在だ」と。それを聞いてジェイミーも「なりたいんじゃない、ならなくてはいけない」と答え、ヒューゴは自分も昔はドラァグクイーンで「ミス・ロコ・シャネル」と呼ばれていたと告白します。

先人の生き様を感じて、「ドラァグクイーンは戦士だったんだ。単なるショーじゃない、革命なんだ」と実感したジェイミー。

その夢への情熱はさらに高まり…。

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平凡で初々しいけどそこがいい

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』は物語自体はとても王道。

一応、舞台となっている地域は保守的な環境らしく、ジェイミーがゲイであることは公然と認知されていますし、本人も「はいはい、ゲイですよ」と教室でも呟けるほどですが、それでも全体的にクィアを文字どおり奇異な存在として好奇の目で観察されてしまう…そんな状況です。中にはディーンのように露骨にホモフォビアな態度をとってくるものもいます。

そんな世界しか知らないジェイミーがそれでもドラァグクイーンになるという夢を目指していく。こういうクィアな主人公を描く青春学園モノでも基本は同じですね。

ミュージカルとしてはそこまで大規模予算ではないのでスケールは抑えめ。なので物足りないと言えば確かにそうです。個人的には最後のプロムのフィナーレで、しっかり最大規模のミュージカルで締めてほしかった気持ちもあります。お祭り的な盛り上げは欠けますね。

「ミス・ミーミー」として初ステージを飾るシーンの方がカタルシスはあるような…。まあ、このドラァグクイーンとしてショーに出させてもらうのも、コネありきのスペシャルな優遇ですから、特殊ではあるのですが…。私はよく知らないのですけど、ドラァグクイーンとしてステージに立つのにイギリスでは年齢制限とかはないのかな。ドラァグクイーンにもなれつつ、同時にジェイミーとしての誇らしさも手に入れるというプロム前の展開はこれはこれで大事ですけど。

しかし、必要最低限のストーリー展開は丁寧に作られており、それでいて曲の完成度も(オリジナルがすでにあるということもあって)高いので、一定水準のクオリティを満たしてくれています。

やっぱり現実世界ではまだまだ差別や偏見は根強いわけですし、こういう王道の物語が求められるのもよくわかりますしね。

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脇にいるキャラクターも輝く

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』で私がいいなと思ったのは脇にいるキャラクターたち。もちろん主人公も良かったです。“マックス・ハーウッド”の屈託のないピュアさは素直にサポートしたくなる存在感でした。

しかし、やはりこの保守的な環境で彼が頑張れたのは間違いなく「アライ」となる支援者がいてくれたおかげです。

まずあの母親。シングルマザーとなってからも健気に息子を支える。あのとにかく受け入れてくれる保護者の存在はかなり大きいでしょうね。クィアな我が子を育てるひとり親の苦労も垣間見えるし…。

また、同級生で親友のプリティのキャラクターも印象的。彼女は彼女で人種的なマイノリティであり、下手すればジェイミー以上にキツイ環境にいると思います(彼女にはどれくらいの支援者がいるのかわからないですが)。それでもジェイミーを後押しし、その過程で自分自身の誇りも芽生えていく。あの友人同士の相互作用はステキでした。

そしてジェイミーの導き手となってくれるヒューゴ。彼は言わば歴史を教える係です。今ではLGBTQが当たり前になり、その言葉の重みを知らない若い世代も増える中、ヒューゴはそれは単なるノリではない、犠牲者も出した闘いの歴史だったことを伝える。このような歴史を伝える役割というのはおそらく今後のLGBTQ映画のひとつの大きなテーマになってくるでしょうし、本作もそこを忘れていないのは良いところ。

一方で、本作にはLGBTQフォビアな人たちも出てきます。まあ、そことの軋轢に関してはかなりあっさりしています。先生もディーンもなんだか空気に押し負けるようなかたちでしたし、父との確執も明確な突破はありません。ここに関してはご都合的に幕を閉じる感じは否めない部分。今だったらあんな学校の態度はすぐにネットで炎上しそうですけどね。ディーン、結構チョロい奴だったなぁ…。

そんなこんなな苦言もありつつ、でも『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』は確かに今この瞬間に助けを求める人の心に贈るプレゼントになる。そんな映画でした。

私としてはそろそろプロムをゴールにしない青春学園モノのクィアなストーリーが続々と生まれてもいい気もしていますが、そういう時代は来るのかな?

『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 74%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios エブリバディーズ・トーキング・アバウト・ジェイミー

以上、『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』の感想でした。

Everybody’s Talking About Jamie (2021) [Japanese Review] 『Everybody’s Talking About Jamie ジェイミー』考察・評価レビュー