私たちの青春は未定!…Netflix映画『Work It 輝けわたし!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ローラ・テルーゾ
Work It 輝けわたし!
わーくいっと かがやけわたし
『Work It 輝けわたし!』あらすじ
夢の名門大学へ入るためには、ただの優等生では特色もなくて評価されない。そこでダンス大会で好成績を納めなくてはならなくなってしまったクイン・アッカーマン。ダンサーをかき集め、学校で1番のダンスチームを作ろうとするのだが、当の本人はまったくのダンス音痴。しかも、ライバルはとんでもない実力者。こんなピンチの中で本当に輝くことはできるのか…。
『Work It 輝けわたし!』感想(ネタバレなし)
ダンスが苦手でもOK!
あなたの通っていた(今、通っている)学校には「ダンス部」はありましたか?
私はダンスとは全く無縁の人生を送っているのですが、小中高にもダンス部なんて影も形もありませんでした。でも最近はダンス部の存在感が目立っている傾向もあったりするらしく…。
その証拠に、スポーツ庁の平成29年度の調査によれば、回答した学校のうち、ダンス部があるのは、中学では3.3%、高校では26.9%。私立に限って見ると中学では25%、高校では41.7%にもなります。所属する生徒の性別では圧倒的に女子が多いです。つまり、メインの運動部の定番ではないにせよ、なかなかに需要のある存在なのでしょう(部員がいなくなると消滅しますからね、部活は)。
でもよく考えれば、今の時代はネットの動画で簡単にダンスを投稿できますし、個人で踊りやすいし、ダンスを見る機会にもありふれた世界になっているので当然なのか…。なんだか私の知らないところですっかり変わっているんだなぁ…。
ということで、ダンスが私の学校時代の青春だった!という人も普通にいるんですね。
そんなダンスに若い人生を捧げた人も大満足になってくれるだろう映画が本作『Work It 輝けわたし!』です。
本作はアメリカ映画で、高校生を主人公にした青春学園モノ。ひょんなことからダンスをすることなった女子高生が主役であり、山あり谷ありのドラマが詰まった、いかにも青春!という感じのストーリーです。
ダンスや歌唱などのパフォーマンスを題材にした映画と言えばいろいろありますし、最近だと『ピッチ・パーフェクト』シリーズがヒットしましたが、あちらは大学が舞台なこともあって、ややお下品なところもありました。一方でこの『Work It 輝けわたし!』はもっとフレッシュで初々しく、下品さもほぼゼロ(多少は…)なので、ティーン世代なら一緒に楽しめるノリです。
といっても、肝心のパフォーマンスはなかなかに見ごたえがあります。それもそのはずで本作は、あの世界的に支持されているシンガーソングライターで女優でもある“アリシア・キーズ”がプロデュースしているのですから。「A.K. Worldwide Productions」という“アリシア・キーズ”の制作会社が本作をクリエイトしており、その作中内のパフォーマンスもお墨付き。
監督は“ローラ・テルーゾ”という人で、私は知らなかったのですけど、『Fits and Starts』(2017年)や『Good Girls Get High』(2019年)という作品で監督キャリアを最近重ねている新鋭。脚本も“アリソン・ペック”というこちらもまだキャリアの浅い方で、全体的に製作陣もフレッシュな感じです。
俳優陣も若さ爆発。まず何よりも主役。主人公を演じるのは“サブリナ・カーペンター”。知っているでしょうか。ディズニー・チャンネルでキャリアを重ね、ドラマ『ガール・ミーツ・ワールド』でブレイク。アメリカ本国では若者層に絶大な人気を誇る若手女優です。アーティスト活動も精力的に行っており、彼女の曲を聴いているアメリカのティーンは多いはず。映画の出演歴はそんなにはなく、『ヘイト・ユー・ギブ』や『トールガール』にちょこっと出ていましたね。
私の中の勝手な印象では、なんかクロエ・グレース・モレッツに似た雰囲気がある気がする(演技的にも)…。
その“サブリナ・カーペンター”にとってこの『Work It 輝けわたし!』はジャストフィットな作品であるのは言うまでもないです。得意のスキルをフル活用してます。
他の出演陣は、YouTuberなどソーシャルメディア界隈で活躍が著しい“ライザ・コーシー”、歌手兼ダンサーとして活躍しつつ『シーラとプリンセス戦士』では声優も務めていた“ジョーダン・フィッシャー”、ドラマ『Dance Academy』でも存在感を発揮するマルチなパフォーマーである“キーナン・ロンズデール”など…。要するに若者層を狙い撃ちするようなキャスティングになっています。まあ、あまり日本の視聴者には響かないかもしれませんが…。
そんなこんなで『Work It 輝けわたし!』はティーンムービーとして非常に見やすく、気持ちのいい作品になっているのでオススメしやすい一作です。ダンスが下手くそで興味がなくても大丈夫。主人公がそういう人間なんですし…。
『Work It 輝けわたし!』はNetflixオリジナル映画として2020年8月7日から配信されています。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(暇時間にどうぞ) |
友人 | ◯(気楽に観れるエンタメ) |
恋人 | ◎(恋愛あり、気分も絶好調) |
キッズ | ◎(ダンスを始めたくなる) |
『Work It 輝けわたし!』感想(ネタバレあり)
私の青春は未定
ウッドブライト高校。ワーク・イット・ダンス大会の歴代優勝チーム「サンダーバーズ」がステージで本番に向けて入念にパフォーマンスの練習をしていました。すでに一糸乱れぬパーフェクトなスタイルを披露し、今回も栄光を手にするのは間違いなさそうです。
しかし、この物語の主人公はあのダンスチームではありません。そのダンスチームを上の視聴覚室で見つめながら、照明を操作するひとりの女子。この暗い部屋でポツンといるクイン・アッカーマンの物語です。
クインは普段は親友で「サンダーバーズ」に所属するジャスミン(ジャス)に車で送ってもらいながら、学校に通っています。父を亡くし、母ひとりのもとで育ったクインは優等生。目指しているのは父も通っていたデューク大学。合格率は6%以下。この難関を突破するために、キャリアづくりに集中して精を出してきました。生徒会に務め、老人ホームでボランティアし、ボーイフレンドも遊びもせずに一心不乱に自分自身を磨き続けたスクールライフ。
あそこで踊っている人たちと同年代なんて信じられない…。そんなことをボーっと考えていると、コーヒーを操作盤にこぼしてしまい、ステージは停電。パニックです。
ヘマをしたクインは「サンダーバーズ」のリーダーであるジュリアード(本当の名前はアイゼイアだけどジュリアード音楽院に通うためにそう名乗っている)に叱責されます。ダンス大会まで5か月しかないと怒られ、私が悪かったと謝りますが、「出ていけ」と無慈悲な言葉が投げかけられるだけ。
そんなこともありつつ、デューク大学の面接の日。期待しまくりの母が車で送ってくれます。予行練習したとおりの自己アピールを面接官ラミレスの前でするクイン。しかし、予想外の反応が返ってきました。成績優秀、品行方正…そんなものはみんな同じだ…と。「何にハマっているの?」と聞かれ、型破りな学生が欲しいと言われます。「何か情熱を感じるものは?」との問いにすかさず大学名を答えますが、大学なんてただの建物だと一蹴。
けれどもクインの高校名を聞いた面接官は「あのダンスチームで有名なところ?」と関心を持ちます。ここを逃せないと判断したクインは思わず「私も一員です」と豪語。「じゃあダンス大会の会場で会いましょう」と言われてしまうのでした。
最良の結果を心待ちにしている母にはとりあえずテキトーな話をしつつ、クインは今、目の前の課題に取り組まないといけません。ダンス…どうしよう…。
リズム音痴な自分にはダンスは全く向いていません。でも学ぶことは得意だし、いい先生がいればいい…そうポジティブシンキングで考えたクインは親友のジャスに頼みこみます。庭で練習し、だんだんと上達してきたクイン。
いよいよ「サンダーバーズ」のオーディションの日。合格者はひとりだけと宣告される中、クインは踊ってみせますが、控えめに言って下手すぎる状態に周りは哀れみの目。ジャスは「素質はあるよ」とフォローしてくれますが、絶望的。ジュリアードは「自分でチームを作ればいい」と言い放ちますが、これになるほどと納得したクインは、高圧的なジュリアードに不満を持っていたジャスがキャプテンをやることに強引に決めて、行動を開始し出します。
まずはチーム集め。そして最高の振付師がいる…。ジェイク・テイラーという過去に活躍していたものの、膝を痛めて業界から消えた振付師に目をつけ、自ら勧誘しに行くクイン。
こうして集まったチーム。仮の名前は「TBD」(「To Be Determined」…“未定”の意味)。
何もかも未定で見切り発車な青春が今、始まろうとしています。
ダンスは一部の人だけのものではない
『Work It 輝けわたし!』の原題は「Work It」。「うまくやる」とか「望みどおりの結果を出す」という意味です。そして物語自体はまさにそのとおり、上手くやってみせてハッピーエンドを迎える、これ以上ない王道の青春学園ストーリーでした。なので特別な展開は何一つもなく、そこに意外性を期待していると物足りないでしょう。
ただ、本作は王道は王道でもそのスタンダードを突き詰めた一作であり、過不足なくシンプルながら、今の時代にも違和感のないフィットした映画になっていたと思います。
例えば、人種が多様であるというのは当然のようにあります。クインが集める仲間の人種構成はとくに意識することもなく自然とダイバーシティになっていました。このあたりはもはや普通のことであり、今さら強調することもないという自然体な感じがいいですね。
一方でそれだけでは終わりません。『Work It 輝けわたし!』はもっと幅の広い作品になっています。
ダンスというとどうしてもリア充の世界のように捉える人が一部ではいるのも事実。でも本作ではそうなっていません。主人公のクインは典型的な“がり勉”タイプであり、ダンス自体下手で、勉強一筋で他の青春活動らしいことを一切してきませんでした。
そんなクインに対して「いや、それだけ頑張ってもダメだよ」と説教臭くなく諭すのが本作。学歴社会を良しとする安直な帰結にはもちろん陥らず、どの大学に行くかではない、自分を評価してくれる場所に行くことの大切さを説く。すごく真っ当な青春学園モノとしてのメッセージだと思います。
また同時に父の母校へのこだわりから解き放たれるというのは、クインが無意識に抱える家父長的重圧や喪失感への意識との向き合いだとも解釈でき、それはそれでいいものです。
老人ホームのおばあちゃんが「どんな大学に行ってもみんな同じ老人ホームに行くのよ」と言いますが、そのセリフが本作を一番表しているかもしれません。あとあのラミレスという大人の存在も地味に本作を安易にしない効果を与えているように思います。
この映画の長所は包容力です!
そのクインに引っ張り込まれるようにまたもダンスの世界に入ってくジェイク。
彼は言わば負傷によって業界からドロップアウトした存在であり、こういう人間はどうしてもこの手の世界にはいるものです。そんな彼が子ども向けのダンス教室で指導していると、やってきたのはダンスに対するとにかく初々しい印象を持っているだけのクイン。
ここからベタなロマンスにはなっていくのですが、それでも恋愛を主目的に脱線することなく、ジェイクにとっても情熱を取り戻すことが何よりも自分を輝かせる…そういう着地になるのはいいのではないでしょうか。少なくとも恋人さえできればいい…みたいなオチにならないのはいいですね(恋愛オチ担当はマットレス男に夢中なジェスが担ってる)。
ジェイクがクインに「ステップ・ドロップ」を指導してくれる場面は、ロマンチックな空気を漂わせつつも、欠けているモノを補っていく二人の相互作用を暗示するようで印象的なシーンだな、と。
ジャスは実力が正当に評価されないことにモヤモヤしています。あのジュリアードは完全なワンマンショーで周りに自分を引き立てるダンサーを並べるだけ。チームという感じはしません。こんな状況でのジャスの不満というのは、私は業界人ではないから直接は知らないですけど、おそらくバックダンサーのようなポジションにいる人間ならよく直面することなのかも。
他のチームメンバーもたっぷり描かれるわけではないにせよ、容姿も性格もバラバラ、さらにダンスに対する意識も異なる者同士が揃っており、誰一人重なりません。
でもそんな顔ぶれが一致してパフォーマンスを披露するからこそ感動する。こうやって見るとダンス作品とダイバーシティはポリコレうんぬんは置いといてもそもそも相性が抜群にいいのでしょう。見ているだけパフォーマンとしての魅力に繋がっていきますし。
『Work It 輝けわたし!』の場合はそこに加えて、さらに身体的ハンディキャップがある人とか、高齢者にすらも目配せを忘れていません。この包容力が本作の最高の自己アピールポイントなのではないかなと思いました。
自分の心に素直になればいい
もちろんパフォーマンス自体も良かったです。
でも上手さよりも下手くそ感の方がリアルだったかもしれない。あの“サブリナ・カーペンター”の絶妙なダンス苦手な人間がやりそうな精一杯さとか。俳優当人はめちゃくちゃアーティスト活動しているので上手いのですけどね。“サブリナ・カーペンター”は馬鹿真面目キャラが似合っている…。
最終的に優勝できるのは甘々な展開ではあるのですけど(でも厳密には失格)、物語としては勝ち負けではないという部分において揺らいではいないですし、いいのかな。
楽しむこと、自己肯定を手に入れること、それが大事!という結論への着地という意味では、同じくNetflixオリジナル映画である『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』と通じるのかも。
それにしても『Work It 輝けわたし!』を観ていて思いましたけど、やっぱりティーン作品特有のギャグ感はありますね。「勃ってるよ…」ネタとか、あっさり死ぬ高齢者ネタとか、何でもインスタにあげられてしまうネタとか…。このお気楽さが懐かしい…(懐古)。
これからもダンスは愛され続けるでしょうし、本作もダンス映画として刻まれる一作になったのではないでしょうか。『フェーム』(1980年)みたいにその時代ごとのダンス映画があるとすれば、本作はまさしく2010年代の到達点となるダンス映画です。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience –%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)STXfilms, Netflix ワーク・イット
以上、『Work It 輝けわたし!』の感想でした。
Work It (2020) [Japanese Review] 『Work It 輝けわたし!』考察・評価レビュー