エクストリーム・ジョブ
映画『エクストリーム・ジョブ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Extreme Job
製作国:韓国(2019年)
日本公開日:2020年1月3日
監督:イ・ビョンホン

エクストリーム・ジョブ

あらすじ

思うような成果を出せずに解散の危機を迎えている麻薬捜査班。国際犯罪組織の国内麻薬密搬入情報を入手したコ班長は、チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェフンの4人のチーム員たちとともに潜伏捜査を開始する。24時間監視のため、犯罪組織のアジト前にあるチキン屋を買い取り、麻薬班メンバーによるチキン屋稼業をスタートさせるが、それは予想外の事態を招き…。

『エクストリーム・ジョブ』感想(ネタバレなし)

気分も揚がる!韓国チキン映画

「揚げる」という調理方法はあらためて考えると大発明だなと思います。

別に揚げなくてもとくに困りませんし、だいたいの食べ物は揚げずとも食べることはできます。火を通したければ焼けばいいのですから。

じゃあ、なぜ揚げるのか。美味しいからに決まっています。あの外側はサクッとさせつつ、内側は食材そのままの良さを残し、熱も通せる。完璧じゃないですか。完全に食欲をそそらせるために特化した調理スタイルですよ。そりゃあ好きになるってものです。まあ、健康にはあれなのですけど…。

揚げ物が大好きな人は多いと思います。日本は揚げ物の多様性が素晴らしい国です(ほんと、食文化だけはダイバーシティですよ)。

しかし、お隣の韓国も負けてません。その熱量は凄まじく、揚げ物文化を活かした映画まで作ってしまいました。それが本作『エクストリーム・ジョブ』です。

そんなことを言うとお料理映画なのかと思うのですが、中身でやっているのは麻薬捜査班を主人公にした麻薬犯罪の取り締まり。なのになぜかその捜査の過程で、フライドチキン店を営業することになってしまい、てんやわんやの大騒ぎに。極悪犯罪を題材にしているのに、ふざけっぱなしのハイテンション・コミカルムービーです。

警察モノのクライムサスペンスとコメディが混ざった映画と言えば、日本でも大ヒットを記録した『踊る大捜査線』シリーズがありましたが、『エクストリーム・ジョブ』を配給する日本側はそれにあやかって公式では「揚げる大捜査線」なんてジョークで宣伝しています。

そしてやっぱりこのタイプの映画は韓国でもウケがいいのか、『エクストリーム・ジョブ』は韓国で大ヒットを叩きだしました。韓国ではこういうコメディ映画が興行収入の記録を作るのは珍しく、韓国映画界のトレンドを今後変えていくことになるのかな?

そもそもなぜフライドチキン?と思うところですが、韓国ではチキンは国民的グルメだそうで、会社から帰ってきた父が家族にチキンを買って来たり、定年退職したらチキン店でも始めるかという定番ネタがあったり、それくらい国民生活に馴染んでいるものらしいです。そういう意味では『エクストリーム・ジョブ』は、韓国の食文化も知れる良い映画です(麻薬を取り締まっているのですけど)。

監督は、『二十歳』(2015年)を手がけた“イ・ビョンホン”。なんでもあの『サニー 永遠の仲間たち』の脚色も手がけていたそうで、コメディ映画に関しては抜群の才能があるようです。

俳優陣は、主人公側のメインキャラは5人。『7番房の奇跡』『サイコキネシス 念力』など何でもこなすベテランの“リュ・スンリョン”。『タチャ 神の手』『操作された都市』などの“イ・ハニ”。『犯罪都市』『守護教師』などの“チン・ソンギュ”。『ビューティー・インサイド』『コンフィデンシャル/共助』などの“イ・ドンフィ”。ドラマで経験を重ね、今回商業映画で初主役となる“コンミョン”。この5人がとにかくユーモラスで、1度鑑賞すればすぐに好きになると思います。

その主人公勢と対峙する悪役を演じる俳優陣も顔ぶれは濃いです。『JSA』『高地戦』の“シン・ハギュン”や、『スウィング・キッズ』の“オ・ジョンセ”といったメンツが立ちはだかり、こっちはちゃんと怖いです。この主人公側と悪役側のギャップもまた面白いんですよね。

バイオレンスなシーンもありますけど直接的な描写もないですし、子どもでも観れる韓国映画エンターテインメントとして『エクストリーム・ジョブ』は推薦できます。子どももバカウケできるギャグもてんこ盛りですから。

なにより韓国チキンを食べたくなるのは間違いありません。

オススメ度のチェック
ひとり◯(笑って気分爽快)
友人◎(友達同士でエンタメ満喫)
恋人◯(気楽に見られる)
キッズ◯(子どもでも楽しい)

『エクストリーム・ジョブ』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『エクストリーム・ジョブ』感想(ネタバレあり)

麻薬捜査班、チキン店を開業!

犯罪を撲滅させてみせるという熱意だけはあるものの、そのエネルギーが全て空回りして大失敗をしてばかりの麻薬捜査班。コ班長チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェホンのいつものメンバーを従えて、今日も映画みたいにカッコよく突入するつもりで頑張ってみたものの、犯罪者も呆れるダメダメさを見せてしまっただけ。犯人を必死に追うも、結局、大衆は犯人に公然と立ち向かった一般の女性をネットで讃えていました。

当然のように上司には嫌みを言われます。「麻薬捜査班は刑事に向いていない」とまで断言され、他の班は確実に成果を上げているので、このままでは麻薬捜査班自体が解散の危機です。

そんなキャリア存続のピンチの中、藁にも縋る思いで実績を上げたいと願っていると最高のタイミングで有力情報が舞い込んできます。イ・ムベという極悪人として界隈では有名な奴が怪しい動きを見せているというのです。こいつを逮捕できれば間違いなく麻薬捜査班の汚名は返上できます。

さっそくアジトと思われる建物を前に車から張り込みを開始しますが、すぐに尻尾を出すとも思えません。長期戦になりそうです。しかし、ストーカーで通報されて捕まってしまい、危うく警察だと周辺住民にバレそうになります。

このままでは埒が明かない。捜査対象のアジト前のフライドチキン店でたむろし、策を練るべく5人で悩んでいると、そのアジトにイ・ムベが現れたのが店の中から見えます。慌てふためく5人。しかし、店長に不信がられ、釈明していると、イ・ムベは消えてしまいました。

けれども思わぬアイディアが浮かびます。なんでもこのチキン店は向かいのアジトから注文がよくくるらしく、というか向かいからしかこないようです。しかもこの店は客が全然来ないので売りに出したとのこと。つまり、ここの店を買って営業しながら張り込めばいいのでは? でもそんな金は当然どこにもなく、一同は苦しい顔になるしかありません。

コ班長は帰宅すると、妻が昇進を全然しない夫にすっかりうんざりムード。仕方なく娘とチキンを食べに行くと、娘にすら励まされてしまいます。やるしかない。

決断したコ班長は退職金を犠牲にして店を買い取る賭けに出ました。チキン店を拠点に張り込み開始です。

しかし、客が何度も来てしまい、そのたびに捜査資料を隠すので面倒な事態に。客足は全くないわけではないようで、このままでは怪しまれます。監視対象の相手は依然として動きがありません。やっぱりチキンを売った方がいいのではという意見も出ます。

盗聴していると、ずいぶん血気盛んで、そのまま流れでチキンを買ってこいとの言葉が耳に。チキンを揚げないとマズいと確信するも、誰もちゃんと作ったことがありません。とりあえずみんなで各自のやり方で揚げて味見してみます。すると実家が焼き肉屋だというマ刑事のチキンが予想を超える美味しさ

さっそく提供することにして開店しますが、タレのことは考えておらず、土壇場でカルビのタレを使った新しいチキンを考案。これが客に好評で、たちまちネットで評判は拡散。行列ができるほどの大人気店になってしまいます。

監視捜査そっちのけでチキン店の営業にてんてこ舞いになってしまう一同。もちろん顔バレしかねないメディア取材は拒否です。

さすがに本来の目的がおろそかになっては本末転倒なので、これなら誰も来ないだろうと極端な値上げをしてみますが、高級チキンとして新ブランドを確立したことになり、さらに客は熱狂。日本人客の観光コースにもなってしまい、店の繁盛が止まりません。

しかし、そこに思わぬ訪問者がやってきます。前代未聞のチキン店の偽装営業。これは誰の胃袋を満腹にさせるのか…。

エクストリーム・ジョブ

韓国のヒーローはチキン店だった

韓国映画をよく観ている人は知っていると思いますが、韓国では映画においても権力を容赦なく批判します。政府はもちろん大企業も大手マスメディアも、あらゆる権力は腐敗するものだという性悪説を前提にその実態に鋭く切り込むのが韓国流です。

当然、警察という組織もこれまで散々「悪者」として描かれてきました。韓国国民も警察に対してバカ正直に正義の味方という印象を持ってはいないと思います。

では警察を主役にした正義を貫く映画は作れないのか。例えば韓国で大ヒットとなった『ベテラン』(2015年)は刑事を主役にした勧善懲悪ムービーでしたが、その説得力として敵となる犯罪者を徹底して極悪に描くことで、相対的に警察を応援できる感じにしていました。でもこのやり方もやはり限度があります。

韓国映画にはアメリカ映画のようにアメコミヒーローはいません。国民に支持される「正義の存在」を作り上げないといけないわけです。

どうやって警察という腐敗しかねない国家権力に属する人間を主役に「正義」を描くか。その答えこそが「フライドチキン」でした。

作中でもセリフがありますが、フライドチキンはいつも韓国庶民の味方。だったら正義感はあるけどダメダメな警察の奴らがチキン店を営業することになる…これでいこう!

このアイディアが『エクストリーム・ジョブ』の成功の秘伝の味でしたね。まさしく韓国でしか成しえないアイディア勝ちです。

あの麻薬捜査班の主人公たちがチキン店を営業すべく奔走する姿はどうしたって庶民的な立場を代表してくれますし、親近感が湧きます。しかも、チキン店を切り盛りするという過程を描くことで、ちゃんとチームワーク映画としてのジャンルの面白さも確保できる。一石二鳥じゃないですか。

ユニークなのが途中でチキンの価格をありえない額に値上げするのですが、それでも客が来てしまうという展開。要するにあそこであのチキン店は“腐敗”してしまいます。それをマスコミにスクープされて、一度は廃業の危機に。でもそこで反省するわけです。

そしてあの麻薬捜査班たちはチキン店の使命に立ち返り、心機一転で営業に精を出します。その熱意がチェーン店に偽装した麻薬販売ルートの特定に繋がる。ちゃんと誠実さが報われる展開になる。なんか言葉で書くとバカバカしさも増しますが、でも物語としてはすごく真っ当で正しいんですよね。

敵は敵でチキン店を悪用しており、こっちもチキンという存在を軸に真逆の立ち位置。チキンを真に愛する者と、チキンを金儲けの道具としか思っていない者。ラストはその両者がぶつかり合います。

「お前らは零細企業をちっともわかっていない!」と叫ぶ主人公たちは、韓国庶民の味方にして、ヒーローとして完全に確立していました。

ここまでチキンというネタありきで真面目に物語を構築できるのは本当に凄いなと思います。

あの5人をずっと見ていたい

『エクストリーム・ジョブ』の魅力はなんといっても主役の5人。

まずコ班長。妻に頭があがらない自責の念を常に抱え込んでいる彼。言ってみれば男らしさ的なリーダーシップを発揮することができないでいる男です。そんな彼が別に古い男性像に頼ることなく、チキンひとつで奮い立つさまは、なんかもうジェンダー論なんて吹き飛ばすパワーがありました。というか、最後はあだ名どおりのゾンビ・モーションをやってみせるという、それありかよ!というギャグをかましてきますからね。あのシーンで私も「え?この映画のリアリティラインはそこなの?!」とびっくりでした。でも楽しいからいいか…。

そして顔の面白さという意味ではチーム一番であるマ刑事。料理に対する情熱含め、完全にギャグキャラになってしまっているのですが、どうしてこうも漫画から飛び出たみたいな実在感を出せるのか。このマ刑事を演じた“チン・ソンギュ”、『犯罪都市』では凄い怖い役を熱演していたのに…。最終的には料理でも捜査でもなく、自分の顔をコンプレックスを全開にして敵をぶちのめすあたりが彼の真のアイデンティティなんでしょうね。ラストで一緒に昇進してたけど、絶対にチキン店に転職した方がいいのに…。

チャン刑事はチームの紅一点。普通、こういう紅一点の女性キャラは美人として描かれがちです。しかし、この映画はそこはジェンダー平等。女性もなぜかぼんくらな感じに描きだします。一応、言及をしておきますけど演じた“イ・ハニ”はミス・コリアに選ばれるくらい容姿も綺麗な人なんですよ。でもこの映画ではそんなことは微塵も感じさせない役作り。冷静な常識人なのかと思ったら案外とそうでもない。そんな彼女も怯えるホールマネージャーの職と、ラストで見せるイマドキこんなギャグ全開の演出あるかとツッコみたくなるキスシーン。楽しすぎます。

その中で唯一の常識を見せようとしているのが運転担当のヨンホ。ひとりで車を追跡するも失敗に終わり、店に夢中な仲間に怒るも、「こっちだって苦労しているんだ」と逆に言い返され、困惑するしかない姿がまた滑稽です。真面目キャラの笑いを醸し出すセンスもいいですね。どうやら軍の特殊部隊にいたらしい彼の過去はわかりませんが、きっとそこでも真面目過ぎてヘマをしたのだろうなということは推測できる。その安直さが嫌いになれません。

最後の5人目は若手のジェフン。彼はもう完全に麻薬捜査犬みたいなもんです。チームのペットです。玉ねぎやニンニクをひたすらに扱う厨房補助にも必死に耐える忠実さ。それでいて明らかに総合的な判断能力を欠如しているバカさ。ただひたすらに可愛い。終盤の乱闘シーンでのヤバさはチームの中でも突出していたかもしれません。正直、あの子の未来が心配なのですけど、正しい大人が導いてあげてほしいです。とりあえずこのジャガイモお願い…。

この5人は本当にずっと見ていられる愉快さで、このメンバーを揃えたらそれはもう面白いに決まっています。だいたい何やらせても楽しそうじゃないですか。

敵のメイン2人もすごく韓国映画らしい悪役っぷりなのですが、この主人公5人の面白オーラで塗りつぶされてしまっているんですよね。それくらいにあの5人は凄いです。アイドルとかやったら応援したい…。

こうなってしまうと『エクストリーム・ジョブ』、もっとシリーズ化してほしいのですけど。

ハリウッドリメイクの企画が進んでいるらしいですが、これは韓国の食文化という土台があるから面白いのであって、そのままアメリカに舞台をスライドしても全然成り立たないと思うのですよね。ハリウッドさん、素直に韓国に製作費を渡してオリジナルの続編を作らせてあげてください。

『エクストリーム・ジョブ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 80%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED エクストリームジョブ

以上、『エクストリーム・ジョブ』の感想でした。