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『サイコ・ゴアマン』感想(ネタバレ)…このスポーツは理解できない

サイコ・ゴアマン

このスポーツは理解できない。それでいい!…映画『サイコ・ゴアマン』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Psycho Goreman
製作国:カナダ(2020年)
日本公開日:2021年7月30日
監督:スティーブン・コスタンスキ
ゴア描写

サイコ・ゴアマン

さいこごあまん
サイコ・ゴアマン

『サイコ・ゴアマン』あらすじ

無邪気に家の庭でボール遊びに興じていた8歳の少女ミミと10歳の兄ルークは、あまりにも偶然ながら太古の昔より地底に埋められていた悪魔「残虐宇宙人」を蘇らせてしまう。それは人間の命など簡単に奪える残酷さを持っており、銀河中から恐れられる残虐宇宙人の復活により地球は絶体絶命の危機に陥る。しかし、光る謎の宝石をミミが手にしたことで、残虐宇宙人は彼女に絶対服従せざるを得なくなってしまい…。

『サイコ・ゴアマン』感想(ネタバレなし)

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五輪よりクレイジーボール!

よし! 今からクソ暑い東京でやっているオリンピックのどの競技よりも面白いスポーツを教えるぞ!

まずボールがある! ないなら今すぐ用意しろ!

このボールを手に持つ。相手も同じく別のボールを持つ。ボールのサイズはボウリング球より少し小さいくらいだ。結構固いぞ。

その相手と向き合う。そして…ボールを相手めがけてぶん投げる! 殺るか殺られるか、死ぬ気で投球しろ!

相手に当たらなかったら、またボールを掴んで投げろ! とにかく投げまくるんだ!

そのボール同士が空中で衝突したら…それはスペシャルタイムだ!

ボールは忘れろ! 相手のところまでダッシュで突っ込み、ありったけの暴力を決めろ!

相手をぶちのめすことができたら、きみの勝ちだ! やったな!

この最高にクールなスポーツが…「クレイジーボール」だ!!



はい、落ち着きました。でも今回紹介する映画はこの狂ったスポーツの始祖にして、全宇宙でも狂人として恐れられる、そんな8歳の女の子の物語です。タイトルは女の子らしく可愛いタイトルです。

その名も『サイコ・ゴアマン』

うん、可愛いですね。なんかこうキュートな感じがする。アイドルグループの名前とかにしてもいいと思う。

…真面目に紹介しよう…。本作『サイコ・ゴアマン』を注目していた人はあんまりいないかもしれませんが、この映画は知る人ぞ知る、あのクリエイター集団の新作であり、待っていたファンはいました(私も)。

そのクリエイター集団というのは「アストロン6(Astron-6)」というカナダの映像制作グループ。2007年に設立され、とにかくキレのある作品を生み出し続け、一気にカルト的な支持を得ました。2011年の『マンボーグ』や、最近だと2016年の『ザ・ヴォイド』など、その作風は80~90年代のホラーテイストでグログロバイオレンスとコメディを合わせたようなスタイルです。あえて小規模製作を貫いており、そのお手製な感じもまた人気の理由のひとつです。ちなみにアストロン6の主要メンバーは5人。じゃあ、なんで「6」を名乗っているの?という話ですが、公式サイトによれば6番目はあなただよ…ということだそうです。なんだよ、かっこつけやがって…(好き)。

そのアストロン6の2020年の最新作である『サイコ・ゴアマン』。結論を先に言わせてもらうとこれがもうやってくれたな、と。アストロン6史上最高傑作、ついにひとつのバシっとハマった完成形にこぎつけたような…。そんな感無量をいちファンとしては感じている…。個人的にはずっとシリーズ化してほしいくらいですよ…。

これは私の大袈裟とかでも何でもなく、実際に映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でも批評家スコアが「91%」のフレッシュを獲得していますからね。『プロミシング・ヤング・ウーマン』よりも高評価ですよ。なんか申し訳ないよ…。

監督はアストロン6のメンバーである“スティーブン・コスタンスキ”。『サイコ・ゴアマン』の成功はじゅうぶん評価されるべき功績ですし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の“ジェームズ・ガン”みたいにこのジャンルから羽ばたいていけるといいなぁ…。

この『サイコ・ゴアマン』、どんなストーリーなのかというと、幼い妹兄の子ども2人が偶然にも宇宙最凶の怪人と遭遇してしまい、偶然にもその怪人を従えることに成功し、あとはやりたい放題をしでかす…という、ハチャメチャな世界観です。これ以上、言葉で語ることもないですね。ほんと、ただただハチャメチャですから。あとは映画を観て。

もちろん残酷描写…というかゴア表現がそこらへんを歩くカラスと同じくらい自然体で挿入されるので、そういう演出が苦手な人にはオススメしづらいのですが、基本的に本作のゴア残酷描写はリアリティを追及している感じではなく、あえての作り物っぽさでふざけていくノリになっているので、そんなに嫌悪感を与えるものではないと思います。たぶん子どもが観ても大丈夫。映画自体が幼稚園児くらいのテンションだし…。

なお、この映画を見せたことで子どもが「クレイジーボール」をやりたがって大怪我をしても、私は一切の責任はとりませんのでご了承ください。

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:カルト映画の世界へ
友人 4.0:趣味の合う者同士で
恋人 3.5:こういうノリでいいなら
キッズ 3.5:教育上は良くない?
↓ここからネタバレが含まれます↓

『サイコ・ゴアマン』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):少女に調教される怪人

宇宙は広く深く果てしなく…そして凶悪な奴らで満ち溢れています。今まさにそんな危険極まりない存在が世界を脅かしかねないことに手を染めている…。

そんなことを知るわけもない、地球で暮らす8歳の少女ミミと10歳の兄ルーク。庭で超ハイテンションで遊んでいるのは、やたらと白熱しているボール投げ。ミミいわくこれは「クレイジーボール」というらしく、どうやらルークは付き合わされている要素。ミミの殺意すら感じられる本気の投球で、当たったら絶対に痛いでは済まないそれなりに大きいボールが飛んできて…。

ルークはクレイジーボールに負けたのでミミに従わなくてはいけなくなりました。夜中に庭で穴掘り。すると謎の赤く光る物体を見つけます。宝石みたいです。ミミがなんとなく触れると宝石を取り出せてしまい、これまた謎の反応が…。急いで穴から退避する2人。土で埋め、土をならして家に戻ります。

両親のスーザングレッグは子どもたちを寝かしつけます。けれどもミミはなおも目をギラギラさせてハイテンションで声がデカいです。親がいなくなった後、妹兄の2人は壁を叩き、会話。母も壁叩きで「寝なさい」と指示。なんだこの家族…。

その夜、その穴から怪物が這い出たことをこの家族は知る由もありません。その二足歩行で歩く怪物は近くの廃工場でたむろする男たちをぶっ倒し、謎のパワーで蹂躙。男たちはただ茫然とするのみで、頭をダブルで引っこ抜かれてしまう始末。死にたくないと命乞いする最後の男に対して不敵に笑う怪物。絶叫だけが…。

翌朝、家族一同、庭にぽっかり開いた穴を見つめます。埋めたはずなのに大穴です。アライグマの仕業には見えない…。

ミミとルークは工場への道をたどり、怪人を発見します。謎パワーで動きを封じられるルーク。しかし、ミミは動じることなく「私は男ではなく女だ!」と激しく自己主張。怪人は圧倒されます。しかも、穴で見つけた宝石を見ると反応が変わりました。どうやら命令できるらしい…そう知ったミミ。これは完全にこっちのものだ…。

怪人をコントロールできるとわかってすぐに都合のいいオモチャ同然に考えるミミは、名前をつけようとします。「モンスターマン?」とか案を出していくミミにルークも意見を出します。「サイコマンは?」「ゴアマンは?」

そして決まりました。ミミは告げます。「サイコ・ゴアマン!」…満足そうなミミ。「略してPG」

今日はもう帰ろうとその怪人、サイコ・ゴアマンを置き去りにして帰ることにしたミミたち。ミミは相変わらずのハイテンションです。茫然と取り残される怪人。

一方、遥か彼方の宇宙で行われていた宇宙会議ではテンプル騎士団が議論を交わしていました。問題は地球にいるヤツの存在です。パンドラは事態の収拾に乗り出します。

ミミとルークは友人のアラステアをサイコ・ゴアマンのもとに連れていき、紹介。座って深刻に自身の生い立ちを語り出すサイコ・ゴアマンをテキトーに流し、どう遊ぶのかはやる気持ちを抑えます。

そしてついに両親も公認というかたちでサイコ・ゴアマンと毎日をエンジョイすることに。服を買ったり、犬の散歩をしたり、バンドをしたり、もう楽しさでいっぱいの日々を過ごしますが…。

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バイーーーーーーー!!!

『サイコ・ゴアマン』の魅力を100%中80%くらいは担っているのがあのミミだと思います。もうね、サイコ・ゴアマンが怪人なら、あのミミは怪…怪妹? ともかくとてつもないパワーを放っており、映画の始まりから終わりまでそのエネルギーが切れることはありません。常にフル充電で全力解放状態です。

冒頭からもうヤバイテンションで、この子、もしかしてクスリでもやっているのではないかという、異様な雰囲気。

何よりもその冒頭からわりと平然と登場するミミ考案のクレイジーボールというスポーツが、映画全体の要になってきます。スポーツと書きましたけど、あれ、スポーツというほどのルールはありませんね。表向きは規制なしのドッジボールですけど、最終的な決着は暴力で決まるという、そこらへんの格闘技よりもバイオレンスなボール遊び。ルーク、何度か死んでいるんじゃないかな…。

そんなミミが怪人(サイコ・ゴアマン)という最高の玩具をゲットしたときのあの8歳とは思えない腹黒い笑みね…。ミミの方がサイコ・ゴアマンの名前にふさわしいのですけど…。

そこでサイコ・ゴアマンを連れ出しての好き勝手し放題。ここはまあ絵として楽しいところなのですが、あのアラステアを脳みそ目玉モンスターに変身させても何も罪の意識もなく、バイオ警官もすっかり仲間に従え、ここでも天性のボスっぷりを発揮。

そして極めつけは森での怪人たちを前にしつつの一瞬の裏切りを見せたサイコ・ゴアマンに対する仕打ち。もはやドン引きするレベルの謝罪要求。パワハラだ…8歳によるパワハラだ…。そのまま従順を誓ったサイコ・ゴアマンの本気モードの殺戮に「cool」とかうっとり呟いてしまうのだから、この子、サイコすぎる…。

ミミはすでに既存の人類の神など必要ありません。あれほど躊躇いなく十字架キリストを折る人いますか…。宗教への冒涜だと言っても、あの子には通用しないですよ。デーモンの化身か何かだもん…。

このミミを演じた“ニタ=ジョゼ・ハンナ”。ちょっと逸材すぎて恐ろしいくらいだった…。

少女を主人公にすると邦画やアニメだとどうしても男性観客目線に応える消費物になりがちですけど、この『サイコ・ゴアマン』のミミは完璧に消費する側の存在であり、下劣な相手は観客であろうとも寄せ付けないパワフルさがありましたね。

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8歳の少女に敵わない兄と両親と怪人

この全盛期のゴジラ並みに向かうところ敵なしのミミを前に、完全に屈している周囲の人たち。

その筆頭にして最も身近で従属しているのが2歳年上の兄のルーク。この子がまた不憫で…。おそらくずっと妹に敵わないと諦めがつき、従うことにしてきたのでしょう。クレイジーボールに付き合っているその冒頭からその空気が伝わってくる…。

それでもサイコ・ゴアマンの登場によって妹の関心がそっちに移り、これで自分はこきつかわれなくて済む!と安堵したら…。まさかの妹による兄への殺害命令ジョーク。い、妹がマジで怖い。そう脳内で真の恐怖を感じた瞬間だったでしょうね。このままではガチで妹に殺されるかもしれない、と。

確かにサイコ・ゴアマンの登場によってむしろルークは用済みになってしまうかもしれないのですからね。

最終的に妹兄の仲はミミの「ごめん」で修復されてましたけど、あれでいいのか、ルーク。謝罪としてはかなり軽い方だぞ。サイコ・ゴアマンなんてもっと酷い謝罪を押し付けられていたんだぞ…。

その惑星ガイガックス出身のサイコ・ゴアマンも恐怖の存在感は数分ともたず一気にミミの支配下に。このサイコ・ゴアマンのネーミングも良くて、略して「PG」ということはあれですね、映画のレーティングにもある「PG(Parental guidance)」と引っかけたギャグですね。親じゃなくて子どもによって規制がかかった怪人です。

以降は自ら玩具兼着せ替え人形と化すことに無抵抗になっていくサイコ・ゴアマンですが、「hunky boy」に夢中になったり、なんだかんだで地球を謳歌している気がする…。相手の殺し方は『モータル・コンバット』スタイルですが…。

ミミとルークの両親もなんというかわりと無力。自由奔放な子育て方針なのか、それとも手が付けられなくなって考えるのをやめたのか、介入はあまりしません。それにしてもあのグレッグを通信で呼びつけるサイコ・ゴアマンのギャグシーン(絶叫スタイル)のクドさ、私は嫌いじゃない…。

また、あの怪人たちもいいですね。あれは日本人的に親しみやすい言い方で言えばやっぱり『仮面ライダー』なんかでおなじみの「怪人」という表現で正しいと思いますが、みんな個性豊かで…。あの特撮アートセンスはやっぱり見事であり、アストロン6のクリエイティブの賜物でした。

ラストのあまりにも開き直ったオチも良くて、とりあえず自分の周囲は守る、地球や宇宙全体は知らん…というスタンスは本作らしさの極み。

アストロン6作品はこのノリでこれからも私たちの傍にいてほしいなと思います。

『サイコ・ゴアマン』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 63%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Raven Banner Entertainment サイコゴアマン

以上、『サイコ・ゴアマン』の感想でした。

Psycho Goreman (2020) [Japanese Review] 『サイコ・ゴアマン』考察・評価レビュー