汚職と腐敗のワールドカップは続く?…Netflixドキュメンタリーシリーズ『FIFAを暴く』の感想です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2022年)
配信日:2022年にNetflixで配信
監督:ダニエル・ゴードン
FIFAを暴く
ふぃふぁをあばく
『FIFAを暴く』あらすじ
『FIFAを暴く』感想(ネタバレなし)
ワールドカップの熱狂の裏で…
カタールで2022年に開催されたサッカーのFIFAワールドカップ。サッカーの大会における世界最高峰のイベントであり、世界中のサッカーファンが熱狂します。
2022年のカタール大会は日本も盛り上がりました。グループリーグでは強豪であるドイツ代表やスペイン代表に勝利し、予想外の波乱で沸く世間。ラウンド16敗退という結果に終わりましたが、日本にとってはかなりの健闘で、普段はサッカーの話題なんて1ミリもださないような人たちも試合に注目していました。
そんなカタール大会でしたが、視野を広げれば、サッカーの試合勝敗以外の面でも話題の多いイベントでした。大会自体に激しい非難が起こったからです。その主な理由には、カタールの人権問題があり、カタールでは同性愛が事実上犯罪化されており、性的少数者への厳しい弾圧がまかり通っています。他にも隣国イランでは女性への迫害も起きている真っ最中。こうした中東全体における人権への重大な侵害を問題視し、出場選手の中には「OneLove」の腕章をつけたりなど、抗議の意思を示す自主的な動きもありましたが、それさえもカタール側に封じられ、余計に批判が巻き起こる状況に…。
しかし、そもそももっと根本的な問題がありました。カタール開催の決定はおろか、ワールドカップを主催する国際サッカー連盟(FIFA)の存在そのものを揺るがすとてつもない疑惑…。この大問題があるゆえに、今回のFIFAワールドカップはかつてないほどに猛烈に非難轟々なわけです。
その大問題とは一体何なのか。それはこのドキュメンタリーシリーズを見れば一目瞭然です。
それが本作『FIFAを暴く』。
ドキュメンタリー『FIFAを暴く』は、2015年に汚職の容疑でスイスの司法当局がFIFAの幹部を次々と逮捕した一連の事件の全容を、各関係者や専門家の証言を基にしながら、生々しく解き明かしていく作品です。
ニュースで知っている人もいるかもですが、あらためてその詳細をこのドキュメンタリーで突きつけられると「こんなことが起こっていたの!?」と驚愕で唖然とします。もうちょっとした組織内の不正という次元ではありません。国際的なサッカーのマネジメントの根幹に関わる大事件。もはや「FIFAはサッカーを利用した超巨大犯罪組織マフィアだった」と言っても過言ではない…というか作中ではそう言い切っているのですが…。
私はサッカーには全然興味が無くて、今回のカタール大会の日本の試合も1秒も見ていないのですけど、FIFAのこの問題は注視しないとダメだなと痛感しました。
みんなサッカーの国際的な試合ならいともたやすく注目するわけです。ルールなんてわからなくても…。イベントの熱気と「みんな盛り上がっているから自分も盛り上がっておかないと…」という同調意識に押されて…。
でもサッカーの裏で起きている国際的な不正には目を背ける。「そういう難しいことはちょっと私には…」とか「政治的な話はなんだかね…」なんて言い訳を並べて…。
このダブルスタンダードはまさしく犯罪者側には都合がよく、結局のところ、FIFAの巨大な不正を後押ししたのは私たちではないのか…。
FIFAワールドカップだけではありません。2022年は、2021年開催の「2020年東京オリンピック」における数々の不正も明らかになり、現在進行形で捜査が続行中です。多くの大企業と組織委員会が平然と癒着を深めていました。これはFIFAワールドカップと全く同じ構造です。ドキュメンタリー『FIFAを暴く』を見ていると、2020年東京オリンピックとシンクロしすぎていて、専門家の指摘もグサグサ突き刺さり、そのまま2020年東京オリンピック・検証ドキュメンタリーとかに引用してもいいくらいじゃないかなと思います。
もちろんばつが悪い気持ちにもなります。「なんか自分も盛り上がってしまった手前、今さらそんな態度を変えるというのも…」と。「感動が薄れるから知りたくなかった」と真っ先に考えてしまう人もいるでしょう。でもそれでいいんだと思います。私たちは常に過ちを認め、反省し、より正しい行動をとれるように努めないといけない。大事なのはその一歩を踏み出せるのかということ。
自分はスポーツを純粋に楽しみたいだけなんだ!…だったら、なおさらこの不正には目を向けないといけないですよね。このままだと純粋とはあまりにかけ離れた不純そのものな構造が放置されるのですから…。
ドキュメンタリー『FIFAを暴く』は、スポーツの在り方を問う本当に大切な作品です。スポーツに興味ある人も、興味ない人も、一緒に本来あるべきルールを考えてみませんか。
『FIFAを暴く』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :知っておくべき内容 |
友人 | :スポーツファン同士でも |
恋人 | :デート向けではないが… |
キッズ | :醜い大人だかりだけど |
『FIFAを暴く』予告動画
『FIFAを暴く』感想(ネタバレあり)
FIFAの歴史の開幕はまだマシだった
ドキュメンタリー『FIFAを暴く』はまずそもそも「国際サッカー連盟(FIFA)って何?」というところから懇切丁寧に始めてくれます。
FIFAの始まりは意外なほどあっけないスタートでした。1904年、ヨーロッパの協会7つが結成され、世界のサッカーを統括する組織を設立しようじゃないかという会議が行われ、そしてFIFAが誕生します。といっても当時のFIFAの総会は28名しかおらず、初代会長となった“ロベール・ゲラン”はたったの28歳。全員素人でカネなしと、権力とは遠すぎる存在で、パリのビルの一室でFIFAを運営していたそうです。
この頃から世界大会をやろう!と張り切ってはいたのですが、この人たちにはいかんせんおカネもなく、オリンピックがあるのでその陰に隠れてしまい、そうこうしているうちに世界大戦も起きるしで、全く何もできず相当な年月が経過します。
そしてやっと1930年にウルグアイで第1回W杯が開催されます。この当初は理想主義の上に純粋にサッカーの勝敗に一喜一憂する…そんなイベントでした。しかし、このW杯は潜在的なサッカーの人気を証明し、想定以上の大成功をおさめ、サッカーの爆発的に人気に火をつけ、好循環を生みます。こうしてFIFAは資金難から開放され、FIFA本部をスイスのチューリッヒに移し、アマチュアな組織はまともになった…という初期の歴史です。
そんなサッカー愛だけの無垢なFIFAは1974年に変貌します。
当時の会長である“スタンリー・ラウス”に対して“ジョアン・アヴェランジェ”が会長選挙で挑戦を叩きつけたのです。ラウスはイングランドの元サッカー審判員で、アヴェランジェはブラジルスポーツ連盟の会長だったので、「イングランドvsブラジル」になっているのがなんだかシュールです。
アヴェランジェはとにかく政治的に巧みで、見事に新会長に当選します。
こうしてFIFAはビジネスと政治重視に軸足を移すように…。表向きは慈善、本音は選挙の票のために、アフリカの開発支援に着手。そこで資金欲しさに頼ったのが、スイスの実業家の“ゼップ・ブラッター”。ブラッターはサッカーなんて何も愛着もないですが、とにかくカネを集めることに長けています。そのブラッターの見せた技が「スポンサーシップの導入」でした。
作中でも指摘されていますが、冷静に考えると、スポーツ選手の服やスタジアムに企業広告が並ぶのは変な光景です。サッカーに全然関係ないし、むしろプレイの目障りですよね。でもこれを当たり前にしたブラッター。今や誰もこの光景に違和感を感じません。
同時にサッカーはカネを稼ぐフィールドになったわけです。サッカーを単に楽しみたいだけなら、観客の観戦チケットや飲食で最低限の収益をだして運営すればいいはず。しかし、ブラッターはサッカーよりもカネなのです。儲けたいのです。それもとてつもなくたんまりと。
このブラッターの極端な儲け主義は彼がFIFAの新会長になった1998年に盤石のものとなり、サッカー選手はカネを集めるためのボールを蹴る駒となり果てました。
開催国は政治とカネで決まる
ドキュメンタリー『FIFAを暴く』を見ていて思わず言葉を失ってしまうのは、ワールドカップ開催国の選考があまりにも政治とカネで決まっているということ。作中の専門家の解説で知ると、本当に世の中の大会の位置づけ自体の見え方が変わってしまいます。ここまで政治とカネでどっぷり決まるのか!と驚きつつ、その「どこが開催国になるか」という一連の結果が政治的ストーリーと恐ろしいぐらいに綺麗に合致しすぎていて身震いする…。
根本的な話、FIFAがビジネスありきになったのは前述したとおり。そしてビジネスにおいて利益を高めるのに大事なのは市場拡大です。FIFAもカネのために開催国を戦略的に拡張し、市場を広げようと目論みます。
当然、いかにも金儲け主義全開にしていると世間から「あれ?」という目で見られてしまうので、カバーストーリーが必要です。そこで政治を利用するという…。
ネルソン・マンデラまで駆使しながら2010年は南アフリカでの開催にこぎつけ、そして欲を一気にだしてきて2018年と2022年を2ついっぺんに決定することに…。ここでボロがでるんですが…。
結果、2018年はロシア、2022年はカタールに決定。ところが「なぜカタール?」と疑問噴出。入札優位な国を差し置いて、明らかに欠点だらけのカタールが選ばれた理由とは…。もちろんカネでした。賄賂です。
カタール大会では開催にあたって批判が渦巻いたわけですが、その際に「スポーツに政治や人権を持ち込むな」という対抗意見も飛び出しました。でもFIFAの実態を知れば嫌というほどにわかりますが、FIFA自身が誰よりも都合いいように政治と人権を積極的に使いこなす組織なんですね。ある時は、人権活動の偉人を持ち上げて開催の大義名分を演出し、ある時は、人権侵害する国の所業をスポーツウォッシングで無かったことにする…。
本当にカネのためならいくらでも手の平を返すような組織体質です。
FIFAは犯罪組織になった。では今は?
そのFIFAの裏社会を牛耳る主要人物がこのドキュメンタリー『FIFAを暴く』では浮かび上がってきます。まあ、というか、悪びれることもなく何人かはインタビューに堂々と答えて顔をだしているんですが…。
北中米カリブ海サッカー連盟(Concacaf)の“ジャック・ワーナー”、アジアサッカー連盟(AFC)の“モハメド・ビン・ハマム”、汚職暴露のキーマンとなった”チャック・ブレイザー”、元サッカー選手で権力に目がくらんだ“ミシェル・プラティニ”…。
そしてFIFAファミリーの頭にしてゴッドファーザーである“ゼップ・ブラッター”。
ブラッターを中心としたこの人たちは、FIFA内で癒着したり、自己権力を高めるために暗躍したり、それはもう利益ありきのことしかしていません。典型的なマキャヴェリズムです。
しまいには善悪の境界線が完全にわからなくなってしまっており、2015年のスキャンダル以降も組織改善能力はゼロ。
作中では何人かは「あ、これはヤバイ組織だな」と察して辞めていったことも説明されていますが、良識があれば当然わかるんですよ。これは犯罪だなって…。でもこの主要人物たちにはそれが決定的に欠けていたんでしょうね。
白を切るブラッターは自分が不死身だと思っているのか、スキャンダルの中でも5回目の会長に選出されます。出馬する方も問題ですし、選ぶ方もどうかしていますよ。あの選挙イベントの会場シーンはFIFAの「終わってる感」がすごく滲んできています。なんかブラッターは「スター・ウォーズ」のダース・シディアス(パルパティーン)にしか見えなくなってくる…。
オチとしては会長を続行するも業界の支持を得られず辞任することになったブラッターと、その後任に“ジャンニ・インファンティーノ”が選ばれるという結末。でもこのインファンティーノがいかにも「僕、なんもわかってません」みたいな顔をしており、実際の振る舞いも明らかに権力性に無自覚でダメダメなんですが…。ちなみにこのインファンティーノ、スイスの弁護士らしいですが、国際オリンピック委員会総会で委員にも選ばれていますからね。同じ穴の狢ですよ、オリンピックも…。
呆れるしかないですが、ブラッターすらも現状は逮捕されておらず、「私には責任はない」と言い切る始末。
ドキュメンタリーに出演する有識者の「独裁者は基本的にスポーツをプロパガンダに使います」という言葉が重く染みる…。
なお、カタールで2022年に開催されたFIFAワールドカップに関する労働者の劣悪な状況の問題に関しては、ドキュメンタリー『The Workers Cup W杯の裏側』が詳しいです。こちらは労働者側に密着し、大勢の出稼ぎ労働者がカタール大会のために働く中、故郷に帰りたいがために同僚を刃物で刺すことまでする人も現れる、あまりにも過酷な労働環境が明らかになり、これはこれで別の側面でショッキングです。出稼ぎ労働者も色々な国からやってきているので、ちょっとしたワールドカップ状態となっており、自分たちが搾取されていることを自覚しながらそれでも働くしかない…辛い心情が露呈しています
ドキュメンタリー『FIFAを暴く』を見終わったら、そのまま『The Workers Cup W杯の裏側』もどうぞ(こちらはAmazonプライムビデオ独占配信)。
何度も言いますけど、サッカーを純粋に楽しみたいなら、このFIFAの犯罪組織体質はなんとかしないと話になりません。レッドカードどころではないのです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 82%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『FIFAを暴く』の感想でした。
FIFA Uncovered (2022) [Japanese Review] 『FIFAを暴く』考察・評価レビュー