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実写映画『がっこうぐらし!』感想(ネタバレ)…実写化は上手くいった?

がっこうぐらし

実写化は上手くいった?…映画『がっこうぐらし!』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:School-Live!
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年1月25日
監督:柴田一成

がっこうぐらし!

がっこうぐらし

『がっこうぐらし!』あらすじ

私立巡ヶ丘学院高等学校・学園生活部。胡桃、由紀、悠里、この部活に所属している彼女たちは学校で寝泊まりし、24時間共同生活を送る「がっこうぐらし」を満喫していた。屋上の菜園で野菜をつくり、みんなと一緒にご飯を食べて、おしゃべりをする。そんな楽しい彼女たちの学園生活には、ある大きな秘密があった。

『がっこうぐらし!』感想(ネタバレなし)

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学校で暮らしてみよう

子どもの頃、私は“学校にはなんでもあるんだ”と思い込んでました。小さな世界しか知らなかった私にとっては、学校はモノで溢れかえっており、全容を把握することもできませんでしたし…。ほんと、子どもの自分にとって、学校は巨大なアドベンチャーワールドみたいなものだったなぁ…。

一度だけ、その学校に寝泊まりしたこともあります。それが何かの学校行事で、体育館でみんなで寝たのですが、夜の学校なんて普通は知らないので、変な気分でした。まあ、でも学校でも全然暮らせるよね…くらいには思ったりも。

そんな学校も現在は災害時の避難所として活用される側面があります。幸いなことに私は学校に避難しなくてはいけない状況に追い込まれた経験はないのですが、避難した人は学校でしばらく暮らさないといけません。そして、実際の避難所として「学校暮らし」を体験した実例を見聞きするに、どうやらかなり問題点も目立つようで、私の子ども感覚な価値観はやっぱりお気楽だったんだなと反省。

なんでもあるようで案外と不便や弱点もいっぱいある学校という空間。誰しもが子ども時代にお世話になった場所ですが、それでも知らないことがまだまだあるのかな…。

その学校という空間を最大限に活かして物語を展開するトリッキーな映画が本作『がっこうぐらし!』です。

原作は海法紀光による原案、千葉サドルによる作画の日本の漫画で、2015年にはテレビアニメ化もされました。本作『がっこうぐらし!』はその実写映画版です。

漫画やアニメの絵柄を見てもらえば一目瞭然なように、非常に可愛らしいタッチで、女子高生たちが学校内で「学園生活部」という部活の一環として校内生活をする姿を描いています。起床から食事、就寝まで全部が学校の中で完結。まごうことなき「学園モノ」であり「部活モノ」。オタク界隈ではいわゆる「日常系」(英語では「Slice of Life」と呼ばれる)と称されるジャンルのほのぼのとした作品。

でも実は…という含みの部分が本作の重大な、そしてジャンルさえも変える決定的な特徴です。この「でも実は…」の詳細に関しては、テレビアニメの展開時は放映前に情報を制限していたそうで、それが功を奏して大きな話題になったみたいです。一方、実写映画版ではそんなに隠しておらず、たぶんアニメ化もしたし、今さらバレるもバレないもコントロールできないだろうと製作陣もある程度の“おまかせ”にしたのでしょう。しかし、この感想記事では一応、ネタバレなしの前半では伏せておきます。

こういういかにもオタクコンテンツ的な「原則的に女の子たちのみが主体となる作品」を実写映像化することは今や珍しくもなくなっていますが(最近だと『咲 Saki』など)、普通に実写で表現はできません。なぜならあまりにもフィクションすぎるから。あそこまで誇張(それを世間では平凡風に言えば「キャラクター」とか、批判風に言えば「オブジェクティフィケーション」とか呼んだりしますが)されていると、実写にすれば当然のように違和感が出ます。だから実写映画化という発表がされるだけで炎上したりしますが…。

しかし、現状の映画界は「アイドル映画」にするという方法でとりあえずの妥協点を見いだしているようで、『がっこうぐらし!』もアイドル映画にガッツリなっています。アイドル映画というのは定義が難しいですけど、実在のアイドルが俳優としてアイドル性をともなって出演している映画…といえばいいのかな。二次元と三次元の違いはあれど、両コンテンツでの女の子たちの“扱い”は類似しているんでしょうね。

本作にはメインの女子高生である登場人物が4人いますが、演じている“阿部菜々実”、“長月翠”、“間島和奏”、“清原梨央”の4名は秋元康プロデュースによるオーディション番組から誕生したアイドル「ラストアイドルファミリー」のメンバーの一部です。

私は漫画もテレビアニメもほとんど見ないし、アイドルに関しては全くの門外漢ですが、だったらなぜこんな映画を観るのかと言えば、未体験の世界に踏み込むほど知見は広がるから。やっぱりずっと同じジャンルの作品ばかり観ていると見方が凝り固まるのが自分でもわかりますし、好き嫌いせず、受容性を上げていきたい。すごい面白い映画に出会えるかもしれないですしね。

なお、偶然Amazonプライムビデオでアニメ版を配信していたので私はそちらも鑑賞しました。けど、原作漫画は読んでいないです(というか完結していないんですね)。後半感想では原作漫画・アニメ・実写映画の詳細な比較など、マニアックなことは一切(あまり?)していませんので、あしからず。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ファンでなくとも)
友人 ◯(学園モノ好き同士で)
恋人 ◯(お気軽に鑑賞を)
キッズ ◯(それほど怖くはない)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『がっこうぐらし!』感想(ネタバレあり)

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がっこうぐらし!…したい?

どこにでもありそうな普通の高等学校。生徒たちが無邪気に友達と会話し、授業を学び、日常を過ごす世界。高校3年生でツインテールの恵飛須沢胡桃(くるみ)は、憧れの先輩男子に気をとられるあまり転んでしまいます。そのまま保健室で先生に手当てをしてもらっていると、丈槍由紀(ゆき)という明るい生徒がベッドから話しかけてきます。先生のことを「めぐねえ」と親しげに呼ぶゆきにつられ、仲良くなるくるみ。このめぐねえは園芸部の顧問らしく、部活所属生徒の若狭悠里(りーさん)に呼ばれて、屋上の菜園へ。一方、くるみはあの憧れの先輩男子と仲良くなり、この日もその先輩がこちらに駆け寄ってくる姿が…。

そこで不自然にモヤがかかるように場面転換。次のシーンでは、なぜか教室で起床するくるみの姿が。ジャージから制服に着替え、スコップを持ち、それがいつものことのように部屋を出ます。

話が逸れますけど、あの土を掘ることに主に使われる道具…皆さんはスコップとシャベル、どちらで呼びますか? 地域で違うらしいですけど、私は大きいサイズだとスコップ、小さいサイズだとスコップかシャベルと呼ぶのが染みついているので、ここではスコップと表記させてもらいます。

そんなスコップ装備のくるみはある部屋へ。そこではゆきとりーさんが揃っており、めぐねえを呼んでくると、朝食を食べ始めます。その後、屋上の庭園で野菜類を収穫。

またもや話が逸れますけど、あんな庭園でジャガイモなんて育つのかとツッコまれそうですが、プランターでも育てられるのでなんとかなります。培養土の袋で育てるという裏技もありますし、工夫しだいです。

そんな穫れたての野菜を賑やかな教室で同級生に自慢するゆき。そのゆきを複雑そうな顔で見つめるくるみとりーさん。「ゆき、いくよ」と声をかけます。すると、先ほどまで教室は一転、誰もいない荒れ果てた教室が…。学校は荒廃し、外にはウロウロと歩き回るゾンビ化した生徒たち。上空から校舎を映す映像に変わり、屋上には「SOS」の文字。そこでタイトル…がっこうぐらし!

ひとり教室で授業をするゆき(本人はみんなと授業をしているつもり)をおいて出かけるくるみとりーさんの二人。ゾンビが入ってこれないようにしたバリケードを抜け、スコップとバットの武器を持ち、ピンポン玉で注意をそらし、ゾンビの群れを交わして進みます。途中、襲われるもなんとか撃退。お目当ての食品を手に入れ、ほっと安心するも、また強襲。しかし、ゾンビじゃなくて“人”でした。

噛まれてていないことを確認したこの子は、2年の直樹美紀(みき)。とりあえず4人(+1人)で食事しますが、みきはゆきに不信感を持ち、どういうことかと他の二人に聞きます。どうやらゆきはあの事件以来、事件は起こっていないように振る舞うようになり、幼児退行化している、と。「当分の間、あの子に合わせてくれない?」と頼まれるも納得いかないみきは、ここに閉じこもってもしょうがないと訴えます。

そして明らかになるのは全てが変わったあの日の出来事。

大切だった友人の喪失、恋を感じていた相手の変貌、学園生活部の誕生の瞬間、めぐねえの末路…。

このがっこうぐらしは相当にハードモードで大変だ…。

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私たちの日常系は作りもの

もう遠慮なくネタバレしますが、『がっこうぐらし!』は学園部活モノにゾンビをドッキングさせたジャンル複合型の作品です。学校を舞台にしたゾンビものは普通にあります。本作の場合は単に舞台にしているだけでなく、本来は相いれなさそうなジャンル自体を合体させているのが売りです。つまり、可愛らしい女子高生の日常と、可愛さなど欠片もないゾンビからのサバイバルというコラボレーション。

こういう既存の形式化したジャンルに正反対のゾンビを投入するスタイルは、『高慢と偏見とゾンビ』などゾンビ映画の派生としてはこれまたありきたりですが、『がっこうぐらし!』はその融合がかなり洗練されています。

そのキーポイントになるのが丈槍由紀(ゆき)のキャラクター性。彼女だけはゾンビパニックの現実から逃避して自分の中の「日常」を妄想して過ごしているという設定です。そのゆきに合わせるように、部活というかたちで違和感なくわざと明るい日常を演じるくるみとりーさん。

つまり、日常系ジャンルへのメタ的な視点があります。このジャンルの根本的な欠点ですが、あんな女の子たちが戯れる姿、日常系といいつつ、日常にはそうそうないです。だから、実写化すると余計に“わざとらしく”見えて、見ている方が恥ずかしい光景になります。でも本作はその日常をゾンビからの逃避というかたちで、作中内でも“作りもの”にしている(彼女たちもあえて演じている)ので、その難点がカバーされています。このアイディアはすごく上手いですよね。考えたもの勝ちです。

でもこの叙述トリック的な見せ方は結構作り手も悩ますでしょう。なにより観客の混乱を招きがちです(混乱させることに面白さもあるのですが)。実写映画ではかなり丁寧にフォローされていました。先ずは冒頭で事件が起こる前の正真正銘の日常を見せ、ゆきの幻想と狂気のギャップを見せ…こんな感じの種明かしの段取りが親切です。アニメではゆきはかなり誇張度が強いキャラでしたが、実写映画では比較的平凡でしたし、そこを抑えたのも良かったです。

もちろん叙述トリック的映画を散々見たことのある自分としては、『がっこうぐらし!』は親切すぎるので、もっと『マローボーン家の掟』くらい容赦なくてもいいのにと若干の物足りなさは否めないですけど、まあ、そこはしょうがないか…。

あとアニメや漫画と比べて誇張されたキャラビジュアルができないぶん、“陽”の部分を出すために、くるみの恋愛要素を挿入したことで別の意味で余計にベタ化した…というのもありますが。この恋愛は王道すぎて、作品の持つ“辛い現実といかに向き合うか”というテーマにそぐわない気も…。

私の好みとしては、ゆきの元から保健室を避難所にしているあたりから推察できる学校に馴染めない“陰”、最も真面目そうに見えるりーさんもめぐねえを感じているという孤独さを感じる“陰”、それらの側面の方が気に入っています。

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アイドルだからサバイバル慣れ

ゾンビ要素の組み合わせの上手さは漫画やアニメ譲りですが、実写映画『がっこうぐらし!』ではそこにアイドル映画としての要素もプラスして、これまたそのアイドル要素を上手く適合できているように思いました。

この出演陣の所属するアイドルグループ「ラストアイドルファミリー」。私は全然知らないので、この手の分野にはやたら雄弁な日本語版Wikipediaの情報を丸々参考にさせていただくと、オーディション番組で、企画の中でアイドルとしての生き残りをかけてメンバーが競争していくのだそうです。まあ、最近のアイドルはみんなこんな感じの競争自体のエンタメ化が定番なのでしょうけど。

このアイドルとしてサバイバルしてきた彼女たちだからこそ、学校内でゾンビパニックからサバイバルする姿に重ねがいがあるというわけで。それは個々人の関係性も重なるようになっており、例えば、“長月翠”が演じるゆきと、“清原梨央”演じるみきは、作中では最も理解し合えない存在として対立構図になりますが、“長月翠”と“清原梨央”もアイドル番組企画内で敗者復活戦で対決し、“長月翠”が勝ったというリアルエピソードがあり、ファンならそこも含めて楽しめる展開に映画はなっています。

むしろ映画内ではゾンビから生存するために4人は協力し合うので、現実のアイドル活動より平穏なのかもしれない…。

そのアイドルたちが作中の学校では 「アイドルじゃあるまいし」とメタ発言もありつつ、最終的には進路を語り、卒業に向かっていく…。この流れもまさにアイドルそのもの。

このアイドル映画としての予想外のハマり具合も良かったところなのかな、と。ちなみにくるみを演じた“阿部菜々実”は身長が高く、スコップを振り回す姿がさまになってカッコよかったです。全体的にパニックシーンのスピード感がありましたね。ゾンビ役のエキストラはかなり用意しているし、ゾンビ映画としての頑張りが感じられる…。

個人的な苦言を書くなら、アニメ版で活躍した「太郎丸」という柴犬をだしてほしかった…。犬なんていくらでも面白く活用できるのに(まあ、実写は動物の扱いが大変なのでしょうけど)。『ジョン・ウィック パラベラム』並みの犬アクションをしてもよかったんだよ(無理なお願い)。

あとせっかくアイドル映画なら、歌とかもっとアイドルらしい音楽の要素を入れてもいいのにな、とも。『アナと世界の終わり』という素晴らしい学園&ミュージカル&ゾンビの成功例を観てしまうとなおさらね。秋元康さん、『アナと世界の終わり』見ました?(唐突な語りかけ)

そうすると原作破壊になるかもですが、映画だし、それくらいのアレンジをしてもいいかな(テーマの本質は傷つけないでしょうし)。いっそのこと叙述トリック部分も新要素をガッツリ入れてもよかった…。

こんなふうにアレコレ提案できるのは元の題材が優れている証拠です。『がっこうぐらし!』はまだ可能性を秘めていそうですね。

『がっこうぐらし!』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019「がっこうぐらし!」製作委員会

以上、『がっこうぐらし!』の感想でした。

School-Live! (2019) [Japanese Review] 『がっこうぐらし!』考察・評価レビュー