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『スノー・ロワイヤル』感想(ネタバレ)…除雪作業中は近づかないで

スノー・ロワイヤル

除雪作業中は近づかないで…映画『スノーロワイヤル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Cold Pursuit
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年6月7日
監督:ハンス・ペテル・モランド

スノー・ロワイヤル

すのーろわいやる
スノー・ロワイヤル

『スノー・ロワイヤル』あらすじ

雪深い静かな田舎町キーホー。この町で除雪作業員をしているネルズ・コックスマンは模範市民賞を受賞するほど真面目な仕事っぷりで、慎ましく穏やかな日々を送っていた。しかし、ネルズの1人息子が麻薬の過剰摂取に偽装され、無残に殺されてしまったことから、ネルズは模範的な一線を大きく越えていく。

『スノー・ロワイヤル』感想(ネタバレなし)

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除雪作業員に感謝しましょう

世の中には人知れず一生懸命に働いている人がいて、その人のおかげで社会の日常は成り立っているものです。でも、そんな人たちに感謝する機会なんてほとんどありません。だからといって“当たり前”の無料気分で敬意を払うことを忘れるのは良くないですよね。

例えば、雪国地域では社会基盤を支える目立たない労働者と言えば、間違いなく「除雪作業員」です。大雪が恒常的に降る地域に暮らしたことがない人は全くわからないと思いますが、除雪作業をしてくれる労働者の存在は欠かせません。なにせ下手をしたら毎晩数十cmの降雪があったりするわけです。もし除雪や排雪がなければ、家も道路も何かも雪で埋もれてしまいます。雪国地域の人が、当たり前のように玄関から外に出られて、道路を徒歩や車で移動できるのは、全て夜中にせっせと除雪車を走らせて働く除雪作業員のおかげ。本当は除雪車が通りかかるたびに深々と頭を下げて感謝の意を伝えるくらいすべきなんですが、そんなことする人はおらず…それどころか“除雪が雑だ”などと文句を言う人もいたり…。全然報われない仕事ですね…。

そんな社会からの尊敬が不足している除雪作業員が主人公となる珍しいアクション・サスペンス映画が本作『スノー・ロワイヤル』です。

大切な息子を殺されてしまった除雪作業員の男が、復讐のために今度は労働するという…1行で映画を紹介するとよくあるいつものやつ。しかも主演が“リーアム・ニーソン”ですから。また“リーアム・ニーソン”の家族が殺されたんですか…何度目ですか…っていう…。

でも『スノー・ロワイヤル』はちょっといつもの“リーアム・ニーソン”復讐モード映画とは違う部分があります。

まず本作はリメイクなんですね。しかも元の映画はノルウェー映画で、タイトルは『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』といいます。凄い投げやりな邦題で、そのせいでB級映画だと思われがちですが、ところがどっこい、中身はかなり上質な作品で批評家評価も高い映画です。いわゆる凡百とあるジャンル映画の模造品とはわけが違います。だからこそ今回、アメリカ映画としてリメイクされたわけですが。

そして北欧映画をアメリカ映画でリメイクする場合、最近も『蜘蛛の巣を払う女』などがありましたが、どうしてもハリウッド的なエンタメ化に偏る傾向もあります。

しかし、『スノー・ロワイヤル』は、元映画の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』の監督である“ハンス・ペテル・モランド”がそのまま監督に続投したセルフリメイクになっています。なので、作品性はほとんど変化しておらず、というか、ストーリー・演出・オチに至るまでほぼ元映画と同じです(舞台と役者が変わったくらい)。“ハンス・ペテル・モランド”監督は、過去作には『特捜部Q Pからのメッセージ』も手がけており、私としては非常に信頼できるセンスの映画人。それだけでも実に楽しみです。

元映画の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』をすでに鑑賞済みの人は、だいたいの雰囲気も掴めますし、あとはそれが“リーアム・ニーソン”主演でどうアレンジされるのかを楽しめばOK。一方で、元映画未鑑賞の人に本作を説明するのは案外難しいです。かなり独特のクセがあります。宣伝では“クエンティン・タランティーノ”の名前が出たりしていますが、決して“タランティーノ”的な感じかというとそうでもない気もするし…。私は“コーエン兄弟”風に近いと思いますが…。

とにかく田舎を舞台に、シュールな笑いを内包した殺伐としたクライムサスペンスが繰り広げられ、社会的な背景が裏にセッティングされている…そんな説明しか私にはできない。

普段はこの手のジャンル映画的なものは観ないですという人にも、『スノー・ロワイヤル』は違うんですよとアピールしたいところです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(死ぬ気で来い)
友人 ◯(巻き添え死の可能性あり)
恋人 △(恋人が巻き込まれる)
キッズ △(子どもは危険)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スノー・ロワイヤル』感想(ネタバレあり)

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茶番みたいな復讐劇

『スノー・ロワイヤル』は復讐劇ですが、よくありがちな実は主人公は元凄腕エージェントだったとか、元軍人だったとか、元警官だったとか…でもそういうのではありません。繰り返し書いていますが、ただの除雪作業員です。どこにでもいる、凡人。なので華麗に復讐していくわけでもなく、行き当たりばったりな不慣れな復讐がずっと展開されていき、それがシュールさに繋がっています。

息子が麻薬過剰摂取の状態で死亡しているのを発見され、でも私の息子は麻薬なんておかしいと睨んだ、主人公ネルズはそれでもどうすることもできず、銃を手に取り、口にあてて自殺を図ります。しかし、すんでのところで息子の死にマフィアが絡んでいるという情報をキャッチ。死ぬのをやめ、今度はそのマフィア関係者として名前を聞いたひとりの人間の元へ。ここから伝言ゲームの要領で、ひとり、またひとりと命を殺めていくことに…。

その殺しが妙に事務的なのがオカシイ本作。当然、最愛の息子が殺されたわけですから、もっと精神的に病んで感情的に敵意を向けるのかと思いきや、なぜか淡々と殺すネルズ。魚網で殺した遺体をくるみ、滝のある川にぽいっと捨てる作業の繰り返し。なんだこれ。

一般人のネルズですが、狩猟には精通しているようで、銃は取り扱えます。敵のいるシチュエーションに応じて銃をカスタマイズする手先の器用さを見せながら、割とためらいなく撃つ撃つ撃つ。撃てない場合は殴る殴る殴る。あげくには雪深い道をターゲットの車の後方から除雪車で猛然と迫り、いつのまにか先回り。これ、やられたら普通にトラウマものですよ。終盤にいたっては木材運搬機を駆使しての“木ぶっ刺し”という荒業を披露。ほんと、なんだこれ。

しかも、これは本作の最大の特徴ですが、毎回、人が死ぬたびにその人の“名前”と“愛称”がテロップに表示されて、追悼している風に映し出されます。終盤にたくさん死亡者が出まくるシーンでは名前がいっぱい羅列され、ちょっとしたスタッフクレジット状態。

これらの演出は全て元映画の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』とそっくり同じです。

全体的にシリアスになりそうでなりきれていない茶番劇にしか見えません。でもこの茶番みたいな復讐劇というスタイルがただのギャグとして機能するだけでなく、後述する主人公の社会的な立ち位置としっかり噛み合うため、いろいろ味わい深い印象も残すのが本作の面白さです。

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誰も本当には評価しない“模範”

『スノー・ロワイヤル』はただのコミカルなアクション・サスペンスではありません。冷静に考えてみるとかなり切ない話です。

まずネルズは長年の除雪作業員としての町への貢献を認められ、「模範市民賞」を授与されます。ネルズの生い立ちはあまり語られませんが、おそらく推察するに、ずっとこのド田舎でとくに意味を考えることもなく淡々と除雪作業に従事してきたのでしょう。ネルズ自身、生真面目な性格そうですし、作中から見る限り、あまり積極的に人と交流して社交を楽しむ柄にも見えません。黙々と働く“仕事人”という感じ。

模範市民賞という賞も、ハッキリいえば“とってつけたような”賞です。「今年の市民賞、どうする?」「う~ん、去年はあの人に与えたし、もうだいたい町の目ぼしい人は受賞したからな」「あー、あれは? あの町外れで除雪作業しているネルズ」「うん、あいつなら特別悪いこともしてないだろうし、無難だな」「じゃあ、決まりで」…完全に私の妄想ですけど、たぶんこんな経緯での受賞なんじゃないかなと。つまり賞とは名ばかりで、ネルズの周囲からの扱いは冷たいものです。

しかも、そんなネルズの息子が不審な死をとげた事件が起きても、“お悔やみ申し上げます”の決まり文句的な言葉だけで、警察さえも誰もまともに取り合ってくれない現実。結局は無関心。

そのネルズが自ら手を汚して、町に蔓延る悪人を“排除”するのは、カッコいいヒーローの仕事ということもなく、あくまでこれも除雪と同じ、誰にも真に評価されることはない事務作業。だからこの復讐劇が茶番に見えるのは、その虚しさの裏返しでもあって…。

誘拐したマフィアの子どもに本を読み聞かせるシーンで、除雪車についてやけに熱く語りだすネルズを見ていると、本当は自分と同じ目線で語り会える仲間が欲しかったのだろうなと思うばかり。そんな除雪作業員としてのネルズを素直に評価してくれたのがあの子どもというのも皮肉。あの子を乗せて除雪車を走らせるネルズはきっとあれでもう心が満たされたのかもしれないですね。

除雪作業をしているシーンで始まり、ラストもまた除雪作業をしているシーンで終わる。ずっと果てしなく続く仕事の繰り返し。なんかオーバーワークな日本人にはキツイ映画ですね…。

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物語に埋もれる人種問題

もうひとつ『スノー・ロワイヤル』の見どころは、社会的な背景です。実は人種の問題など地域の抱える根深い対立構造を内包するスタイルが、元映画の時からあり、今作にもアメリカ的なアレンジで引き継がれています。

元映画の『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』では、舞台はノルウェーで主人公は移民という設定になっています。作中でもデンマーク人などノルウェー以外の国の人を馬鹿にする言葉を放つ人間がいたりして、北欧における人種問題が表れていました。主人公に対しても模範的であることを評価して「君は立派なノルウェー人だよ」的なセリフを投げかけられるシーンもあったりして、非常に(無意識だとしても)小馬鹿にされています。元映画では主人公は移民だからこそ余計に孤立を深めて生きていたということなのでしょうけど。

そして、襲ってくる2つのマフィアのうち、片方はセルビア人の組織です。セルビア人はその歴史的経緯からヨーロッパの各国で以前から多く見られる移民ですね。

ちなみに主人公が間接的に殺しを依頼する男、元映画では「チャイナマン」という通称の殺し屋は日系デンマーク人でした。作中でもアジア侮蔑的な言葉をかけられています。

こんな感じの元映画をアメリカ舞台でリメイクするわけで、当然、アメリカらしい人種にチェンジ。とくに目立つのがネイティブアメリカンですね。ここまでネイティブアメリカンがしっかり対等な登場キャラクターとして出てくるアメリカ映画はあまりないのではないかというくらいの出番の多さ。

雪上環境ということもあり、ネイティブアメリカンものでいえば、『ウインド・リバー』を彷彿とさせます。

こちらほど『スノー・ロワイヤル』はネイティブアメリカンの壮絶な問題を直接描いていないにせよ、やはりその背景には自分たちの土地をいいように蹂躙される苦悩があるわけで。

ラストでネルズの仕事姿を見て銃を置くネイティブアメリカンのマフィアのボスは、ネルズが純粋にこの土地のために働いてくれる人だということを評価したからこそ。敬意には敬意で答える。そんな美意識を感じさせる終わりでした。

まあ、そんなこんなで単純なジャンル映画の枠におさまらない良い映画なのですが、いかんせん元映画と同じすぎて新鮮味が低いのも欠点。個人的には主人公が普通の凡人に見えるノルウェー映画版の方が好き。

ぜひ元映画も鑑賞してみてください。これを機に北欧映画に興味を持つ人が増えるといいなと思います。

『スノー・ロワイヤル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 69% Audience 54%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 STUDIOCANAL SAS ALL RIGHTS RESERVED.

以上、『スノー・ロワイヤル』の感想でした。

Cold Pursuit (2019) [Japanese Review] 『スノー・ロワイヤル』考察・評価レビュー