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『Swallow スワロウ』感想(ネタバレ)…新たな監督の異才に飲み込まれる

スワロウ

新たな監督の異才に飲み込まれる…映画『Swallow スワロウ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Swallow
製作国:アメリカ・フランス(2019年)
日本公開日:2021年1月1日
監督:カーロ・ミラベラ=デイヴィス

Swallow スワロウ

すわろう
スワロウ

『Swallow スワロウ』あらすじ

ニューヨーク郊外の邸宅で、裕福な夫との結婚によって贅沢な暮らしを手に入れたハンター。しかし、彼女を取り巻く日常は刺激もなく、孤独で息苦しいものだった。そんな中、ハンターの妊娠が発覚し、夫と義父母は待望の第一子に歓喜の声をあげるが、ハンターの孤独はこれまで以上に深くなっていった。ある日、ふとしたことから「飲み込む」という衝動を抑えられなくなり…。

『Swallow スワロウ』感想(ネタバレなし)

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2021年一発目から凄い映画がきた

カラスは光り物が好きで集める習性があります。そんな行動を見て、不思議だな~と人間は他人事で評するものです。

でも…私も小さい頃は光り物を集めていました…。ええ、カラスと同類です…。

ビーズとかビー玉とか地面に落ちていたら拾ってきたりして、よく親を呆れさせました。とくに何をするわけでもない、集めるのが楽しいんですけどね。しかし、こういうものは大きさが小さいので、幼い頃は持たせることもさせてくれないです。だから余計に欲してしまうのでしょうか。

よく考えると飴玉とかも鮮やかに光るキラキラした感じであり、これが子どもウケするデザインであると作り手もわかっているのでしょう。だからこそなおさら光り物の誤飲に注意しないといけなくなって大変ですが…。

ほんと、なんで光り物に惹かれるのだろう…。

今回紹介する映画は子どもは一切出てこないのですが、大人が“食べ物ではない”モノを飲み込んでしまうという、そんな行動によってサスペンスが起きていく不思議な作品です。それが本作『Swallow スワロウ』。「swallow」という単語は「飲み込む」という意味なのでそのまんまですね。

本作のストーリーは表面上を説明するだけなら簡単です。ある大人の女性が主人公で、その女性は不自由のない裕福な経済状況の中で夫婦生活を営んでいましたが、あるとき、小さいモノを飲み込むという衝動に憑りつかれていくようになります。小さいモノというのは食べ物ではなく、普段は絶対に口にするどころか飲み込むなんてもってのほかなモノです。それこそビー玉とか…。

これがどう面白いドラマへと発展していくのか、そこが最大の見どころになるのですが、それはネタバレになりますので観てのお楽しみ。別に過度にグロテスクでもバイオレンスでもないですし(まあ、でも子どもには見せられないですけどね。マネされても困るし…)、ただ「飲み込む」という動作だけをエッセンスにしているだけなのですけど、なぜだか魅力に釘付けになります。とにかく演出センスからストーリーテリングまで、本当に独特で些細な出来事ではあるのにスリリングで映像から目が離せません。

あれかな、ちょっと息を呑むサーカスの曲芸を観ているような、そんな興奮もあるからなのかな。

でも「飲み込む」ありきの衝撃映像系の映画ではないのです。そこにはしっかり現代的なテーマも内包されています。

監督は“カーロ・ミラベラ=デイヴィス”という人で本作が長編映画デビュー作。脚本も兼ねており、またもやカルト映画を生みだす異才が登場してしまいましたね。これはもう私の中では常に要チェックの監督リストに新規追加ですよ。

そして忘れてはならない『Swallow スワロウ』の顔。それは主演の“ヘイリー・ベネット”。最近は『マグニフィセント・セブン』『ガール・オン・ザ・トレイン』『紅海リゾート 奇跡の救出計画』など立て続けに活躍し、2020年は『悪魔はいつもそこに』『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』に出演。フェミニンな美貌の持ち主で、映画においても少ない出番でも印象をきっちりと残していきます。その“ヘイリー・ベネット”がこの『Swallow スワロウ』ではこれ以上ないくらいにハマり役を見せており、私もベストアクトだと思いました。ついにメインでキャリアの看板となる作品に出会った感じでしょうか。彼女なくして成立しえないです。これからの“ヘイリー・ベネット”はしばらくは『Swallow スワロウ』とともに語られるんじゃないかな。

他の俳優陣は『シンクロナイズドモンスター』の“オースティン・ストウェル”、『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』の“エリザベス・マーヴェル”など。でもやっぱり“ヘイリー・ベネット”が圧倒的に画面を支配している映画ですね。

華麗にエキセントリックな『Swallow スワロウ』はさっそく私の中の「2021年映画ベスト10」の候補入りですね。早すぎるよ…。

新年1発目に観る映画としては一般向けではないですが、変わりモノ大好きな映画ファンには強くオススメできます。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(マニアックな映画好きなら必見)
友人 ◎(変わり種を一緒に楽しもう)
恋人 ◯(恋愛気分を打ち砕くかも)
キッズ △(小さい子はマネしかねない)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Swallow スワロウ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):呑みたい欲

ニューヨーク郊外の豪邸。テラスでコーヒーを飲みながら外をのんびり眺める女性がひとり。彼女の名はハンターといって、大企業の御曹司であるリッチーと結婚し、この優雅な生活を手に入れました。

みんなが集まる食事の席で、リッチーが自慢げに語る中、ハンターは夫が喋るのを見つめます。夫は妻への愛を示し、世間から見れば何も欠けている部分もない円満な夫婦です。

夫はいつもは仕事で家にいません。ハンターはひとり広い部屋で夫の帰りを待つだけ。テレビを見たり、料理をしたり、スマホゲームをしたり、時間を潰します。夫が帰ってくる時間になると、赤いゴージャスな衣装で迎えて夫の気を惹きますが、夫は食事中もスマホを欠かせない状態で、ろくに会話も盛り上がりません。夫の反応は薄いのはいつもでした。

味気ない、徒然の日々。しかし、ある日、ハンターは自分の妊娠に気づきます。それを聞いた夫は嬉しそうで、その勢いで養父母に電話します。

ある食事中、ハンターはコップのを見つめます。なぜか恍惚と目が離せません。そしてふと氷を手に取り、口に放り込み、バリバリと噛み砕いて飲むのでした。

また別の日。ひとりのとき、家にあるビー玉を手に取るハンター。それを口に入れ、ゆっくり飲み込んでしまいます。するとこれまで感じたことのない心の落ち着きを得ることができました。

その夜、夫のベッドの上。でも機嫌がいいハンター。夫は相変わらずスマホばかりですが、そんな夫にベタつきます。

次の日、ハンターはトイレで“大きいほう”をし、そこに手を突っ込み、飲み込んだビー玉を回収しました。それにどこか満足げになるハンターは、その達成物であるビー玉を自分の鏡の前に置きます。

そして、掃除機をかけていると画鋲が引っかかったのに気づきます。その画鋲を机に置くとウズウズとその気持ちが沸いてきます。おもむろに手に取り、飲み込もうとしますが、針の痛さで吐き出しました。鏡の前で確認すると舌から血が出ています。

ソファに座り、気持ちを整理。しかし、気になる画鋲。ハンターは意を決して思い切って飲み込みます。苦しそうに声をあげるも飲み込むことに成功。充実感。涙が流れます。

夜、苦しくなり、トイレに駆け込みます。出血しながらも画鋲は排泄されました。血を急いで掃除し、達成できた画鋲を回収し、以前のビー玉の隣に起きます。

以降、ハンターの「飲み込みたい」という欲求は歯止めがきかなくなっていきました。電池を飲み込み、本のページを破って飲み込み…。飲み込んだものは綺麗に鏡の前に並べていき、今やかなりの数になりました。でもやめられません。自分だけが知っている自分だけの快感です。

しかし、それはバレました。妊娠胎児の状態を確かめるべく、病院で腹部の超音波検査をしているとき、痛みに声をあげ、緊急手術。内視鏡で見つかったのは、あるはずのない異物。無事、摘出されましたが、家に帰ると夫はカンカン。その異常行動を問い詰めますが、ハンターは自分でもなぜそんなことをしたのかわかりません。

カウンセリングを受けることになりましたが、リッチーの両親はそれだけでは信用せず、シリア出身の友人(ルアイ)に昼間のハンターの行動を監視させることにします。身体チェックまであり、完全に囚人のように扱われ、ストレスを溜め込むハンター。

それは当然のように「飲み込み」衝動を再発させます。もはや飲み込むしか、ハンターには自分の自由がありません。飲み込むばかりのハンターにどんな結末が待つのか…。

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異食症の効果的な見せ方にドキリ

『Swallow スワロウ』の主人公のハンターが見せる「飲み込む」という強い衝動。嚥下後に得られる満足感。とてもアブノーマルな感じの衝撃行動ですが、これは「異食症」という実在の病気なのだそうです。

異食症は栄養価の無いものをとくに理由もなく無性に食べたくなる症候のことで、氷や土、体毛を食べることが多いらしいですが、作中のハンターのように食べられるサイズなら何でも飲み込んでいくまでになってしまうこともあるとか。

主に子どもや若い女性に多くみられる症状で、とくに妊娠時に確認されやすいそうです。摂食障害ですが、原因はよくわかっておらず、明確な治療法もありません。その症状が確認された場合は医師の診断のもと、行動に向き合っていくしかないようです(自然に回復することも)。

『Swallow スワロウ』はこの異食症を正確に描写しているかどうかは私は素人なのでわかりません。ただ、脚本段階で専門家の人にアドバイスを聞いたそうですが…。

しかし、この『Swallow スワロウ』は異食症をサスペンス映画というジャンルのトリックとして非常に効果的に使っていました。

とくにハンターが画鋲を飲み込むくだりのシーンのハラハラドキドキがいいですね。え、それも食べちゃうの?!という観てる側の恐怖、それをまるでイケないことをしちゃった子どものようにどこか申し訳なく、でも快楽的に味わうハンターの姿。

飲み込むという動作はただでさえちょっとフェティシズムな捉え方もされがちで、それでいて今作の場合はすごくタブーな行為にもなっており、その背徳感が何とも言えない映画的興奮を与えてくれます。ましてや“ヘイリー・ベネット”がやっているので、余計にエロティックな行為にも思えてくる…。

映画の雰囲気としては『RAW 少女のめざめ』に近いと思います。あちらは食人という行動に手を出し始めた若い女性の物語でしたが、あれも「あ、食べちゃった」という映像の見せ方も似ています。

一方で、画鋲の飲み込みに成功してからのモグモグタイムはどこかテンポよくユーモアたっぷりに描かれ、『Swallow スワロウ』はスリラーというほどの緊迫感はありません。しかも、飲み込んだ後は「出す」というステップも待っているわけで…。ここが先ほどのエロティックさとは真逆に振り切った「なんだこれ」という映像になり、これもまたシュールです。

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“飲む&出す”を強要される女性たち

そんな『Swallow スワロウ』ですが、ただのヘンテコ映画では収まらないのが良いところ。

一見すると奇抜すぎる本作には社会に蹂躙される女性の苦しみとその解放が根底に通貫しています。言ってしまえばすごくフェミニズムな側面が濃い映画であり、これは特異な女性の物語ではなく、普遍性な女性の寓話なんですね。

そもそも“カーロ・ミラベラ=デイヴィス”監督のインタビューによれば、この映画は1950年代にあまり良いとは言えない不幸な結婚生活を送っていた祖母に触発されて生み出されたそうです。その監督の祖母は「手洗い」に憑りつかれていたらしく、異常なまでに潔癖な手洗い行動を繰り返していた結果、精神病院に入れられ、そこでロボトミー含む非道な医療行為を受けたのだとか。

本作のハンターも恵まれているようにみえて、実際はほとんど籠の中の小鳥です。あの夫の無味乾燥な態度を見ていると、たぶんこの夫はハンターのことをこのスマートな部屋のインテリアか、抱きつきたいときに抱く人形程度にしか思っていないようにみえます。

今回の“ヘイリー・ベネット”はそういう意味ではぴったりなキャスティングですよね。これまでの彼女のフィルモグラフィーは「綺麗な妻」みたいな形式的な役が多かったように思います。“ヘイリー・ベネット”自身の演技が下手とかそういうわけではなく、仕事として役柄に深みを出しづらいものが目立っていた感じ。今回の『Swallow スワロウ』はそこをあえて逆手にとっています。

その家庭という檻で束縛されているハンターがハマっていく「飲み込む&出す」という行動。強迫性を伴っているかもしれないですが女性の主体的な行動です。自分で好きなものを飲み込んで、出して成果を得る。

対する「妊娠&出産」というこちらも飲み込まされて出すという行動に他なりません。でもなぜか前者は異常で、後者は異常ではないという扱いに世間ではなります。それは理不尽ではないのか、と。この社会における女性たちは望まぬものを飲み込まされ、痛みとともに出すことを余儀なくされている。それっておかしくないですか、と。

最終的にハンターは中絶の道を選び、飲み込んで出します。この女性が背負う負担を意表をつく構成で描きだす感じは最近だと『燃ゆる女の肖像』にもありましたが、この『Swallow スワロウ』はさらにシニカルに効いてくる後味です。

個人的に好きなのはラストの終わり方。女性トイレをずっと映してエンディング。そこにいるのは“出す”女性の日常。ものすっごく皮肉が無言でビシビシ刺さる感じ、たまらないです。

ちなみに本作の“カーロ・ミラベラ=デイヴィス”監督は、20代の4年間「女性」として生きていたことがあるそうです(今はシスジェンダーの男性として生きている)。ただ、当時はノンバイナリーもフルイドという言葉も知らず、もし知っていたら違ったかもとインタビューに答えています。

ちょうどつい最近、ファミリーマートの惣菜シリーズ「お母さん食堂」の名前を変えるよう同社に訴える署名キャンペーンを女子高校生3人が立ち上げたことが話題になっていました。賛同の声が集まる中、騒ぎ過ぎだという冷笑の嘲りの反応も残念ながら散見されます。正直に言って、日本はまだこのレベルなのかと私は失望するしかありません。無論、「お母さん食堂」の改名は大賛成です。ただ、こんなの企画段階で普通にボツにしてよ、と。

『Swallow スワロウ』という斬新なアプローチで女性の束縛と解放を描く海外映画が公開される傍ら、その映画館のすぐそばにあるコンビニでは露骨な女性ステレオタイプが堂々と陣取っているのですからね。この歴然の差ですよ。呆れるというか、もう…。日本はいまだにおふくろの味とか言っている中、『Swallow スワロウ』は女性が画鋲を飲み込んで排泄することで充実感を獲得している。コンビニも見習ってください(いや、どう見習うんだという話もあるけど)。

そんなくそマズい味しかしない差別意識はバリバリに嚙み砕いてそのへんに吐き捨ててやりたいです。

『Swallow スワロウ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 71%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 by Swallow the Movie LLC. All rights reserved. スワロー

以上、『Swallow スワロウ』の感想でした。

Swallow (2019) [Japanese Review] 『Swallow スワロウ』考察・評価レビュー