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韓国ドラマ『ナルコの神』感想(ネタバレ)…エイを売りたいだけだったのに

エイを売りたいだけだったのに…ドラマシリーズ『ナルコの神』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Narco Saints
製作国:韓国(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
韓国:ユン・ジョンビン
性描写

ナルコの神

なるこのかみ
ナルコの神

『ナルコの神』あらすじ

南米のスリナム共和国にひとりの韓国人がいた。カン・イングという名のこの男は、韓国で自動車整備などの仕事で地道に働いていたが、一向に報われることもなく、ただひたすらに努力を踏みにじられるような屈辱に嫌気が差して、このはるか遠くの異国で大金を稼ごうと目論んでいた。しかし、この地のドラッグ・ビジネスを支配する麻薬王がこの切羽詰まった男に目を付ける。その凶悪な麻薬王もまた韓国人だった。

『ナルコの神』感想(ネタバレなし)

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韓国人が南米で麻薬王になっていた

「なるこ」と聞くと、北海道出身の私は小学生の頃に学校で散々踊らされたソーラン節を思い出します。ソーラン節という踊りでは、「鳴子(なるこ)」という簡易的な音が鳴る楽器のようなものを両手にそれぞれ1個ずつ持つことが多いです。板状のものにカタカタと音が鳴る構造があり、それを持って手を振るなどの踊りのアクションを一斉にとれば、かなりカッコよく音が決まって、踊りを盛り上げます。

しかし、今や海外の映画やドラマを貪るように鑑賞するようになってしまった大人の私は、「なるこ」と聞くと、麻薬戦争とかを連想するようになってしまいました…。ああ、心が汚れてしまったな…。

「ナルコ」、英語で「narco」は麻薬、もしくは麻薬の売人やその売人を取り締まる捜査官を意味するスラングです。これは「narcotic」の略なのですが、麻薬題材の作品では頻出する単語です。私も「narco」という単語を知らなかったときは「なんか、“なるこ”って連発しているけど、可愛い響きの言葉だな」くらいに思っていたのですが、可愛いどころか物騒だった…。子どもの名前に「なるこ」ってつけない方がいいですね…。

今回紹介するドラマシリーズもタイトルにバッチリとこの単語が入っていることから丸わかりのとおり、麻薬をめぐる作品です。

それが本作『ナルコの神』

本作は、ある男がビジネスでひと山当てるために南米にある「スリナム共和国」に赴いたらそこで麻薬王と捜査組織の熾烈な争いに巻き込まれてしまったという、「海外で商売しようとしたら大変なことになっちゃった」系の物語です。

スリナム共和国って何?と思う人もいるでしょうし、この主人公も最初はそんな反応なのですが、スリナムはブラジルの北側で国境を接する南アメリカで最小の独立国です。以前は「オランダ領ギアナ」として知られていました。

『ナルコの神』はそんなスリナムを舞台にした実話ベースの麻薬戦争モノのジャンルであり、ドラマ『ナルコス』なんかと同じです。ただひとつ大きな特徴があるとすれば、主人公も、そして現地で麻薬王になっている人物も韓国人なのです。「え? 韓国人が南米の国で麻薬王になっていたの!?」と衝撃ですが、本当にそうなのです。

このスリナムの韓国人の麻薬王が逮捕されたというニュースが韓国を駆け巡ったとき、当時の韓国の世間もびっくりしたそうですが、そりゃそうですよね。加えてその大物の逮捕に韓国人の一般人が捜査協力をしていたというのですから、なんだか現実がフィクションみたいになってる…。

一体何がどうなっていたのか。それは『ナルコの神』を見てのお楽しみ。本作は実質『ナルコス:スリナム&韓国編』ですよ。もちろん完全に史実どおりではなく、脚色されているのですが。

ちなみにスリナム共和国側はこのドラマに抗議はしているらしいです。

この驚愕の実話をドラマにしようと思いついたのが、『ベルリンファイル』『お嬢さん』『神と共に』シリーズなど多くの話題作に出演する人気俳優の“ハ・ジョンウ”。たまたま報道で知って、それを『悪いやつら』でタッグを組んだ“ユン・ジョンビン”監督に相談し、企画が始動したそうです。

そして“ユン・ジョンビン”監督と『工作 黒金星と呼ばれた男』で共に仕事したこちらも名俳優“ファン・ジョンミン”に声をかけ、なんと“ハ・ジョンウ”と“ファン・ジョンミン”が揃う豪華すぎるドラマが完成したのだとか。どこぞの麻薬王がきっかけでこの男たちの共演が見られるなんて思わず「ありがとう」と言いたくなってしまう…。

他の俳優陣は、ドラマ『イカゲーム』で世界に顔が知られた“パク・ヘス”、『キングメーカー 大統領を作った男』の“チョ・ウジン”、ドラマ『賢い医師生活』の“ユ・ヨンソク”など。

ドラマ『ナルコの神』は全6話のリミテッドシリーズですが、駆け引きが交差するサスペンス、激しすぎるバイオレンス、ヤバさ全開のマッドネス、派手な銃撃戦、苛烈な肉弾戦、カーチェイス…もはやエンターテインメントの基本セットを全部詰め込みました!みたいな作品です。強いて言えば、男ばっかり登場するのが偏りまくりなのですが、男女ロマンスが全然ないのでそれはそれで人によってはありがたいかもしれませんね。

ドラマ『ナルコの神』はNetflixで独占配信中。麻薬戦争モノが好きな人、俳優ファンの人なら楽しい作品なのは間違いなしです。

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『ナルコの神』を観る前のQ&A

✔『ナルコの神』の見どころ
★これが実話なのか!と驚きのストーリー。
★食うか食われるかの俳優陣の演技合戦。
✔『ナルコの神』の欠点
☆カルト描写があり、その扱いはおざなり。
☆家庭規範に収まっている着地。
日本語吹き替え あり
内田夕夜(カン・イング)/ 三木眞一郎(チョン・ヨハン)/ 清水はる香(パク・ヘジン)/ 菊池康弘(パク・ウンス)/ 中川慶一(チェ・チャンホ)/ 武内駿輔(ビョン・ギテ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:麻薬モノが好きなら
友人 3.5:俳優好きの人同士で
恋人 3.0:ロマンス要素無し
キッズ 3.0:悪い大人ばかりです
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ナルコの神』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):あいつが麻薬王?

2009年、スリナム国境地域。スリナムはブラジルの北にある人口50万人の小さな国ですが、ここで今、韓国人が熾烈な争いを繰り広げていました。なぜそんなことになったのか…。

それはカン・イングという男の人生と深く関わってきます。カン・イングは中学は柔道を学んでいましたが、母は死に、ベトナム戦争帰りの父がひとり養うことになります。しかし、その父も仕事中に事故で亡くなり、幼い弟妹のためにカン・イングは必死に働かざるをえず…。

弟妹の面倒を見きれず、手当たり次第に女性と結婚しようとし、結局、パク・ヘジンが結婚してくれました。子どもが生まれ、生活苦が悪化。その頃は自動車整備工場を始め、米軍基地との仕事もしていました。なんとか団地暮らしを手に入れるも、生活のために生きているだけの日々に意味を見い出せません。なんとか脱する術はないものか…。

そんなとき、友人のウンスが来ます。良い儲け話があるそうです。なんでもエイをただで手に入れて韓国に売るとのこと。エイを食べない国があるらしく、スリナムという名だとか。その話に希望を感じたカン・イングはボロ儲けできると妻を説得。「貧しくても父親でいるほうがいいでしょ」と妻は言いますが、警察と役人の野蛮な振る舞いに今の仕事に嫌気が差し、カン・イングはスリナムへ単身で渡ります。

現地でさっそくエイの事業に着手。工場で作業をしていると軍服を着た男が「毎月カネを払え」と言ってきます。しかし、カン・イングは話術で気に入られ、軍人の保護下に。交渉を心得ていました。

すると今度はクラブで「分け前をよこせ」と中国人のゴロツキに迫られ、「殺す」と暴力で脅されます。子の相手には得意の取引交渉は通じませんでした。

そこで韓人教会に駆け込むと、その牧師チョン・ヨハンが「助けてあげましょう」と言ってくれます。あの中国人の奴はチェン・ジェンという名だそうで、かなり一帯を仕切っているみたいです。

チャイナタウンに牧師と行くと、なぜかあっという間にただものじゃない雰囲気で交渉を取りまとめ、問題は解決しました。

これでやっとビジネスを本格化できる。そう安堵したのもつかの間、韓国へ船で運んでいたエイの中からコカインが見つかったと船長から怒りの電話がかかってきます。身に覚えがありません。

急に警察に突入され、追い詰められ、抵抗できずに逮捕。わけもわからず刑務所で過ごしていると、国家情報院(NIS;かつてのKCIA)のチェ・チャンホが面会に来ます。そしてチョン・ヨハン牧師は危険極まりない男で、あのスリナムを支配する麻薬密売人だと教えてくれます。さらにウンスは殺されたと伝えられ…。

思い描いていたビジネスが潰されたショックもあり、茫然としていたカン・イングでしたが、チェ・チャンホからチョン・ヨハン逮捕のために協力してほしいと持ちかけられます。

バレればただではすみません。それでもカン・イングはやることにします。あのくそったれな牧師に一泡吹かせてやらないと…。

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この世にタダなんてない

エイを売っていると思ったら、いつの間にか麻薬を売ることになっていた…なんでそんなことになったのかさっぱりだが、本当にそうなっていた…。『ナルコの神』は、そんな慌てふためくのも無理ない出だしで始まります。やっぱりよく知らない異国で事業なんてするもんじゃないですね…。

そして困惑のカン・イングは事情を把握。第2話からは怒涛の四つ巴の「やるかやられるか」のスリル全開のサスペンスが開幕します

主なメンバーはこの4人。一人目は、とりあえず国家情報院の手先として協力して元金を取り返してさっさと家に帰りたいカン・イング。二人目は、スリナムで富と権力を独占している裏の支配者であるチョン・ヨハン。三人目は、国家情報院の名にかけてこの極悪牧師を逮捕したいと熱意を燃やすチェ・チャンホ。四人目は、その極悪牧師に踏みつけられて苦渋を飲まされてきたので仕返ししたい中国ナルコのチェン・ジェン

とくに驚きなのがこのカン・イングの立ち回りです。実在の人物であり、実名は伏せているそうですが、経歴や国家情報院に協力したのは紛れもない事実。とは言え、よくこんなリスクしかないようなことをやろうと思ったなと驚くばかりです。

本作ではそのカン・イングの動機、もっと言えば心の内面性に説得力を持たせるべく、カン・イングの「なんとか今より少しでもマシな成功が欲しい…」という切実さに焦点を当てています。ここらへんは実に韓国らしい部分で、理想化されたアメリカン・ドリームとはまた違う部分ですね。

確かに妻の言うとおり、今のままでも裕福ではないにせよ、ある程度は人並みに生活できているのだから、これでいいじゃないか…と割り切ることもできる。でも貧困というのは人並みかどうかというよりも尊厳の問題であり、カン・イングはあの格差を痛感した瞬間にスリナムに飛ぶわけです。あそこなら対等に交渉して自分を証明できるはずだと信じて…。

ところがやっぱりこのスリナムも「持つ者」「持たざる者」がいるという構図は同じで…

一応は投げ技とかが得意なのですが、カン・イングはスーパーヒーローではありません。作中でずっと交渉を駆使してなんとかこの駆け引きを生き残ろうとする。あの交渉に対する「自分にはこれしかないんだ」というこだわりの姿勢が、権力を背に抱えているチョン・ヨハンやチェ・チャンホの交渉とは全く違う部分ですね。貧困というものは後ろ盾が何もないことを意味するという話…。

カン・イングはラストにはチェ・チャンホの施しをことを断ります。それを手にしてしまったら、また構図ができあがってしまう。それはもう懲り懲りですよね。

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こんなカルトも実在しそうな気がする

『ナルコの神』は脚色も当然たっぷりあるのですが、一番に目立つのはあのチョン・ヨハン牧師でしょう。

史実ではモデルになったのはチョ・ボンヘンという名の男です。実際はスリナムで魚の加工事業を始め、それが上手くいかずに麻薬ビジネスに手を出して、しだいに麻薬王に上り詰めたとのこと。要するに、作中のカン・イングのスリナムでの始まりのエピソードはむしろこのチョ・ボンヘンと重なるものなんですね。

この事実を混ぜ込んでいる構成は非常にフィクションらしい上手さだと思います。人はあんな始まり方でも麻薬王になれてしまうことがあるというわけですから…。でもカン・イングは麻薬王になる道は選ばない…という選択が何よりも重要ですけど…。

これまでもそれこそ『麻薬王』みたいな韓国映画もありました。

この『ナルコの神』が特異に思えるのはあのチョン・ヨハンの存在感。本作では彼を牧師という設定にし、というか、完全にカルト教団の教祖として描いているんですね。

しかも、男性信者には銃を持たせて武装兵として活用し、女性信者はドラッグを飲ませて運び屋に用い、子どもにまでコカイン入りの飲み物を常習的に飲ませてマインドコントロールしている…。かなり凄まじいカルトっぷりを映し出します。カルトと麻薬の暗黒合体ですよ。

ただこれも完全なフィクションだねともバカにできません。なにせサンクチュアリ教会みたいなのが実在するんですからね…(ドキュメンタリー『カルト集団と過激な信仰』を参照)。

『ナルコの神』の欠点のひとつは、このカルト組織の顛末が結局はよくわからないまま放置されるところだと思います。映像の面白さとしてカルトを採用したけど、題材として深く描かずに終わったな…と。カルトなら絶対にチョン・ヨハン牧師を捕まえても別の誰かが組織を継承してまた麻薬ビジネスをやりそうですしね。

また、最終的に良妻賢母な女性の存在が待っててくれているというのも、なんだかご都合的な話ではありますよね。この物語、妻の視点から見れば本当に最悪でしかない話だし…。

苦言も書きましたが、『ナルコの神』のエンタメとしての大盤振る舞いはお腹いっぱいになります。スリナム軍も投入されるし、DEAも作戦に参加するし、戦闘機も飛んできたりするし…。スケールとしては他の麻薬戦争モノの中でも全く埋もれないインパクトが、しかもたった全6話で味わえるのですから、じゅうぶんお得。個人的には実は国家情報院のスパイだったギテの活躍も楽しかったです(ギテじゃダメなの?ってずっと思ったけど…ギテはそんなに交渉下手なのか…)。

『ナルコの神』を見ていると麻薬戦争モノのジャンルはまだまだグローバルに拡張していきそうな雰囲気があるなと感じさせます。まあ、今も麻薬は大人気ですしね…。

『ナルコの神』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience 86%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ナルコの神』の感想でした。

Narco Saints (2022) [Japanese Review] 『ナルコの神』考察・評価レビュー