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『ニュー・ミュータント』感想(ネタバレ)…X-MEN映画? いいえ、クマ映画です

ニュー・ミュータント

X-MEN映画? いいえ、クマ映画です…映画『ニュー・ミュータント』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The New Mutants
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にDVDスルー
監督:ジョシュ・ブーン
恋愛描写

ニュー・ミュータント

にゅーみゅーたんと
ニュー・ミュータント

『ニュー・ミュータント』あらすじ

未熟さゆえにときには脅威となってしまう特殊能力を制御できず、辛い過去を背負った5人の若者。極秘施設でコントロールの訓練を受ける彼ら彼女らの前に、突如として説明のつかない不思議な現象が起きる。未体験の恐怖で錯乱する中、さらなる危機が訪れ、事態は待ったなしの状態に…。このままではやられるだけ。今こそ自分のパワーを発揮しなくてはいけない。

『ニュー・ミュータント』感想(ネタバレなし)

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やっとお目見えです

映画製作というのはとんとん拍子で事が運ぶとは限りません。実際のところかなり以前から企画されつつも、全然軌道に乗らず、地面でくすぶっている作品もいっぱいあるのです。ハリウッドの場合、勘違いされがちですが、多くの映画を大手映画会社主導で作っているわけではありません。それは一部のブランド化しているような有名作だけ。大半は持ち込み企画のようなものであり、「それいいね!」と企業やスポンサーが気に入ってくれないと本格始動できないのです。

今回の『ニュー・ミュータント』もなかなかに日の目を浴びずに観客はモヤモヤしました。

本作が公で大々的に企画進行が話題が聞こえてきたのは2015~2016年頃。これはマーベルの「X-MEN」関連群で、当時の「X-MEN」映画を手がける権利を持っていたのは20世紀フォックス。その頃は、同じく「X-MEN」派生作である『デッドプール』を見事に成功させていたこともあり、この『ニュー・ミュータント』もその流れで世界を拡張できるものとして期待されていました。

この初期の時点では既存の「X-MEN」映画に登場したキャラも出る予定で、かなり世界観がクロスオーバーするものだったようです。2017年にはプリプロダクション(撮影前の作業)に入り、2018年4月13日に公開予定でした。

しかし、ひととおり撮影を終え、編集し、スクリーニングテストをした結果、作品の方向性を少し修正しようという話になったらしく、2019年2月22日に公開日を延期。再撮影するという話もでます。

このあたりで批評家やファンたちの間で少し嫌な予感が漂います。なぜなら20世紀フォックスは以前にも『ファンタスティック・フォー』(2015年)というアメコミ映画で大不評の失敗をしでかしているからです。二の舞にならないだろうかと不安が漏れるのも致し方ありません。

『デッドプール2』『X-MEN ダーク・フェニックス』といった他の20世紀フォックスのアメコミ映画とバッティングするのを避けるため、どんどん公開日が延びます。ファンもこれは公開されるのかな?と内心では疑問に…。

そうこうしているうちに20世紀フォックスがディズニーに買収する件が決定し、ますます公開が中止になるのではと心配が生じます。でもディズニーは公開すると明言したのでホッと安心。

ところがさらなる災難。なんとコロナ禍です。運、悪すぎる。これはどうなるんだと誰もが予想できない状況になりました。けれども意外にディズニーは配信ではなく劇場公開を決定。アメリカではやっと、ほんとにやっと2020年8月28日に映画館で見られた…という長い長いお話でした。

『ニュー・ミュータント』の監督は、『きっと、星のせいじゃない。』(2015年)を手がけた“ジョシュ・ブーン”。どうやら彼が最初から企画提案していたようです。そんなに熱望していたんですね。

俳優陣は、『クイーンズ・ギャンビット』で絶好調な人気っぷりの“アニャ・テイラー=ジョイ”。そして『ゲーム・オブ・スローンズ』のアリア・スターク役で鮮烈なデビューを飾った“メイジー・ウィリアムズ”。さらに『ストレンジャー・シングス』でジョナサン役で話題となった“チャーリー・ヒートン”。これだけでも凄いメンツを揃えたなと思いますよね。

ただ、この『ニュー・ミュータント』、あんまり大声では言えないですけど、期待はしすぎない方が…。まず、アメコミ映画大作と思わないでください。他のX-MEN映画と並べると二段階くらいスケールは下がります。そして、巷ではシリーズ初の青春ホラーと銘打たれていますけど、青春要素はほぼないですし(『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』の方がよっぽど青春してる)、ホラーも限りなくゼロです(『LOGAN ローガン』の序盤の方が何百倍も怖い)。子ども向けと考えるならアリかなというレベルだと思います。

しかし、『ニュー・ミュータント』はすっごい隠し玉があるのです。それは…秘密。これのおかげでちょっとカルト映画としての資格を手にした感じさえする…。

そんな『ニュー・ミュータント』、日本では残念ながら劇場未公開でビデオスルーになってしまいましたが、まあ、ある意味でDVDスルーにふさわしい品質の作品なのでこれが順当かな。これが「X-MEN」シリーズでなければ一部のマニアが掘り出し物として堪能する程度のB級感のある作品ですからね。

気になる人は気が向いた時でいいのでぜひ。

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『ニュー・ミュータント』を観る前のQ&A

Q:『ニュー・ミュータント』はどこで配信されていますか?
A:2021年2月時点では「Amazon」「U-NEXT」など多くのサービスで扱われています。
Q:『ニュー・ミュータント』を観る前に観たほうがいい作品は?
A:過去の「X-MEN」映画との関係は基本的にありません。本作からいきなり鑑賞してもOKです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優が好きなら)
友人 ◯(アメコミ好き同士で)
恋人 ◯(アメコミ好き同士で)
キッズ ◯(そんなに怖くない)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ニュー・ミュータント』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):X-MENになれるのか

ダニエル(ダニー)・ムーンスターというネイティブアメリカンの少女は地元の保留地を突如として竜巻が襲い、パニックになっていました。もはや家も安全ではありません。父親に急かされ、とにかく家から必死に逃げ出します。後ろでは大爆発。周囲一帯は騒然としています。

しかし、とりあえずその場で身をかがむものの、父は無残な死体になってしまい…。

ふと気が付くとダニーはベッドに拘束されています。病院…という感じでもありません。無機質な部屋で人の気もなく、部屋にある監視カメラがこっちを見ています。なぜ自分がベッドに縛られているのか、それも不明。大きな怪我はないようですが、説明してくれる人は周りにいません。

ベッドごとに引っ張りながら「出して」と叫ぶダニー。そこに白衣の女性がやってきて「ここは安全だ」と言ってくれます。相変わらず説明不足ですが、それなりに気遣ってくれているようです。

その女性、セシリア・レイエス博士は「ミュータントを知っているか?」と質問してきます。思春期には発症するらしく、ここはそんなミュータントを一時的に隔離し、自分でその能力をコントロールできるようになるまで管理してくれる施設なのだとか。セシリアはその施設の運営者のようです。

他にも同じような10代がこの施設にいるらしく、ここはそんな子のための保護施設。その言葉を今は信用するしかありません。

自分の仲間とはすぐに会えました。イリアナ、ラーネ、サム、ロベルトと一緒にグループカウンセリングを受けたのです。基本はこのカウンセリングが土台になるようです。

といっても初対面のせいか、会話は少なめ。それぞれに語るように促すセシリア。このうち長髪のイリアナは挑発的で、手のパペットとなぜか会話しています。

イリアナに案内され、施設を見て回ることに。施設の正面から庭にあっさり出ることもできました。フェンスすらもなく、見張りもいません。これなら簡単に逃げられるのでは? イリアナにそそのかされるように全力で施設から離れるべく走っていくダニー。

しかし、何もない草原で何かに激突。そこには空間に謎のシールドのようなものがありました。イリアナは笑います。ポカホンタスと小馬鹿にして…。怒ったダニーはイリアナにつかみかかるもイリアナは消えました。どうやら彼女はテレポーテーションができるようです。

嫌な経験にすっかり傷心したダニーですが、ラーネは優しく接してくれました。このラーネからいろいろ説明を受けます。サムはすごい勢いで暴走するように宙をビュンビュンと動く能力の持ち主で、ロベルトは全身を燃焼させるエネルギーを持ち、そしてラーネはオオカミに変身できます。

ここでの毎日に少しずつ慣れていきます。でもシャワー室でも肩をぶつけてきて相変わらず嫌味なイリアナです。瞑想してコントロールの力を身につける訓練でも、イリアナはろくにやっていません。そんなイリアナと揉み合い、攻撃を受けそうになったこともあり、そのときはセシリアがバリアで守りました。

肝心のダニーにはどんなパワーがあるのかイマイチわからないまま。セシリアは薬を注射したりと、あれこれ試しているのですが、それでも答えにたどり着けません。

みんなは雑談の中で自分たちも「X-MEN」のように活躍する日が来るのだろうかと妄想します。世界では「X-MEN」と呼ばれる特殊能力を持ったミュータントが危険から人々を守っていました。

そんな中、施設で不思議な現象が起きます。謎のスマイルなマスクをかぶった得体のしれない存在が、みんなを恐怖させるようになっていったのです。原因は不明。ミュータント特有の何かなのか。

一方で施設を裏で運営するエセックス・コーポレーションはセシリアにダニ―の処分を命ずる措置を出していました。

それを知らない無知なダニー。そして最悪の事態が勃発することに…。

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とりあえず入れました…な恋愛&ホラー

『ニュー・ミュータント』はじゅうぶん光るものがあるポテンシャルを持っていたと思います。ただ、面白くなれる、もしくは先駆的に評価される要素があるのに、その原石を磨くことなく溝に捨てたような…。

まず閉鎖的な施設から始まるというベタなシチュエーション。スリラーの定番。ミステリーとしてどうしたって話の続きが気になってくるものです。なのですが、そのミステリアスさは割といつの間にか消えてしまいます。二転三転と観客を驚かすものもなく、物語は終盤に用意されている大バトルへと進みます。

なんとなくな私の想像ですけど、製作の段階でアメコミらしい派手さをどれほど入れるのか、製作陣の中でも答えがでずにズルズルと流れてこの完成版に至ったのではないだろうか…。

キャラクターの描き方も中途半端というか、妙にアンバランスで…。

言っておきますけど各キャラクターの本質的な設定は「X-MEN」史上最も先駆的で多様性に満ちているんですよ。それだけを勘案すれば総合的には素晴らしい作品です。少なくともすごく期待を煽られる存在感だと思います。

例えば、主人公であるダニー。彼女はネイティブアメリカンで、ここまでマイノリティな存在が主役に立てるだけでも称賛されうるものじゃないですか。演じている“ブルー・ハント”も、ラコタ族という当事者で、本作で一気にキャリアを伸ばしてほしいなと期待したくなります。最近はドラマ『The Wilds(ザ・ワイルズ 孤島に残された少女たち)』のように先住民の若者俳優の活躍が目立ってきているのは良い傾向だなとも。

しかも、『ニュー・ミュータント』はこのダニーがラーネとの間にレズビアン・ロマンスを展開していくのです。青春映画としてはこれは「おおっ、一気に前に進めてきたな!」と応援したくなるもの。アメコミ映画というエンタメのメインジャンルの中でそういうものが描かれるのは本当に大事です。今のところマーベル・DC双方において映画ではこういう直接的なレズビアン・ロマンスはなかったですからね(ドラマシリーズでは『SUPERGIRL/スーパーガール』とかあったけど)。

しかし、その期待値を高める要素はやっぱりいつのまにやら消えていて…。せっかくの同性愛表象も終盤はすっかり忘れられてしまう感じで、その後の顛末も含めて雑なような…。本作、ドラマシリーズだったらもっとロマンスも濃密に描けただろうな…。

“ジョシュ・ブーン”監督は青春もホラーもそんなに得意ではないのでは…と思ったり。一応、この監督は『ザ・スタンド』というドラマシリーズを手がけており、そっちもホラーな要素があるのですが…。

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イリアナ、優遇されすぎでは?

いや、でもアクション映画として面白ければそれでいいじゃないか。その開き直りもアリです。

しかし、そこもこの『ニュー・ミュータント』、やや不足気味。

「キャノンボール」ことサムは、ピンボールみたいに猪突猛進できるのですが、演出の仕方がすごくマヌケに見える…。もっとこう『X-MEN: フューチャー&パスト』のクイックシルバーみたいにカッコいい演出はできなかったのか…。

「サンスポット」ことロベルトは、太陽エネルギーを内に溜め込み灼熱人間になれるという、普通に考えればなかなかに強そうな存在なのですが、本作では裸ギャグ担当になっていて…。

「ウルフスベーン」ことラーネは、可愛いオオカミになるだけかい!っていう…。これなら“メイジー・ウィリアムズ”は『ゲーム・オブ・スローンズ』のときの方が何百倍も狂気に染まっていました。

それらずいぶんしょぼい感じのするミュータントに対して、「マジック」ことイリアナはなんであんなに優遇されているのか。テレポーテーションだけでも有用なのに、アーマーを装着し、ソウルソードというやたらクールな武器を手にし、肩にはロッキードというちびドラゴンまで持つという、フルコンプリート。なんかRPGで所有している最強武器と防具を全部ひとりのキャラクターに装備させたみたいになっています。ひとりキャラだけレベル上げしてればボスに勝てますよ…という感じ。

これは原作コミックどおりではあるのですが、にしたってイリアナだけが輝きすぎですよね。“アニャ・テイラー=ジョイ”が魅力的だからまた余計に印象が強いし。もうイリアナだけでドラマシリーズとか作ってもいいんじゃないだろうか。

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クマはいつもカルト

しかし、『ニュー・ミュータント』の本質はそこではありませんでした。

そうです、本作はクマ映画としては最高に面白い1本です。唐突に登場する大ボス。その名もデーモン・ベア。クマ、大暴れです。

原作どおりなのでこれも変じゃないのですが、かなりそのまま描いたなぁ。これなら冒頭にセリフだけでなく、もっとクマとの関わりを描くとかすればよかったのに…。

けれどもこのデーモン・ベア。インパクトだけは絶大なので、これはカルト映画になりますよ。すべての印象があのクマに持ってかれますもんね。

どうして『グリズリー』(1976年)といい、クマ映画はカルト化するポテンシャルをいつも持ち合わせているのか…

『ニュー・ミュータント』は全然ニューなミュータントではなかったですけど、ニューなクマ映画ではありました。本作がDisney+に並ぶときはぜひナショナルジオグラフィックのクマと肩を並べてほしいですね。

『ニュー・ミュータント』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 35% Audience 56%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

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・『X-MEN ダーク・フェニックス』

・『デッドプール』

・『LOGAN ローガン』

作品ポスター・画像 (C)2020 20th Century Studios. All Rights Reserved. ニュー・ミュータンツ

以上、『ニュー・ミュータント』の感想でした。

The New Mutants (2020) [Japanese Review] 『ニュー・ミュータント』考察・評価レビュー