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『ヴェノム』感想(ネタバレ)…二人あわせて「We are Venom!」

ヴェノム

二人あわせて「We are Venom!」…映画『ヴェノム』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Venom
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年11月2日
監督:ルーベン・フライシャー

ヴェノム

べのむ
ヴェノム

『ヴェノム』あらすじ

ライフ財団という組織が、非道な人体実験をしているという噂をかぎつけたジャーナリストのエディ・ブロック。取材を進めるエディだったが、その過程で人体実験の被験者と接触し、そこで地球外生命体「シンビオート」に寄生されてしまう。

『ヴェノム』感想(ネタバレなし)

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ヴェノムです! 新人です!

どんな業界にも大成功をおさめて頂点に君臨しているという人はいるものです。

映画業界であれば、それは「MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)」なのは間違いありません。桁違いの快進撃であり、このままいくとアメリカの興行収入ランキングは全部マーベルのアメコミ映画になりかねない勢いです。

世界中の大手映画会社が羨む大成功ですが、そんなマーベルも昔は倒産しかけるほど経営がつらい時期がありました。「X-MEN」や「スパイダーマン」などいくつもの人気キャラクターの映画化権を他社に売って食いつないでいた日々。今や「マーベル=勝ち組」みたいになっていますが、昔は辛酸をなめていたんですね。そして、2018年、ディズニーが21世紀フォックスを買収したことで、「X-MEN」がマーベルに戻ることが決定。この買収にはいろいろな識者の意見があるようですが、とりあえず「X-MEN」は親の元に帰ってきた感じです。

一方、親のマーベルから離れていた、もうひとつのビックコンテンツ「スパイダーマン」は、嫁ぎ先の「ソニー」で別の動きを見せています。2度目のリブートとなる『スパイダーマン ホームカミング』で、スパイダーマンを主人公にした新シリーズを開始。

ついに、MCUに組み込まれて、いろいろなキャラと念願の共演を果たしています。けれども、映画化権はまだソニーにあるようで、なんというか「付き合っているけど結婚はしない」みたいな関係。

しかもです。ずっとこのマーベルのサイドキックみたいな付き合いをしていくのかと思ったら、ソニーは独自でユニバースを作る計画を打ち出しました。

スパイダーマンしかいないのに、どうやってユニバースとして拡大するのか。答えはシンプル。「スパイダーマン」に登場する悪役たちを使います。たくさんのヴィランをひとりひとり掘り下げて1本の映画を積み重ねていくスタイル。「一億総活躍社会」ならぬ「悪役総活躍社会」です。全員フル活用というソニーの“持っている材料は全部ぶっこむ”精神を感じますね。そうして生まれたのが「Sony’s Marvel Universe」となります。冷静に考えると、それってユニバースじゃなくて既存の大きいコンテンツを細分化して個々を大きく見せているだけでは?という気もしなくはないですが、まあ、いいでしょう。

そんな「Sony’s Marvel Universe」の第1弾となるのが本作『ヴェノム』です。だから「スパイダーマン」のスピンオフじゃありません。

この『ヴェノム』、実はかなりの難産。2007年のサム・ライミ監督版『スパイダーマン3』でスパイダーマンの敵として登場したヴェノムですが、この年の時点でヴェノムのスピンオフ企画があったそうです。そして、2013年、アレックス・カーツマンを監督に映画企画が具体化。しかし、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの廃止にともない、ヴェノム映画企画も消失(ちなみにアレックス・カーツマンはこのあとユニバーサルの元で「ダーク・ユニバース」を企画しますが、盛大に爆死します…)。

なんだかんだあってやっと現在の映画につながるプロジェクトがスタートしたのが2016年でした。

ソニーとしては失敗は許されない渾身の一作。結果は…アメリカでは興行的に特大ヒット。理想的なスタートダッシュ。良かったね…コケている他社のユニバースも見ているだけになおさら…本当に良かったです。

スパイダーマンも出てきませんし、MCUも関係なし。だからつまらない? いえいえ、だったら膨大な過去作を予習しなくていいから楽じゃないですか! こんなに事前知識ゼロで楽しめるアメコミ映画は久しぶりだなぁ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヴェノム』感想(ネタバレあり)

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漫才コンビかな?

宣伝では、初期のトレイラーから、ホラーなのかと思わせるほどシリアスでダークな作風を全開にしていた本作。ヴェノムのわかりやすいほどグロテスクでインパクトのあるビジュアルデザインといい、王道のダークヒーロー映画を想像した人は多いと思います。

正直、ダークヒーローというのはアメコミ映画では定番で、作品も山ほどあるので、今さらまたそれをやってもなぁ…と若干ローテンションだったのです、私は。

でも、そんなの杞憂でした。というか、私は前情報で本作がコミカルだという話を薄っすら知っていたのですが、実際、コミカル度はなかなか強めでした。ダーク成分はビジュアルだけですね。

『ヴェノム』がコミカルなのは考えてみれば当然。

まず監督があの痛快ゾンビ映画『ゾンビランド』で一躍注目を浴びた“ルーベン・フライシャー”というのが大きいでしょう。もともとテレビCMやミュージックビデオで活躍していた人だそうですから、ポップでスタイリッシュに映像をまとめるのはお手の物なはず。

そして本作は一応、直近で『スパイダーマン ホームカミング』を手がけたソニーの作品なのですから、あの世界と調和性を保とうとすると考えれば、どうしたってライトな感じになります。

ただ、それでも個人的には想像以上に本作のコミカル度合いには驚きました

もう主人公のエディ・ブロックと彼に“寄生”することになるシンビオートのやりとりが完全にコントなんですね。騒動を起こしながらも軽妙な掛け合いを常に挟み、場を和ませます。そんなに喋れるの?とびっくりしたくらい、シンビオートがペラペラでしたね。なんたこのコミュニケーション能力…。

そんな“おしゃべり”シンビオートに対して、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『レヴェナント: 蘇えりし者』『ダンケルク』などこれまで抑えたクールなキャラを演じるイメージが定着している“トム・ハーディ”がエディを演じていることもあって、ほどよい凸凹コンビが結成されていました。

突発性モグモグ症を引き起こしてレストランの水槽で甲殻類にかぶりついたり、拘束しに来た精鋭部隊に銃を突きつけられて手を上げる上げないでバタバタしたり、飛び降りない臆病さをいじられたり、今作の“トム・ハーディ”はいちいちキュート。捕獲してずっと見ていたい気分になる…。

最近の既存のアメコミ映画が壮大な世界観と革新的なテーマで魅了してきたとするならば、本作はそれとはアプローチが全然違って、あくまで誰でもわかるスラップスティックなドタバタコメディと王道のストーリーで攻めているのが非常によくわかります。

だからこそ、普段はそこまでアメコミ映画を観ない層にもリーチして、大ヒットを達成できたのでしょう。

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残虐な悪(配慮はする)

一方で、私個人としてはあまりノれないな…という部分はあったのも事実。

そのひとつがバイオレンスな映像表現。本作はグロテスクでホラーテイスト満点なヴェノムのビジュアアルだけでなく、そのヴェノムの行為も相当に残虐です。敵となるカールトン・ドレイクとシンビオートが融合したライオットにいたっては、串刺しにするわ、両手を鎌にして大勢を薙ぎ払うわ、暴虐の限りを尽くします。

でも血は出ないんですね。死体や血しぶきで現場が汚れることさえありません。ヴェノムの特技ともいえる人間を食べる行為も見せてくれるのですが、牙いっぱいの口を開けたら、カットが変わって、人が消えているという演出になっているだけ。完全に「カービィ」みたいになってます(ゲームキャラでピンクの丸い可愛らしい見た目で、何でも吸い込んで食べるのが特徴)。

いや、もちろんわかります。なるべく多くの年齢の観客層に見てもらうために、年齢制限のかかるシーンは一切出さないというのは。

しかし、本作の場合は、直接の映像でのバイオレンスをゼロにするだけでなく、それ以外の方法での恐怖演出もしていないのが気になって…。例えば、『スパイダーマン ホームカミング』では敵となる大人の存在に対して主人公が恐怖するようなシーンを、直接的ではない映画的な演出で観客に伝えていました。つまり、バイオレンスはないけど、ホラーはありました。

かたや『ヴェノム』はそういうのもなくて、本当にコミカル一辺倒。普通はあんな化け物に寄生されたら恐怖ですし、絶望を感じるものなのですが、いかんせんあのシンビオートも良い奴な感じがして、まあいいかという気分に観客はなるんですよね。しかも、前半の段階で人体とシンビオートは高周波を浴びせると分離すると判明するので、解決法も提示されちゃいます。命の危機もなく、緊張感がなくなるのは当然です。

加えて、ストーリーが超王道なのがまたサスペンスを消失させる原因にもなっていて…。主人公、ヒロイン、悪役といずれもイマドキだったらキッズ作品くらいでしか見れないようなテンプレです。

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ヴェノムは日和見主義なのか

実は本作、アメリカでは批評家と一般観客の評価が正反対になっている現象が起きています。批評家は酷評ぎみなのに対して、一般観客の満足度は高め。なぜこうなったのかは、今まで説明した本作のバランスを観れば一目瞭然。批評家は間違いなくもう少し挑戦的な作品を期待していたのです(私もですけど)。でも観客はとりあえず楽しめればいいというだけで良かったのでしょうね。

本当であれば『デッドプール』や『LOGAN ローガン』の前例もありますから、もっと過激な方向で作品を描いてヒットさせることもできたはず。でも、これは私の推測になりますけど、たぶんソニーはこの「Sony’s Marvel Universe」の初陣を飾る本作を絶対に失敗できないので、日和見主義的な安全牌でいくことにしたのではないのかなと。それはそれでビジネス的には正しいのかもしれませんけど、ことディズニーの21世紀フォックス買収の件で、バイオレンス路線を成功させた「X-MEN」勢がまた穏便路線に戻るのではと不安視する声もあるなかで、このソニーの『ヴェノム』戦略は一部を失望させてしまったかもしれません。

私としては、今回はこの路線で成功をつかめたけど、ずっとは続かないのでは?と思ってしまいます。『ヴェノム2』があるとして、1作目と同じノリだったら絶対に観客にも飽きられますから。それこそ、それはソニーがかつて歩んだ「スパイダーマン」映画のシリーズ中断とリブートの繰り返しの歴史の再来じゃないですか。

きっとヴェノムもどこかで「良い子」の殻を破って大暴れしないといけなくなるでしょう。その時に期待しています。たくさんの人肉と内臓を用意して。

『ヴェノム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 87%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
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関連作品紹介

続編の感想記事です。

・『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』

(C)&TM 2018 MARVEL

以上、『ヴェノム』の感想でした。

Venom (2018) [Japanese Review] 『ヴェノム』考察・評価レビュー