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『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』感想(ネタバレ)…Netflix;復讐の連鎖を葬る

ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野

西部劇をワイルドなブラックに染め上げる…Netflix映画『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール: 報復の荒野』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Harder They Fall
製作国:アメリカ(2021年)
日本:2021年にNetflixで配信、10月22日に劇場公開
監督:ジェイムズ・サミュエル

ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野

ざはーだーぜいふぉーる ほうふくのこうや
ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』あらすじ

高額の賞金をかけられたナット・ラヴは、20年前に両親を殺した憎き相手のルーファス・バックが間もなく釈放されることを知り、復讐を決意する。一方で、町に戻ったルーファスは、「裏切り者」の異名で知られるトルーディス・スミスをはじめとした強者たちとともに強力な一団で待ち構えていた。強大な敵に立ち向かうため、ナットはかつての仲間たちに声をかけ、ルーファス率いる悪党たちとの命を懸けた決闘に挑む。

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』感想(ネタバレなし)

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黒人のカウボーイは実在します(何度も周知)

世の中にはなかなか消えてくれない誤った認識というのがあって、とくにそれが映画などの創作物の影響を受けてのことだったりすると余計に残念で…。

そのひとつがこのサイトでも何度か言及している「黒人のカウボーイなんて現実的におかしい!」という意見。西部劇を描いた映画などで黒人のカウボーイがでてくると「ポリコレのせいで強引に登場した」と脊髄反射的に考える人が少なくなくて…。

それは間違いですよという話はここでも再三しました(『コンクリート・カウボーイ 本当の僕は』の感想などでも)。西部開拓時代には約4人に1人のカウボーイが黒人(有色人種)で、今の私たちが「カウボーイ=白人」という印象で固定化されているのは白人に偏った表象ばかりだった創作物のせいだということ。

それでも「黒人のカウボーイなんておかしい!」という凝り固まった主張が消えないのは、やっぱり深刻なほど根が深いんでしょうね、偏見というものは…。

じゃあ、どうすればいいのかと言えば、結局は黒人のカウボーイの表象を増やすしかなくて…。積み重ねしかありません。

そんな中でアフリカ系アメリカ人のカウボーイ映画の決定打となる一作が誕生しました。それが本作『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』です。

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』は世界観も物語も基本は典型的な西部劇映画です。しかし、登場するメインキャラクターは全員が黒人となっており、しかもその多くが実在の人物をモデルにしているという点が特筆されます。中には黒人のカウボーイもいるし、黒人の保安官もいるし、黒人のギャングもいるし、黒人の女性で活躍した人もいる。かといって伝記映画というほど史実どおりというわけでもなく、構成自体はフィクション。でもこの黒人が西部開拓時代には実際にいて存在感を発揮していたんだという事実をここまで映画でハッキリと提示するものは珍しく、とてもエポックメイキングな作品だと思います。

それだけでなく演出面も独特で、舞台は西部劇ながら、現代のブラック・ミュージックをガンガンに取り入れるという異色のミックスになっています。ここまでジャンルに対してパワフルにレプリゼンテーションを突きつけて、己のモノに変えていくアグレッシブさ。ほんと凄い映画だなと感心してしまうばかり。こうなってくると『ジャンゴ 繋がれざる者』とか、すっかり過去の白人の遺物だなぁ…。

この画期的な『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』を制作したのは、“ウィル・スミス”設立の「オーバーブック・エンターテインメント(Overbrook Entertainment)」。良い仕事するじゃないか…。

監督は「The Bullitts」というステージネームで活躍するシンガーソングライターの“ジェイムズ・サミュエル”

俳優陣も豪華です。ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』や『ロキ』で印象的な演技を見せてきた“ジョナサン・メジャース”が主人公を演じ、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の“イドリス・エルバ”が今作では悪役を相変わらずの貫禄で熱演。

脇を固めるのは、『デッドプール2』の“ザシー・ビーツ”、『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』の“ラキース・スタンフィールド”、『ザ・ファイブ・ブラッズ』の“デルロイ・リンドー”、『あの夜、マイアミで』で監督としても成功をおさめた“レジーナ・キング”、ドラマ『ウォッチメン』の“ダニエル・デッドワイラー”、『マクマホン・ファイル』の“エディ・ガテギ”、『パワーレンジャー』の“RJ・サイラー”など。

西部劇ということでバイオレンスな描写は満載ですが、とにかく俳優たちが最高にクールな映画ですので、酔いしれたい人はNetflixへ直行です。

以下の後半の感想では、本作に登場するキャラクターのもとになった実在の人物についても簡単に紹介しています。

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『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』を観る前のQ&A

Q:『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年11月3日から配信中です。
日本語吹き替え あり
櫻井トオル(ナット・ラブ)/ 斉藤次郎(ルーファス・バック)/ 佐古真弓(メアリー)/ 宝亀克寿(バス・リーヴス)/ 斉藤貴美子(トルーディ・スミス)/ 綱島郷太郎(チェロキー・ビル)/ 朴璐美(カフィー)/ 内田夕夜(ビル・ピケット)/ 新祐樹(ジム・ベックワース) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:西部劇好きなら必見
友人 4.0:エンタメを満喫する
恋人 3.5:ロマンスはほどよく
キッズ 3.0:暴力描写が多めだけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):お前は俺を超えている

とある黒人の3人家族。父と母と息子。食事前に祈っているとドアを叩く音がします。父が確認するとドアの前に立つ黒人の男を見て「まさか…」と息をのみます。その来訪してきた男はズカズカと家の中へ。二丁の金の拳銃を取り出して椅子で硬直する女と子どもに向けます。

「家族に罪はない。頼む」と懇願する父。しかし、男は躊躇なく女に銃を発砲、怒り迫る父にも銃弾を放ち、押さえつけられ絶叫する子どもに剃刀を近づけ…。

それから年月が経過。テキサス州サリナス。教会で祈るひとりの黒人男がいました。そこに手の甲にサソリを彫っている男が現れます。最初はそのサソリ男が悠長にしていましたが、目の前の祈っていた黒人には額に十字の傷があるとわかり、サソリ男は怯えて謝りだします。しかし、目にもとまらぬ速さで発砲する黒人。賞金首の死体は置いていき、颯爽と立ち去ります。

彼はナット・ラブ。恐れられる荒くれ者です。

一方、ある荒れ地では馬で駆ける集団を狙撃する男がいました。その集団「クリムゾン・フッド」に属する眼帯の男は別の若い男の早撃ちで倒され、襲撃した2人はカネを奪います。

ダグラスタウン。ナット・ラブはステージコーチ・メアリー酒場に入ろうとします。入り口では、カフィーという背の低めなカウボーイが用心棒をしており、武器は預けないといけない決まりのようです。中ではステージにステージコーチ・メアリーが立ち、歌いあげ、大盛り上がり。

ナット・ラブはウルフ・レディーと呼ばれているメアリーにキスをしますが、「出てって」と言われてしまい、しまいには殴られます。実は2人は昔は仲間でしたが、今は解散状態。それでも確執はあれど、久しぶりに出会った2人は互いの肉体を求め合い…。

そこに来客。ビル・ピケットです。「見せたいものがある」と言って、見せてきたのは悪名高きルーファス・バックの仲間だった男。今はルーファスは捕まったはずですが、何やら不穏な動きがある様子。

別の場所。列車の線路上に立つ女、トルーディ・スミス。運転手を射殺し、仲間を呼び寄せ、チェロキー・ビルという男を筆頭に車内を制圧。兵士たちと一触即発の中、アボット中将を圧倒し、奥にある厳重な牢を開けて囚人を解放します。でてきたのはルーファス。彼は「列車を動かせる奴は? 残りは始末しろ」と言い放ち、ギャング仲間を再結成します。そしてレッドウッド・シティへと赴き、昔の仲間だった保安官のワイリーのもとに行き、容赦なく暴力を振るった後、この町を支配化に。

その頃、酒場にいたナット・ラブのもとにもバス・リーヴス連邦保安官がやってきて、ルーファスは赦免されたと教えてきます。

因縁があるナット・ラブはじっとしているわけにはいきません。メアリーたちが追ってきたので、また再び仲間と共にチームを組み、宿敵を倒しに出発します。

そこには秘密の過去があるとも知らずに…。

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元になった実在の人物を紹介解説

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』の主要登場人物は実在の人物がモデル。そこで簡単に紹介しておきます。

まずは主人公のナット・ラブ。西部開拓時代に実在にした最も有名な黒人のカウボーイです。両親は奴隷だったようですが、親の亡き後は16歳で家を出てカウボーイ生活に。後に自伝を書いており、それによればカウボーイとして各地を旅しているときにはあのビリー・ザ・キッドにも出会ったとか。史実では1921年、67歳で亡くなります。

次にルーファス・バック。これも実在するギャング団であり、強盗・殺人・レイプと極悪非道のかぎりを尽くしたようです。実際にアフリカ系アメリカ人の多くで構成されていました。1896年に絞首刑となり、ギャングは終焉を迎えます。

作中でルーファス・バック団に所属しているチェロキー・ビル。無法者でこちらも悪行は数知れず。人種的には黒人・白人・インディアンといろいろ混ざった人だったようです。史実では1896年、20歳で処刑されます。

保安官のバス・リーヴスも実在の人物です。解放奴隷で、当初は農業をしていたのですが、先住民の言葉に詳しかったので重宝され、保安官に大抜擢。記録によれば3000人以上の重罪犯を逮捕する大手柄をあげたようです。

作中で早撃ちに誇りを持っていたジム・ベックワースは、史実ではマウンテンマンと呼ばれる探検家で、いろいろなビジネスに手を出したり、軍隊に参加したりと、多芸です。1867年に亡くなりますが、その死因は諸説あります。

ビル・ピケットは史実では「The Dusky Demon」の異名を持つロデオパフォーマー。世界中をツアーし、映画にもでるほどに有名になりますが、1932年に馬に頭を蹴られて死亡します。

異色なのがメアリー。彼女も実在の人物で、本名はメアリー・フィールズ。1832年に生まれ、最初は奴隷でしたが解放後は使用人となり、その後は白人のように何でもやって手に職を持つ多才な人に。60歳に配達人を始め、これがキャリアの大成功となります(だから「stagecoach 駅馬車」の愛称がある)。女性の配達の旅は危険だったはずですが、彼女は恐れ知らずで銃を携えて強盗だろうがオオカミだろうが撃退したとのこと。映画では酒場の花形でしたけど、史実の物語も見てみたくなるほどに波瀾万丈でエキサイティングそうですね。

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西部劇の大乱闘スマッシュブラザーズ

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』は上記の西部開拓時代に名を馳せた黒人たちを一堂に会するかたちで揃えて、あげくにガンマンとしてバトルさせるという…無茶苦茶にもほどあるドリームマッチを実現させている映画です。ほぼ「大乱闘スマッシュブラザーズ」とやっていることは同じですよ、ええ。『マグニフィセント・セブン』よりもはるかに夢の共演を果たしているし…。

どのキャラクターも最高にカッコいいです。メアリーを演じた“ザジー・ビーツ”はさすがのスタイリッシュさだったし、個人的にはトルーディを演じた“レジーナ・キング”がイチオシ。なんであんなにパーフェクトなのか。「ついてこい」と言われたらそりゃあもう一生ついていってしまう。列車も止まるわけですよ。『ウォッチメン』のときの特殊能力を持っているとしても違和感ないほどのカリスマ性とオーラだった。あの2人の荒々しい乱闘も良かったです。

あと“ラキース・スタンフィールド”演じるチェロキー・ビルが想定以上のクソ野郎っぷりで面白かったかな。ジムをまともに相手せず、あげくにカウントダウン中に撃つという外道。“ラキース・スタンフィールド”は善人を演じることも多いけど、こういうサイコパスな狂人もハマるなぁ…。

そしてそんな鬼畜のチェロキーをぶっ倒したのはメアリーの酒場の用心棒だったカフィー。彼女はちょっと作中では明言していませんけど、トランスジェンダー的というか、ジェンダー・ノンコンフォーミング的な表象になっており、こういう西部劇ジャンルでそんなキャラクター造形が見られるのは新鮮です。

終盤はナット・ラブとルーファス・バックの因縁が判明。「俺は弟を殺せなかったが、お前は兄貴を殺すんだ」という血縁者だったオチ。復讐を果たすも復讐の連鎖は葬るというエンディング。そんなラストを見ていると、過去の黒人の古いイメージは埋めて次の時代へ進もうという希望にも受け取れる終幕でした。

演出面のハマり具合も良かったですし(西部劇とブラック・ミュージックは相性がいい)、このノリで同様の映画をいくつも観てみたいです。

私としてはトルーディとチェロキーの「カリスマ&外道」コンビの過去エピソードが見たいかな。

『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 93%
IMDb
5.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ザハーダーゼイフォール

以上、『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』の感想でした。

The Harder They Fall (2021) [Japanese Review] 『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』考察・評価レビュー