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『ザ・プリンセス』感想(ネタバレ)…最近のプリンセスは攻撃力が高いです

ザ・プリンセス

スタート時から攻撃力は最大値!…映画『ザ・プリンセス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Princess
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:レ・ヴァン・キエ
ゴア描写

ザ・プリンセス

ざぷりんせす
ザ・プリンセス

『ザ・プリンセス』あらすじ

欲深い野心のせいでひとりの王女は幽閉されていた。国王である父が統べる城は制圧され、野蛮な者たちが人々を虐げていく。その悲惨な状況を首謀したのは、拒絶されたことを理由に復讐に燃える婚約者の男。このままではこの城は邪悪で冷酷なこの男の住処として地に堕ちる。王である父も母も地下牢に閉じ込められてしまった今、この崩壊寸前の王国を救えるのは王女しかいない。幼い頃から騎士になりたかったプリンセスは剣を手にする。

『ザ・プリンセス』感想(ネタバレなし)

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プリンセス版「ジョン・ウィック」

「プリンセス」という概念は、古典的な「プリンセス・ストーリー」の問題点の指摘もあり、今やポジティブな印象は急速に荒廃してしまった言葉のひとつです。

一方でその「プリンセス」の旧態依然のイメージを塗り替えようと、さまざまな刷新的なレプリゼンテーションも近年は次々と生まれており、激動の最中にいる言葉だとも言えるかもしれません。これがどこに落ち着くのかはわからないのですが(バックラッシュも目立ってきているし)、実験的な試行錯誤は今後もしばらく続くとみて間違いないでしょう。

その試みに根差した映画もガンガン登場しています。

「シンデレラ・ストーリー」の大胆な再解釈を見せる『スニーカーシンデレラ』などは、2022年の象徴的なポスト・プリンセス映画でした。

そしてまた新たなチャレンジャーが飛び込んできました。

それが本作『ザ・プリンセス』です。原題も「The Princess」。

タイトルからして「やってやるぜ!」という闘争心に溢れているのですけど、中身もなかなかにアグレッシブで豪快な一作に仕上がっています。

『ザ・プリンセス』は当然ながらプリンセスが主人公で、そのお姫様は冷酷な元婚約者によって王国を乗っ取られ、城に幽閉されてしまっています。そこに王子様が助けにきてくれる…わけじゃない。プリンセス自らが剣を握り、この劣勢を覆すべく、単身で奪還に挑むのです。

アクション映画のジャンルの中に、危機的なシチュエーションを単独で突破して形勢逆転する無敵の主人公が活躍するタイプのものがありますが(『ダイ・ハード』とか)、それをプリンセスでやってみせた意欲作です。

無論ながら作品自体はアクションにひたすらに特化。しかも『ザ・プリンセス』のプロデューサーは『ジョン・ウィック』シリーズでおなじみの“デレク・コルスタット”であり、『ザ・プリンセス』もあからさまに『ジョン・ウィック』っぽさ全開のノリのいいスタイリッシュなアクションが連発します。

剣で戦うばかりじゃない、あらゆるアイテムを武器にして臨機応変にその場を対処し、血生臭いバイオレンスが怒涛の勢いで本編ずっと炸裂。斬る!刺す!撲殺する!って感じです。エンターテインメント性の高いアクションの目白押しなので、クオリティの高いアクションが見たいジャンル・ファンも大満足でしょう。私も今までいろんなプリンセスを見てきたけど、ここまで攻撃力の高いプリンセスは初めてだ…。

この斬新な『ザ・プリンセス』を監督したのは、一見すると普通の母親が凄まじいアクションを展開していく『ハイ・フォン: ママは元ギャング』という映画を手がけたベトナム人の“レ・ヴァン・キエ”。非常にアクションの魅せ方を熟知している監督なので、今後もアクション映画界で暴れてくれそうです。“レ・ヴァン・キエ”監督を知らなかったというアクション・ジャンルのファンの人は今からでもチェックしておきましょう。

そして『ザ・プリンセス』で戦闘しまくるプリンセスを演じるのは、子どもの時から芸能界で活躍し、最近はシリーズ化された『キスから始まるものがたり』で主演したばかりの若手の“ジョーイ・キング”。ドラマ『見せかけの日々』でも難しい役どころを熱演して高い評価を受けていましたが、今回の『ザ・プリンセス』はそれとは真逆でぶっとんだ役ですが、アクションが似合っています。

共演は、『ウォークラフト』『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』などの“ドミニク・クーパー”、『007 慰めの報酬』『ブラック・ウィドウ』の“オルガ・キュリレンコ”。さらに『ハイ・フォン: ママは元ギャング』で主演し、『オールド・ガード』にもでていた“ゴー・タインヴァン”も重要な役柄で登場し、映画のアクションを盛り上げてくれます。

『ザ・プリンセス』は「20世紀スタジオ」製作の映画で、アメリカでは「Hulu」配信だったのですが、定番どおり日本では「Disney+」配信となりました。

単なるアクション映画というだけでなく、背景には「家父長制に対して“いい加減にしやがれ”と挑戦状を叩きつける」という気持ちよさもあるので、一緒に新しいプリンセス像を切り開いていきたいという人は鑑賞して参戦してください。

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『ザ・プリンセス』を観る前のQ&A

Q:『ザ・プリンセス』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年7月15日から配信中です。
日本語吹き替え あり
Lynn(王女)/ 佐藤せつじ(ジュリアス)/ 佐古真弓(モイラ)/ 坂井恭子(リン)/ 後藤光祐(カー)/ 上田燿司(王) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:アクション映画好きなら
友人 3.5:豪快な戦闘シーンを観戦
恋人 3.5:ロマンス要素は無し
キッズ 3.5:やや暴力描写あり
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『ザ・プリンセス』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・プリンセス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):昔々あるところに…

とある城。その塔の上階に、美しいドレスを着たひとりのプリンセスがベッドに横たわっていました。上半身を起こすと、自分の両腕は鎖で縛られているのがわかります。

眩暈がする中、そのプリンセスは自分が眠らされて、ここに幽閉されてしまったのだと思い出してきます。まだ意識が朦朧とするものの、なんとか状況を確かめようとします。窓からは高すぎるので逃げられそうにありません。部屋をうろつき、どうするべきか思案。ドアは閉じられていました。

すると誰か来る気配。急いでベッドに寝たふりをします。

男2人が「これがお姫様か。穢れのない花嫁ね」と下品な眼差しを向けます。ひとりは近づき、咄嗟にプリンセスは頭突きをきめます。プリンセスは絶叫しながら関節を外して手首から鎖をとり、そして鎖で男を攻撃。倒されても蹴りで反撃し、首飾りで串刺しにしてひとりを倒します。

まだひとりいます。ドレスが引っかかって転倒するも、それでも攻撃を連打。窓から蹴り飛ばして、視界から敵を葬ります。別の男も入ってきましたが、そいつはハンマーで撲殺。

部屋から出て階段の途中で城下町を見渡すと、国王であると女王の、そして妹のヴァイオレットを始めとする城の者がひざまずかされていました。門は閉鎖され、掌握されたようです。

それを首謀したのはジュリアスという男。

「私は必ず結婚する。欲しい者は手に入れる主義だ」「あなたは規律を軽んじ、守るべき伝統を傷つけ、よそ者を歓迎した。王なら征服すべきだ」と勝ち誇って語るジュリアス。王は「恐怖政治は続かない。民は家畜ではない」と諭しますが、ジュリアスは聞く耳なし。王族は連行されてしまいました。

「全部私のせいだ」とプリンセスは落ち込みます。実はプリンセスは土壇場でジュリアスの結婚を拒んでおり、それがきっかけで今回の占領に繋がったようです。

この状態を放置するだけでは事態が好転することはなさそうです。まずは家族を助けなくては…。

プリンセスは下に降りようとしますが、巨体の兜男に発見され、またも戦闘が勃発。それをなんとか倒し、敵との戦闘を極力回避しつつ、ベッドの下から自分の剣を取り出します。

プリンセスは幼い頃からリンという武芸に秀でた女性に剣術や体術を教わってきたのでした。闘いの心得は染み込んでいる。だったらこのピンチも乗り越えられるはず…。

一方、ジュリアスにはモイラという鞭を駆使する女が仕えており、使えない男たちに代わって現場の指揮をとります。不審な死体を発見したので、プリンセスが逃げ出した可能性を疑い、大勢を塔へと送り込ませてきました。

このままでは敵に囲まれてしまいます。階段で乱戦状態となり、傷を負いながら疲労困憊していくプリンセス。

敵の男たちは自分を小娘としか思っていません。あの暴君であるジュリアスも権力欲しさに王族の血を持つ女と結婚したいだけ

でもひとつだけ間違っていることがありました。このプリンセスはただのか弱い守られるだけの存在ではなかったということ。小さい時から騎士になりたかった、ドレスには入りきらない野心に溢れた、己の道を自分で切り開くプリンセスなのです。

つまり、やるべきことはひとつ。戦うのみ…。

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ゲームっぽい攻略感覚で楽しめる

冒頭から何の説明も無しに開幕アクションで始まる『ザ・プリンセス』。

本作のアクションはゲームっぽい見せ方になっているのが特徴です。

さながらこの城はダンジョンであり、プリンセスのベッドからの開始はプレイヤーのスタート地点。ここからプリンセスはその場その場で状況を判断しながらエンカウントしていく敵を倒していくことになります。

最初の男2人の戦闘はほんの小手調べ。いわばチュートリアルです。その練習戦が手から鎖を外すというギョっとする動作から開幕を告げるのも本作らしいですが、いきなりのバイオレンスなエグい攻撃をお見舞いし、「この映画にお上品さとか皆無ですからね」と観客に教えてくれます。

そしてどんどんと敵に強さが段階的にアップしていきます。

次は兜付きの巨体男。股間蹴りも通用しないタフな奴ですが、飛び掛かっての必死の攻防でなんとか撃沈。ドレスの裾を破って身軽になっているのが功を奏したかたちです。

その次は全身鎧男。今度はさすがに弱点がない。かろうじて甲冑の隙間に剣を突き刺すも致命傷にはならず。最終的には焼き殺すというオーバーキルでトドメです。

今度は乱戦。その前に回想でリンとカイとの「1対2」の訓練を見せることで、「2人までなら倒せるけど、この集団はどうさばくんだ?」と観客をハラハラさせる。この見せ方も上手いです。相手を転ばせたり、高低差を利用したアクロバティックな動きで翻弄したり、知的で立体的なアクションが披露されて、新鮮さを維持します。敵と睨み合って思わず笑っちゃうプリンセスのヤバみある感じとかも良いシーンです。

そして続いて、リンと遭遇してからの鞭女モイラとの厨房バトル。戦いの師匠との共闘で強敵に挑むというアツい展開です。

ここで負けてしまい、ジュリアスにも捕まり、からくも逃げ出して、再度仕切り直し。武器貯蔵庫でのフル装備で、ラストバトルに突入します。

モイラに対しては吊るされた屈辱をやり返すというカタルシスを見せつつ、最後はジュリアスの首をスパンと切断。アクションの起承転結として綺麗なオチです。

地形や敵の弱点を探り、一時的に仲間の協力を借りつつ、屈強な相手を倒すという繰り返し。これ以外にもステルスアクション的な面白さもあったり、攻略感覚で映画が構築されており、「ELDEN RING」みたいなゲームに親しんでいる人ほど既視感のある作品だったのではないでしょうか。

こういうゲームっぽい映画(ゲームの映画化ではない)は増えている気がするのですけど、海外の批評家界隈では映画には詳しいけどゲームには精通していないレビュアーが多くて、あまりゲーム性の側面で分析されることが少ないんですよね。

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イマドキのプリンセスは家父長制をぶっとばす

『ザ・プリンセス』はアクションに極振りしているので、ストーリー上の背景も深みも全然見えてきません。しかし、何もないわけではありません。言ってしまえば「語ってないけどわかっているよね?」という目配せだけでこちらの想像をかきたてるようにしています。

本作の主人公が「プリンセス」という肩書しか与えられていないのも、これは世間一般の「プリンセス・ストーリー」に対するアンチテーゼであるということの明白な主張ですし、お約束事をいかにぶっ壊すかに注力しているので、それさえ伝わればいいだけです。

そう考えるとストーリー面でもアクションに負けず劣らず豪快です。

敵の親玉であるジュリアスはその言動から権力欲しか頭にないだけでなく、傍にいるモイラさえも女だからと見下すセクシストであり、多様性を嘲笑うレイシストです。同時にプリンセスの父も王位継承は男児のみであるべきで、王妃が武道を学ぶなど恥だと考えている、典型的なパターナリズムです。

そういう諸々に対してこの映画は説教でも説得でもなく、もう「ぶっ倒してやる!」でゴリ押ししていますからね。

でもそうなる気持ちもわかりますよ。こんな現実社会に生きているとそりゃね…。

『レディ・オア・ノット』『ガンパウダー・ミルクシェイク』にもあったようなこういう「家父長制をとにかくぶっ飛ばしたい」系の映画。私は個人的に好きなので贔屓しがちですが、世間的にはまだまだ過小評価されがちな部類だと思います。

なぜかこういうタイプの映画に限って、リアリティとか求めてくる人がいたり、ストーリーの高級感の無さにケチをつけてきたり…(男性が主人公だったらそんなこと言わないことが多いのに…)。

ただ「女性がこんなことする」映画にばかりそういう視線を向けるというのは、それこそまさしく「プリンセスなんだから大人しく清純であれ」と押し付けているのと同じことなんじゃないのかとも思います。

『ザ・プリンセス』にはそんな戯言もまとめてぶった切る快感がありました。もう今のプリンセスは従順な女性の証ではない、抵抗と戦いに身を投じるバトルガールですよ。

『ザ・プリンセス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 59% Audience 43%
IMDb
5.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios

以上、『ザ・プリンセス』の感想でした。

The Princess (2022) [Japanese Review] 『ザ・プリンセス』考察・評価レビュー