ウィレム・デフォーと犬の組み合わせは最高です…「Disney+」映画『トーゴー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:エリクソン・コア
トーゴー
とーごー
『トーゴー』あらすじ
1925年、雪深い大地が広がるアラスカ州ノームではかつてない激しいブリザードが迫っていた。しかし、町ではジフテリアが大流行し、多くの子どもたちが苦しんでおり、一刻も早く血清が必要だった。血清のある場所はここから遠く離れており、列車も飛行機も使えそうにない。そこで頼みの綱となったのは犬ぞり。犬と人間の絆が試されるときがやってくる。それは過酷で命を失いかねない危険な旅となった。
『トーゴー』感想(ネタバレなし)
血清を届けるために活躍した犬たち
新型コロナウイルスのパンデミックを収束させる最後の希望…それはオリンピック…なわけはなく、もちろんワクチンです。日本でも2021年5月から高齢者へのワクチン接種が本格化し、6月も順次どんどんと接種が進んでいます。
私も人生でこんなにも注射を打ちたい気分になっているのは初めてです。私はそもそも2021年内に打てるのかなぁ…。
今まではワクチン注射を打ちたければ予約さえすればフラっと病院で気軽に打つことができました。だから考えてもみなかったのですが、この注射までには途方ない労力があるものなんですね。まずそれを開発する人がいて、次にそれを届ける人がいて、そしてそれを打つ医療従事者もいて…。こういう影で一生懸命に働く人々を認識してこなかった自分が情けないと思いますし、本当に今は感謝でいっぱいです。
そんな気持ちを抱けるようになっている今の時期にこの映画を観るのはちょうどよいかもしれません。それが本作『トーゴー』です。
本作はディズニーの動画配信サービス「Disney+」で配信されているオリジナル映画。なので劇場公開はされていませんし、そこまで知名度はないでしょう。しかし、評価は非常に高く、映画館で観たかったと思えるくらいの映像クオリティです。
内容は実話を基にしたストーリーで、1925年のアラスカが舞台。ノームという町でジフテリアという感染症が大流行。このジフテリアは日本では今はワクチンのおかげもあって爆発的な感染が起こることはほぼありませんが、昔は世界中で猛威を振るっていました。とくにその最悪の例として挙げられるのが、この1925年のアラスカのノームでの感染です。
このジフテリアに苦しむノームの患者のために血清を届けることになるのですが、場所は雪深い大自然に囲まれたエリア。そこで犬ぞりを用いることになったのです。その距離はなんと674マイル(1085 km)。ノームはアラスカの西の端っこにあります。ちなみにここの気温はマイナス46度。そんな環境を犬ぞりで大急ぎで進むなど自殺行為なのはすぐにわかります。
この『トーゴー』はそんな世紀の大輸送に挑戦した犬たちと人間の物語です。この出来事を扱った作品は他にもあって、1995年に『バルト』というアニメ映画も作られました。『トーゴー』は実写映画であり、他では語られなかった存在を語り直す立ち位置になっています。
主人公は何といっても犬。犬ぞりを扱った最近の映画だと『野性の呼び声』がありましたが、あちらは完全にCG。一方でこの『トーゴー』は本物の犬をキャスティングしています(一部のシーンはCGです)。
その勇敢な犬と一緒に雪原を駆け抜ける人間側の主人公を演じるのは、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や『永遠の門 ゴッホの見た未来』で名演を披露している“ウィレム・デフォー”。『トーゴー』は“ウィレム・デフォー”主演作としても他の映画に負けない一作だと思います。
共演は、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』の“ジュリアンヌ・ニコルソン”、『ストックホルム・ケース』の“クリストファー・ハイアーダール”など。
でもやっぱりメインは犬と“ウィレム・デフォー”ですよ。この組み合わせがたまらないんだ…。
監督は『X-ミッション』の“エリクソン・コア”です。命懸けのダイナミックな映像が飛び出すあたりが『トーゴー』でも継承されています。
ディズニー映画ですし、犬が大好きな子どもも大満足で観られる内容です。こうやって薬が運ばれたという歴史を知れば、注射嫌いな子も打つ勇気がもらえるかも。それに思わず大人も心を揺さぶられる大作になっていますので、ぜひ鑑賞してみてください。
オススメ度のチェック
ひとり | :犬好きは必見 |
友人 | :犬を愛する者同士で |
恋人 | :気楽に観られる感動作 |
キッズ | :子どもも大満喫 |
『トーゴー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):犬たちに命をまかせて
犬ぞりがアラスカの雪原を駆けます。犬たちを指揮するのはベテランのレナード・セッパラ。犬たちの先頭を走るのはトーゴーという名の、こちらもベテラン犬です。今日も快調な走り。
ところがカリブーの群れが近くに出現。セッパラは警戒します。というのもトーゴーはカリブーを追いかけるのが大好きなのです。このままでは追いかけ始めてしまい、コースアウトです。しかし、トーゴーはカリブーを目にしても一直線に走り続けました。なぜ…?
セッパラは後ろを振り返り、すぐにその理由を察しました。後方では真っ黒な巨大な雲が雷鳴を轟かせて接近していたのです。これはのんびりしている場合ではない…。
「よくやった、トーゴー。よくやった、みんな」
アラスカ州ノーム。1925年1月24日。セッパラと犬たちは町へ到着。人は全然いません。いつもであれば賑わっているものなのに。その原因はジフテリアの大流行。ノームでは20人以上の患者が発生しており、収束する気配がありません。
フェアバンクスの鉄道病院に血清があるものの、運ぶ手段はないと説明を受けるセッパラ。列車は遠いし、飛行機という手段もあるが悪天候が近いので飛べるかどうか…。
セッパラは「あの雲を見ればわかる。普通の嵐じゃない」と断言。トーゴーがカリブーを追わず家に戻ったのは嵐が怖かったからだと推測し、動物的な直感を信じます。
となるとセッパラしか頼りがないことに。しかし、セッパラは自分が血清を運んでくる重大な仕事をするかどうか判断に迷います。
病院を窓から覗くと大勢の子どもたちが苦しそうにしていました。子どもも親も知り合いです。
家に帰ります。妻のコンスタンスは心配そうです。「行くんでしょ?」「まだ決めたわけじゃない」「じゃあなんでソリにワックスを?」「必要だから」
犬を愛するコンスタンスは「トーゴーは置いていって、もう12歳よ」「大切な犬を死に追いやろうとしているのよ」と言いますが、セッパラはまだ判断を躊躇。答えを口に出そうとしません。
寝ようとすると市長のジョージが訪ねてきます。飛行機は出せず、犬ぞりに頼るしかないという最終告知でした。
すでに外は吹雪。妻としばしの別れ。「すぐに戻ってくる」
「よし、トーゴー。ハイク!」
こうして街を出発しました。みんなが帰りを期待しているのを背中に感じます。前方に巨大な雪嵐。意を決して飛び込んでいくセッパラと犬たち。
トーゴーとの出会いは12年前。体の弱い子犬で、当時のセッパラは「弱いものは淘汰される」と吐き捨てますが、コンスタンスは見捨てる気はありませんでした。トーゴーは元気いっぱいで言うことをきかず、セッパラのストレスのもとになります。足は速いからソリに向いているのではと妻は言っても、犬を欲しがっているビクターに渡すと冷たい態度。
「連中はペットでも友達でも子どもでもない。ただの動物、家畜だよ」
今、セッパラはその犬に自分の命を預けています。そして多くの子どもたちの命も…。
犬とウィレム・デフォーにメロメロ
『トーゴー』の魅力はやはり犬と“ウィレム・デフォー”の組み合わせ。これがもうずっと見ていられる。
犬もシベリアンハスキーが“ウィレム・デフォー”には似合います。チワワやトイプードルよりもシベリアンハスキーですよね、“ウィレム・デフォー”は。
この“ウィレム・デフォー”演じる主人公のセッパラは、回想シーンでは犬を「動物」と言い放ち、完全に人間とは別物扱いにして割り切っています。そんなセッパラが犬と対等な関係を築いていく過去パートは微笑ましい部分。メインの旅路が寒々しいので、この過去パートはさながら暖炉の前でポカポカになる気分ですね。
この過去パートでは子犬の愛くるしさと若干のウザさも堪能できて、犬愛好家にはたまらない内容です。とくに柵脱出と小屋脱出は可愛さ満点。
そしてしだいにその犬にメロメロになっていく“ウィレム・デフォー”も可愛い。犬にデレデレになる“ウィレム・デフォー”ってこんなにも最高なのか。ちょっとペットショップでシベリアンハスキーの子犬と“ウィレム・デフォー”をセットで売ってないのかな(売ってません)。
ちなみに「トーゴー」という名前は「東郷平八郎」に由来しているそうで、その謎の意味不明さも相まって私は愛らしいからいいやと思います。東郷平八郎を元に犬にネーミングしちゃう“ウィレム・デフォー”の抜けている感じ、いいじゃないですか…(デレデレ)。
自然との一体感を取り戻す旅路
ただ、この過去パート、単に可愛いシーンの盛り合わせとしての存在感だけではありません。『トーゴー』はシンプルながらストーリーの展開のさせ方が上手かったです。
例えば、序盤の雪嵐に突っ込んで回想が始まるという切り替えもいいですし、カリブーを追って川に突っ込んでしまったという失敗シーンの後に、現在パートで湾を進んでいくという流れになるなど、対比がしっかりできています。
何よりもあんなにダメダメだった犬、そして犬を信頼していなかったセッパラがここまでの強い絆を発揮しつつ、旅をしているという姿に観客は説明抜きで感動させられていきます。
映像のダイナミックさも良い感じに物語を盛り上げます。ここは“エリクソン・コア”監督の手腕なのかな。急斜面を下る場面の「これ、絶対に大変なことになるよ!」というハラハラ感。実際にあんなふうに下ることはなさそうですけど、映画的には凄い迫力です。そこで示される「トーゴー、凄い!」という尊敬の喚起。さらに終盤の見せ場になる氷の割れた湾を一気に駆け抜けるというアトラクションのようなディザスター的な恐怖演出。ここでも「トーゴー、凄い!」という尊敬が溢れることに。とにかくトーゴーへの観客の尊敬パラメーターはすでに上限を突破しています。
それ以降はトーゴーは負傷し、もうあとはセッパラと同じく「死なないでくれ…」という懇願の気持ちにしかならないという…。感情を揺さぶられまくりに。
本作は犬と人間の絆の話ですが、単に一緒に困難な犬ぞりの旅を踏破しましたというだけに終わらず、かなり根源的な付き合い方の話にもなっていると思います。
そもそもセッパラはノルウェー出身だと作中で語られていますが、厳密にはノルウェーのクヴェンという少数民族の血筋なのだそうです。そんなセッパラがあの旅の中でロードハウスを提供するインディアンの人たちと交流するシーンもあります。おそらくセッパラはすっかり人間文明社会の中で生きてきたので、自然への共感性というものは喪失してしまっていたのでしょう。だから最初は犬も動物扱いです。しかし、しだいにトーゴーとの触れ合いを通してその感覚を取り戻していく。
動物を擬人化なんて安直な話でもなく、人間が自然に帰るともまた違う。そもそも人間は自然と一体だったじゃないかという根源に立ち返る。それは『アルファ 帰還りし者たち』でも描かれたとおり、犬と人間の出会いの原点ですよね。
ラストにトーゴーを寝室のベッドに寝かせる。そこに本作の終着点はあったと思います。
史実との違い
『トーゴー』は実話ベースですが、史実は異なる部分もいろいろあります。
リレー方式となった大規模な輸送ですが、もちろん関与した犬やマッシャーは他にもいます。今作ではその中でも当時はメディアの注目をあまり浴びることがなかったトーゴーの活躍を引き立たせることを目的にしています。
なのでやや話がドラマチックに盛られています。例えば、作中では旅の最後にトーゴーは足を負傷し、見るからに痛々しそうにしていました。しかし、実際はとくにこの旅でトーゴーの健康に深刻な影響が出ることはなかったようです。
ただ、子犬の時期は弱々しかったのは事実とのこと。犬小屋から抜け出してトラブルを引き起こしたのも実際にあったようです。すごく喧嘩っ早い性格だったようで、アラスカン・マラミュートの別の犬ぞりチームを攻撃してしまい、その際に殴られて怪我したこともあったとか(これは映画内での描写はなし)。
犬ぞり時のエピソードも作中では反映されています。凍ったエリアの危険地帯を回避する能力に長け、実際に流氷上で孤立したチームを引っ張ったこともあり、それらの実話が映画ではいかにも映画的に脚色されて活かされています。
セッパラ・シベリアンという犬種として子孫を残したのは当然ながら事実であり、そしてこの映画でトーゴー役として出演している犬ももちろんセッパラ・シベリアン。つまり、子孫がその生みの親を演じているというなかなかにアツいキャスティングですね。
今のコロナ禍ではワクチンを運んだのは犬ではありませんが、かつての犬の功労を思い出すのは大切なことでしょう。新型コロナウイルスのワクチン開発にはきっとブタさんの多大なる貢献があったと思うので、ブタに感謝しておきましょうね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 95%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
犬を題材にした映画の感想記事です。
・『エンツォ レーサーになりたかった犬とある家族の物語』
・『僕のワンダフル・ジャーニー』
・『ドッグマン』
作品ポスター・画像 (C)Disney
以上、『トーゴー』の感想でした。
Togo (2019) [Japanese Review] 『トーゴー』考察・評価レビュー