鮮血のスターとして…映画『MaXXXine マキシーン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2025年6月6日
監督:タイ・ウェスト
ゴア描写 性描写
まきしーん
『MaXXXine マキシーン』物語 簡単紹介
『MaXXXine マキシーン』感想(ネタバレなし)
ハリウッドを再び血まみれに!
「ハリウッドを再び偉大に!(Make Hollywood great again!)」…どこぞの誰かがまた叫んで、「海外で作られた映画に関税をかける!」とほざいていましたが、もうそんな戯言は無視しましょう。本当にハリウッドを助けたいなら、コスト増に繋がる関税追加をやめて、マイノリティの表現の自由を邪魔しないでください。
それよりもです。鮮血のスターが、いよいよハリウッドにやってきました。
何の話か。はい、本作『MaXXXine マキシーン』のことです。
ホラー映画界の名手としていかんなく才能を証明することになった“タイ・ウェスト”監督。その紛れもない代表作になった「X」3部作。2022年の『X エックス』、『Pearl パール』に続く3作目がこの『MaXXXine マキシーン』です。


3部作といっても互いを補完し合う程度の繋がりで、絶対にこの公開順で観ないとストーリーがわからないわけでもないです。『X エックス』のあるキャラクターの前日譚的な過去編が『Pearl パール』であり、『X エックス』の後日譚的な続きが描かれるのが本作『MaXXXine マキシーン』となる…そのタイムラインだけ理解していればOKです。
具体的には『X エックス』の主人公のひとりであったマキシーンがタイトルどおりに主役になります。そして今作の舞台は1980年代のハリウッドです。
そのためか、これまでの映画はわりと狭いスケールの舞台でしたが(田舎の主に家と周辺)、今回はロサンゼルスの街全体が舞台になり、ゴージャスになっています。
主役を熱演するのはもちろん“ミア・ゴス”。このシリーズは“ミア・ゴス”のために用意された大舞台です。これだけ贅沢な主演作を手に入れられるのは、若手としては最高なのではないだろうか…。“ミア・ゴス”も本当に演技の振れ幅と威力が特級に秀でているのでこのシリーズだと最大の持ち味を発揮できていますし…。
『MaXXXine マキシーン』はこれまでの2作よりも俳優陣が豊かに揃っています。
主な顔ぶれは、ドラマ『ザ・クラウン』の“エリザベス・デビッキ”、ドラマ『ザ・レジデンス』の“ジャンカルロ・エスポジート”、ドラマ『ボンズマン 悪霊ハンター』の“ケヴィン・ベーコン”、『ファミリー・プラン』の“ミシェル・モナハン”など。ドラマ『エミリー、パリへ行く』の“リリー・コリンズ”も短い出番ながらも強烈な印象を残す役で顔をだします。
また、“モーゼス・サムニー”や“ホールジー”などシンガーやミュージシャンの人も起用されていたりします。
当然、今作も残酷に人が殺されまくるスラッシャーです。『MaXXXine マキシーン』で誰が誰をどうやって殺すのか…血しぶきを浴びながらお楽しみください。
『MaXXXine マキシーン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | グロテスクかつ激しい人体破壊描写があります。 |
キッズ | 性行為の描写も多く、低年齢の子どもには不向きです。 |
『MaXXXine マキシーン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
金髪をたなびかせマキシーンは大きな倉庫へ真っすぐに足を運びます。そこはオーディションを行っており、3人が座っていて傍に撮影係がいます。マキシーンはひとつの椅子に座って堂々と自己アピール。まるで憑依でもされたかのような先ほどとガラっと変わったエモーショナルな名演をみせます。最後に乳房をみせてくれるかと言われ、躊躇いもなく披露。
やりきったマキシーンは他のオーディション参加者に威勢のいい態度を放ち、車で去っていくのでした。
1985年、ロサンゼルス。「ナイトストーカー」と呼ばれる残忍な連続殺人事件が続いており、メディアはしきりに報じている世の中。
マキシーンは新作ホラー映画『ピューリタンII(The Puritan II)』の主役オーディションに見事に合格しました。普段は成人向けのポルノ作品ばかりにずっと出演してきたマキシーンにとっては異例の躍進です。マキシーンがいつもいるのはそういうこじんまりとしたポルノ撮影現場です。今度はもっと大きな世界に立てます。ハリウッドのスターになれるかも…。
高揚感に包まれつつ、マキシーンは友人のレオンとアンバーにその吉報をやってやったぞと言わんばかりに勝ち誇って伝えます。
マキシーンは副業でのぞき見の風俗店でも働いていました。そこでは雰囲気を変え、セクシーに踊りくねります。今日、それを透明ガラス越しに見ていたのは、皮製品で全身を包んだ黒ずくめの人物でしたが、マキシーンは相手を知るわけもありません。
絶好調のマキシーンは知り合いのタビーと出会い、パーティーに誘われますが、もう自分はスターへの階段を上り始めたと考え、余裕で断ります。
しかし、その夜、マキシーンが独りで家路につこうとすると、バスター・キートンに扮した怪しげな人物が後をついて来るのに気づきます。その男は飛び出しナイフを振りかざしながら路地裏で彼女を追い詰めてきました。
けれどもマキシーンは怯みません。隠し持っていた銃を突きつけ、一瞬で怯え上がっているその男と対峙。形勢逆転です。男に服を脱げと命じ、口に銃を押し込んで卑猥な動きをさせ、地面に伏せさせたところでブーツで睾丸を踏みつけて潰し、去ります。
怖いものなしのマキシーンでしたが、家のドアの前にひとつのVHSテープが置かれるのに気づき、それをおもむろに再生します。
そしてその動画は、6年前、今は亡き友人たちと制作しようとしていたポルノ映画でした。仲間内だけでの個人製作だったので他の人は知るはずもありません。その撮影を行ったあの田舎で起きた惨劇が蘇ります。あの恐怖から生存したのも自分だけのはずです。
どうしてこの動画が出回っているのか…。
ポルノからホラーへと生存の場を移す女

ここから『MaXXXine マキシーン』のネタバレありの感想本文です。
『MaXXXine マキシーン』は、早い話が、完全なる男中心社会のエンターテインメント業界で夢や目標を達成するために女性が男性よりも多大な苦労をしなければならない…というジェンダー格差を痛烈に描いています。その点においては『サブスタンス』と大枠は同じです。
前作からそのテーマを象徴づける存在として「ベティ・デイヴィス」という実在の女優が引用されていましたが、今作ではさらにハッキリと取り上げてきましたね。
“ベティ・デイヴィス”は“キャサリン・ヘプバーン”と並ぶ名女優として1930年代から1940年代は大注目されてきましたが、後に低迷した…と表向きは語られます。しかし、実態としては年齢を重ねてなおかつより中心的な役割を求めて振る舞ったことで、男社会の業界から煙たがられてお払い箱にされた…要は捨てられたわけです。
そんな“ベティ・デイヴィス”は『イヴの総て』(1950年)や『何がジェーンに起ったか?』(1962年)で従来のイメージを覆す強烈な演技をみせ、一気に業界の目を釘付けにさせます。
つまり、エンタメで活躍する女性はセックスシンボル以上の存在へと主体的に変貌するには「モンスター」への領域に踏み込まないといけない…。そこまでやってやっと初めてその足枷を砕くことができる…。そういうそもそもの前提としてここまでジェンダーの抑圧が酷いのだということを、この「X」3部作は意識的に世界観に取り込んでいます。
『MaXXXine マキシーン』…というかこの「X」3部作の独自性となっているのは、そのテーマを描くうえで、ポルノとホラーという2つのジャンルの交差軸を視点に、業界構造を交えながらの語り口になっているあたりでしょう。
『X エックス』は個人制作でポルノ作品を作ろうとしており、『Pearl パール』はスターを夢見る少女がポルノの世界からその才能を目覚めさせていきます。
『MaXXXine マキシーン』ではついにハリウッドが舞台になったことで、ポルノ産業がしっかり映し出されることになりました。当時はVHSテープの普及で、何よりもポルノ業界が勢いを増し、誰でも個人で欲望を満たすポルノ動画を楽しめる環境が手に入ったわけですから、ポルノ作品もひたすらに量産しまくりでした。作れば作れるだけ売れます。
主人公のマキシーンもその業界の波に乗って、ポルノ女優として活躍をしているわけですけども、本人としてはあくまでハリウッド・スターになりたいというのが夢。
そこでホラー映画の主役に起用されるのですが、ホラーはやはりニッチなジャンルであり、ポルノほどではないにせよ、世間からは低俗とみなされていました。それにやっぱり一部のホラーにはアダルトな描写も多く、やっていることとしてはポルノとそんなに変わらないのでは?という状況でもありました。
でも夢を掴みたい女性たちにとってはこのホラーは間違いなく夢への階段の最初のステップではありました。それに作中でも登場しますけど、“エリザベス・デビッキ”演じるあの女性監督のように、監督になりたい女性にとってもホラーは夢への階段になっていました。本意か不本意かはさておき、とにかくこれしかない…。
そういうポルノからホラーへ…という変移は、そこに関わる多くの女性たちの人生に複雑な影響を与えながら、あの時代に成立していたんですよね。
ホラーに女性が搾取されているのか、女性がホラーを能動的に利用しているのか…その境界が極めて曖昧な構造があって、『MaXXXine マキシーン』はその狭間で佇む女性の心境が浮き上がってくるような映画でした。
本当に罪深いのはお前だ
「X」3部作でもうひとつ欠かせないのが、保守的な規範から女性がどう脱するかということで、シリーズでは明確にこれは家父長的な…とくに宗教…キリスト教と深く絡めて描かれていました。そして『MaXXXine マキシーン』でも明確な「敵」として立ちはだかります。
今作の殺人事件の凶悪犯の正体…それはマキシーンの疎遠だった父にしてテレビ伝道師として権力を手にしていた男とその信者たちでした。
しかも、自分たちの気に入らないハリウッドの自由奔放さを咎めるために、自らでスナッフ・フィルムを作るという自作自演的な工作までするという陰湿さ…。
本作には保守的な勢力のスケープゴート的なレトリックがよく滲み出ています。「ホラーなんて野蛮で残酷極まりないだけだ」「ホラーのせいで凶悪犯罪が起きる」と危険視する一方で、自分たちの保守性がもたらす残酷さは不問にするという二枚舌。作中でも「ホラーを規制しろ!」と保守的な人々から抗議が起こっている様子が映し出されていましたが、その裏で何が起きていたか…。
このあたりの保守的な社会とホラー業界への批評性は『映画検閲』と似たような感じもあります。
『MaXXXine マキシーン』では冒頭から「ナイト・ストーカー連続殺人事件」も話題にされますが、これは実際にあった事件です。1984年から1985年にかけてロサンゼルス郊外を中心に13人を殺害する凶悪な事件が起き、当時の社会を震撼させました。犯人は「リチャード・ラミレス」という男で、悪魔主義者による犯行ということに表向きはなっていますが、加害者は女性への攻撃性を明らかに露呈してもいました。でもミソジニーが動機にあるとは分析はされません。悪いのは悪魔主義…そういう論調で女性蔑視な保守的社会は罪に問われません。
マキシーンはラストは父の顔面めがけてショットガンをぶっ放し、パールから時代を超えて抗い続けた鎖を断ち切ります。「どう言い繕うとも悪いのはお前だろ」ってことですかね。そりゃあそうです。実際に悪いんですから。
“ミア・ゴス”はスクリーム・ガールよりも、こういうスラッシャーでありつつ、リアルな苦悩も押し殺すような人間性も垣間見せる多層的なキャラクターが本当に似合うな…。
本作は舞台が広いこともあって若干キャラクターの各ドラマがとっちらかった感じもなくはないですけども、3部作を通して意外なほどに実直にラストスパートもフェミニズムで走り抜けた一作だったと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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以上、『MaXXXine マキシーン』の感想でした。
MaXXXine (2024) [Japanese Review] 『MaXXXine マキシーン』考察・評価レビュー
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