私とあなたの心の傷…映画『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』とアニメシリーズ『スティーブン・ユニバース・フューチャー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年~2020年)
劇場版:2024年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン1:2024年にU-NEXTで配信(日本)
原案:レベッカ・シュガー
恋愛描写
すてぃーぶんゆにばーす ざむーびー ふゅーちゃー
『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー/フューチャー』物語 簡単紹介
『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー/フューチャー』感想(ネタバレなし)
未来のために必要な“続き”
『スティーブン・ユニバース』…そう、『スティーブン・ユニバース』の話をしよう。
2013年から「カートゥーン・ネットワーク」にて制作されたこのアニメシリーズ。もう今から観ればかなり古い作品の部類に入ると思いますが、その輝きはなおも健在です。
2025年の立ち位置から観ても、現行で最も多様なクィア・レプリゼンテーションに溢れているキッズアニメのひとつなのは間違いないと思います。クィア・クリエイターの“レベッカ・シュガー”が中心になって創り出した世界・キャラクター・音楽…そのどれもが自己肯定を後押しし、子どもから大人まで多くの人に愛される作品となりました。
単に「LGBTQキャラがいます」ってだけでなく、それがテーマ性と噛み合って包み込むように描かれているのが良いところでしたね。
その『スティーブン・ユニバース』は2013年からシーズン1が始まり、2019年にシーズン5でひと区切りを迎えました。その私の感想は以前に以下の記事で書きました。
実はこの作品はそれで終わりではなく、シーズン5の最終話から2年後を描いた「映画」と「リミテッド・アニメシリーズ」が2019年から2020年にかけてありました。
それが本作『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』と『スティーブン・ユニバース・フューチャー』です。
今回はこの2タイトルの感想を書くことにしたいと思います(最初の『スティーブン・ユニバース』のネタバレももちろん含まれます)。
「2年後を描くなんて蛇足じゃないの?」と警戒するかもしれません。私の感想の結論を言わせてもらうなら、全くそんなことは無し! 今作があってこそ気持ちよく完結する…欠かせない最終章ですよ。
それがなぜかは…大きなネタバレになるので後半の感想で…。
キャラは少し成長しましたが、いつもの顔ぶれのいつもの雰囲気が優しく導いてくれます。当然、今作でもクィアな表象はたっぷりです。いや、前回以上に詰まってます。
映画『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』を観てから、全20話(1話あたり約11分)のシリーズ『スティーブン・ユニバース・フューチャー』を楽しんでください。
『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー/フューチャー』を観る前のQ&A
A:最初の『スティーブン・ユニバース』を観ていないなら、まずはそちらの全シーズンを観ておくのがオススメです。物語は完全に続きます。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 低年齢の子どもでも安心して観れます。 |
『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー/フューチャー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
スティーブン・ユニバースという少年には複雑な出自がありました。父親は人間のグレッグですが、母親は「ジェム」という宝石型生命体の統治者のひとりであるピンク・ダイヤモンドだったのです。
今は亡きその母は、母星の「惑星を植民地として支配する」という使命で地球に来ましたが、心変わりして母星の残りの統治者と対立。いくつものジェムを地球に残していきました。
スティーブンはそうして生まれたジェムのガーネット、パール、アメジストといったクリスタル・ジェムズに囲まれて育ち、元気いっぱいでしたが、ある日、自身の運命に気づきます。そして母の星でその宿命と対峙し、戦いではなく平和を築きました。
それから2年後、16歳になったスティーブンは、ジェムの星の帝国を解体し、植民地を解放して、宇宙を穏やかにさせてみせました。
しかし、スティーブンは以前は母のものであった新しいピンクの王座につくことをあっさりと断ります。自分にとっては地球が故郷でした。
「これからも海辺の家で友達と暮らす。帝国も解体されたし、地球に戻って充実した時間を過ごしたい」と放送で堂々と宣言。
それを聞いたホワイト、イエロー、ブルーのダイヤモンド統治者たちはスティーブンを懸命に説得しようとしますが、意思は変わらないです。
スティーブンは地球のビーチシティの家に帰るとコニーが待っていました。コニーはスペースキャンプに行くことになっており、2人はハグと頬のキスで別れます。
砂浜ではパールとグレッグが自由に過ごしており、パールはベースを学んでいます。2人に挨拶して、ピンクライオンの中の空間を通り、今度は町にいるガーネットのもとへ。他のジェムたちと談笑し、町を散策します。
アメジストはビスマス、ラピス・ラズリ、ペリドットなどの仲間と一緒に新しいジェムたちの故郷づくりに勤しんでいました。ここにまだ地球に慣れていないジェムを住まわせる計画があるのです。いずれは学校も始められるでしょう。
明るい未来がまさに広がっている最中で幸せを謳歌するスティーブンたち。
そうして丘の斜面に寝転がっていると、突然、巨大なドリルが空からやってきて、謎の人物が現れます。それはスピネルという名で、何やらピンク・ダイヤモンドを知っている様子。スピネルはパール、ガーネット、アメジストをあっという間に蹴散らし、宝石に戻してしまいます。
スティーブンも自分の能力を使ってスピネルに立ち向かいますが…。
好きな人に傷つけられた苦しさ

ここから『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー/フューチャー』のネタバレありの感想本文です。
日本ではLGBTQプライドイベント主催者が「子どももいるので“虐殺”という言葉を掲げて抗議活動しないでください」なんてお願いしてくる事例もあるらしいですが、『スティーブン・ユニバース』はそんな意見に毅然と反論する子ども向けアニメです。
本作は前シーズンでダイヤモンドたちが植民地主義の政策を宇宙レベルでとっていたことが発覚し、その虐殺を止めようと14歳の子どもが奮闘する物語だったのですから。
前シーズンのラストから2年間で、スティーブンは帝国主義を終わらせ、まさに政治を変えたことが『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』の冒頭で語られます。これだけでも凄い偉業ですけど…。
じゃあ、平和になったんだ…めでたしめでたしだね!…で終わらないからこそ、この続きが作られました。本作では前シーズンで取りこぼしていた「ある問題」に向き合います。
それは「メンタルヘルス」…辛い出来事によって傷ついた心をどう癒すかです。
まず映画で初登場するスピネルというキャラがその象徴で、このスピネルは慕っていたピンク・ダイヤモンドに遠い星で6000年も見捨てられたことが判明します。スピネルはクラシックなカートゥーン風に動き回る独特な純真な愛嬌がありますが、それを利用するようなかなり残酷な放置のしかたでした。
また、『スティーブン・ユニバース・フューチャー』では、同じくピンク・ダイヤモンドに仕えていたピンク・パールという、ピンク・ダイヤモンドの力の暴走で目に傷を負っても、それを「傷つけられた」と自覚せず、純粋に好いたまま…というこれまたなかなかに痛々しいキャラも登場します。
そして何よりもなおも心の傷を抱えているのはスティーブンです。
母であるピンク・ダイヤモンドの過ちを償う役割を背負わされ、母の犯した行為の重さに潰されそうになってきました。また、父のグレッグ(グレゴリー・デマヨ)も、放浪生活の中でスティーブンを学校にも医者にも行かせず、実質的にはネグレクトのような状態にありました。
スティーブンの両親は何も暴力的ではないです。むしろ表面的にはとても優しく温かさがあり、スティーブンもその愛は確かに受け取っています。いかにも典型的な加虐的な親ではないですよね。
しかし、それでも子を傷つけることはある。本作は「好きだった人に傷つけられる」ことの苦しさが充満しています。もともと嫌いだった人に傷つけられるのはそれはそれで当然嫌ですけど、でも嫌いな相手なら割り切れます。そうじゃなかったら…?
本作はキッズアニメにしては相当に踏み込んだテーマをみせていると思いますが、でもこういう体験をする子どもは現実にいますからね。
好きだった人に傷つけられた苦しさというテーマ性は、ドラマ『THE LAST OF US』(シーズン2)とほぼ一緒なんですよ。『スティーブン・ユニバース』はそれを子ども向けにデフォルメされた世界観で語ってみせているわけです。
スティーブンは感情で癇癪を起こすだけでなく全身がピンクになって能力が暴走する…まるで母と同じ症状に悩んでいきます。目標がない自分に焦り、コニーに告白を受け入れてもらえず、ついに限界を超え…。医者も明らかにメンタルヘルスの問題と指摘しているのに、スティーブンは受け止めることができません。
癒しではなく破壊の怪物となってしまったスティーブンの心を、今度はみんなが解きほぐしていく…。
スティーブンの心がちゃんとケアされていく過程を責任をもって描いてくれて良かったです。
多様な宝石はなおも輝き続ける
『スティーブン・ユニバース・フューチャー』では、クィアなレプリゼンテーションも前よりもさりげなくも充実さを底上げしています。
ルビーとサファイアが合体することで存在するガーネットなんかはこれまで通りですけど、今回はビスマスがパールに恋をしているようで…。パール側は気づいているかは曖昧ですが、あのピンク・ダイヤモンド一筋だったパールが、他者の友人を持ち、他の誰かに愛され、服従関係のない空間でリラックスしているのをみるだけでホっとできます。
また、恋愛関係でいうと、今作ではセイディはシェップという新キャラクターと付き合っていることが明らかになりますが、このシェップは代名詞は「they/them」でノンバイナリーです(なお声を演じているのもノンバイナリーの“インディア・ムーア”)。
従来はスティーブンとコニーが合体することで誕生するステボニーがノンバイナリーに相当するみたいな解釈がされていましたけど、そういう特殊事例ではなく、しっかり人間のキャラクターとしてノンバイナリーのアイデンティティが描かれたのは進歩です。
そして作中を眺めているだけだとわからないのですけども、ペリドットにも正式にクィアな光があたりました。
ペリドットは前シーズンからシリーズおなじみの「合体」をしたがらないキャラクターだったこともあって、一部のファンの間では「アセクシュアルやアロマンティックを示唆しているのでは?」と考察されていたのですけども、ストーリーボードアーティストの“マヤ・ピーターセン”がその意見を肯定する発言をしたり、でも一方で「あくまで公式ではない」と歯切りが悪い感じでした。
しかし、今回のシーズンでハッキリとペリドットはアセクシュアル&アロマンティックであることが確定とのコメントがありました(CBR)。本作ではスティーブンと恋愛ドラマのリブート版をなんだかんだと言いながら楽しんでみていましたが、ペリドット自身は他者に性的にも恋愛的にも惹かれないようです。
『スティーブン・ユニバース・フューチャー』であろうともその多様性は守るべき大切な輝きの欠片として扱われます。
未来はそうやって紡がれていく…どの道に進もうともいつも支え合うために駆けつける…。このアニメが生まれてきてくれて本当に嬉しかったです。これを観た子どもが成長していくのが楽しみですよ。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
◎(充実)
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・『アドベンチャー・タイム』
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Discovery, Inc.
以上、『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』『スティーブン・ユニバース・フューチャー』の感想でした。
Steven Universe: The Movie / Steven Universe Future (2019) [Japanese Review] 『スティーブン・ユニバース ザ・ムービー』『スティーブン・ユニバース・フューチャー』考察・評価レビュー
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