アフリカの打倒ディズニー!…「Disney+」アニメシリーズ『イワジュ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:ナイジェリア・イギリス・アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にDisney+で配信
原案:オルフィカヨ・ジキ・アデオラ
いわじゅ
『イワジュ』物語 簡単紹介
『イワジュ』感想(ネタバレなし)
ナイジェリアはディズニーに負けない
アフリカで最も人口の多い国は?と聞かれて答えられるでしょうか。
正解は「ナイジェリア」。
アフリカ大陸西南部に位置するナイジェリアの、2023年時点の人口は約2億2380万人。これは世界人口の2.7%に相当し、人口の多い国ランキングでは第6位となります。ちなみに24歳以下の若者の割合は驚きの約62%。日本と違いすぎてくらくらする…。
人口の多さだけが特徴ではありません。その中身も特筆されます。何と言っても500の異なる言語を話す250以上の民族が住む多民族国家であり、多様な文化が国のアイデンティティになっています。
そしてナイジェリアと言えば経済大国でもあり、とくにIT業界は急速に成長中。いわゆる「ノリウッド」と呼ばれる映画産業などエンターテインメント分野も発展しまくっています。それは先に述べた人口の大多数を占める若者たちが勢いづけているのは言うまでもなく、ナイジェリアのエンタメは今後間違いなく無視できない存在になりそうです。
欧米や日本をどうしてもアフリカというだけで小馬鹿にします。しかし、現実ではナイジェリアは最先端のエンタメを作るスキルと若さを最も持ち合わせている有望なランナーなんですね。
そのナイジェリアでアニメーションなどのデジタルコンテンツを制作している「Kugali(クガリ)」という企業があります。きっかけは“オルフィカヨ・ジキ・アデオラ”、“ハミド・イブラヒム”、“トルワラキン・オロウォフォイエク”という3人のコミックオタクが集まってアフリカで活躍するアフリカ人にインタビューするポッドキャストをやり始めたことだそうです。そうしているうちにアフリカ全土のアーティストや作家を紹介するグラフィックノベルのコレクションであるアンソロジー「Kugali」を出版するというアイデアが生まれました。このプロジェクトは大成功を収め、ビジネスへと拡大し、その後、世界有数のアフリカのクリエイティブ制作会社に進化したのでした。
2019年にBBCがその「Kugali」に取材する出来事がありました。そこで創業者の“ハミド・イブラヒム”がこう語りました。
「私がこれを言うとみんな笑うのだけど、私たちはこのアフリカでディズニーをやっつけるつもりです」
この清々しい打倒ディズニー宣言は、なんとディズニーの耳にも入りました。そして怒られるわけでも嘲笑されるわけでもなく、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの当時の最高クリエイティブ責任者だった“ジェニファー・リー”(『アナと雪の女王』の監督&脚本家)は意外な提案をしてきます。一緒に作品を作らない?…と。
こうして2024年に生まれたのが本作『イワジュ』です。
ディズニーとしては本場アフリカの創作センスを直に学びたいということでしょうし、それはなんだかんだでアメリカ第一大企業であるディズニーには決定的に欠けていたクリエイティブ・パワーでした。「Kugali」にとってはあのディズニーの創作リソースを使えるのですから、こっちもビッグ・チャンスです。Win-Winの関係でしょうね。
そうやって製作された『イワジュ』というアニメシリーズは、ナイジェリアを舞台にしたアフリカど真ん中のCGアニメーションであり、どことなくディズニーっぽさもありますけど、これは既存のディズニーでは作れなかったであろう作品に仕上がっています。
近未来SFとなっており、10歳の主人公が陰謀に巻き込まれながらもユニークな仲間と大活躍していく王道のエンターテインメントです。見どころはやはりナイジェリアらしさですね。
ディズニーって基本的に劇場映画は自社の内製で作るのが伝統になっていました。それはそれでスタジオの個性を維持するのに寄与していましたし、悪いことではないと思うのですけども、スタジオのクリエイティブ面での保守性というか、新しい才能をどんどん取り入れるには限界もあったと思います。
一方で、ディズニーはアニメシリーズは外注することもありましたが、それはあくまで下請けにだしているだけ。そうじゃなくて共同パートナーとして作ってもらうというのはかなり良いアプローチなんじゃないかなと。
これまでも『スター・ウォーズ ビジョンズ』が類似のことをしていましたが、『イワジュ』のようなオリジナル作品の試みはもっと増えてほしいところです。
『イワジュ』は「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中。全6話で1話あたり約17~23分と短めなのでサクっと観れます。
動物好きにも見逃せない動物アニメでもありますよ。
『イワジュ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 児童誘拐が描かれますが、表現は抑えているので子どもに安心して見せられる内容です。 |
『イワジュ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
近未来のナイジェリアの大都市のラゴス。ひとりの少女は夜の街をホバーボードで音楽に合わせて軽快に走行していました。リュックにはペットのトカゲもいます。
そのとき、傍の道路を通り過ぎたばかりの車から機械を動作不能にさせるジャミング装置が投げ込まれ、ホバーボードは動かなくなります。そして車から降りてきた怪しい人物たちに包囲されます。
しかし、小さなトカゲが少女に球体のバリアを張り、猛スピードで相手を倒し、さらに巨大化まで…。
これは現実ではありません。大手テクノロジー企業「グリーンウッドテクノロジー」の技術責任者を務めるツンデが見守る中で行われたシミュレーションです。世間では子どもの連続誘拐事件が起きており、ツンデは子どもを守れる画期的なセキュリティ発明を密かに考案していました。それは上手くいくかはまだ未知数…。
ところかわって、トーラという子が起床します。気持ちのいい朝。ロボットのサポートを受けながら髪型をセットアップ。10歳の誕生日を迎えました。大切な日です。でもすぐさま祝ってくれる温かい家族はこの広い屋敷にはいません。
ここは全てがハイテクな環境で整っているアイランド。トーラの父はツンデであり、裕福な生活を送っていました。しかし、トーラは基本的にひとりぼっちで、少し寂しいです。
機械慣れしていない運転手の運転で、トーラは父のいるラゴスの空港へ向かうことにします。こちらのエリアは従来の技術がまだ多く残っています。トーラの車は渋滞を避けるために飛行モードになり、上空を通過。空中には路上販売ならぬ空中販売ドローンが飛び交っていて売りつけようとしてきます。
空港に着いたものの父ツンデはここまで来たトーラの軽率な行動を叱ります。物騒な事件が起こっている以上、危険は避けないといけません。
その姿を離れたところから監視する恰幅のいい男がいました。彼の名はボデ。実はこの男こそ巷を騒がせている事件の黒幕でした。
帰宅するとツンデは仕事ばかりで誕生日パーティーを用意したトーラはがっかりします。しょうがないので親友でもある使用人コレと遊びます。
けれども父ツンデはトーラに誕生日プレゼントをくれました。それは一匹のトカゲです。期待していたようなものと違うので失望するトーラ。トカゲなんてそのへんにいますし、食用で揚げられてもいます。なぜトカゲなのか…。
しかし、トーラはまだ何も知りませんがこれは普通のトカゲではありませんでした…。
アガマ・フューチャリズム
ここから『イワジュ』のネタバレありの感想本文です。
このアニメシリーズのタイトルである「Iwájú」。ナイジェリアを含む西アフリカの地域で暮らすヨルバ人が使うヨルバ語であり、「未来」を意味しているそうです。
『イワジュ』はまさにその言葉どおりの世界観の作品でした。描かれるのはテクノロジーの発展によって恩恵を受ける未来です。
アフリカを舞台にした未来的なテクノロジーで発達した世界を描く作品と言えば、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の『ブラックパンサー』は金字塔でした。
ただ、あちらは「ワカンダ」という架空の国を描いており、ファンタジーの色が濃いです。「アフロ・フューチャリズム」と呼ばれる黒人がアフリカに抱くユートピア思想の映像化とは言え、あのメインの舞台である「ワカンダ」を一歩でも離れてしまうと、もはや手垢のついたいつものアフリカの光景しかありません。つまり、あの映画では「アフロ・フューチャリズム」は限定的に存在する場というだけです。
対するこの『イワジュ』は近未来であってもナイジェリアのラゴスという実在の街を下地にしています。そして「こういう未来ならありえるよね?」というじゅうぶんに実現可能性のある地に足のついた未来です。それはナイジェリア、もっと言えばアフリカという地域全体の可能性を信じているから作れるものであり、その地域や国々を「後進国」と見下している外側の目線には作れないものだったとも思います。
空を飛ぶ車が飛び回って、ドローンを使って個人が自由にビジネスをしていたり、デジタル機器がさらに日常化して生活に溶け込んでいたり…。
本作を観ていると、日本で言うところの昭和の“手塚治虫”や“藤子・F・不二雄”などに代表される空想科学の漫画の雰囲気を彷彿とさせるものがあり、もしかしたらナイジェリアのエンターテインメント業界はちょうど日本のその頃の時期の空気に近いものがあるのかもしれません。まだ「コンテンツ」として過度にビジネス化されておらず、将来に希望を持っているクリエイターが思い思いに自分の頭の中の未来を表現していたあの感覚…。
その『イワジュ』でとくに未来を突出して現すユーモラスなチャームポイントとなる存在が、あのオティンと名付けられたトカゲ。実際は生物ではなく、高度な技術で作られた人造生命的なアニマルロボットで、さまざまな機能を搭載した凄いパワーがありました。
あのトカゲはアフリカでは野生でよく見られる「アガマ」という種類のトカゲで、「ニジトカゲ」という和名があったりします(英語でも「レインボーアガマ」と呼ばれたりもする)。その見た目どおり、ツートンカラーのようにハッキリした色合いがある種も多く、愛嬌があって可愛いです。
中盤のエピソードではずっと本調子になれないオティンですが(ソーラー充電機能くらい搭載しておいてくださいよ)、終盤では真価を発揮して大暴れ。普段の姿でもとてもキュートですし、守ってくれる頼もしい存在でもあるので、これは子どもに大人気になるだろうキャラクターを見事に作り上げていましたね。
テクノロジーでは解決しない社会の問題
一方で無邪気に希望的な未来ばかりをみせるだけではない『イワジュ』。どんなにテクノロジーが発展しようとも、社会には歪みが巣くっています。それは構造的欠陥です。
本作における身代金目的の児童誘拐事件の犯人はボデという男でした。彼は貧しい家庭の出身で、母も必死で住み込みの仕事をしていましたが、ボデの富への欲によって雇い主に追い出されます。ボデの中で富こそが全てという権力欲は増大し続け、あそこまでの人間になってしまったことが描かれていました。
奪ったおカネを仲間に豪快に配るあたりは一見すると富の再分配をしているように思えますが、実際はそれは支配者としての優越感に浸っているだけで、ボデ自身もコレの家族を借金でコントロールするなど、有害な振る舞いを正当化していました。
その中、本作の主人公であるトーラは生まれながらに裕福な環境で生きてきたので、外のそういう格差が当たり前にある世界を知りません。
本作のトーラはいわばプリンセスですよね。現実の王族とかではないですけど、属する世界的にはプリンセスと同じ構造があります。
そのトーラはコレという使用人と交流を深めながら、後半ではコレと自分がいかにスタートラインからして違うのかということを身をもって学びます。遊び相手としてじゃれ合うことはできても、本質的には対等ではない。トーラ自身には無自覚な特権がありました。
こういうプリンセス的な存在が自身の持つ特権を認識させられるという展開は、それこそディズニーはプリンセス作品をいくつも作ってきましたが、その展開をあまり積極的にやってきませんでした。身分が違っても仲間だね!というお友達のノリで明るくおさまってしまうことが多いです。
その点、この『イワジュ』はそこを無視はできないものとして描こうとしているあたりに真面目さがあります。
まあ、それでもこの『イワジュ』はまだまだ踏み込みの弱い部分はあったと思います。父親のツンデももう少しガツンと反省してほしいところではありましたし…。やっぱりテクノロジー依存の父親はろくなものじゃないのか…。
『イワジュ』は全体としては可能性に満ち溢れたクリエイティブを映像でみせつけてくれました。これからもナイジェリアのようなアフリカ本場のクリエイターたちと共同で作品を作ることをどんどんやってほしいですし、なんだったら図に乗っているハリウッドを打倒してくれてもいいですよ。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Kugali Media, Walt Disney Animation Studios
以上、『イワジュ』の感想でした。
Iwájú (2024) [Japanese Review] 『イワジュ』考察・評価レビュー
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