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『アンダーカバー』感想(ネタバレ)…ネオナチ潜入。白人至上主義者の世界を丸坊主にする

アンダーカバー

ネオナチ潜入。白人至上主義者の世界を丸坊主にする…映画『アンダーカバー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Imperium
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年2月28日
監督:ダニエル・ラグシス
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あんだーかばー
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『アンダーカバー』物語 簡単紹介

優秀な若手FBI捜査官ネイト・フォスターは、上司のアンジェラから極秘任務を命じられ、ある地域で活動する過激な白人至上主義のネオナチグループに潜入捜査をすることになる。そのグループの中に紛れ込むには当然気づかれないようにネオナチらしくならないといけない。大規模なダーティボム(放射能汚染爆弾)テロ計画の疑惑を突き止めるべく、風貌も大胆に変え、だんだん彼らに染まっていくが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アンダーカバー』の感想です。

『アンダーカバー』感想(ネタバレなし)

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ネオナチは嫌だ、ネオナチは嫌だ

「アンダーカバー」という映画ジャンルがあります。いわゆる「潜入捜査モノ」ですね。

よくあるのは警察がマフィアに潜入とか、その逆でマフィアが警察に潜入とか。2017年は、侍女として金持ちのお屋敷に潜入する『お嬢さん』なんかもありました。潜入の目的はたいていは金や権力なのですが、『キアヌ』のように愛するネコを取り戻すためにギャングに潜る一般人を描いたコミカルなものもあって、結構バリエーションがあるものです。

そんな中で今回紹介する潜入捜査モノ映画が本作『アンダーカバー』。ずいぶんストレートな邦題をつけましたね…。原題は「Imperium」です。

本作は、実在の元FBI捜査官マイケル・ジャーマン氏の体験をもとにした映画で、気になる潜入先は「ネオナチ」。白人至上主義者の皆さんです。白人至上主義者、聞いたことがない人のために簡単に説明すると「白人が一番だ。他の人種はいらねぇ!」という考えの人です。そういう思想を持った人からなる組織が世界にはいくつも存在します。

そして、ここが本作のユニークな点ですが、潜入する主人公を演じるのは“ダニエル・ラドクリフ”。あの「ハリー・ポッター」の子です。彼は「ハリー・ポッター」シリーズ以降は、新境地の開拓に夢中なようで、かなり変わった役にも挑戦しているのですが、本作の起用も意外。ネオナチの奴らと共に「ホワイト・パワー!」とか叫びながら、ヒトラーを讃えたりします。しかも、ネオナチらしくスキンヘッドになったりして、風貌もすっかり悪に。「スリザリンは嫌だ」って言ってたあの子が…(作品が違う)。ちなみに、“ダニエル・ラドクリフ”の母はユダヤ系らしいですね。

日本でも有名人気俳優の部類だと思うのですが、本作は小規模公開にとどまりました。なので、観ていない人も多いはず。

共演は、『マイ・ベスト・フレンド』の“トニ・コレット”、『8月の家族たち』の脚本家でもおなじみの“トレイシー・レッツ”など。

昨今は人種排斥運動が勢いづいているような世の中。人種差別者にはなってはほしくないですけど、実態を知るために映画で潜入するくらいは良いのではないでしょうか。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『アンダーカバー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):真面目な男がネオナチになりきる

FBIのネイト・フォスターは追っていたテロ犯罪集団をついに逮捕するチャンスを迎えました。しかし、先輩から車で待機しろと言われてしまいます。相手が機械をいじりかけたとき、チームで取り押さえ、悲惨な事態は未然に防げました。

ネイトは身なりのいい格好をして捕まえたひとりと対話します。親身に寄り添うことで逮捕男の心を開かせ、「爆弾が用意されていた」という話を聞き出します。ネイトは真面目でした。どんな相手でも正義と真実を重視して仕事に向き合います。

同僚からその真面目過ぎる態度のせいで「天才くん」と馬鹿にされていました。

ある日、緊急会議が開かれます。セシウム137という放射性物質が何者かに盗まれたそうで、これを用いれば危険な武器を作れてしまいます。上層部はイスラム国関連のテロを警戒しているようで、国内テロの心配は全くしていません。

FBI捜査官のアンジェラ・ザンパーロは「ジェームズ・カミングスは汚染爆弾を作ろうした。彼は白人至上主義でオバマ大統領の就任式を狙った」と異論を唱えます。

アンジェラは国内テロ課にネイトを誘い、白人至上主義の犯罪性の危険を語ります。彼らは人種戦争を始めるつもりで、そのためなら手段を選ばない…と。

そしてある音声を聞かせます。放射性物質の話をしている声。保守系ラジオ番組の司会であるダラス・ウルフという男だそうで、所在は不明ながら、支持者が大勢います。そのウルフに接近するために彼に近いと思われるギャングに潜入してほしいと頼んできます。

内向的で1人を好むネイトはFBIで異端。FBIらしくないので相手に警戒されないかもしれない。でもネイトにそんな経験はありません。

ネイトは悩みます。しかし、汚染爆弾の怖さを調べ、これはただ事ではないと痛感。正義感が自分を駆り立てます。放置することはできない…。

そして実行することを決めます。上司は「正気じゃない」と言いますが、もう気持ちは動きません。自分の頭を剃り上げ、いかにもネオナチのような見た目になり、ネイト・トーマスとしての偽の身分も用意。徹底して白人至上主義者の行動を調べ上げ、バレないように自分に叩き込みます。聖書も、差別的な本も熟読。彼らの思考を頭に刻みました。

ついに行動に移す時が来ました。ヴィンス・サージェントという男率いるネオナチ集団のメンバーが入り口です。

ダイナーで落ち合うといきなり身体検査を受け、挑発的な威嚇をされますが、ネイトは一切動揺しません。そこで考え抜いたように言葉を重ね、相手を信用させようとします。

目の前の男はテーブルにある「コーシャ」に言及します。異教徒のためにこんな配慮なんてする必要はない。ネイトは厳しくまくしたてます。

「革命を起こすんだ」

ネイトはどこまで潜入できるのか…。

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言葉は未踏の領域への架け橋?

潜入捜査モノの醍醐味といえば、やはり「バレるかバレないかのサスペンス」です。

本作もその正体が知られそうになる展開が適度に挿入されて、ハラハラはするのですが、根本的な話、あの主人公ネイト・フォスターは潜入に向いていたのか、最後まで疑問符が消えないんじゃないかと思うほどに不安になってきます。でもそれもこの映画の狙いどおり。

ネイト自身がああやってネオナチになれてしまう(なりきる)というのは、つまり「誰でもネオナチなんてなれてしまうんですよ」ということですから。

まあ、少し無理な展開もありましたけどね。冒頭で示される「言葉は未踏の領域への架け橋である」というアドルフ・ヒトラーの言葉どおり、ネイトは会話術で“バレる”危機を乗り越えます。ただ、その会話テクニックが最終的に“怒鳴る”・“キレる”なのはどうなんですか。デール・カーネギー著「人を動かす」にはそんなこと書いてないですよ。

また、その能力がいくら優秀でも見た目のミスマッチはカバーしきれていない気がする…。元軍人という設定は無理があるでしょう。せめて筋力トレーニングくらいすれば良かったのに。

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社会科見学:ネオナチへようこそ

サスペンス部分はあれでしたが、潜入捜査モノのもうひとつの醍醐味の部分がとても面白かったです。それは潜入先を体験できる感覚。たいてい潜入先となる組織や業界は、身分を隠して潜入するくらいですから、一般人の私たちでもよく知らない世界です。その世界に足を踏み入れ、知られざるルールや文化、人間関係を最前線で見ていく…この感じが新鮮で楽しい。ようは「社会科見学」や「インターンシップ」みたいなものですね。

本作もその要素はたっぷり体験できます。私もネオナチとか白人至上主義者には全然関わりがないので、言葉は知っていても実態はよく知りません。最初、ネイトはネットで白人至上主義者たちの情報を集め、その恐ろしさが刻み込まれるわけです。このへんは私たちと同じ。そして、いざ会ってみると確かに狂気を感じる瞬間はあります。「なんでリーバイスの服を身につけているんだ。ユダヤ人のジーンズだぞ」(創業者がユダヤ系だから)とか、いきなりドキッとさせられます。

本当にああいう踏み絵みたいなことをしょっちゅうしてくるのかな…。

本作を観れば、彼らの思想の異様さが、わからない人にも伝わってくるでしょう。

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蓋を開けて見れば…

しかし、だんだんと親交を深め、色々な人と知り合っていくと、“あれれ”な面も覗かせるわけです。非白人を見ればとりあえず暴力を振るおうとする筋肉脳な奴がいたり、射撃場を作ったというわりには銃の知識が全然なかったり、ネオナチの間ではカリスマ扱いの番組講演者が実は目立ちたいだけの自惚れ屋だったり…。ようやくダーティボムを作ろうとするテロリストを発見しますが、コイツらもまた、放射能は手袋とゴーグルで防げると思っているなど、敵なのに心配になるレベル。もうFBIが介入せずとも自滅するんじゃないか。

それでいて、白人至上主義者とひとくくりにしてしまいがちですが、内部ではいろいろ組織の対立があったり、普通にごく一般的な家庭を持っていたり、そんな側面も本作では描かれます。

つまり、私たちと何ら変わりないボンクラの集まりです。ネットでは恐ろしい存在(それをある人が見ればカッコよく映る)かもしれないですが、実態はそうでもない…。そういう「蓋を開けて見れば、これかよ」なリアルを映画的に提示する作品だったと思います。

苦言を呈すなら、ちょっと説教臭いなとも思いましたが。ファシズムを生む要素は被害者意識というのはわかりますが、セリフで語らなくてもと。まあ、今のアメリカの情勢を見ると、これくらい補助線がないと厳しいのかもしれません。

本人は正しいと思っても、傍から見たらダサイだけ。それがわかる映画でした。

『アンダーカバー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 64%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

ダニエル・ラドクリフ出演の映画の感想記事です。

・『ザ・ロストシティ』

・『ガンズ・アキンボ』

・『スイス・アーミー・マン』

作品ポスター・画像 (C)2016 TDSD LLC

以上、『アンダーカバー』の感想でした。

Imperium (2016) [Japanese Review] 『アンダーカバー』考察・評価レビュー