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『ザ・ロストシティ』感想(ネタバレ)…ロマンス・アドベンチャーをリアル体験!

ザ・ロストシティ

ロマンス・アドベンチャーをリアル体験!…映画『ザ・ロストシティ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Lost City
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年6月24日
監督:アダム・ニー、アーロン・ニー
恋愛描写

ザ・ロストシティ

ざろすとしてぃ
ザ・ロストシティ

『ザ・ロストシティ』あらすじ

恋愛小説家のロレッタは、気分が乗らないままに新作であるロマンティックな冒険小説の宣伝ツアーに強引に駆り出される。作品の主人公を演じるセクシーなモデル男性であるアランの軽薄な態度に苛立ちを募らせるロレッタの前に、謎の大富豪フェアファックスが出現。フェアファックスはロレッタの小説を読んで彼女が伝説の古代都市の場所を知っていると確信し、彼女を南の島のジャングルへと連れ去ってしまうが…。

『ザ・ロストシティ』感想(ネタバレなし)

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あの映画のパロディです

「恋愛は冒険のようなものである」と言われたら、あなたはどう思うでしょうか。

何が起きるかはわからない未知の世界。そこに踏み出すかどうかはあなたしだい。冒険したいという人もいれば、したくない人もいる。なるべく安全な道を望む者もいれば、あえて危険な道でスリルを楽しむ者もいる。ひとりで進むか、2人で進むか、みんなで進むか、それも自由。その先に何を期待しているかも、人それぞれ。途中で後戻りしてもいいし、違う目標に変えてもいい。その冒険は無限の可能性に満ちています。

まあ、そんないくらでも考えられる戯言はさておき、映画やドラマなどのフィクションでは冒険しながら恋愛も起きていく作品は珍しくありません。

今回紹介する映画もそういう作品…なのか?

それが本作『ザ・ロストシティ』です。

『ザ・ロストシティ』はどんな物語というと…ロマンス冒険作品で大ヒットした女性小説家が主人公で、ある日ひょんなことからジャングルに隠れる秘宝を求めてその宝探しをしないといけなくなり、そこで小説に出てくるような男性と同行しながら、本当にドタバタの大冒険をその身で展開していく…そんなストーリー。

この大雑把なあらすじを聞いて「あれ? どっかで聞いたことあるぞ?」と昔からの映画ファンは思ったかもしれません。そうです。1984年の“ロバート・ゼメキス”監督による“キャスリーン・ターナー”&“マイケル・ダグラス”共演の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』に似ている。というか、ほぼ同じ気がする…。そのとおりで、この『ザ・ロストシティ』は『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』の実質的なパロディになっています。

『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』は典型的なスクリューボール・コメディであり、ハチャメチャな大冒険の中で男女の仲が深まっていく…そういう定番のあれ(それにしては予算がかかっていますけど)。この『ザ・ロストシティ』はそれを下地にしつつ、きっちり今のジェンダー観でアップデートしたり、風刺を増したりしている…アレンジ料理みたいなもの。2022年にこんなアレンジが提供されるなんて思わなかったけど…。

本作『ザ・ロストシティ』を原案として企画したのが、『モンスター上司』(2011年)や『ベイウォッチ』(2017年)、さらには多くのドラマを手がけている”セス・ゴードン”

監督は、『トム・ソーヤーの盗賊団』の“アーロン・ニー”&“アダム・ニー”

こうした作品の立ち位置もあって『ザ・ロストシティ』はパロディをさらにパロディで重ね掛けしたような作風になっており、完全にバカ方面で振り切っています。元ネタの『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』も相当にアホだったし、その続編の『ナイルの宝石』なんかはさらに輪をかけてしょうもないギャグ満載でしたが、『ザ・ロストシティ』はどうなってしまうのか。観ればわかるのでとにかく観てください!と言いたいですが…まあ、登場人物全員バカで突っ走ってますよ、ほんとそれだけだ…。

そんな愉快なバカ騒ぎが詰まっている『ザ・ロストシティ』の俳優陣。

主人公を演じるのは、『ゼロ・グラビティ』『オーシャンズ8』『バード・ボックス』の“サンドラ・ブロック”。最近は『消えない罪』で迫真の演技を見せるだけでなく製作も担っていましたが、今回の『ザ・ロストシティ』も製作に参加して、自らコメディの密林に飛び込んでいます。アホやっていても”サンドラ・ブロック”はカッコいい…。

そしてその”サンドラ・ブロック”の横に並ぶ男を演じるのは、『マジック・マイク』『21ジャンプストリート』でおなじみの“チャニング・テイタム”。彼がアホやったら絶対に面白いに決まっています。

さらにこれだけではなく、悪役として「ハリー・ポッター」シリーズで人生が変わった“ダニエル・ラドクリフ”が出演。彼が大富豪のヴィランを演じるのは『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』に続いてです。ちなみに“ダニエル・ラドクリフ”は『スイス・アーミー・マン』『ジャングル ギンズバーグ19日間の軌跡』などジャングルでサバイバルする役になぜか縁がある…。

さらにさらにまだこのバカ騒ぎに参戦する奴がいる。それが“ブラット・ピット”。あんたもですか!って感じですが、ほんとなんで出たんだ…。ちなみにこの“ブラット・ピット”は『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』という映画を製作していて、題材になっているジャングルの失われた都市は共通です。どこまで狙ったキャスティングなんだろうな…。

この冒険に必要な装備は無し。『ザ・ロストシティ』はアホでも大歓迎です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:元気をもらいたいときに
友人 3.5:気楽に楽しめるエンタメ
恋人 3.5:異性愛ロマンスあり
キッズ 3.5:多少の下ネタあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・ロストシティ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):フィクションじゃない!

小説家のロレッタ・セージは、主人公のアンジェラ・ラブモア博士とハンサムなダッシュ・マクマホンを中心としたロマンスアドベンチャー小説「ザ・ロストシティ(The Lost City of D)」を書きあげて大ヒットさせていました。しかし、今は執筆が進まず、ノートパソコンの前で何度も文章を削除する日々。

これから「ザ・ロストシティ」の宣伝のために各国を巡るツアーに出かけなくてはならず、広報担当者のベスに背中を押されるのですが、気分は全くあがりません。

一応は身なりを整えて宣伝イベントのステージにあがります。そこに小説のダッシュの表紙モデルとなったアラン・キャプリズンという男が、ダッシュの格好そっくりの金髪長髪でノリノリで登場。しょうがなく付き合ってポーズをとるロレッタ。

司会者の質問に、アランの方が喋りまくり、作者のロレッタの居心地は悪いです。観衆の女性たちはアランの方に夢中なようで、彼をダッシュと呼び、「服をはぎ取って!」と大合唱。やむを得ずやってみようとするとアランがステージから落ちてしまい、カツラもとれる始末。

こうしてツアーは散々なスタートを切りました。しかし、一難去ってまた一難。

会場の建物を出るとロレッタは謎の男たちの車に乗せられ、誘拐されます。連れて行かれた先にいたのは、大富豪のアビゲイル・フェアファックス。その風変わりな男は、「ザ・ロストシティ」を読んで、ロレッタが作中で題材にしている伝説の古代都市の場所を知っていると確信したらしいです。

思わず笑ってしまうロレッタ。フィクションなのに…。でもフェアファックスは真剣。古代の地図の断片を見せてきて、目の前に飛行機が着陸。ロレッタは意識が朦朧として…。

一方、ロレッタの誘拐を目撃したアランはベスに相談。一刻も早く救助するために、元海軍の特殊部隊でCIAの工作員でもあるらしい、ジャック・トレーナーに連絡します。そのジャックは電話越しにスマートウォッチの位置情報を追跡しろと指示。

その頃、目覚めたロレッタは自分が機内にいることに気づきます。そして現地に到着し、発掘現場へ案内されます。でも遺跡の場所なんて知らないのでどうしようもありません。

アランは単身でロレッタの位置情報が示す現地に向かい、救出を依頼したジャックと合流。やけにカッコよくたたずむサングラスの金髪長髪の男です。まるで小説のダッシュみたい…。

そしてアランも無理を言ってついていくことにします。誘拐した奴らがいると思われるテントで、次から次へと敵を倒していくジャック。アランはおっかなびっくり。

とりあえずロレッタを助け出すことに成功し、3人で車の前まで避難。しかし、追っ手が迫っており、あろうことかジャックが撃たれて死んでしまいます

もうダメなのか。ロレッタに残されたのはこの全く役に立たない男のアランと逃げ切れる可能性に賭けるだけ…。こんなの、小説の物語よりはるかに酷すぎる現実…。

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男性は自分の役割を見つめ直す

『ザ・ロストシティ』は、小説家の女性が男とジャングルで宝探しをするハメになる大筋の展開は『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』と同じです。自分で創作していたロマンス・アドベンチャーのジャンルをリアル体験することになるという、皮肉な筋書き。

元ネタ映画は、そこで出会う男性が、小説ほど過度に理想的な男性ではないけど、それでも一緒に危険を乗り越えるうちに好きになっていく…そういうベタなロマンスでした。

本作はその男性の役割に大きくアレンジが加わっており、男性側のエピソードも盛り付けされています。本作のアランは小説にでてくるダッシュになろうと必死で、必死すぎるくらいなのですが、全然上手くいっていない。明らかに空回りをしている男です。

そのアランが現地でジャックと対面し、そのあまりの小説から飛び出してきたような理想っぷりに目をぱちくりさせる。まずこの2人の男の掛け合いが本当に愉快です。まあ、そのジャックは早々に退場するんですが…。

そうしてついに残されてしまって全責任を負うことになったアラン。このアランが基本は真面目なのがいいですね。「男が女を引っ張るもの」とかそういう古臭い“男らしさ”に憑りつかれていない。できるかぎり女性をサポートしてあげたいし、フェミニストでありたいし、なんかできることはやりたい。でも何をすればいいのか、自分の能力で何ができるのか、そこに自信はないし、わからないから動揺してしまう…。本作では誇張されていますけど、こういう男性も今の時代は一定数いると思います。

こういう“男らしさ”をギャグにするには今のロマコメの定番ですが、“チャニング・テイタム”はやはり圧倒的にそういう役回りがフィットしますね。

川を泳いで体にヒルがいっぱいへばりついてケツを丸出しにするのに丁度いい俳優として“チャニング・テイタム”は数少ないひとりですから…(ヒルをとるという緊急の応急処置も一歩間違えればセクハラですけどね…)。登場する乗り物が全部そんなに男らしくないものばかりというあたりも効果をだしているのかな(あげくに1台は崖下に落下するし…)。

もちろんジャックを演じる“ブラッド・ピット”もたいしたもんです。こういう役なら勇んで乗り気になるんだろうな…。

女性が男性に惹かれるのではなく、男性が自身の在り方・振舞い方を見つめ直していく。そこにドラマの力点を置いており、ここはまさに現代らしい部分でありました。

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中年女性のケアとしての冒険

一方、『ザ・ロストシティ』の主人公であるロレッタはどうなのか。

ロレッタはキャリアとしてはかなり恵まれている方だと思います。ヒット小説を生み出せたのですから、ひとまずは安心。でも本人はそういう気分でもない。そこには夫の死を引きずっている側面があり、つまるところ本作はそんな中年女性がケアされていく物語なんだとも解釈できます。

さすがに本物のジャングルで冒険をして心のケアをするのはいささかハードすぎますけどね。

今回はロレッタも酷い目に遭っていきますが、冒頭から街に着くまでのしばらくの間、ずっと紫のスパンコールのジャンプスーツのままというあたりも笑いを与え続けてくれますし、なんだかんだで“サンドラ・ブロック”はジャンプスーツが似合っちゃっているのがまた面白い。

そしてここでのケアというものが、男性に癒されるのではなく、現地での宝探しでのロマンに触れつつ、その創作意欲を取り戻していくことでもたらされるというのがまた良くて…。

死への追悼という要素と、墓所をめぐるアドベンチャーが一応は重なっていますしね…。

そうやってメンタルケアのテーマに置き換えることで、白人たちが異国で墓荒らしをしているだけだという本末転倒な事実を上手くカモフラージュしてはいる…かな。でも『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』と比べるとかなりコロニアリズムにならないような配慮をあちこちで感じますね(元ネタ映画は結構現地の国がいかにも野蛮で非文明的に描かれていた)。一番は今作の悪役であるフェアファックスでしょう。あそこまでクセの強い悪者を配置しておけば、それ以外は全部払拭できるだろうという魂胆…。その期待に全身で答える“ダニエル・ラドクリフ”…。

最終的にロレッタとアランはキスをして結ばれたかに思えるのですが、エンディングで描かれているのはヨガをしているだけの2人(ちゃっかりジャックもいる)。恋愛伴侶ではなく心の平穏がゴールであるという着地も今っぽいところでしょう。

個人的に不満点があるとすれば、動物ネタがもっと欲しかったところ。元ネタ映画ではワニの活躍があったけど、この『ザ・ロストシティ』は大型動物の登場がほぼ無かったなぁ…せっかくジャングルなのに。そこは予算の問題かもしれませんけど、次回作があるなら動物と一緒にメンタルケアをしてほしいなと思います。“サンドラ・ブロック”なら獰猛な肉食動物でも手懐けられるよ!

『ザ・ロストシティ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 83%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2022 Paramount Pictures. All rights reserved. ザロストシティ

以上、『ザ・ロストシティ』の感想でした。

The Lost City (2022) [Japanese Review] 『ザ・ロストシティ』考察・評価レビュー