ダニエル・ラドクリフ、今度は両手を銃にしました!…映画『ガンズ・アキンボ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス・ドイツ・ニュージーランド(2019年)
日本公開日:2021年2月26日
監督:ジェイソン・レイ・ハウデン
ガンズ・アキンボ
がんずあきんぼ
『ガンズ・アキンボ』あらすじ
ゲーム会社で自堕落として働くマイルズは、ネットの掲示板やコメント欄に過激な書き込みを繰り返して日々の鬱憤を晴らしていた。ある日、マイルズは本物の殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」に攻撃的な書き込みをしたことで、サイトを運営する闇組織のボスを怒らせてしまう。組織に襲撃され気を失ったマイルズが目を覚ますと、両手にボルトで拳銃が固定されていた。
『ガンズ・アキンボ』感想(ネタバレなし)
魔法の杖はいらない、銃だ!
えっと、次の就職面接希望者の名前は…“ダニエル・ラドクリフ”…ですね。ではこちらにどうぞ。
まず学歴をお聞かせください。ホグワーツ魔術学校に在籍…。そこで専門的な魔法を多彩な教授陣から学んだんですね。それは羨ましい体験ですね。2001年から2011年までは充実した多忙の日々を過ごしていた…と。
で、その後はどうされていたのですか? 『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』で弁護士を務めたんですね。それはまあ、良い感じのお仕事じゃないですか。
続いて、『ホーンズ 容疑者と告白の角』で人殺しとしてマスコミに追われていたら頭から角が生えた…と。ん? ちょっと待ってください、どういうことですか。角って、何かの比喩ですか? 違う? 本当に角?
まあ、それは置いていて、それからは? 『スイス・アーミー・マン』で死体になった…と。え、死んだんですか? 今ここにいますよね、し、死亡したのですか? でも大丈夫、おならで水上を移動できる死体でって、いや、意味不明なんですけど…。
はい、それもさておき次で。『アンダーカバー』でネオナチに潜入した…と。ずいぶん危険なことをしたんですね。え? 結構楽しかった? それは…場合によってマズい発言なんですけど、何をしでかしたんですか?
それでその後は『ジャングル ギンズバーグ19日間の軌跡』でボリビアのジャングルをずっと彷徨っていた…と。はぁ~、それはまた苦難でしたね。一体あなたは何かバチがあたるようなことをしでかしたとでも言うのでしょうかね。
そんな経緯の中で、当社に来たわけですね。ここはゲーム会社ですし、平凡なデスクワークですけど、満足できる職場になりますかね。でもあなたがそれでいいなら、ぜひうちで働いでください。
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そのハリーポッター時代から急転直下のヘンテコ役で周囲を困惑させることに定評のある“ダニエル・ラドクリフ”。彼の出演する最新作『ガンズ・アキンボ』が登場です。
今回はただのゲームプログラマー…と思わせておいて、ネット荒らしが趣味のただの迷惑野郎。そして、手に拳銃をボルトで固定されます! …両手に銃です。はい、銃です。
もうこの設定からして出オチ感が半端ないと思うのですが、確かにそれが一番の衝撃です。手に銃を固定するって…誰でもツッコめますよ。どうやって装填するんだとか、グリップも何もないだろうとか…。いいんです、そこも含めてこの映画の“ダニエル・ラドクリフ”演じる主役はあたふたしているんですから。
絶対、“ダニエル・ラドクリフ”はわざと変な役の仕事を選んでますよね。基本、世間のスタンダードに身を合わせないスタンスのようで、まあ、自由気ままです。あのハリーポッターもこれくらい気楽に生きていれば…いいや、それじゃあきっと退学になってるな…ダメだ…。
その珍妙な“ダニエル・ラドクリフ”と共演する俳優もまたそれ以上に強烈です。作中でクレイジーな殺し屋として怪演を見せるのが、“サマラ・ウィーヴィング”。『ザ・ベビーシッター』や『レディ・オア・ノット』で血まみれになる役が多い印象でしたが、今回はノリノリで殺しまくりのハイテンションですよ。『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』ではあんなに純真だったのに(アホだったけど)。
監督は“ジェイソン・レイ・ハウデン”という人で、もとはVFXクリエーターです。『スカイライン』シリーズといい、VFX畑の人が監督をするとどうしてこうもクセが強烈な映画になるんでしょうかね。この監督は2015年に『デビルズ・メタル』という、うっかり悪魔を召喚してしまったヘビメタ少年を描くこれまたぶっ飛んだ作品を監督もしており、持ち技なんでしょう。
闇の魔法使いもびっくりの超おバカ映画とも言える『ガンズ・アキンボ』ですが、ストレス過剰な今の世の中、差別発言するアホどもにイライラしている気持ちを発散するには、こんな不謹慎な人殺しまくり映画もちょうどいいと思います。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(ストレス発散にどうぞ) |
友人 | ◯(お気楽に満喫しよう) |
恋人 | ◯(恋愛とか割とどうでもいい) |
キッズ | ◯(殺人たっぷりで残酷だけど) |
『ガンズ・アキンボ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):無理ゲーです
2台の車が激しいカーチェイスを繰り広げています。それはレースをしているわけではありません。互いの銃をぶっ放し、明らかに銃撃戦を展開。それは上空を追尾して飛ぶ小型ドローンでライブ中継されており、ネット上の視聴者は大盛り上がり。男たちを華麗に圧倒したのは、最強の殺し屋「ニックス」です。
これは「スキズム」と呼ばれている、今、インターネットのアンダーグラウンドで流行っている殺し合いゲーム。参加者は「ファイター」となり、あらゆるシチュエーションが用意される中、相手を殺せば勝ちというシンプルな内容。無論、それは違法です。しかし、あまりにも過激な熱狂者を生み出しているにもかかわらず、警察も完全に取り締まることができないでいました。
そんな中、マイルズといううだつの上がらないゲーム会社のプログラマーの男がいました。この覇気のない髭面の男は人生にすっかりやる気をなくしています。職場でもSNSをネットサーフィンするくらいで、クビになるのも当然な体たらく。
そのマイルズの家での趣味は、アンチコメ、クソリプ、早い話がネットでの嫌がらせです。家でひたすらに攻撃的な書き込みを繰り返し、挑発し、怒らせ、それによって日常の不満を発散していました。
今日は今話題で調子に乗っているスキズムについて「サイコパスでクレイジーだ」とボコボコに非難します。参加者も主催者もどうせろくな奴ではないと、好き勝手に誹謗中傷。相手は違法行為している人間、どうせそんな奴に悪口言っても構わないだろう…。
しかし、そんなことをしていたら、いきなり自分の家のIPアドレスが書き込まれてびびります。これは偶然か、それとも居場所がバレているのか。そんなはずはない…と忘れようとした矢先、ソファで寝ているとドアを乱暴にノックする音。
その瞬間、ヤバそうな連中が乗り込んできます。スキズムの関係者です。「あのコメントはジョークで…」としどろもどろで謝るも、パソコンを破壊され、殴られ、そして何かダーツのようなもので打ち込まれ…。
朦朧とする中、あきらかに病院とは思えない空間で、治療器具とは思えない道具を持った大男が自分に何かをしている…気がするのが断片的に認識できるような…。
目が覚めます。良い目覚めではありません。あれは、悪夢だったのか。ふと自分の手を見ると、両手には銃が握られていました。しかも手にボルトでしっかり固定されています。乱暴に。外しようもありません。
ショックで正常な意識が吹っ飛ぶマイルズ。床に落ちているスマホを取ろうとしますが、弾みで発砲してしまい、自分でもびっくり。もうどうしたらいいかわからない状態。
スマホにメッセージが来ています。「24時間以内に彼女を殺せ。失敗すれば死、逃げれば死」
その“彼女”とはニックスです。なんだ、ニックスって…殺すってどういうこと…。
ズボンを履くのに悪戦苦闘し、結局は諦めてスリッパにし、口でスマホを加え、上着にイン。ドアノブを回すのも大変で、やっと開いたと思ったら、廊下に出るとヤバそうな女がこっちに歩いてきます。そして、何の躊躇もなく撃ってくる…。
自分はファイターではないと必死に説明するも眼中になし。隙を見て窓から身を投げて逃げるマイルズは、非常階段を落下。そのままダッシュ。
こうしてバトルが始まりました。
当然こんな格好であれば警察に銃を向けられます。銃を降ろせと言われても両腕をあげるしかできないので、逃走。テザー銃でビリビリされますが、うっかりまた撃ってしまい、警官に命中。心配して近寄るも手には銃なので相手はびびるばかり。
公園へたどり着き、そこで恋人のノヴァを見かけ、彼女の車に乗り込みます。しかし、後ろからはニックスが追走。ヤバい武器を持っています。急いで車を発進させますが、ノヴァに状況を説明すると「スキズムに参加しているの?」と驚かれ、銃を見せると、完全にパニック。ボーイフレンドがこんな惨状になったら誰だって衝撃を受けます。ノヴァは車から降りて逃走。またしても孤立したマイルズ。
そんな光景を実況配信しているスキズムは史上最高視聴率を記録。
さあ、この無理ゲーはどこまで期待を上回るのか…。
ラドクリフを観察したい
『ガンズ・アキンボ』の欠点を先に挙げてしまうと、本作は主人公のビジュアル的に、両手に二丁拳銃ですから、『リベリオン』のガン=カタみたいな、もしくは『ハードコア』みたいな、とにかくそういう激しいガンアクションが楽しめそうじゃないですか。
でも違うんですね。冷静になればわかることですが、両手に銃がボルトで強制固定されたら、普通はガンアクションどころではありません。カッコよくバンバンと敵を射撃する状況ではないです。というか、日常のアクションすらままならない…。
なので本作は序盤からずっと両手が銃になってしまった主人公マイルズのあられもない孤軍奮闘をお楽しみいただくという、ひとりコメディとなります。何を見せられているんだ…という感じですが、そういう映画なんです…。
なにせ最初はトイレで緊張しながらゆっくりと用を足すシーンから始まりますからね。いや、座ってすればもっと安全だろう!とかいくらでもツッコめるんですけど、なんか面白い絵だからまあいいかっていう…。
それで、ズボンを履けないとか、スマホを操作できないとか、ドアを開けられないとか、いろいろな試練が訪れるのですが、個人的にはもっとあの最初のスタート地点になる部屋でジタバタしている映像が見たかったかなと思います。いっそのこと中盤すぎあたりまで部屋から出れずに困るみたいになっても良かったかも。
この“ダニエル・ラドクリフ”の情けない姿はアクションや殺し合い以上に眺める価値がありますからね。この「どうやったら部屋から出れるかゲーム」の方が視聴者を集められるんじゃないだろうか…。
スマホで不特定多数に助けてと救援を呼ぶもこれまでの行いのせいでクソリプしか返ってこないとかだったら笑えるのに…。
そんな一連のギャグシーンですが、“ダニエル・ラドクリフ”は発達性協調運動障害だった経緯もあるので、案外とそういう体験も活かしているのかもしれませんけどね。
闇の魔女なんですか
その主人公のアホ状態ではあるのですが、『ガンズ・アキンボ』にガンアクション要素がないわけではありません。その代わりを担うキャラクターがいます。
そうです、“サマラ・ウィーヴィング”演じるニックスです。
このニックスのキャラがたちまくっているおかげで、上手い具合にバランスが保たれているのが本作の最大の魅力だと思います。マイルズがバカな弾を1発2発撃てば、このニックスがワイルドな弾を高火力で1発撃ちこんでくれる、そんな連係プレイ。
見た目からしてヴォルデモートの手先の闇の魔女みたいですから。幼い頃の悲劇のせいとは言え、どこをどうしたらそんな風貌になってしまったのか、不思議でならない。たぶん、いや絶対に闇の呪文で禁断の契約を結んだとかだよ…。
銃だけでなく、ロケットランチャーをぶっ放すわ、ミニガンを乱射するわ、あげくに指を切り落とされたと思ったらトンカチで覚醒するわ、やりたい放題。あの世界観のリアリティは不明ですが、おそらくあれだけのルール無用な世界で生き抜いているのですから最強なんでしょう。最狂ヒロインとデスマッチすることになるマイルズにはとうてい敵う存在ではない…。
みんな思うことですけど、もうニックスひとりでリクターとその一味を殲滅できるんじゃないだろうか…。捨て身の爆発で華々しく散ったけど、生きてそうだ…。
本作で“サマラ・ウィーヴィング”にハマった人はぜひ『レディ・オア・ノット』を鑑賞してみてください。こっちも爽快に殺しまくりな血みどろ女になってます。
今後は『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』にも出演するらしいので、そっちも楽しみです。
もっと乱戦を要求する!
『ガンズ・アキンボ』は後半のマイルズとニックスのタッグがアガるのは納得ですが、本音としてはもっと乱戦になってカオスになってほしかったですね。
例えば、視聴者が飽き始めたのでこれまで出会った人たちも両手に銃固定で全員参戦するとか。ホームレスのグレンジャミンも一緒に戦闘してもいいですし(演じている“リス・ダービー”はニュージーランド軍の元兵士だったらしいです)、恋人のノヴァだって戦えば絵になったでしょう(演じている“ナターシャ・リュー・ボルディッゾ”は中国系のオーストラリア人)。
終盤でのラストバトルで大量の参戦者の登場があれば、エクストリーム・ガンアクションとして堂々の伝説を築いたんじゃないかな。
スタン・ブッシュの「Never Surrender」とか、唐突な音楽の使い方はあれはあれで面白かったですけど。
敵ももっと強大でも良かったくらいです。“ダニエル・ラドクリフ”は労働党支持者で、LGBTQアライとして精力的に活動してしますし、世間に蔓延る権力者や差別主義者と戦うのは大好きな人ですから。腐敗した政治家集団に殴りこんでいってもいいですし、バグだらけの社会にインパクトを残せたはず。
でも最後のエンディングは良さげな終わりで好きです。要するに他人を誹謗中傷している暇があったら、もっと世の中の困っている人を助けようということ。
今度は何をするんだ、“ダニエル・ラドクリフ”。いつでも待機してます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 52% Audience 40%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
関連作品紹介
ダニエル・ラドクリフの出演する映画の感想記事の一覧です。
・『スイス・アーミー・マン』
・『アンダーカバー』
作品ポスター・画像 (C)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved. ガンズアキンボ
以上、『ガンズ・アキンボ』の感想でした。
Guns Akimbo (2019) [Japanese Review] 『ガンズ・アキンボ』考察・評価レビュー