アイルランド愛たっぷりの可愛らしいアニメーション…映画『ブレンダンとケルズの秘密』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:フランス・ベルギー・アイルランド(2009年)
日本公開日:2017年7月29日
監督:トム・ムーア
ぶれんだんとけるずのひみつ
『ブレンダンとケルズの秘密』物語 簡単紹介
『ブレンダンとケルズの秘密』感想(ネタバレなし)
アイルランドの国宝がアニメで動く!
また、あのアニメーションの世界がやってきた…。
“トム・ムーア”という独自の作風が特徴なアニメーターが若き巨匠として注目されているという話は、彼の長編アニメーション映画2作目の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』で語ったのですが、その“トム・ムーア”監督の記念すべき1作目が日本で2017年に公開されることになりました。後援のアイルランド大使館、ありがとう(なんでも日本・アイルランド外交関係樹立60周年らしいです)。
そのメモリアルな作品が本作『ブレンダンとケルズの秘密』。本作と2作目は続けて米アカデミー賞で長編アニメーション賞にノミネートされており、作品としては2009年に製作されたものですが、全く古さのない、時代を超えて魅了させてくれる映画です。
お話しは、アイルランドの国宝である「ケルズの書」という8世紀に制作された聖書の手写本をめぐる史実をファンタジックに彩ったものとなっています。この写本、ただのコピーではなく、豪華なケルト文様による装飾が施されていることが最大の特徴。ゆえに世界で最も美しい本とも言われているのだとか。ネットで画像検索してもらえればわかると思いますが、確かに装飾のレベルを凌駕するとてつもなく細かい職人芸で模様が書きこまれています。
アイルランドではこの写本製作の技術が古くから培われてきたそうです。では、今はそれが途絶えたのか? いえ、それこそ「アニメーション」という形で現代に継承されていると言っていいでしょう。まさしく本作は、その芸術を現代に蘇らせる(しかも動く!)“トム・ムーア”監督の粋なセンスだと思います。アイルランド愛ですね。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』と同様に温かい絵のタッチで、子どもが観ても問題ない作品です。ただ、かなり不気味なシーン、もっといえばホラー的ともとれる怖いシーンが一部あって、さらに大量殺戮など暗く陰惨な場面もあります。もし小さなお子さんと観る際はそこを気を付ける必要があるかもしれませんが、まあ、そこは各家庭の判断で。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』にハマった人は絶対に楽しいのは間違いないで、必見です。
『ブレンダンとケルズの秘密』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):私は見ていた
9世紀のアイルランド。8世紀末頃からノルマン人(ヴァイキング)の侵入が始まり、学問と文化の中心地であったアイルランドの繁栄は脅かされていました。人々は戦いに備えつつ、生活を守ろうと必死です。
僧院で暮らす少年ブレンダンは逃げだしたガチョウを追いかけていました。ここは巨大な塀に囲まれており、敵の侵入を防ぐための厳重な守りを今も強化しています。ブレンダンはなんとか鳥を捕まえて、羽を抜きます。これは神聖な書をしたためるために使われるのです。
そこへ叔父のケルアッハ院長がやってきます。「設計図を持ってくるんだ」
ここ「ケルズ」では芸術家も砦の作業に関わらないといけません。ブレンダンはこのケルズの塀の外に出たことはありません。他の芸術家は写本の方が大事だと考えています。
そんなある日、ブレンダンは他の年配の芸術家からエイダンという装飾師について教えてもらいます。徳が高く聡明な人で、アイオナという小さな島で修道院で「アイオナの書」を作っているらしく、200年前から作られており、聖コルンバが指揮をとられたとか。その聖コルンバは第3の目を持っているとか、3本の手に指が12本ずつあったとか、いろいろとな逸話があったそうです。
その神々しい本は罪人が見ると目が汚れるらしいですが、ブレンダンはすっかり気になってしまいました。どんな本なのだろうか…。
ブレンダンはケルアッハ院長に設計図を持って行きます。
「いずれお前が修道院長になるんだ。いつかここも襲われる」
ブレンダンはこの砦が襲われる幻覚を見ます。これは事実になるのか…。
そこへ猫を連れた来訪者。それはあのエイダンでした。名高い写本家である老人にさっそく本について聞いてみるブレンダン。けれどもケルアッハ院長が話を遮ってしまいます。
ブレンダンはケルアッハ院長とエイダンの会話を聞いてしまいます。どうやらケルアッハ院長はエイダンの来訪を快く思っていないようで、敵が追ってやってくることを危惧しています。
夜、ブレンダンはどうしても気になるのでエイダンの本を見てみようとこっそり近づきます。そこにエイダンが接近。自由に見ていいと言ってくれます。
「この世は全て霧の中。確かなものはない。決めるのは自分だ」
その本は豪華な装飾で、うっとり目を奪われてしまいます。
「その書は灯だ。君に一番美しいページを見せよう」
しかし、そこには何も書いていません。でもエイダンはそのページが最も光り輝くと言うのです。
そして実を集めてほしいと依頼してきます。ブレンダンは外に出られないと言いますが、「森では奇跡が起こるんじゃ」とエイダンは語り、ブレンダンは心動かされます。
森くらいきっとひとりで行ける。その旅が何かを変えるとは知らずに…。
平面でしかできない遊び
『ブレンダンとケルズの秘密』のアニメーションは相変わらず『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』のときと変わらぬ楽しさ。“トム・ムーア”監督作の特徴は、昨今の3Dリアル傾向とは真逆の超平面スタイルのアニメーションですが、個人的にとても好きです。
平面を駆使した横スクロールゲーム風でありながら、飽きない不思議。それはやっぱりアニメーションでしか表現できない、いわゆる「嘘」の演出が上手く組み込まれてユニークだからだと思います。例えば、劇中でアシュリンが神出鬼没にひょこひょこ画面に現れる場面とかの、遠近法を完全に無視した騙し絵のような表現。さらに、後半にあるブレンダンの平面戦闘シーンは絵であることを最大限活かした演出でした。物語上、ブレンダンが書物を書いていくので、この平面演出との親和性が本作はとても高いですね。まさにケルト紋様がアニメーションで動いていたという感じ。バイキング襲撃シーンも凄かったです。
『ブレンダンとケルズの秘密』の物語は『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』と比べて、お話しの舞台のスケールは小さいのですが、わりとストーリー展開がベタで予想しやすい2作目と違い、今作1作目は話がどう転んでいくかわからない面白さがあって良かったです。一方で、時間のスケールが非常に長く(まさかブレンダンがあそこまで年をとるとは思わなかった)、物語の着地点も「書物を完成させる」という宗教的な終わりなので、カタルシスが弱いのは子どもが観るうえでは辛いのかも。少なくとも公式ウェブサイトにある「世界を救えるのは、この美しい魔法の本だけ」というのは若干過大ですしね。
逆に言えば『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』ではその欠点が活かされて、子どもでもわかりやすい物語になっていました。
いつもの組み合わせ
『ブレンダンとケルズの秘密』含めて“トム・ムーア”監督作品2作を観てわかったことですが、ちょっと年上のお兄さん的少年キャラとちょっと年下の不思議少女キャラのコンビがセオリーなんでしょうか。
主人公のブレンダンのキャラは、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』の主人公のベンとかなり似ている、というか同じだったな…。まあ、可愛らしいので良かったですけど。
一番印象的なのはやはり本を完成させるためのインクの原料である植物の実を探しにきたブレンダンが森で出会うオオカミの妖精アシュリンでしょう。やたら統率のとれた黒オオカミたちを従える、まさに神出鬼没の謎の存在、アシュリン。まあ、こっちも可愛らしいので良しです。しかも、魅力的な歌も歌ってくれますしね。本作全体のアイルランド・ケルト音楽といい、サントラが欲しくなる作品です。時々見せるアシュリンの怖い顔が普通に怖かったですが…。
あと、ネコね。“トム・ムーア”監督作品は動物に愛嬌があっていいですね。
ともあれ、こういうアニメーション見て癒されてないとやってられないですから(何があった)。適度にこういう作品が欲しくなるのです。
“トム・ムーア”監督の次作は、プロデュース作品として『The Breadwinner』が控えるほか、監督作『Wolfwalkers』を製作中とのこと。楽しみなのですが、早く日本公開に着手してください、配給さん…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 85%
IMDb
7.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Les Amateurs, Vivi Film, Cartoon Saloon ザ・シークレット・オブ・ケルズ
以上、『ブレンダンとケルズの秘密』の感想でした。
The Secret of Kells (2009) [Japanese Review] 『ブレンダンとケルズの秘密』考察・評価レビュー