韓国実写版ならではの魅力も満載…Netflix映画『人狼』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:韓国(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:キム・ジウン
人狼
じんろう
『人狼』あらすじ
近未来。アジア情勢の悪化にともない、朝鮮半島の南北の政府が統一を宣布。しかし、統一に反対する反政府のテロ団体「セクト」が次々と蜂起し、政府はそれを制圧するため「特機隊」を設立した。そして、ある事件が特機隊のメンバーのひとりの男を揺り動かす。
『人狼』感想(ネタバレなし)
そうだ、韓国映画に任せよう!
映画会社の人 A「何か映画の企画はないのか!ばんばん出せ!」
映画会社の人 B「リメイクはどうですか」
映画会社の人 A「それもかなりやり尽くしたからな…」
映画会社の人 C「続編、作ります?」
映画会社の人 A「それも連発するとあれだしな…」
映画会社の人 D「新規でやるのは?」
映画会社の人 A「ちょっとヒットが読めなくて不安だから、それは…」
そんなやりとりを実際にしているのかどうかは知りませんが、映画企画のネタ探しは永遠の宿命。きっと日々頭を悩ませているに違いありません。
そういう状況のなかで、割と手付かずの鉱脈となっているのが「日本のアニメ・漫画コンテンツ」。独創的な世界観と魅力的なキャラクターを持ち、世界中でファンも多い作品が原石のようにキラキラ輝いていますが、その独創さゆえにかなかなか海外では手を出しづらかったのかもしれません。膨大な作品が転がっているわりには実写映画化は少なめです。とくに少年漫画系のアクションやファンタジーの難易度は高く、それこそ今ではアメコミが勢いありますが、あれだって長年の積み重ねでやっと今の状態に来たようなもの。そもそもハードルは高いのでしょうね。
それでも最近になって「デスノート」「攻殻機動隊」がハリウッド実写化されたり、「銃夢」や「ポケットモンスター」の実写化が公開を控えていたりと、にわかに活気づいています。
その「日本のアニメ・漫画コンテンツ」の実写映画化に積極的なのが「ワーナー・ブラザース」です。最近でも邦画ですが、「銀魂」「ジョジョ」「鋼の錬金術師」「BLEACH」などアクション系漫画の実写化を立て続けに連発。まるで今後の世界展開に向けた地ならしのような気もしないでもない。ヒットよりも経験を積むことを優先している感じさえします。
そしてワーナー・ブラザースが次に狙いを定めた日本のコンテンツが“押井守”原作の「人狼 JIN-ROH」でした。“押井守”については語るまでもなく、その強烈な作家性からファンも多い、日本を代表するクリエーターですね。なので、その“押井守”作品の実写映画化は当然魅力的なカードでしょう。
ただ、面白いのが、そのカードを邦画でもハリウッドでもなく、韓国映画に託したというアイディア。そうか、その手もありなのか。確かに日本のコンテンツは当然日本を前提にしたものが多く、なのでそれをハリウッドで手がけるとどうしても人種的な問題が生じます。でもお隣の韓国ならまだその違和感は少なくて済みます。それに韓国映画といえば世界に通用するクオリティを誇るのは承知の事実。
そうやって生まれたのが本作『人狼』です。
設定は朝鮮半島が舞台に置き換わっていますが、原作のイメージを引き継いでいる雰囲気が伝わってくるビジュアルに公開前から一部で話題になっていました。
しかも、監督があの“キム・ジウン”。2010年の『悪魔を見た』で世界的にも注目され、その流れからアーノルド・シュワルツェネッガーの俳優復帰作となる『ラストスタンド』を監督し、アメリカ映画デビュー。さらに2016年の『密偵』では韓国で非常に高い評価を獲得。今では韓国映画界きっての実力者となっています。
“キム・ジウン”監督なら一定のクオリティは保証してくれるということで、期待も高まりますが、さて結果は…。こういう原作人気の高い作品を実写化すると、いろいろな視点から感想を語る人が出てくるのがまた面白いところ。少なくとも私は、日本のコンテンツを韓国映画界の力で実写化するのも、ひとつのスタンダードになっていくと、邦画も含む業界全体が盛り上がるのではと思っています。
『人狼』感想(ネタバレあり)
韓国でやる意味がある映画化
最初に書いておくと、私は原作の「人狼 JIN-ROH」を見たことがありません。なので、アニメ版と比較してどうこうといったことは語れないのですが、逆にまっさらな気持ちで見れたので新鮮でした。
そんな原作について無知な私でも、これは原作をかなり意識して本格的に映像化したのだろうなということが実感できるクオリティで、さすが“キム・ジウン”監督、抜かりないなと思いました。
たぶんファンはビジュアルデザインを何よりも気にすると思うのですが、キービジャアル的なインパクトも強い作品の象徴となる特機隊の強化スーツを始め、どれも本物感があって良いです。設定はこの韓国版では2029年と近未来になっているのですが、変に無理に未来風のガジェットをたくさん出したりしていないのが逆にリアルでいいですね。特機隊の強化スーツはどうしたってファンタジー色が強く、実写にすると浮いてしまうリスクが強いという問題があるのに対して、基本的にあの赤い目のフルヘルメット状態で登場するのが地下水路に限定されるため、背景に馴染みやすくしている効果もあるように思います。とにかく実写だからといって妙に張り切りすぎていないのがバランスの良さじゃないでしょうか。
個人的には、社会情勢のリアリティも本作の魅力ではないかとも思います。正直、これは邦画に対する苦言ですけど、邦画内でテロなどが描写されるとき、どうもリアリティに欠けるのが気になっていました。その理由を想像するに、日本ではテロが身近ではないため、そこまで生々しく描けるほど作り手も体験に基づく知識がないし、観客もそんなリアルを気にするほど知識がないから、成り立っているのではと考えてしまうのですが…。ともかくショボいというか、特撮風のフィクションに見えてしまうんですね。
それと比べて、この本作の描写は見事。とくに序盤の南北統一に反対するデモ市民と警官隊の一触即発のシーン。そこに赤ずきんと呼ばれる少女の運び屋が爆弾を運んできて、群衆に交じったテロリスト集団「セクト」のメンバーに渡し、それが爆発して一気に暴動が戦闘に変わる展開。この本物感、今の日本ではだせません。やはり以前までそういう歴史を抱えてきて、実際にこういう激しい対立があった韓国だからこそできる描写ですね。また、南北統一をめぐる賛否というのは韓国国内にもすでに存在するものですから、余計にありえそうな光景。
“押井守”も本作をそれなりに褒めているようですが…。
こうやって考えると、「人狼 JIN-ROH」の実写化は韓国以外にありえなかったなと思ってしまうほど、適材適所だったのではないでしょうか。ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』と違って、韓国でやる意味がある映画化だっただけでも大きな成果です。
強化スーツは飾りです
一方で、個人的に残念だったポイントも多数あったのも事実。
ひとつ目がアクション。いや、アクション自体はやはり韓国映画らしくこちらもクオリティは高かったです。ただ、この映画としての魅力はあったかというと、そうでもなく…。なぜなら、問題はあの特機隊の強化スーツです。あのスーツを完全に装着すると、アクションが鈍重になり、結果、のしのし歩いて機銃を撃ちまくるという脳筋戦法になってしまうのですよね。最初はそれも味になって面白いかなと思って序盤の地下水路でセクトのグループを蜂の巣にするシーンは見ていました。しかし、後半の同じく地下水路で公安部と対決…という名の一方的な蹂躙をするシーンはただドンパチしているだけであんまり見ごたえはないかなと。
スーツを着ていないときの方がアクションは面白いです。主人公のイムがイ・ユニと南山タワー(Nソウルタワー)と再び出会い、そこになんやかんやで公安部が突入していく一連のシーンは見ごたえがあります。まず、展望台での障害物を駆使したバトル。そこから消火ホースで一気に飛び降りてからの今度は駐車場でカーアクション・バトル。高低差でガラッと変わるアクション場面をひとつなぎ風で見せるこの展開は、非常に上手く、“カン・ドンウォン”の熱演もあってスタイリッシュ。なんかもうこの人、特機隊の強化スーツ、いらない気がする…。むしろあれで本気の力を抑えていたのではないか、そんな冗談を思うくらいの暴れっぷり。
これを見ちゃうと、どうしても後半の地下水路バトルは、公安の弱さもあまって魅力減退です。韓国映画の持ち味が、題材となった作品の要によって相殺されてしまうのはもったいないですね。
もっと妄想を広げて…
もうひとつ引っかかるのは、壮大なバックボーンがあるわりにはただの内部闘争で終わってしまうのが惜しいなと。
『人狼』は、冒頭でも説明されているように、領土問題で中国と揉める日本は軍国化し、アメリカとロシアも介入したことで戦争が勃発しようとしているため、朝鮮半島は南北で統一を進めているという歴史改変SFです。これは原作も、第二次世界大戦が「ドイツ・イタリア枢軸国」と「日本・イギリス同盟」の戦いとなり、敗戦国となった日本はドイツ軍に占領されたという架空設定になっているらしいので、基本的にこういうSF的な要素は気になりません。さすがに韓国映画版を政治的に偏っていると評するのは無理があるし、むしろ原作の方がタブーな歴史改変をしているようにも思いますが…。
けれども、せっかくその設定があるなら、もう少し諸外国を絡めてもいいのではと思ったりも。世間の目に遠慮しなくて全然いいですからね、クリエーターは。朝鮮半島の特機隊と、軍国化した日本が送り込んだ特機隊が戦うくらいのことをしてもいいんですよ。それはやりすぎにしても、そこのリアリティをプラスした面白味は欠け、あくまで背景で終わってしまったのは、う~ん。
他の韓国映画だと、例えば、『鋼鉄の雨』のように、もしアジアを巻き込んで戦争が起きたらどうなるかということをきっちりシミュレーションしてエンターテインメントに仕上げた作品もあるわけで、そういうのと比べるとエンタメとしても見劣りするかなと思います。
オオカミと赤ずきんの寓話としてもっと攻めても良かったのですが…。
“キム・ジウン”監督といえども、フィクション要素の強いエンタメはそこまで大得意というほどではないのか。本作は、韓国国内では評価もそこまで高くなく、あまりヒットしなかったのですが、そのためかワーナー・ブラザースは他の国の配給はNetflixに売ってしまいました(ちなみに実写版の『鋼の錬金術師』『BLEACH』もNetflixオリジナル作品で日本以外の海外では配信されているとか)。
今のところ実験的な企画として、この結果にめげずに続けていってほしいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『人狼』の感想でした。
Illang: The Wolf Brigade (2018) [Japanese Review] 『人狼』考察・評価レビュー