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『ARGYLLE アーガイル』感想(ネタバレ)…結末は頭の中にある!

ARGYLLE アーガイル

結末は頭の中にある!…映画『ARGYLLE アーガイル』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Argylle
製作国:イギリス・アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年3月1日
監督:マシュー・ヴォーン
恋愛描写
ARGYLLE アーガイル

あーがいる
ARGYLLE アーガイル

『ARGYLLE アーガイル』物語 簡単紹介

エリー・コンウェイは、凄腕エージェントのアーガイルの華麗な活躍を描いたベストセラー小説「アーガイル」の作者で、大勢の熱烈なファンがいる。愛猫のアルフィーといつも一緒に新作の執筆作業に専念していた。気にかけてくれる母のもとに帰ろうとしていると、列車内で謎の男たちに命を狙われ、エイダンと名乗るスパイに助けられる。やがてエリーは自分の小説の驚くべき真実を知ることになる…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ARGYLLE アーガイル』の感想です。

『ARGYLLE アーガイル』感想(ネタバレなし)

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マシュー・ヴォーンのスパイ・ワールド拡張!

世界のどこかに身を潜み、正体を隠しつつ、類まれなスキルを活かして、裏で陰謀企む悪者を食い止める…そんなジャンルである「スパイ」ものは魅力的で人の心を掴みます。

日本でも『SPY×FAMILY』がお茶の間にウケていたり…。足元は政治的ながら思いっきりエンタメとして味付けしやすいこともあって荒唐無稽さを丸ごとOKにしてくれるあたりが、ジャンルとしての強みでしょうか。

そんな数多のスパイ作品を見ていれば、「私だったらこういうスパイものが見たいな…」という「私の考える最強のスパイ作品」を妄想する人もでてくるのは致し方ないところ。

その妄想をきっちり実現してみせて絶好調な監督がいます。ロンドンっ子で実はイングランド貴族の秘密の子だったという出自からしてなんだかエージェントっぽさがある、“マシュー・ヴォーン”(マシュー・ボーン)です。

“ガイ・リッチー”監督と共に映画キャリア初期を踏み出した“マシュー・ヴォーン”は、“ダニエル・クレイグ”主演の『レイヤー・ケーキ』(2004年)で監督デビューを果たします(後に“ダニエル・クレイグ”が『007』のジェームズ・ボンドに抜擢されることを考えると運命的な縁)。

2010年の『キック・アス』、2011年の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』と、アメコミ映画で成功を重ねて一気にエンタメ界の話題のクリエイターになりました。

その“マシュー・ヴォーン”監督がじっくり腰を据えて自分のやりたかった企画を実行します。スパイ作品が大好きだったので、自分の想いがこもったスパイ作品を作り上げよう…と。

そうして盟友“マーク・ミラー”と一緒に築き上げたのが2015年の『キングスマン』。痛快で爽快で刺激的。独自の世界観を見事に打ち出しました。これが大成功となり、“マシュー・ヴォーン”監督のスパイ・ワールドが始動します。

近年は2017年の『キングスマン:ゴールデン・サークル』、2021年の『キングスマン:ファースト・エージェント』と、『キングスマン』シリーズを拡大することに力を注いでいました。

しかし、ここにきて、新しい一手も繰り出すことに…。それが本作『ARGYLLE アーガイル』です。

本作は“マシュー・ヴォーン”渾身のオリジナル作品で、ジャンルはまたもやスパイもの。でも『キングスマン』とはだいぶ毛色が違うというか、あれ以上に荒唐無稽にぶっちぎっています。ここまでやっちゃうの!?ってくらいに…。

しかも、この『ARGYLLE アーガイル』は続編も企画中で、さらに『キングスマン』シリーズと別のスパイ・シリーズと合わせて、最終的にはクロスオーバーさせたい!みたいなことを“マシュー・ヴォーン”監督は口走ってます。配給会社、違うのだけど、もう“マシュー・ヴォーン”の脳内妄想は止まりません。

それが本当に実現するかはさておき、『ARGYLLE アーガイル』を観ると、“マシュー・ヴォーン”監督の作家性がまた再確認できる…ものすっごくこの監督らしい仕上がりです。

物語は…あまり言及するとネタバレがすぎるので難しいんですよね。今回の映画は仕掛けがあるので、未見の人はうっかり調べてオチを目にしないように注意です。“マシュー・ヴォーン”監督作らしさ全開のスパイものだとわかっていればそれでいいでしょう。

主役は『ジュラシック・ワールド』シリーズで主演したり、ドラマ『マンダロリアン』で監督もやっている“ブライス・ダラス・ハワード”

そこに『ウエスト・エンド殺人事件』“サム・ロックウェル”が並び、加えて飛びっきりズルいポジションで“ヘンリー・カヴィル”が陣取ってます。『スーパーマン』から降りて以降の“ヘンリー・カヴィル”は自身のセクシーさをネタにする路線に身を捧げてるな…。

他には、ドラマ『ブレイキング・バッド』“ブライアン・クランストン”『ペイン・ハスラーズ』“キャサリン・オハラ”『マーベルズ』“サミュエル・L・ジャクソン”『ウィッシュ』“アリアナ・デボーズ”など。“ソフィア・ブテラ”“ジョン・シナ”もちょこっとでてます。

『ARGYLLE アーガイル』で気楽に“マシュー・ヴォーン”のスパイ・ワールドを満喫してください。

なお、宣伝でもがでまくりなのでわかると思うのですが、本作は猫が目立って登場します(監督の愛猫だそうです)。ただ、動物虐待というか、猫の扱いが雑な展開がチラホラあるので、そこだけ好き嫌いはでると思います。

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『ARGYLLE アーガイル』を観る前のQ&A

✔『ARGYLLE アーガイル』の見どころ
★荒唐無稽なストーリーとアクション。
★俳優の全力全開スタイル。
✔『ARGYLLE アーガイル』の欠点
☆荒唐無稽すぎるので癖はかなり強い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:気楽に見やすい
友人 3.5:軽めのエンタメ
恋人 3.5:異性ロマンス強め
キッズ 3.5:残酷描写薄め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ARGYLLE アーガイル』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

上品なクラブにて、金色のドレスの女性とダンスを踊り始めたひとりの男。彼の名はアーガイル。実は秘密のエージェントで、この女性と接触を試みる狙いがありました。

しかし、そのセクシーな女性はエージェント・アーガイルだと見抜いていたようで、周囲の全員が武装しており、女性が指を鳴らせば、銃を構えてきます。

それでもアーガイルは冷静。任務パートナーのキーラがサポートしてくれています。外に出るとあの女性がマシンガンを乱射し、キーラは撃たれて死んでしまいました。バイクで逃走した女性をアーガイルは車でダイナミックに追いかけます。その先にはアーガイルの仲間のワイアットがのんびり待機しており、通り過ぎようとしたターゲットを素手で捕獲。

3人が集って落ち着きながらカフェテラスで尋問です。その女性は自分の雇い主はアーガイルたちの雇い主ファウラーだと告白。しかし、ターゲット女性は命を絶ち、誰が信用できるのかわからず…。

…そんなスリルある物語を語るのは、人気スパイ小説シリーズ「アーガイル」の著者エリー・コンウェイでした。朗読会には多くの熱心なファンが詰めかけ、質問にも丁寧に答えます。リサーチを重ねてこの物語を生み出したとエリーは控えめに口にします。

その後、別荘にて、猫のアルフィーと一緒に新作に着手するエリー。舞台は香港…。

朝、母ルースから動画通話があり、新作の原稿の感想を伝えられます。すごく良いと褒めまくり。でもエリーはまだ納得いかず、とくに結末に悩んでいました。

ここにいても進展しないのでシカゴの母のもとへ行こうと決め、列車に乗り込みます。すると車内でファンだという男性が声をかけてきます。すぐに去っていきましたが、ステキな人だったので後ろ姿を思わず追います。

そこへ間髪入れずに髭面のみすぼらしい帽子男が前に座ってきます。やけに馴れ馴れしいです。その男はあろうことかエリーの「アーガイル」を読み始めるのですが、著者だとバレないようにするも、無駄な努力になるだけでした。

しかも、穏やかな口調で、その男はファンを装って命を狙っている人間がいると忠告してきます。なぜかみすぼらしい男の姿がアーガイルと重なった気がして、困惑するエリー。

すると別の男がファンだと言いながら近づいてきたかと思ったら、いきなり刃物を取り出して襲ってきて、みすぼらしい男と華麗に戦闘。驚いて硬直するエリーですが、その場を離れようとするも、また襲撃者。相変わらずみすぼらしい男は見事な格闘センスで倒していき、ときおりオーバーラップするアーガイルはセクシーで…。

車両の奥へ2人で逃げ、男に捕まれて後部からパラシュートで脱出するエリー。目を覚ますと山小屋で、男はエイダンと名乗り、リッターが率いるディビジョンという組織が本を狙っていると、意味不明なことを言ってきます。

何でもエリーの小説がある出来事を予言しているとか…。そんなことある?

この『ARGYLLE アーガイル』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/03/09に更新されています。
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妄想映像が垂れ流される約2時間

ここから『ARGYLLE アーガイル』のネタバレありの感想本文です。

『ARGYLLE アーガイル』はメタ的な構造が前提にあり、何段階かに分けてその構造がステージ変化してオチが見えてくるのですが、そんな小難しいものじゃありません。逆に超わかりやすくしていて、そこは“マシュー・ヴォーン”監督らしいスパイ入門作になっていると思いました。

まず冒頭。これはすぐに明らかになるとおり、エリー・コンウェイという小説家の書いた「アーガイル」という作品の、朗読の中での再現映像。というか、エリーの中の妄想ですね。このパートが荒唐無稽なのは、妄想内なのでまだわかります。

続いて、新作に悩んで移動中のエリーがエイダンという不審な男と遭遇して、まるで現実とフィクションがごっちゃになったかのような状態に陥ります。これはエリーの妄想がまだ続いているのか、それとも?…そんなサスペンスです。

ここでのエリーのキャラクター性もかなりステレオタイプで、男らしさにクラクラするけど、血生臭いスリルにはおどおどする…というベタなオタク女性になっています。まあ、ここからさらに二段オチが待っているのですが…。

はい、核心のネタバレです。実はエリーこそが元スパイ・エージェントで、記憶を失って、作家だと思いこまされていただけでした。あの本は人生の記憶を基にした実話だった…というオチ。本名はレイチェル・カイルで、「Agent R. Kylle」と綴って「アーガイル」となるという小洒落た遊び心のオマケつき。

正直、この「記憶喪失で実はエージェントだった!」という仕掛けはもう見飽きるくらいに同ジャンルで体験してきましたよ。有名どころだと『ジェイソン・ボーン』シリーズに始まり、最近はドラマ『シタデル』でクドイくらいにこの展開を味わったし…。本作も『シタデル』のスピンオフだと言われても違和感はない…。

ただ、『ARGYLLE アーガイル』はそこからさらに開き直りをみせているあたりでもう潔いです。ファンガールでスパイ・エージェントである2つの事実を全部肯定する勢い任せの押し切り。力技でした。

極めつけは、真実を知ってエイダンと合流してからの、カラー煙幕の中でのスローモーション・ダンス戦闘。まさか冒頭よりも荒唐無稽さが数倍に増すとは予想できなかった…。

観客はこの2人はそんな感情移入する時間を与えられていないので「何を見せられているんだ」と放置された気分になった人も多いでしょうけど、“マシュー・ヴォーン”監督は満足してる…。

結局、本作はエリーじゃなくて、“マシュー・ヴォーン”というクリエイターの脳内妄想映像を垂れ流しているだけだったと言えなくもない…。

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やりすぎを躊躇わないこの監督

『ARGYLLE アーガイル』のこの作品一本使ってパロディをやりきりました!というノリは好き嫌い別れるとは思います。『キングスマン』はまだ『007』をパロディにするという明確な批評性があったので、まだ狙いがくみ取りやすいですけど、『ARGYLLE アーガイル』は本当にただやりたい放題やってるだけに見えますし…。

“ヘンリー・カヴィル”の使い方とかも、ファンサービスに特化してましたね。サービスシーンの過剰摂取だった…。“ヘンリー・カヴィル”も気前のいい人ですよ。あの髪形でもセクシーになれるのは武器でした。

本作の欠点は「やりすぎた」ってところですが、どこまで笑い飛ばせる包容力があるかですね。冒頭から終盤まで徹底してわざとらしくCG臭さを全力で振りまいているのとかも、昨今のリアル寄りなスパイ・ジャンルとは全然違うし。

今のハリウッドは、スーパーヒーロー映画よりも、スパイ・エージェント系の映画のほうが圧倒的に数が多くて氾濫してます。私は1年に何百作品と新作映画を観るので余計に印象に残るのですが、スパイ・エージェント系は最も口にする機会が多いです。あれもこれもみんなスパイ・エージェントで、有名俳優を起用して作りたがります。全員エージェントになってしまうんじゃないか…。

そんな業界のラインナップの中でも、さすが“マシュー・ヴォーン”監督は個性で頭ひとつ目立とうとしていました。上手いかどうかは別にして、目立つという点では輝いてます。

個人的には“マシュー・ヴォーン”監督は好きにしてくれて構わないのですが、本作のラストでもチラっと『キングスマン』の接続点が示唆されたとおり、このままクロスオーバーして大きなスパイ大作として合流させるのはかなり収拾がつかない気もします。

というのも、スパイ・ジャンルってシェアード・ユニバースに実はそんなに向いてないと思うのです。もともとこのジャンルは単品でも荒唐無稽なので、それが複数作重なり合うと、互いの荒唐無稽さを食い散らかして終わりになるような…。

『007』といい『ミッションインポッシブル』といい、往年のスパイ・ジャンルが安易に作品拡張をしていないのはやっぱり理由があるのでしょう。やりすぎると作品の荒唐無稽さによってフランチャイズ自体が潰されてしまう危険もあるので。

そのスパイ・ジャンルのシェアード・ユニバースで成功例を見せているものを挙げるとすれば、インド映画界の「YRFスパイ・ユニバース」とかかもしれませんけど、あれは国民的スーパースター俳優の共演を見たいという観客の需要に答えたお祭り映画だから事情が違うかな。

でも“マシュー・ヴォーン”監督は『ARGYLLE アーガイル』のほかに、『キック・アス』も再始動させるって言ってますから、全くそんな将来に恐れることなく、華麗に滑走して創造性を乱射しまくるでしょう。流れ弾には注意です。

『ARGYLLE アーガイル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 32% Audience 72%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures

以上、『ARGYLLE アーガイル』の感想でした。

Argylle (2024) [Japanese Review] 『ARGYLLE アーガイル』考察・評価レビュー