続編もずっと下品に茶番劇…映画『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年4月8日
監督:パトリック・ヒューズ
ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード
ひっとまんずわいふずぼでぃがーど
『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』あらすじ
『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』感想(ネタバレなし)
ビンタされるくらいならお手の物
2022年3月28日、今年のアカデミー賞授賞式が行われました。それにしても前年が退屈で地味だったと言われていたからといって、今年はあんな炎上スキャンダルだらけの内容にしなくてもよかったのに…。受賞作品は大方の予想どおりのサプライズは無しでしたが、それ以外があまりに波乱すぎた…。
視聴率欲しさに悪ふざけがエスカレートしすぎかな…。そういうバカ騒ぎは“ライアン・レイノルズ”の主演作とかで、こっちはじゅうぶんなんです。ただでさえ“ライアン・レイノルズ”出演作は年に何本も公開されてお腹いっぱいなのに…。
その“ライアン・レイノルズ”の最近の動向として、彼は映画ではたいていふざけているけど、現実ではふざけてばかりじゃありません。2020年には「Wrexham Association Football Club(レクサム)」というウェールズのサッカークラブのオーナーになりました。チームとしては1部リーグに昇格したことはない、そんなに絶大に強いわけでもないのですけど、あの“ライアン・レイノルズ”がオーナーになったというだけでにわかに活気づいたのか、ニュースとか眺めていると楽しそうにしている…。まあ、スポーツってそれでいいんじゃないですか。勝ち負けよりも楽しいことを見つけられたら最高ですしね。
今回紹介する映画はそんな“ライアン・レイノルズ”のまたまた主演作。こっちの映画では低俗な醜態を晒してしまったアカデミー賞よりも下品にふざけまくっています。
それが本作『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』。
本作はタイトルからはあまりわからないと思いますが、実は続編です。1作目は『ヒットマンズ・ボディガード』という映画でした。この映画は、トップクラスのボディガードをしていた男があるヘマをしてしまって守るべき人物を殺されてしまい、失意のどん底でキャリアが落ちぶれているとき、今度はあろうことか殺し屋を護衛しないといけなくなり、大騒動が起きるというアクションコメディです。
典型的なバディもののドタバタ劇なのですが、このタッグを組むことになってしまうボディーガードと殺し屋の2人を演じるのが、“ライアン・レイノルズ”と“サミュエル・L・ジャクソン”。ハリウッドではすっかり定番になっている白人と黒人のバディですけど、本作はどっちも濃すぎるという…。2人ともボケみたいなところがありますからね。ツッコミ役は観客なんです。
この『ヒットマンズ・ボディガード』の続編にして2作目が『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』。タイトルが「ヒットマンズ・ボディガード2」にならなかったので混乱しますが、ちゃんと続編です。
今回も“ライアン・レイノルズ”と“サミュエル・L・ジャクソン”がまたしても大暴れするのですけど、そのペアの間に割って入ることになるのが、メキシコ系の“サルマ・ハエック”。物語上は“サミュエル・L・ジャクソン”演じるキャラクターの妻の役なのですが、これがもはや本作の真の主人公ではないかというくらいに目立ちまくっていて…。『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』はその名のとおり、この“サルマ・ハエック”演じる「wife(ワイフ)」が暴れ放題で、どう暴れるのかというと、なんというか、こう、下品…。とにかく口が汚く、あの“サミュエル・L・ジャクソン”すらもタジタジになるほどで、“ライアン・レイノルズ”は居場所がなくなるという…。そういう三角関係を楽しむ映画です。
“サルマ・ハエック”といえば『エターナルズ』ですごく誠実なキャラクターを演じていたけど、『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』はそのイメージを完全に木端微塵にします。『ハウス・オブ・グッチ』でも似たところがあったけど、こういうぶっとんだ感じの役を演じるのも上手いんだろうな…。
他の共演は、“アントニオ・バンデラス”、“フランク・グリロ”、それ以外にサプライズで何人か。
本作を観る前に1作目を観ておこうと思った人。注意点があります。1作目は日本ではNetflix独占配信です。なので他のサービスでは扱われておらず、ディスクもありません。なんで劇場公開しなかったんだろうな…。ちなみに『ヒットマン・ボディガード』という全然関係ない邦題の映画もあるので(こっちは色んなサービスで扱われている)そこも誤解なきように。とりあえず2作目の本作『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』からいきなり劇場公開になっているので混乱しないようにしてください。
『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』を観る前のQ&A
A:前作『ヒットマンズ・ボディガード』からキャラクターは継続していますが、1作目を観ないと物語がわからないということはありません。
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優好きの人は注目 |
友人 | :笑えるエンタメを気軽に |
恋人 | :ギャグのノリが合うなら |
キッズ | :下品なセリフも多い |
『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ボディーガードはしたくない!
マイケル・ブライスは憂鬱でした。いや、そんなものではない。意気消沈していました。
その理由は過去のトラウマです。トップクラスのボディーガードとしてキャリアも絶好調だったある日、大失敗をしてしまったのです。日本人の武器商人であるクロサワを目の前であっさりと暗殺されてしまった…。ボディーガードとしてはあまりにも致命的な失態。しかも、その2年後にあろうことかその暗殺の張本人であるダリウス・キンケイドという殺し屋を護衛しないといけなくなるという屈辱も味わって…。とりあえずその一件はそこで片付きましたが、いまだにその苦い経験を引きずっている…。
精神的にズタボロな今のマイケルは、セラピストの前でソファに寝転がって人生を考えていました。セラピストは、しばらくボディーガードをやめて内面と向き合うべきと助言し、休暇を提案。「トスカーナとかは? カプリは?」…実際のところ、このどうしようもなくメンタルブレイクしている男を放り出したいだけだったのですが、半ば強引に「ボディーガードはしない」と口で言わせ、マイケルに「もうセラピーはいらない」と安心感を与え、部屋から送り出します。
こうしてマイケルは観光地であるカプリでくつろいでいました。でも案外と悪くない。もっと早く来るべきだった…。争いのない世界で心を穏やかにするだけでこんなにも清らかな実感が湧いてくるなんて…。
しかし、その癒しの空間はわりとあっけなく終了しました。いきなりの銃撃戦です。横に割り込んできたのは、あのマイケルのトラウマの原因である殺し屋ダリウスの妻、ソニアです。
「夫が連れて行かれた。助けて!」
そう言われてもやりたくはない。しかし、この場を逃げるのが先決。バイクで逃げだし、海に飛び込み、完全に巻き込まれます。
ソニアはダリウスとハネムーンで来たらしいですが、赤ちゃんもほしいとか、そんなノロケ話に付き合わされ、早くもうんざりなマイケル。
しょうがなくソニアについていき、捕まったらしいダリウスを救出しに行きますが、好戦的なソニアをなだめるも勝手に行動して突っ走り、めっちゃ殺して、めっちゃ撃って…。唐辛子スプレーを持ってきたのに意味なしです。
こうしてダリウスと感動の再会で、アツい抱擁とキスを交わすソニア。気まずいマイケル。
ところが一難去ってまた一難。拉致される3人。騒動は次から次へとやってくる。今度はEUへのサイバーテロを企てるギリシャの大富豪アリストテレスが…。そんなの知らん!と思いつつも捜査に協力することになりますが…。
まさかその映画のパロディだとは…
『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』、前作もしょうもない物語でしたが、この2作目はそれに輪をかけてくだらない物語であり、このアホさ加減についてこれるか!という挑戦状のような…。少なくとも人生における大切な1日の約2時間をこの映画のために捧げるという愚行をしたくない人は観るべきではないです。でも観てしまったという人もいる。おめでとう、君も“ライアン・レイノルズ”と同類だ…!
今回の主役はさっきから言っているように、“サルマ・ハエック”演じるソニア・キンケイドでしょう。とにかくノンストップでクレイジーなことをしまくっている。“サルマ・ハエック”が一番輝いている映画かもしれないけれど、下品さで輝くのは本人的にはどうなんだ…。でも楽しそうだからいいか…。
たぶん夫役の“サミュエル・L・ジャクソン”の口の悪さを上回るキャラクターにしたいということで、あの超絶酷いセリフのオンパレードなんだと思いますが、そこで勝とうとしてどうする…。
けれどもこういう下品なことをパワーにする女性像という点で“サルマ・ハエック”はこれまでの白人女性コメディアンとはまた違う痛快さを全力発揮していて、そこは良かったと個人的には思います。「新婚旅行だと思えばいいのよ」と謎のポジティブ・シンキングも最高ですし、年齢をバカにされて一気にアクション展開に突入するのも愉快ですし…。
なお、本作でソニア&アリストテレスの関係絡みでずっとネタにされている映画は『潮風のいたずら』(原題は「Overboard」)です。マイケルも思いっきりタイトルを口で言っちゃってましたけど、お話は富豪の夫人がクルーザーから誤って落下し、その衝撃で記憶喪失になってしまい、平凡な庶民として生活することになる…というもの。かなりあり得ない設定の茶番劇として一部で有名でカルト化していますが、『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』がまさか『潮風のいたずら』のパロディで攻めてくるとは思わなかった…。でもすごく“ライアン・レイノルズ”らしいけど…。
ちなみに『潮風のいたずら』、2018年にリメイクされているのですけどね。
軽い笑いへの変換でどこまでいける?
その“サルマ・ハエック”大暴走に振り回されるマイケルを演じる“ライアン・レイノルズ”。
今回はメンタル面での不調を抱えている男性という、とても今っぽい設定にしつつ、なかなかそのメンタルケアに専念させてもらえないというギャグで全面的に攻めています。“ライアン・レイノルズ”はこういう現代的な価値観で取り上げられるトピックを古典的なコメディに落とし込むのが上手いですよね。
あまり余計ないことをしないというか、変に優等生ぶってはいないけど、どこぞのアカデミー賞みたいな失態はしないという公正さの境界線をちゃんとわかっている。
容姿や人種でキツくイジるのは潔くやめて、明らかにスラップスティックな体を張ったギャグで“ライアン・レイノルズ”自身が真っ先に犠牲になっていくのも本人の姿勢の現れでしょう。
今作も車に轢かれたり、トランクに押し込められたり、水に浮かんだり、変なもの飲まされて気絶したり、よく頑張っているなという渾身の芸人っぷりでした。
まあ、褒めはしましたけど、有益なストーリーテリングとしての感動はほぼなかったんですけどね。なにせあえて中身のないギャグを連発しているだけですから。母親の死も軽い笑いに変換し(導かれる教訓が「シートベルトをつけよう」なのもすごいけど)、メンタル的な吹っ切れもギャグで済ましているので、最後まで地に足のつかない軽さだけが際立つという…。ここは監督や脚本家の実力として、どう着地させるかで難しいところだと思います。1作目に続いて監督を務めた“パトリック・ヒューズ”はそのへんの精度まではないのかな。
“ライアン・レイノルズ”のスタイルって70点くらいは簡単に出せるけど、100点満点を出すのは非常に難しい、そういう面倒さはあるなと最近の映画を観ていても思いますね。
ましてや今作は2作目。マンネリ化もどうしたってでてきます。“サミュエル・L・ジャクソン”も一発で単作にでるならインパクトあるけど、連続で同じようなコメディの世界にいると新鮮味はすぐに薄れるし…。
“モーガン・フリーマン”の出オチとラストのオチで養子縁組を肯定的に揶揄いつつ、この映画自体はこの軽さでどこまで正しさを突き通せるのか。でも“ライアン・レイノルズ”はアカデミー賞のステージに立ちそうにないので、そこで炎上することはなさそうかな。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 26% Audience 79%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ライアン・レイノルズ出演の映画の感想記事です。
・『アダム&アダム』
・『レッド・ノーティス』
・『フリー・ガイ』
作品ポスター・画像 (C)2020 Hitman Two Productions, Inc. All Rights Reserved. ヒットマンズワイフズボディガード
以上、『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』の感想でした。
The Hitman’s Wife’s Bodyguard (2021) [Japanese Review] 『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』考察・評価レビュー