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『ジャングルランド Jungleland』感想(ネタバレ)…男らしさはそっと退場する

ジャングルランド

チャーリー・ハナム主演の男らしさが彷徨うロードムービー…映画『ジャングルランド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Jungleland
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2021年に配信スルー
監督:マックス・ウィンクラー

ジャングルランド

じゃんぐるらんど
ジャングルランド

『ジャングルランド』あらすじ

スタンリーとライオンの兄弟は、ボクシングの世界に人生を賭けていた。しかし、危険な犯罪組織に安易に関わってしまったことで、2人はある仕事を押し付けられる。他にどうすることもできず、その仕事に集中しようとするが、それはさらなる危険への深みに沈む入り口だった。過ちのせいで兄弟の絆が引き裂きさかれそうになっても、2人がいるかぎり人生の敗北にはまだ早い。

『ジャングルランド』感想(ネタバレなし)

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チャーリー・ハナムは次の時代へ

イギリスの肉体派イケメン男優と言えば、いろいろ各人で思い浮かべると思うのですが、その筆頭として挙げられるのが“チャーリー・ハナム”です。

彼の代表作にして一般の映画ファンに広く知られるきっかけになったのは2013年の主演作『パシフィック・リム』でしょう。しかし、本国では1999年のテレビシリーズ『Queer as Folk』や2008年のドラマシリーズ『サンズ・オブ・アナーキー』で注目を集めていました。映画キャリアとしては『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』(2016年)、『パピヨン』(2017年)、『キング・アーサー』(2017年)、『トリプル・フロンティア』(2019年)と順調に活躍しています。

“チャーリー・ハナム”はそのセクシーな顔と筋肉で多くのファンを魅了しており、映画でもそれが強調されるような役が多かったです。次期ジェームズ・ボンドの有力候補だと噂されたこともありました。

そんな“チャーリー・ハナム”も2020年には新型コロナウイルスに感染して症状に悩まされたと聞いて、やっぱりどんなに肉体を鍛えても感染症にはかかるんだなと思いました(当たり前です)。

しかしながら40歳となった“チャーリー・ハナム”は最近はその肉体派イケメンというパプリックイメージから離れようと自分でしているようです。あれこれインタビューを読むと、「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」について言及したり、彼なりに思うことがあるようで、これまでのようなマッチョな役柄も自分では望まなくなってきていると吐露しています。

その“チャーリー・ハナム”の心境が滲み出ている感じのする主演作が、2020年のコロナ禍に揺れるアメリカでひっそりと公開されました。それが本作『ジャングルランド』です。

タイトルだけ聞くと、「え?チャーリー・ハナムが森でターザンみたいに筋肉半裸で暴れまわるの?」と思われても仕方がないですが、そういう映画ではありません。題名からは想像つかないですけど、本作はボクシングに人生を賭けている兄弟の物語なのです。

そう聞くと今度は総合格闘技で激突する兄弟を描いた『ウォーリアー』(2011年)みたいな作品を連想するのではないのでしょうか。実はそういう映画ではありません。

じゃあ何なんだよ!と怒られそうですが、本作はボクシングを題材にしているけどボクシングはメインでそこまで描かれず、そもそも“チャーリー・ハナム”が勇ましくボクサーしているわけでもなく、彼はトレーナーで、パンチしているのはの方なんですね。そして簡潔に言ってしまえば本作は「ロードムービー」なのです。

ただ、このロードムービーがまた普通ではなくて…。いろいろ事情が複雑になってくるのですが…説明しづらい。とりあえず観てください(説明放棄)。静かなロードムービーです。静かって言っても粗暴なことしてるんですけど…。

おそらく『さらば冬のかもめ』や『ファイブ・イージー・ピーセス』のような70年代ハリウッド映画を強く意識しているのだと思います。

この独特のタッチの映画を生みだしたのは、“マックス・ウィンクラー”監督。『ウェディング・イブ 幸せになるためのいくつかの条件(Ceremony)』(2010年)や『Flower』(2017年)といった映画を手がけてきました。日本ではあまり名の知られていない監督ですけど、あの“ヘンリー・ウィンクラー”の息子なんですね。

“チャーリー・ハナム”以外の俳優陣は、その良きパートナーである弟役に『ベルファスト 71』でおなじみの“ジャック・オコンネル”。そして『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』の“ジョナサン・メジャース”、『このサイテーな世界の終わり』の“ジェシカ・バーデン”、『人生は小説よりも奇なり』の“ジョン・カラム”など。

『ジャングルランド』は残念ながら日本では劇場未公開で、人知れず2021年1月に配信スルーとなりました。新しい人生に向かうあなたの背中をそっと押してくれる映画になるかもしれません。もちろん“チャーリー・ハナム”好きの人は要注目リストに加えておいてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優ファンは必見)
友人 ◯(映画マニア同士で)
恋人 △(ちょっと地味すぎるかも)
キッズ △(性的&残酷な描写がややあり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジャングルランド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):2人の男と1人の女

静かな朝。ライオンという名の弟に穏やかに声をかける兄・スタンリー。ライオンはまだ寝たいようで、ベッドでだらしなく横たわっているものの、スタンリーは沸々とその運命を感じていました。実は今日はとても大事な日なのです。

下はパンツのまま料理をするスタンリー。まだ寝ているライオンをそっと起こし、体調を確認。飼っている犬も元気そうに挨拶。「戦う日だ」…そう告げます。

窓から外に出る2人。家のドアは打ち付けてあり、これがいつもです。仲良くランニングし、早朝のひと気のない街を駆けていきます。ジムにつくと、ストレッチ。これまた普段どおりのトレーニングです。

職場である縫製工場で働いているときもスタンリーのテンションは高く、仕事どころではない様子。とにかく今日は運命を決める日なのです。スタンリーは闘いのことで頭がいっぱい。ライオンの闘争心を駆り立てます。

このスタンリーとライオンのカミンスキー兄弟が情熱を捧げているのはボクシング。それもベアナックル・ボクシングです。地下の小さい部屋で行われる、こぢんまりとした賭け試合みたいなもの。それでも2人にとってはここが自分たちを証明できる全てであり、人生の成功を手に入れる唯一の場所でした。

今日の試合は負けられません。ライオンは対戦相手の前に立ち、拳を打ち込んでいきます。トレーナーであるスタンリーは弟に声援を飛ばし、サポートします。

しかし、ライオンは相手から強烈なパンチをくらい、情けなく壁に飛ばされました。顔に痣を作り、血を流し、結果を悟ります。敗北です。兄弟の目論見はダウンしました。

2人は家に帰り、すぐに出ていく準備をします。実は2人は地元のギャングから借金をしており、この試合に勝つことでその借金を返せると狙っていました。しかし、負けた今、逃げるしかありません。

家を出たものの、すぐそこに白いスーツの男が待ち構えていました。彼こそがそのギャングの親玉であるペッパーです。殴られ、車に乗せられる2人。

2人はギャングのアジトでペッパーから説明を聞きます。今回の件を挽回するチャンスを与えてくれるようで、それはある仕事をこなすこと。その内容とはスカイという女性をサンフランシスコまで車で届けるというものだそうです。

明らかに不審な仕事であり、警戒をする兄弟。しかし、選択肢はありませんでした。負け組にできることはありません。強者に従うしかないです。

やるしかないと覚悟を決め、車にはカネと銃があるのを確認し、例の女を乗せて出発します。兄弟と愛犬、そして謎の女。奇妙な旅です。

ひたすら走行。若そうな女性は後ろの席で編み物をしており、全然喋りません。ダイナーで食事をしているとき、あまり答えないスカイに「売春婦なのか」と気になってズケズケ聞くスタンリー。違うらしいですが、相変わらず回答はあやふや。

用意された金を使って豪華なホテルに宿泊することにした一同。そのゴージャスさに喜ぶスタンリーはベッドに堂々と寝転びます。兄弟は取っ組み合い、男子のようです。先に風呂に入っていた女はそんな子どもじみた男たちをじっと見つめます。

ライオンはスカイと話し、少し打ち解けることができました。しかし、スカイはビリヤードでたむろする男に酷いことを言われ、それにライオンは文句を言いに行き、険悪に。スタンリーが間に入るものの、ライオンは酔って倒れます。しかも、スカイは外で問題を起こし、逃げようとしたため、スタンリーに押さえつけられました。

そして事情が判明します。どうやらこれは犯罪組織の大物ボスのイェーツが関与しているというのです。ヤバさを実感したスタンリーは仕事を放棄して去ろうとします。殺される危険がありました。

それでも行き場なんてありません。3人と1匹は途方に暮れるしかなく…。

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“穏やかな男らしさ”の敗北

『ジャングルランド』は兄弟を描いた作品です。最近も『2分の1の魔法』などの兄弟を題材にした映画がありましたが、そちらでも現代的なジェンダー観が印象的だと感想で書きました。今作『ジャングルランド』も同じだと思います。やはり兄弟というのは男同士の繋がりであり、おのずとジェンダーへの言及は避けられないんですよね。

本作の兄弟の特徴は冒頭でハッキリと示されます。なんというかものすごく穏やかな幕開けじゃないですか。兄弟というと世間の真っ先のイメージは男の集まりなので、ワイルドで手が付けられない荒々しさが目に浮かぶものですが、このカミンスキー兄弟は違います。いかにもマッチョイズム全開な光景ではなく、かなりべったりしたブラザーフッドっぽさを感じます。それこそ兄弟じゃなかったら恋愛関係にあるんじゃないかと思うほどです。

ライオンがかなりはだけた感じでベッドに横たわり、そこに献身的にスタンリーが接してあげているので、もはや新婚夫婦の朝みたいですよ。2人ともセクシーな感じは自然と醸し出していますしね。

要するにこの兄弟、別に兄が上で弟を支配しているとか、そういう力の構造があるわけではない、極めてフラットな生き方を感じます。貧しい生活ではあるのですが。

“チャーリー・ハナム”も穏やかそうに語る姿が新鮮ですし、“ジャック・オコンネル”にあの人の良さそうな内気な佇まいもいいですね。飼っている犬がそこまで野性味溢れる凶暴さがないのも、そこに味わいを加えている感じで。

しかし、そのある意味で既存の男らしさの土台に立っていない2人が、ベアナックル・ボクシングの試合でコテンパンに叩きのめされるという出だし。ベアナックル・ボクシングとはボクシングの原型となった格闘技で、素手で殴り合うというもので、いかもステレオタイプな男らしさ全開。そのフィールドで敗北するというのは、つまり兄弟の支持してきた“穏やかな男らしさ”の惨敗とも言えます。

そして2人で手探りで形にした男らしさを否定されたことによる人生の彷徨いを象徴するように、ロードムービーへと移行していきます。

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次はどんな男らしさが待つのか

その2人の間に入るのがスカイという謎の女性。彼女もまたミステリアスというか、イマイチ正体が掴めません。それまで親密だった兄弟の合間に女性が入り込むのは一種の不吉さをもたらします。

別にスカイが悪者というわけではないのですが、あの兄弟はただでさえ最近の敗北で人生の積み重ねを崩壊してしまっているので、不安定になりやすいのですよね。

とくに兄のスタンリーは露骨に豹変。「俺はお前に全てを与えた!」と怒鳴るなど、これまでの穏やかさをかなぐり捨てて本音を弟に浴びせてきます。スタンリーは彼なりに何かを我慢してきたようです。もしかしたら自分が成功できなかったぶん、その無念を弟に託そうとしていたのか。

この兄弟もスカイも社会的には底辺にいるのは事実。彼ら彼女らが手に入れるべき幸せ、そしてその幸せへの最短のルートは何なのか。

作中では舞台のセットの上で、いかも“普通”な家庭っぽさを疑似体験し、ライオンとスカイが戯れるシーンがあります。あれはまさに「こういう未来もあるのかも」というひとつの解答例の提示。でもたぶんそうじゃないのではないか、そういう自覚も本人たちにはあります。

そしてライオンとスカイは荒れ狂うスタンリーをバスに置き去りにして、2人だけの逃避行に出る選択肢が人生の前に出現します。でもその道を選びませんでした。ライオンにはスタンリーがいる。

結果、彼は犯罪ボスに捕まったスタンリーを救出に向かい、射殺。手を汚してしまいます。でもそこまでしてでも兄を守りたい。

ラストではボクシングの試合に出場するライオン。しかし、スタンリーは駆け付けた警察に捕まり、ライオンの勝利を見届けながら気づかれずに去っていきます。そしてライオンの前にはスカイが…。

この終わりをどう見るかは人それぞれ。ある意味では“有害な男らしさ”に屈してしまったスタンリーが退場しているとも受け取れます。でもライオンもスカイとの再会で良い未来が手に入るとも限りません。

私はこのラストに関してはまだ踏み込みが弱いというか、さすがに曖昧にしすぎではないかなと思ったりもしないでもない気持ち。とくにスカイの扱いはどうとでも解釈できてしまうので困り者。こういうスポーツを題材にした男主人公の作品では、どうして女性は単なるサポート役になりがちじゃないですか。それを回避するには2つの手段があって、ひとつは一切の女性を出さないということ(『イーグル・ジャンプ』みたいに)。もうひとつは『クリード』シリーズみたいに女性キャラクターがしっかり個別の自分の夢を追うという主体性を持たせること。『ジャングルランド』の場合は、スカイの存在が中途半端すぎる部分があるかな、と。

でもスカイを演じた“ジェシカ・バーデン”の雰囲気は良かったです。さすが『このサイテーな世界の終わり』で暴れてただけはあります。

あとブルース・スプリングスティーンの曲で「Jungleland」ってありますが本作では使われず、ただラストの試合シーンで「Dream, Baby, Dream」という別のブルース・スプリングスティーンの曲が流れるんですね。なんでなんだろう…。

ともあれ“チャーリー・ハナム”は男らしさ問題に対する良い身の引き方を映画内でも実践できているのではないでしょうか。今は脚本とかを書いているらしいので、別の才能を見せてくれるかもしれませんね。

『ジャングルランド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 51%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

チャーリー・ハナムの出演した映画の感想記事です。

・『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』

・『パピヨン』

・『キング・アーサー』

作品ポスター・画像 (C)Vertical Entertainment ジャングル・ランド

以上、『ジャングルランド』の感想でした。

Jungleland (2019) [Japanese Review] 『ジャングルランド』考察・評価レビュー