事件は起こらない…アニメシリーズ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2026年)
シーズン1:2026年に各サービスで放送・配信
監督:佐久間貴史
恋愛描写
かみいなぼたん よえるすがたはゆりのはな

『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』物語 簡単紹介
『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』感想(ネタバレなし)
しっとり酔うアニメ
日本の若い世代の飲酒の頻度はどれくらいなのでしょうか。
2022年の厚生労働省の「国民生活基礎調査」のデータに基づいて日本生活習慣病予防協会が算出した結果によれば、男性の20~24歳で「ほとんど飲まない」「飲まない」と答えた人は合わせて約60%となり、男性の25~29歳でも約56%がそれに該当しました。逆に「毎日飲む」という男性は、20~24歳で約2%、25~29歳で約4.9%しかいません。
女性だと、20~24歳で「ほとんど飲まない」「飲まない」と答えた人は合わせて約66%となり、25~29歳でも約67%がそれに該当しました。逆に「毎日飲む」という女性は、20~24歳で約0.5%、25~29歳で約2.2%しかおらず、男性よりも飲酒傾向は少ないです。
こうやって統計で整理すると、案外と飲酒する習慣がない人が男女で多数派なのだということがわかります。このデータには「付き合いで半ばしかたなく飲んでいるだけ」なのか「自分の意思で嗜好的に趣味で飲んでいるのか」という区別がないのですが、それで分類するともっと興味深い傾向がわかりそうですね。
正直、この2つは同じ飲酒という行為でも全然違うじゃないですか。日本はなおも「こういう場では飲むだろ?」とか「飲むならこういうふうに飲むべきだ」みたいな同調圧力がありますからね。
今回、紹介するアニメシリーズは、そんな嫌なアルコール文化から距離をとりつつ、安心できる空間で、安心できる人と、平穏な飲酒を嗜む女子大学生たちを描く作品です。
それが本作『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』。
本作は、2019年から『マンガクロス』そして『チャンピオンクロス』に移って連載している“塀”による漫画が原作です。
とある大学の女子寮で暮らす20歳代の女子大生たちを主役していて、いわゆる「百合」のジャンルにもなっています。女性同士の恋愛模様も感情的に描かれます。
ただし、コミカルさはほとんどなくて、飲酒が主題だからなのか“しっとり”したトーンになっています。落ち着いた空気の中で、静かに揺れる人間関係が眺めていくような感じです。
もちろん『To Leslie トゥ・レスリー』みたいなアルコール依存症で人生が破滅していくこともないですし、『ガール・オン・ザ・トレイン』みたいに飲酒にトラウマのある女が記憶を失って大事件に巻き込まれることもないですし、『バッド・ママ』みたいにヤケ酒でハメを外してどんちゃん騒ぎすることもありません。
『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』のアニメーション制作を手がけるスタジオは、『mono』で初めてシリーズを担当した「ソワネ」。監督は“佐久間貴史”、シリーズ構成は“米内山陽子”となっています。
アニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』は全12話です。
『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 飲酒が主題なので子ども向けではありません。 セクシュアライゼーション:なし |
『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
秩父の武甲山の麓の羊山丘陵にある羊山公園の芝桜の丘。多くの観光客が紫や桃色の一面の芝桜を眺めて楽しむ中、ある女子大生の団体もそこにいました。そのひとり、「1年生」と呼ばれている上伊那ぼたんは「寮長」がいないので駆け足で探しに行きます。息を整えていると出店でいっぱいのマルシェを発見。砺波いぶきはそこにいました。
そのある店で彼女はハイボールを買います。3年生の砺波いぶきはずっとひとり飲みが習慣でした。ひとりのほうが自分に合っていると思っていました。
その1杯を飲んでいると、上伊那ぼたんに見つかります。上伊那ぼたんの目の前には少し顔を赤らめて普段はあまりみせない笑顔でアルコールに酔い、しゃっくりをしている先輩の姿。砺波いぶきも見られてしまったことに気づきます。しゃっくりも止まらず…。
口元を抑える砺波いぶきに対して上伊那ぼたんは「私もお酒、飲んでみたいな」と言います。上伊那ぼたんは浪人しているために20歳で、法律上はお酒が飲める年齢でしたが、一度も飲んだことはありませんでした。砺波いぶきは飲みかけのハイボールを渡し、「間接キスだね」と呟きます。
上伊那ぼたんはそれを飲むとげっぷがでます。炭酸が苦手でした。「おそろいですね。しゃっくりもげっぷも気にしないほうがいいですよ」と上伊那ぼたんは口にします。
そうこうしているうちに上伊那ぼたんの雰囲気が変わり、「寮長って可愛いですね」と呟きます。砺波いぶきは照れつつ、なおも飲み続ける上伊那ぼたんの手を引っ張り、みんなのもとに戻ります。この子となら一緒に飲んでもいいかも…と思いながら…。
2人は同じ学生寮で暮らしています。ある日、上伊那ぼたんは砺波いぶきを部屋でのお茶に誘います。
「私となんて楽しくないと思うよ」「楽しいか、楽しくないかは私が決めます」
砺波いぶきはワインを手にしていました。上伊那ぼたんは初めてのワインの美味しさに驚きます。酔い始めた上伊那ぼたんは「私も寮長みたいに味わいたいので、寮長の舌が欲しい」と饒舌になります。
そんな中、修士1年の郡上かなでは上伊那ぼたんと砺波いぶきが一緒に飲んでいた姿を目撃します。タバコを吸いながらなぜ上伊那ぼたんと飲むのだろうかとぼんやり考えていました。
郡上かなでは談話室に上伊那ぼたんを誘い、映画を一緒に鑑賞。その部屋にはお酒の瓶が並んでいました。全部、砺波いぶきのものらしいです。
そして、自分の日本酒を上伊那ぼたんに注いでくれます。「美味しい」と感想をこぼす上伊那ぼたん。
「いぶきも美味しいと言って私と一緒に飲んでくれるかな」とつい口が滑る郡上かなでに、上伊那ぼたんは「寮長が大好きなんですね」と穏やかに言います。
そんななんてことはない日常はこの寮ではいつものこと…。

ここから『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』のネタバレありの感想本文です。
一緒に飲める安全安心な相手と空間の醍醐味
アニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』は、カテゴライズするならいわゆる日常アニメなのかもしれません。確かに日常が描かれています。とくに大きな事件は起きません。
一方で、いわゆる趣味アニメのようでもありますし、砺波いぶきなんかは完全に飲酒を趣味にしていますが、かといって作品全体が飲酒に対して趣味全開で特化しているほどでもありません。
各登場人物たちは、旅行やキャンプ、バンドなどそれぞれの大学生らしい自立さでプライベートな趣味を過ごしていますが、本作はそこに注力もしません。あくまで背景に描かれるだけです。
むしろその趣味の合間にある“ひととき”…その時間をお酒とともに過ごすことで人間関係がどう変化するのかをじっくり味わうようなトーンでした。
それを映し出すうえでまず押さえておきたいのは、飲酒の二面性です。前述したとおり、飲酒はときに嫌な体験をともなうこともあります。さらには深刻なほどに有害なことにもなりかねません。本作はそういう飲酒による悪い空間はあえて避けており、逆に「一緒に飲める安全安心な相手と空間が存在する」ということの居心地の良さを描いてくれます。
だからこそ、本作は最も学生に多いだろう飲み会をメインに描いたりしません。よりプライベートで親密な飲酒にだけ焦点をあてています。
その「飲酒な嫌な体験」を象徴しているのが砺波いぶきで、彼女は以前に飲み会の場で「アルコールを飲むとしゃっくりがでる癖」を他人にうるさいと指摘され、それがややトラウマになっています。
まあ、このしゃっくり批判は、だいぶ意味不明というか、あんな居酒屋なんて普段からガヤガヤとしているところで、しゃっくりの音を気にする人はいるのか?という疑問もあるけど、たぶん作り手はあんまりリアルなトラウマ的な描写にしたくなくて、ああいう抽象的な設定にとどめたのかなとは思いましたけど。ちなみに私は居酒屋のような終始ガヤガヤしている空間が大の苦手で(頭がパンクしそうになる)、砺波いぶきもそういう設定でも良かったのでは?とは思ったりもしました。
で、話を戻して、その砺波いぶきはアルコールを飲むとげっぷがでる(これも可愛げな仕草にとどめているけど)上伊那ぼたんに出会い、安心安全な他者との飲酒の空間の醍醐味を知ります。
この抑制的でストイックな飲酒へのアプローチは、他の作品だとなかなかないと思います。どうしても飲酒と言えば、飲んだくれな感じのキャラクター設定として採用するか、何か打ち上げ的な乾杯の一杯として演出に使うか、そういうものが多いです。
もちろんこの『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』の飲酒の良い部分にだけ視野を狭める描きかたは、欠点もなくはないです。ご都合的というか、絵面的にも明らかにアルコールのマーケティングみたいな感じになることもシーン上はしばしばです。実際、作中では実在するアルコールが商品宣伝のように描かれますからね(正直、これだけ繊細にキャラクターを描けるなら、実在のアルコール商品をだすのはむしろノイズではとは思いました)。
それは百も承知ではありつつ、『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』はこの作品なりの魅力に繋げてもいて、その良さは酔わずとも否定しがたいものがありました。
飲酒で浮きでる大人のクィアネス
その『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』の良さというのは、先ほども書いたように、お酒とともに過ごすことによる人間関係の変化…なのですけど、もう少し具体的に言うなら、下品な視線や害悪さとは無縁の「大人のクィアネスへの視点」ですね。
女性ならなおさらで、何か搾取的な視線を浴びることもない。そういう場で安心できる相手と飲酒することで、本来の社会では浮き上がることはなかった一面がみえてくる。それがたまたまクィアな一面だったりする…そんな感じ。
女の子同士のイチャイチャした和気あいあいだけを外部に消費されるのを良しとはしないような…。未成年ではないからこそのもう一歩進んだクィアの人間模様というか…。
当然ここでも酔った勢いでふざけて同性とキスしました!みたいなお茶らけたノリで済ますこともしません。プライベートを最優先で尊重しながら、気持ちの探り合いが相当に慎重に展開されます。
結果、上伊那ぼたんと砺波いぶきは、友達の関係をやめて、2人だけの関係を築きましたが、「砺波いぶきとはお酒の関係でしかないのか」と悩む上伊那ぼたんのその葛藤は、ある種の私的なアンダーグラウンドな空間から公へと飛び出したいクィアの欲求とも重なる感じもありました。
そんな中、砺波いぶきへの片想いが実らなかった郡上かなでは、台湾出身の張景嵐とこれまた飲酒を通しながら親密になります。こちらのカップルは、シネフィルというか芸術肌であり、「そんな映画よりこっちの映画のほうが合っているのでは?」とか戯言を挟む図々しいシネフィル男性の粘着を気にすることもない、やはりあの2人だけの安寧の空間がそこにありましたね。
北杜やえかと遊佐あかねの2人もさりげなくしっかり関係性の構築が描かれていました。もう少しエピソードのボリュームが欲しかったところではありますが…。
1990年代のアメリカの映画ムーブメントとして「ニュー・クィア・シネマ」がありますが、現在の2020年代の日本は、LGBTQの認知の高まりが創作にも好影響を与えているのか(中にはダメな姿勢のクリエイターもいるけど)、さながら「ニュー・クィア・マンガ」「ニュー・クィア・アニメ」とでも評せるような潮流を昨今は日々感じます。
この『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』もそんな作品群の中で、個性がほんのり色づく一作でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
関連作品紹介
日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『瑠璃の宝石』

・『私を喰べたい、ひとでなし』
・『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』
以上、『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)塀(秋田書店)/上伊那ぼたん製作委員会 上伊那ぼたん酔へる姿は百合の花
Botan Kamiina Fully Blossoms When Drunk (2026) [Japanese Review] 『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』考察・評価レビュー
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