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アニメ『ブルーロック』感想(ネタバレ)…少年スポーツものにありがちな貞操観念を蹴る

ブルーロック

少年スポーツものにはなぜ貞操観念があるのか…アニメシリーズ『ブルーロック』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Blue Lock
製作国:日本(2022年~2023年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信
監督:渡邉徹明

ブルーロック

ぶるーろっく
ブルーロック

『ブルーロック』あらすじ

世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない。日本をW杯優勝に導く強力な唯一無二のストライカーを育てるため、日本フットボール連合はある前代未聞の計画を立ち上げる。その名も「ブルーロック(青い監獄)」プロジェクト。集められたのは300人の高校生。しかも、全員FW(フォワード)。大勢の10代のサッカー生命を犠牲に誕生する、日本サッカーに革命を起こすストライカーは誕生するのか…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ブルーロック』の感想です。

『ブルーロック』感想(ネタバレなし)

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サッカーの綺麗事を引き剥がす

国際サッカー連盟(FIFA)が2023年4月に発表した最新のサッカー世界ランキング。トップの順位に変動があり、2022年秋のカタール・ワールドカップ(W杯)を36年ぶりの優勝で飾った前回2位のアルゼンチンがランキングで1位に躍り出ました。そしてカタールW杯準優勝のフランスも1ランクアップの2位となり、前回トップのブラジルが3位に後退するという結果になりました。

それ以外だとあまり大きな変化はなく、日本は20位にランクインしたまま動きなし。これでもアジア勢ではトップとのことですが、おそらく選手たちはもっと上を目指すべく闘志を燃やしているでしょう。

私は全然サッカーに興味ないのですが、こうやってランキングを発表されると、いかにも競争を煽っている感じで、まさにスポーツの原理というものが如実に浮き出ています。スポーツって、「みんな楽しく」とか「健康のために運動を」とか「健全なスポーツマンシップに則って」とか、表向きは綺麗事を言っているけど、実際は「競り勝ちたいという対抗心」に動機づけられているものだし、そのエネルギーが結局は一番スポーツの柱になっている。それが商業化して権威化したスポーツ業界の正体なのだろう、と。

事実、国際サッカー連盟(FIFA)自体がその勢力拡大の歴史も含めて歪みきっていることは、ドキュメンタリー『FIFAを暴く』でも指摘されているとおりです。

そんな中、今回紹介するアニメシリーズは、そんなサッカー業界で「20位」という上位に届きそうで届かない位置に停滞している日本サッカーに対して、毒を吐きかけてさらに煽る…そんな皮肉っぽい異色の少年サッカー作品です。

それが本作『ブルーロック』

『ブルーロック』は、原作が”金城宗幸”、作画が“ノ村優介”による「週刊少年マガジン」にて2018年より連載されている漫画。2022年10月からアニメ化されたシリーズがスタートしました。

ジャンルとしては「少年部活モノ」の延長であり、「サッカー」を題材にしているので、それだけで言えば特段に真新しいものはありません。しかし、この『ブルーロック』は公式の宣伝でも「イカれたサッカーアニメ」と自称しているくらいで、なかなかに異色な特徴を持っています。

それはなぜかと言えば、王道の「少年サッカー」の軸に、「デスゲーム」の要素を加えているということ。本作では10代の「才能の源石」であるサッカーに励む少年たち300人を招集し、「ブルーロック(青い監獄)」プロジェクトと呼ばれる独自の強化合宿を敢行。そこでは過激な競争を強いられ、同世代を蹴落として実力を証明しないと、サッカー人生の夢は終わってしまうという、残酷なシチュエーションが待っています。

しかも、参加する少年たちは全員「フォワード(FW)」のポジションであり、普通に考えると、その選手だけを集めても練習にもなりそうにないのですが、滅茶苦茶な方法で試されることに。

スポーツにデスゲームを掛け合わせるというのはありそうでなかったのかもしれませんが、そもそも「デスゲーム」というジャンル自体が一種のスポーツ性を有しているので相性は抜群です。“スティーヴン・キング”の「死のロングウォーク」(1979年)のように、デスゲームの初期作にもスポーツ自体を舞台にした作品もありましたからね。

この『ブルーロック』はライバルを実際に「殺す」みたいなことはさすがにしないのですが、それでも未成年をこんな過激競争に投げ込むわけで、非人道的かつ非倫理的な領域に突っ込んでいます。主催者の発言も傍若無人で、サッカーにひたすら「エゴイズム」を要求しており、このプロジェクトの捻じ曲がった姿勢を物語っています。

それでもどことなくこの作品がスカっとするのは、先ほども書いたスポーツの表向きの綺麗事を痛快に吹き飛ばしてくれるからなのでしょうね。ありきたりに理想化されがちだった日本の「少年部活モノ」への、開き直りにも近いイキった反抗的作品と言えるかもしれません。

とは言え、個性豊かなキャラクターたちも集い、基本はいつもどおりの「少年部活モノ」的な醍醐味も揃っており、普通に楽しめると思います。サッカーにそんなこだわりない人の方がストレスが少ないかな?

『ブルーロック』のアニメーション制作は『転生したらスライムだった件』「エイトビット」

アニメ『ブルーロック』は第1期が2部構成となっており、全24話です。かなりノンストップで勢いある話運びなので、一気に観たくなるでしょう。

後半の感想ではこの『ブルーロック』を「貞操観念」の視点で語るという、あまり見ないであろう攻め方でアプローチしています。

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『ブルーロック』を観る前のQ&A

✔『ブルーロック』の見どころ
★皮肉っぽいサッカーへの向き合い方。
★王道のアツい少年部活モノの醍醐味。
✔『ブルーロック』の欠点
☆子どもへの非倫理的な扱いが主軸にある。
日本語声優
浦和希(潔世一)/ 海渡翼(蜂楽廻)/ 小野友樹(國神錬介)/ 斉藤壮馬(千切豹馬)/ 諏訪部順一(馬狼照英)/ 島﨑信長(凪誠士郎)/ 内田雄馬(御影玲王)/ 内山昂輝(糸師凛)/ 神谷浩史(絵心甚八) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:個性作を堪能
友人 3.5:サッカー談義に白熱
恋人 3.5:趣味に合うなら
キッズ 3.5:やや過激だけど
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブルーロック』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):ストライカーは突如出現する

埼玉県高校サッカー選手権大会の決勝戦。「一難高校vs松風黒王」の支配はいよいよ佳境。高校2年FWの潔世一は全国出場への王手の位置に辿り着いたことで、その闘志をさらに燃やしていました。

シュートを決めるラストチャンスが到来。ボールと共にゴール前まで来たとき、フリーの味方がいることに気づく潔世一。「ワンフォーオール、オールフォーワン」の監督の声も飛び、潔世一は「サッカーは11人でやるスポーツだ」と内心で再確認し、的確なパスをだします。

しかし、そのボールを受け取った味方の選手は、あっさりシュートを失敗して、ボールはポストにはじかれました。怒涛の敵の猛攻となり、敵のFWの吉良涼介がゴールを決め、こうして0-2で負けてしまいました。吉良涼介はインタビューに答え、「今の僕があるのはこのチームのみんながいるからってことだけっすね」と朗らかに語っています。

潔世一のチームは引退となる3年が泣きじゃくっており、監督も「この負けが人生で無駄じゃなったと思えるときがきっとくる」と熱弁。その後ろで潔世一は冷静に現実を考えていました。自分は無名の選手でしかない…と。ノエル・ノアという選手に憧れてずっとサッカーを続けてきた自分。いつか日本代表のエースストライカーになってワールドカップで優勝するというアホみたいな夢は本当に荒唐無稽だったのか…。

もしあの場面でパスじゃなくてシュートを自分でうっていたら…。帰り道も悔しくて涙が止まりません。

帰宅すると、日本フットボール連合から手紙が届いており、強化指定選手に選ばれたと書いてあります。

指定された建物の前に行くとあの吉良涼介も来ていました。会話を交わすと、いい性格だと伝わってきます。中では大勢が集まっており、各高校の凄腕選手、しかも全員FWが揃っていました

絵心甚八という人間が壇上に現れ、「お前たちは俺の独断と偏見で選ばれた300人。革命的なストライカーを誕生させるために、ブルーロックという施設で実験をする。今日からここで共同生活を行い、特殊なトップトレーニングを勝ち抜けば、世界一のストライカーになれる」と勝手に宣言。

「サッカー後進国のハイスクールで1番になっても意味ない」と挑発し、「サッカーってのは相手より多く点を取るスポーツだ」と滅茶苦茶な理論を言い放ちます。

吉良涼介は反論しますが、絵心甚八は動じず、世界屈指の選手はエゴイストであると明言します。潔世一は間違っていると感じつつ、なぜか惹かれてしまうざわめきもありました。そして参加の入り口へと駆けていきます。

施設到着後、「299Z」の番号が与えられ、指定の部屋には吉良涼介もいました。吉良涼介がモニターに映し出され、番号は順位であること、上位5名は6か月後に行われるアンダー20ワールドカップのFW登録選手となること、しかしここで負ければ一生日本代表に入る権利を失うこと…を説明。

そして入寮テスト「オニごっこ」が開幕し、ボールを最後にぶつけられた人が失格となります。ボールを保持した潔世一は足を痛めた五十嵐栗夢に勝機を感じますが、「自分より強い相手に向き合ってこそ」と感じ、この中で最も異彩を放っていた蜂楽廻に向かって走ります。

しかし、その潔世一の覚悟に満足した蜂楽廻はボールを奪い、潔世一にパスし、潔世一は吉良涼介の顔面にシュートを放つのでした。見事な連携。ブルーロックのキックオフはついに…。

この『ブルーロック』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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非リア充向けのキザな少年部活モノ

ここから『ブルーロック』のネタバレありの感想本文です。

『ブルーロック』はデスゲームのジャンルを骨格にしている以上、サッカーの知識が無い人でも思いつくほど、いくらでもツッコミ要素はあります。FWを過大評価しすぎだろとか、人材育成にそんな莫大な予算をかけられるならもっと色んなことができるだろとか、海外も同じ手法で育成すれば日本の優位性も何も無いのでは?とか…。それをわかったうえで楽しむ前提です。

本作のコンセプトに通底している、「良い教育で才能を開花できる」という発想は非常に学歴主義的とも言えます。主催の黒幕である絵心甚八は日本社会の体質を痛烈に批判していましたが、結構自分自身は思いっきり日本っぽい思考回路してますよね。

この「ブルーロック」プロジェクトとも言うなれば、子どもをエリートに育てるために苛烈な受験競争に放り込むのとやり方は同じです。

そう考えると本作はクレイジーなようで実は王道のエゴ・サッカーなんですね。だいたい実のところ少年漫画の主人公は何かしらのエゴイズムを中心に持っていることが多いので、その成長過程も定番どおりです。「試練⇒進化・覚醒」というおなじみの経路を繰り返し体験して、各キャラが成長していきます。だから展開は他の「少年部活モノ」とそう変わらないので、楽しさも一緒です。

『ブルーロック』の特徴は、外側のパッケージで、純粋に「スポーツっていいよね」という綺麗なキラキラした青春学園モノでくるむのではなく、ちょっと冷笑的で、別の言い方をすると気取っている、そんなポーズをとっているということでしょうか。

スポーツに固着しがちな「リア充」的な包装を剥がして、「リア充」嫌いな思想をこじらせている人でも、少し受け入れやすいように再デザインしたような、そんな「少年部活モノ」とも言えるのかも…。

デスゲームのジャンルになっていることでメリットもあって、それはひたすら「サッカーをする」ことだけに特化できるという点です。普通は部活だと、勉強したり、家族と触れ合ったり、他にもドラマが生じるのですが、本作にはそれは基本無し(回想くらい)。永遠に合宿しているようなものです。面白いところだけ抽出するという、贅沢な構成です。

それゆえに怒涛の勢いがあって、これもまた本作ならではの見ごたえになっていたり…。

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エゴイズムと貞操観念

私が『ブルーロック』を観ていて、とくに気になったのが、本作の要になっている「エゴイズム」という視点。各キャラは己の「エゴイズム」を見つけることで強くなっていきます。本作における「エゴイズム」というのは「勝つためなら手段を選ばず自分の才能を引き出す」という、そういう強欲な利己主義です。

一方でこの「エゴイズム」は、見方を変えると純潔主義的な貞操観念にも受け取れるなとも思います。

純潔主義的な貞操観念というのは、一般的には「男女が規範から逸脱する性的関係を持たないこと」を意味します。少年スポーツものに限らず、少年バトルものとかでもそうなのですが、日本作品では主人公である男が常に純潔主義的な貞操観念を維持している傾向があるような気がします。

ヒロインと恋愛関係になることはあるでしょう。でもそれありきになってはいけないし、他と現を抜かすなどもってのほか。もしくは誰とも関係さえ持たないケースも…。

「何かを極めるなら」「勝つなら」「打ち込むなら」…そういう“関係性”は不適切であり、“男らしくない”という思想です。男たるものそういう邪な思考を振りほどけ…という教示。

これはフィクションに限らず、現実の10代の少年たちにも圧し掛かる思想だと思うのです。そして日本独特の空気でもあるのではないでしょうか。逆にアメリカのハイスクールでは「スポーツしながら、セックスもしまくれ」みたいなハイパーマスキュリンな男性像がよく目立ちますけど、日本だと抑圧的な“男らしさ”を模範にしがちなんでしょう(10代でなくなるとハイパーマスキュリン寄りに鞍替えする感じかな)。

話を『ブルーロック』の「エゴイズム」に戻しますが、本作の「エゴイズム」は「点を入れること以外を考えるな」というスポーツへのスタイルに関する純潔主義であると同時に、やはり10代の少年たちへの貞操観念そのものとも重なります。

事実、本作に登場する多くの男子たちは「自分にはサッカーしかない」と考えているような10代ばかりであり、絵心甚八はそれを奨励・増幅します。

加えて、この「ブルーロック」の空間は、それこそ女性が存在しない、男性社会です。異性愛から隔絶され、文字通り性的な意味でもこの少年たちの純潔主義が保持されます。一応、本作には帝襟アンリという女性キャラもいて、典型的な事実上の女子マネージャー枠の役割になっていますが、男子たちとは物理的に距離を置かれています。不思議と大半の男子キャラは異性への性的指向を作中で明け透けに示すことがほとんどなく、モテることを意識しているキャラもわずかにでてくるのですが、それはどちらかと言えばそのキャラのマイナス面的な描かれ方になっています(女子からの黄色い声援を浴びていた吉良涼介が冒頭で退場したりなど)。

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ジャニーズと重なる?

デスゲームのジャンルを骨組みにしたことで、より際立つようになった『ブルーロック』に見られる純潔主義的な貞操観念。

これが意図せず、副次的な効果を発揮している面もあって、いわゆる「ブロマンス」、人によっては「BL」とも表現するでしょう、そういう男同士の絆の要素です。

作り手の介在によって異性愛が人工的に脱臭されたことで、作中では男同士の絆がひたすらにスパークします。とくに後半の2次セレクションでの展開はアツいです。

潔世一を中心に、怪物を求める蜂楽廻と純粋無垢な欲を向ける凪誠士郎、さらに絶対支配の糸師凛が立ちはだかり、キング・オブ・ヒールで自己中サッカーを貫く馬狼照英も混ざったり…。とにかく男子たちの絡み合いが凄まじいです。互いが互いを食い合って、己を高めていくのですが、作り手にはそんなつもりはないのでしょうけど、構図としては非常にホモセクシュアルな上下関係の応酬が描かれているなと思います。「ライバルリー・バトル」のルールとして勝った側が負けた側からひとり仲間に加える人を選び出さないといけないのですけど、この「男が男を選ぶ」という絵面がいかにもですよね。

私はこの作中の「ブルーロック」プロジェクトというシステムを眺めていて、漠然と「ああ、ジャニーズ事務所っぽいな…」と連想しました。日本を代表する男性アイドル・マネジメント組織であるジャニーズがやっているのも「男子たちを異性愛を排除した特定空間で育て上げて特定の魅力を極めさせる」という行為ですよね。そしてこの感想記事を書いているちょうどそのとき、ジャニーズに属していた当時男子だった人による、そのトップから性的加害を受けていたという告発が報じられているのですが…。

『ブルーロック』で起きていることはそれとは詳細は全然違いますけど、なんというかあの絵心甚八の少年に対する加害性との一致が垣間見える瞬間があるような…。思い切った暴論になってしまいますけど、『ブルーロック』の絵心甚八は“ジャニー喜多川”と同一性を持っている…そう言えるのかも。

感想を書いているうちに思わずとんでもない方向にボールを蹴ってしまいましたが、これもまた本作が刺激的な作品だったからこそです。

『ブルーロック』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『とんでもスキルで異世界放浪メシ』

・『吸血鬼すぐ死ぬ』

作品ポスター・画像 (C)金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会

以上、『ブルーロック』の感想でした。

Blue Lock (2022) [Japanese Review] 『ブルーロック』考察・評価レビュー