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『シーラとプリンセス戦士』感想(ネタバレ)…その愛を描いてみせた

シーラとプリンセス戦士

その愛を描いてみせた…アニメシリーズ『シーラとプリンセス戦士』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:She-Ra and the Princesses of Power
製作国:アメリカ(2018年~2020年)
シーズン1:2018年にNetflixで配信
シーズン2:2019年にNetflixで配信
シーズン3:2019年にNetflixで配信
シーズン4:2019年にNetflixで配信
シーズン5:2020年にNetflixで配信
製作総指揮:ND・スティーヴンソン ほか
恋愛描写

シーラとプリンセス戦士

しーらとぷりんせすせんし
シーラとプリンセス戦士

『シーラとプリンセス戦士』あらすじ

惑星エセリアにて魔法の剣に導かれ、英雄シーラとして目覚めた兵士アドーラ。反乱軍の一員として、今や敵となった親友と激しいバトルを繰り広げることになる。新しい友達や特殊な能力を持つプリンセスたちと出会い、強さを学んでいくアドーラ。一方で、この世界には誰も知らない大きな秘密があり、それを知った瞬間、避けようのない運命が迫ってくる。

『シーラとプリンセス戦士』感想(ネタバレなし)

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理想的なリブートは革新に…

原作当時の革新性を今の時代に再現するのは難しい…という話を『リンクル・イン・タイム』という映画の感想記事の中で綴っていたのですが、それと同系統の課題として、作品というのはどうして年数がたてば“古臭い”感じになることが多々あります。あの当時は全然普通に観られたものでも、今の時代感覚で観るとちょっとこれはどうなの…というやつですね。

誤解しないでほしいのですが、そういう“古臭い”感じになる作品がダメだと言っているわけではありません。私はそういう作品も好きです。ただ好きとか嫌いとかの論点とは別に、多角的な視点で作品を分析するのはアリですし、その視点は時代によって新しく追加されたりするものです。その結果、最新の視点からマイナスな指摘が出てもそれは不思議でもなく当然のこと。決して作品を咎めているのではなく、むしろ作品を磨き直す試みと思えば嫌な気持ちにはなりません。

ただ、仮に過去の作品に“古臭さ”があるとして、それをアップデートして現代に通用するものとして再提供するとなると、本当に大変なことになってきます。世に溢れるリメイクリブートはその試みの玉石混淆な軌跡なのですが、全てが上手くいっているわけではないのはご承知のとおり。やっぱり難しいのです。

そんな中、これは大成功だな…と思える作品も登場したりするもので、良いお手本になります。今回の紹介する作品も旧作をベストなリニューアルで現代に復活させた一作です。

それが本作『シーラとプリンセス戦士』というNetflixで配信されたアニメシリーズです。

本作はリブートで、オリジナルは1985年に放映された『She-Ra: Princess of Power』というアニメシリーズです。このオリジナル版の方は実はスピンオフで、本家は1983年からリリースされた『He-Man and the Masters of the Universe』というこれまたアニメシリーズになっています。この作品群はもともとマテル社の「Masters of the Universe」という玩具ブランドのアニメ化であり、まあ、言ってしまえばオモチャ販促の意味合いもある映像化なわけです。アニメーションは「Filmation」という制作会社が手がけました。

で、その『She-Ra: Princess of Power』の方が「DreamWorks」により2018年になって33年ぶりにリブートされたのですが、これが見事に現代的なアップデートを遂げており、予想を超える大絶賛を受けることに。批評家の中にはファミリーアニメ史における大きな偉業となる一歩と評する人もいたり、その称賛の大きさが窺えます。

何がそんなに凄いのか、何をどうアップデートしたのか…という肝心の点に関しては思いっきりネタバレに触れることになってしまうので、今は言及しませんが(後半の感想でたっぷり触れます)、この『シーラとプリンセス戦士』が勇気を持って開いた扉は、ディズニーなど大手にも多大な影響を今後は与えるのは確実かなと思います。

そんな革新的な本作の企画を手がけたのは“ND・スティーヴンソン”(ND・スティーブンソン)というまだ20代後半の若い世代だというのも特筆されます。なんでも若め製作チームらしく、それを指揮しているのがここまで若い世代…ついに時代もここまで来たかと感慨深い。それで素晴らしいクリエイティブを発揮して実績を見せたのですから、もう言うことなしじゃないですか。

ND・スティーヴンソンは2020年にノンバイナリーだと公表し、2021年にトランスマスキュリンのバイジェンダーだと表明しています。それにともない、ファーストネームを「ND」としました。

キャラクターの声優を務めているのは、主人公を『アバローのプリンセス エレナ』でディズニー初のラテン系プリンセスの声も担当した“エイミー・カレロ”、他にはシンガーソングライターとしても活動する“アマンダ・ミシェルカ”、ドラマ『ザ・ボーイズ』にも出演した“福原かれん”、ドラマ『ブラッキッシュ』の“マーカス・スクリブナー”、『グローリー 明日への行進』の“ロレイン・トゥーサント”などなど。

日本語吹き替えは、“中原麻衣”、“土師亜文”、“種田梨沙”、“井上喜久子”などの声優が揃っています。

全5つのシーズンで、各話20~25分程度ですが、シーズン2とシーズン3はそれぞれ全7話と全6話しかなく、他は全13話なので、実質4シーズンです。気軽に見やすいでしょう。

『シーラとプリンセス戦士』はファンタジー&SF&魔法少女モノ…というジャンルミックスな世界観なのですが(基本は「変身ヒロイン」もの)、この手のタイプは見慣れたものでしょうし、そこまで特異でもないです。日本のアニメだと『プリキュア』や『セーラームーン』と同系統ですね。

基本的にファミリーアニメなので子ども向けと言えばそれまでなのですが、ぜひとも多様な現代でアイデンティティを見つけていくことになる子どもたちに見せたい一作ですし、大人たちもそこから感じ取ってほしいものです。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(キッズアニメの最先端物語をぜひ)
友人 △(子ども向けではあるけど)
恋人 △(海外アニメ好きであれば)
キッズ ◎(自分らしさを見つけられる)
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『シーラとプリンセス戦士』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『シーラとプリンセス戦士』感想(ネタバレあり)

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二人の別れから物語は始まる

舞台は惑星エセリア。ここでは大きな戦乱が起きていました。フライト・ゾーンを拠点とする圧倒的技術力を有するホード軍と、その支配に魔法で抵抗する反乱軍(リベリオン)を中心的に率いるブライト・ムーンの対立です。

ホード軍を統率しているのはホルダック卿という謎の存在。その右腕として従事するシャドー・ウィーバー。もともとこの拠点となっているフライト・ゾーンも奪い取ったものであり、ホード軍を構成する人員も各地で占領した民族たちのようです。軍隊を維持するべく、日夜、訓練生をトレーニングしています。

そのホード軍で士官候補生となったアドーラ。孤児であり、育ての親であるシャドー・ウィーバーとは複雑な間柄ながら、早く戦果をあげたいと意気込んでいました。シミュレーション訓練ではリベリオンとの戦闘を想定して腕を磨きます。リベリオンで最も脅威なのは魔法の力を持つプリンセスです。

アドーラには一緒に訓練をしてきた仲間がいて、とくにキャトラとは幼馴染。喧嘩もしますが深いつながりをお互いに感じています。そんなある日、キャトラと一緒に迷い込んだ「ささやきの森」で不思議なビジョンを見たアドーラ。一旦は立ち去るものの、どうしてもそれが頭から離れず、キャトラを置いて単身でまた森に来てしまいます。

一方、リベリオンを率いるブライト・ムーンではマイカ王の亡き後、この地を治める女王アンジェラに対して娘でプリンセスのグリマーが反論をしていました。慎重派な母の姿勢に、好戦的なグリマーは不満げ。外出禁止を命じられ、友人のボウに慰められますが、ささやきの森で不思議なパワーを察知し、二人で向かうことに。

アドーラとグリマー&ボウ。3人は出くわし、敵同士なので一触即発。グリマーは得意のテレポーテーションで、ボウは弓矢で応戦しますが、アドーラが神秘的な剣を手にした瞬間、突如としてアドーラの見た目が変化。怪物さえも圧倒するパワーを発揮します。

状況が呑み込めない3人。アドーラはホード軍がやっている酷い仕打ちを目撃し、自分の所属していた世界が間違っているのではと疑問を持ち始めます。そしてどうやらこの剣の力は、「選ばれし者たち」と呼ばれる、最初にエセリアに住んだ者で1000年前に姿を消した存在のものらしく、「シーラ」という伝説になっているのだとか。

アドーラはグリマー&ボウに連れられて、リベリオンに加わることにします。リベリオンでは各地に散らばるプリンセスを集めて協力することにしました。草木を操るパフューマ、水を操るマーミスタ、メカに詳しいエントラプタ、氷を駆使するフロスタ、魔法の網で戦うネトッサ、竜巻を起こせるスピンナーレラ、そして喋る羽のあるユニコーン(元馬)のスウィフトウィンド

「誇り高きグレイスカルよ!」と叫ぶとアドーラはたちまちシーラに変身。この力さえあれば猛威を振るうホード軍に対抗することはできる。しかし、シーラに隠された運命についてはまだ知らず…。

そんな中、愛する人に置いて行かれたキャトラは孤立感を深めていき、大きな波乱を生むことに…。

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アップデート①:デザイン

『シーラとプリンセス戦士』はオリジナルからどのように称賛されるアップデートを成し遂げたのか。

それを考えるにはまずオリジナル版がどんな作品なのか知らないといけません。でもこれに関しては一目瞭然で、とにかく「デザイン」からして決定的に違います。参照として以下にオリジナル版とリブート版の比較画像を並べておきます。

シーラとプリンセス戦士

どうでしょうか。素人でもわかります。別物レベルです。

基本的にリブート版は日本アニメの影響が色濃く、各キャラクターもシンプルなラインで表現されて、馴染みやすくなっています。さすがにオリジナル版のキャラ絵は今はキツイでしょうからね。そのアップデートに日本アニメがデザイン面で貢献しているのは嬉しいですね。

そしてリブート版『シーラとプリンセス戦士』を象徴するのが「多様性」。ダイバーシティね、はいはい…と聞き飽きたかもしれませんが、やるとなると意外に難しいもの。しかし、本作ではその多様性が“あらゆる視点で”達成されています。

例えば、人種的な視点では、そもそも架空の世界なので私たちの知る人種は存在しないのですが、それでもプリンセスたち含めて多様な肌の色です(オリジナル版ではネトッサだけが有色人種でした)。グリマーは声を担当するのが“福原かれん”ということでアジア系なのかなとか、フロスタはイヌイットのような民族スタイルになっているし、語らずとも民族的多様性が浮き上がっています。

さらに各キャラの見た目も多様です。オリジナル版は見てのとおり等身がほぼどのキャラも同じで、女は細身スタイルの美女、男はマッチョの2択しかありません。しかし、リブート版は各キャラの体型が本当にバラバラ。主役のアドーラは割と普通ながらも戦士としてのスタイルが強く、それがシーラに変身すると身長2m超えの筋肉質な長身になるのでますますパワーアップ。一方でグリマーは小柄で太目な体型をしており、これらは間違いなく製作陣もルッキズムへのカウンターとして意図しているのでしょう。

このようなデザインに変更するのは「ポリコレで余儀なくされたから」では当然なく、視聴者として見てくれる子どもたちに共感しやすくするためなのは言うまでもなく。どんな人種や体型の子もどれかひとりは自分に重ねることのできるキャラがいる。そういうのは本当に大切なことです。

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アップデート②:性と愛

そして忘れてはいけないリブート版『シーラとプリンセス戦士』の多様性を象徴する要。それは多様なジェンダーとセクシュアリティ。

最後まで観た人ならおわかりのとおり、主人公アドーラとキャトラは最終的に結ばれます。ひたすらに疑心暗鬼を互いに生じさせながらも最後は「ずっと前から愛しているんだ」「私も愛している」と想いを告白し、キス。もうこれ以上ない愛の成就です(ちなみにオリジナル版ではアドーラはシーホークと良い関係になったりする)。

要するに主役をレズビアンとして描いているわけですが、これはファミリーアニメでは非常に珍しく、多様性を重視していそうなアメリカでもあまりありません。つい最近「Disney+」で配信されたピクサーの短編アニメ『Out』がゲイ男性を前面的に主役にしたことで話題になったばかり。

もちろんなんとなく匂わすキャラが脇で登場することはあったのです。しかし「クィア・ベイティング(Queer-baiting)」という論点があり、これは創作物のキャラがLGBTQであると表現でほのめかすものの、実際には明確に描写しないことを言います。最近だと『アナと雪の女王』のエルサなんかはその代表でしょうか。このクィア・ベイティングはLGBTQ当事者にしてみればモヤモヤします。結局、期待させるだけさせて自分たちにはリアルに向き合ってくれなかったわけですから。ちょっと搾取的ですらあって不快に感じる人も。

また「Bury your gays(dead lesbian syndrome)」という、創作物においてLGBTQキャラが死など不幸な結末をたどるというステレオタイプもよく問題視されます。不幸な悲しいエンドと言えば最近も『君の名前で僕を呼んで』など話題作でもいくらでも挙げられます。

そんな世の中のよろしくないお約束をこの『シーラとプリンセス戦士』はスカッと吹き飛ばしてくれたわけです。脇役ではない主役で、クィアな愛もこうも完璧なハッピーエンドで祝福してくれるとは…。実写の青春学園モノはLGBTQハッピーエンドも増えてきましたが、ファミリーアニメは異例ですね。

本作はサブキャラでもLGBTQは当たり前のように多く見られ、ネトッサとスピンナーレラのカップルだったり、ボウの父親“たち”であるランスとジョージだったり。キャトラに特別な好意を向けるスコーピアもそうだと解釈できますし、どこにも属さずに生きるダブル・トラブルはノンバイナリーにも見えます。

ジェンダーとセクシュアリティ以外にも、エントラプタやホルダックのようにかなりコミュニティに溶け込めずに孤立しがちな存在(これらはADHDやギフテッドにも重なるでしょう)にもしっかりドラマをあてており、そのカバーは隙がありません。それでいて男性キャラにありがちな有害な男らしさの助長はしていません。個人的にはエントラプタというキャラクターのバランスのとり方は上手かったなと感心しました。

日本のファミリーアニメも『プリキュア』シリーズなど、かなり製作陣も子どもの教育を考えつつ現代的テーマを組み込んで作っているなと思う作品もあります。でも大多数はステレオタイプにとどまっており、よくてもクィア・ベイティングどまりなことも多いと思います。

そういう現状を見ても『シーラとプリンセス戦士』は恐れ知らずに先陣を切った作品であり、それを子どもに提供する意義は計り知れないでしょう。

時代は確実に変わっている。創作物はそれを反映し、次の未来の背中を押す。良い連鎖反応を見れて幸せな作品でした。

『シーラとプリンセス戦士』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 72%
S2: Tomatometer   85% Audience 89%
S3: Tomatometer 100% Audience 87%
S4: Tomatometer 100% Audience 94%
S5: Tomatometer 100% Audience 90%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix, NBCUniversal Television Distribution

以上、『シーラとプリンセス戦士』の感想でした。

She-Ra and the Princesses of Power (2018) [Japanese Review] 『シーラとプリンセス戦士』考察・評価レビュー