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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』感想(ネタバレ)…Netflix;デルトロのピノキオに癒される

ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

デルトロのピノキオに癒される…Netflix映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Guillermo del Toro’s Pinocchio
製作国:アメリカ・メキシコ・フランス(2022年)
日本:2022年にNetflixで配信、11月25日に劇場公開
監督:ギレルモ・デル・トロ、マーク・グスタフソン

ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

ぎれるもでるとろのぴのっきお
ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』あらすじ

おもちゃ職人のゼペットは戦争でひとり息子を失い、深い悲しみに沈んでいた。月日が経っても意気消沈して自暴自棄になっていたゼペットは木を切り倒して人形を作り上げる。ところがそのゼペットのもとに奇跡が起きる。人形に魂が宿り、ピノッキオと名乗りながら動き出し、息子だと名乗ってきたのだった。本物の人間になりたいと願うピノッキオは、戦禍の世界を旅しながら苦難を乗り越えていく。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』感想(ネタバレなし)

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ギレルモ・デル・トロの作りたかった「ピノキオ」

作りたいものを作る。それはクリエイターにとってこのうえない喜びです。

でも世の中そう上手くはいかないもので、それが大掛かりな映画ともなれば、独力で創り上げるなんてできません。人もいるし、カネもいる。それをだしてくれるのはたいていは大企業であり、そのGOサイン(グリーンライト)が出て、初めて本格的な制作に進めます。

それまではいわゆる「開発(development)」というステージにとどまることになり、クリエイターにしてみれば「本当に作れるのか」と不安でしょう。作品に命が吹き込まれて、みんなの前でお披露目されるまでには長~い過程があるのです。

今回紹介する映画もそれはもう長い長い開発段階どまりで製作中断にまで陥りながらもやっとのことで完成した作品です。

それが本作『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

この映画はそのタイトルがハッキリと物語っているとおり、あのメキシコからやってきた天才、“ギレルモ・デル・トロ”の監督作です。

これまで『クロノス』(1993年)に始まり、『ヘルボーイ』(2004年)や『パシフィック・リム』(2013年)のようなアクション、『パンズ・ラビリンス』(2006年)や『クリムゾン・ピーク』(2015年)のようなダークファンタジー、ドラマ『ストレイン 沈黙のエクリプス』などのパニックスリラーなど多彩なジャンルを手がけつつ、常に凝りに凝った作家性を貫いてきました。最近も『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』でその才能が拝めたばかり。私も大好きな映画監督のひとりです。

その“ギレルモ・デル・トロ”、実は2008年頃から“カルロ・コッローディ”の「ピノッキオの冒険」を独自に映画化したいと考えていました。この作品と言えば、ディズニーのアニメーション映画が超有名ですし、2022年は実写映画化もされました。それに“マッテオ・ガローネ”監督の手によってイタリアで別に実写映画化もしており、この『ほんとうのピノッキオ』も私は好きです。

“ギレルモ・デル・トロ”はこの「ピノッキオの冒険」をストップモーション・アニメーションにすることを考え、企画を開始しました。しかし、全然開発は進まない…。おそらくストップモーションってところが予算の集めにくさになってもいたのでしょうね。世間は3DCG子ども向けアニメが主流ですから。

いや、でもあの“ギレルモ・デル・トロ”が「ピノッキオの冒険」を独自に創るんだよ!? 絶対に面白いじゃないか!…と私みたいなオタクは熱烈に推しまくりなんですけどね…。

そんなこんなでこの“ギレルモ・デル・トロ”版「ピノキオ」は製作中断に。残念すぎる…そう思っていたら2018年にいきなりNetflixが企画を拾ってくれて一気に動き出しました。

そして2022年に完成してお披露目となった…といういきさつです。本当に良かった…。

“ギレルモ・デル・トロ”監督もご満悦で、自分の作りたいストップモーション・アニメーションとして形にできて嬉しそうです。なんとストップモーションとしては異例の約114分の上映時間があるんですよ。“ギレルモ・デル・トロ”監督の世界が見られるなら1秒でも長いだけで私は最高ですけど。

では“ギレルモ・デル・トロ”監督はあのみんな知っている「ピノキオ」をどうアレンジしてきたのか。それは…見てのお楽しみ。でも想像のとおり、“ギレルモ・デル・トロ”監督らしさ抜群ですよ。近年の監督作である『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)と『ナイトメア・アリー』(2021年)の流れを強く受けている感じがする…そんなちょっとダークな改変がされています。

英語の音声では、ゼペットを『ストレイン 沈黙のエクリプス』でもおなじみの“デイビッド・ブラッドリー”が担当し、クリケット役は“ユアン・マクレガー”です。他にも“クリストフ・ヴァルツ”、“ティルダ・スウィントン”、“ロン・パールマン”などが声で参加しています。あと“ケイト・ブランシェット”もあるキャラの声ででているのですけど、これは言われないと絶対にわからないですよ。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』はNetflixで独占配信中。“ギレルモ・デル・トロ”監督の魔法で命を宿したピノッキオの姿をとくとごらんあれ。

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『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』を観る前のQ&A

Q:『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年12月9日から配信中です。
✔『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の見どころ
★監督の作家性で独自にアレンジされた物語。
✔『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の欠点
☆少し暗いので子どもの中には怖いと思う子もいるかも。
日本語吹き替え あり
野地祐翔(ピノッキオ)/ 山野史人(ゼペット)/ 森川智之(クリケット)/ 深見梨加(木の精霊)/ 山路和弘(ヴォルペ伯爵) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:監督ファンは必見
友人 4.0:世界観が好きなら
恋人 4.0:趣味が合う者同士で
キッズ 3.5:やや暗いトーン
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):あなたの息子です!

第一次世界大戦中、街の外れでゼペットカルロという10歳の息子と暮らしていました。カルロは飛行機を見たと帰ってきて、父にじゃれつきます。時代は戦争の真っただ中でしたが、2人の生活は穏やか。

いつものように街へ向かった2人。住民からも愛されており、ゼペットは教会で巨大な木製の十字架を手がけていました。

ある日、完璧な松ぼっくりを拾ってきたカルロは「パパみたいにオモチャを作る」と張り切ります。そのとき、教会で作業をしていると揺れを感じ、ゼペットは嫌な予感がして帰ろうと足早に建物をでます。しかし、カルロは松ぼっくりを取りに教会に戻ります。そこに空から爆弾が落下し、教会に直撃して爆発炎上。ゼペットは入り口前で吹き飛ばされ 息子を目の前で失い、泣き崩れるしかできません。

涙ながらにあの松ぼっくりを家の近くの地面に埋め、カルロの墓に日々通い、仕事もせず、食事もとらず、どんどんとゼペットはやさぐれていきました。墓の近くに木が育ちましたが、ゼペットの心は癒されません。

木の根元で酔っぱらって悲しみに暮れるゼペットは、その木を激情に身を任せて切り倒します。そして家に木を持ち帰り、泥酔しながら人形を作り上げ、疲れて眠りこけました。

その木でたまたま休んでいた作家のコオロギ(クリケット)は、精霊が家にやってくるのを目撃。クリケットに対して「木の少年の胸に住んでいるなら導いてあげてください」と聖霊は告げ、「役目を果たしたら願いをひとつ叶えましょう」と言ってきます。

「傷ついた老人に寄り添い、幸せをもたらしなさい」…そう呟いて、その木の人形を「ピノッキオ」を呼び、魔法をかけます。

朝、ゼペットが床で目を覚ますと、物音がします。作業台には何もありません。屋根裏を調べると「おはよう、パパ!」と人形が軽快に動いていてびっくり。

「僕はピノッキオ、あなたの息子です」

そう言われても怯えるしかできないゼペット。対するピノッキオは興味津々で周りのモノを触りまくり、困ったゼペットは「お前は息子じゃない!」と戸棚に閉じ込めます。

教会の鐘が鳴り、ゼペットは出かけますが、ピノッキオも行こうとします。クリケットは正しい行動を教えようとしますが無駄に終わり、ピノッキオも街へ。

教会へ飛び入り参加すると「悪魔だ!魔術だ!」と騒然。「これは操り人形です」とゼペットは誤魔化しますが、「本物の少年だよ」とピノッキオは口にし、そのとたんピノッキオの鼻が伸びます

神父に帰れと言われてしまい、家に退散。「なんで鼻が伸びたのかな」と疑問を口にするピノッキオに「嘘をついたからだ」とゼペットは答えます。

その頃、街ではカーニバルを率いるヴォルペ伯爵の相棒の猿が「生きている人形」の存在を報告し、虎視眈々と狙っていました。

何も知らないピノッキオはどうなってしまうのか…。

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ダークというかホラーだった

ディズニーの実写映画『ピノキオ』は私は感想で「全然改変しようと挑戦していない。風刺もない」とわりとボロクソに批判してしまったのですけど、この『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』はそのディズニーの実写映画『ピノキオ』のダメだった部分を全部カバーするような作品で「そうそうこれですよ」と私も大納得の出来栄えでした。

やはり“ギレルモ・デル・トロ”監督は脚色が上手い…。

今作ではゼペットがピノッキオを作り上げる展開は完全に狂気に踏み込んでおり、あの序盤は全然感動もしんみりした情緒もひと欠片もない、むしろホラーです。バイオレンスにすら見える。

動き出したピノッキオもなんか怖くて、小さいというよりは手足が長いせいか異形な姿の方が印象に残り、初っ端から動きの予測が全くつかずに危険な行為をしまくります。このまま下手すると、恐怖の殺人マシーンとかに変貌しかねないです。序盤でゼペットがバラバラ死体とかになっていても不思議ではない…。

こうなってくるとクリケットが良心となるのは無理じゃないか?と思えてくるほどです。実際に今回のクリケットは潰されてばかりでピノッキオと一緒にいることが少ないんですが…。

そのピノッキオに感じる狂気というのも作品の意図どおりで、その後にヴォルペ伯爵のカーニバルで操り人形として働き始めると、ただのカネ稼ぎではなく、これが愛国賛歌と国威発揚に繋がっていくという…。

本作は舞台が第一次世界大戦中のイタリアとなっており、ファシスト党の支配下にあります。無知な子どもが容易に戦争の道具として加担してしまう恐怖を見事に風刺していました。あげくに後半では子ども兵士訓練施設に連れて行かれる…。原作のあの要素をこうやって改変してきたか!とここは手を叩いちゃいましたね。

そこでピノッキオはついに良心というものが芽生え始める。もっといえば“正しさ”とは何なのかを理解し始めます。そのきっかけがキャンドルウィックという少年にあり、その子が自身の父に反抗するという手助けをするわけです。

ここで「有害な家父長制」への痛烈な言及があることで、この物語が「父と息子」と安直な愛の関係に回収されないようにもなっていて、やはり“ギレルモ・デル・トロ”監督、巧みすぎる…。マスキュリニティの描き方は『ナイトメア・アリー』と同質でしたね。

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「フランケンシュタイン」をハッピーエンドに

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』はゼペットの物語としても秀逸で、このゼペットは序盤を見ればわかるとおり、非常に危うい心の崩壊をしています。悲しみに暮れているというよりは、こちらも有害な男性性を増大させてしまったような…。ゼペットもまた怪物になりかけているのです。

そこでクリケットの出番で、今作ではクリケットはピノッキオではなく、ゼペットの良心になるという…このアレンジも予想外でした。

ゼペットは終盤では原作どおり海の怪物に飲まれてしまっているのですけど、あれもこの作品のキャラクター性においては、有害に傾きすぎて改心してももう引き返せなくなった老人男性の末路という感じで切ないです。

そしていよいよラストでピノッキオとゼペットの合流。良心が自力で芽生えたピノッキオが本当の意味でゼペットを救う(怪物の倒し方も機雷爆破という豪快さで、怪獣映画らしいカタルシスでした)。その過程で永遠の命を捨てて人間になる(=死を選ぶ)という選択をとる。

非常に“ギレルモ・デル・トロ”監督らしい皮肉な顛末です。結局は木の聖霊にクリケットがお願いして再び命を復活させることでピノッキオは蘇るのですけど、このあたりは序盤で象徴的に登場していたイエス・キリストと重なり、信仰的ですらあります。風来の作家だったクリケットが信仰の物語を生み出すという、これまたクリケットにとっての到達点としても素晴らしいオチだと思います。

エンディングでは、ゼペットが老衰で亡くなり、クリケットも命を終え、あの猿のスパッツァトゥーラ(声は“ケイト・ブランシェット”!)も寿命を全うし、最後はピノッキオだけになります。

死に溢れている。でもとても幸せなエンディングです。全体を振り返るとこれは“ギレルモ・デル・トロ”監督なりのハッピーエンドに改変した「フランケンシュタイン」でもあったんでしょうね。狂気に染まって怪物を作ってしまった男とその怪物が幸せを手に入れるストーリー。かつての名作の悲劇性を幸福な結末に変えるというのは『シェイプ・オブ・ウォーター』でもやっていたので、“ギレルモ・デル・トロ”監督の想いが詰まっているのが窺えます。

ということで『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』、満腹で堪能しました。幸せ…。もうこの世の全ての古い童話は全部“ギレルモ・デル・トロ”監督にアレンジしてもらいたい…。

『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 84%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix ギレルモデルトロのピノッキオ

以上、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の感想でした。

Guillermo del Toro’s Pinocchio (2022) [Japanese Review] 『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』考察・評価レビュー