ヴェノム3部作のとりあえず解散…映画『ヴェノム3 ザ・ラストダンス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年11月1日
監督:ケリー・マーセル
べのむ ざらすとだんす
『ヴェノム ザ・ラストダンス』物語 簡単紹介
『ヴェノム ザ・ラストダンス』感想(ネタバレなし)
「ヴェノム」3部作の完結
あなたにとって『ヴェノム』シリーズとは何でしたか?
なんか急に問いかけてしまいましたけど、今回は振り返るタイミングなので、無理やりそれっぽい雰囲気で始めます。いいんです、そういうポーズだけでも…。
そもそもアメコミ映画は数あれど、ちゃんと3部作が連続してひととおり作られる映画というのは結構「選ばれしタイトル」だけです。
ソニーは『スパイダーマン』シリーズが2回、3部作を達成しましたが、『ヴェノム』シリーズもその殿堂入りを果たしました。
2018年に公開された『ヴェノム』に始まり、2021年の『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』と続き、そして3作目となった本作『ヴェノム ザ・ラストダンス』です。
いつの間にか開幕していた「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(Sony’s Spider-Man Universe; SSU)」にとってはこの『ヴェノム』シリーズが基幹となってきました。『ヴェノム』が成功していなければSSUも立ち上がっていなかったでしょう。
1作目の『ヴェノム』が公開されたとき、私もどんな映画になるのがワクワクしていました。「アンチヒーローなのかな? それともダークヒーロー? グロテスクでバイオレンスな方向で攻めてくれるの?」と想像も捗りました。
2作目を鑑賞して、『ヴェノム ザ・ラストダンス』という3部作の完結も見終えた今、ハッキリわかります。私の当初の想像はひとつも当たらなかったと…。
『ヴェノム』シリーズは、アンチヒーローでも、ダークヒーローでも、バイオレンスでも、グロテスクでもない。それは見かけだおし。本質はバディコメディであり、ドタバタなラブコメだったのでした。はい、間違いありません。
エディ・ブロックという中年の男が、シンビオートと呼ばれる地球外生命体に寄生されてしまい、「ヴェノム」という凶悪そうな見た目に変身して暴れまわる…。2つの生命の出会いというとSFチックだけど、実際はほぼ限りなくパートナー関係。一心同体の生活です。
3作目となる『ヴェノム ザ・ラストダンス』はそんな激動の2人の結末が描かれます。出会いがあれば、別れもあるんだね…。
でもしんみりしないでください。中身の大部分は以前からあったエディとヴェノムの関係性“萌え”のボリュームを増したラストオーダーです。3作目でもお腹いっぱい楽しめます。
今作の監督はシリーズでずっと脚本を手がけていた“ケリー・マーセル”が抜擢。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の脚本やドラマ『チェンジリング 〜ニューヨークの寓話〜』のショーランナーなどキャリアは実は豊富。
主演の“トム・ハーディ”も3部作を走り抜けました。主人公だけでなく、実質的にはヴェノムも演じているので、このトリロジーはかなり本人的にはヴェノム尽くしの充実した演技人生だったのではないだろうか…。
今作の共演には、『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』の”キウェテル・イジョフォー”(同役ではない)、ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』の“ジュノー・テンプル”、『恋人を取り戻すには』の“クラーク・バッコ”、『ボイリング・ポイント/沸騰』の”スティーヴン・グレアム”、『いつかはマイ・ベイビー』の“ペギー・ルー”など。
『ヴェノム ザ・ラストダンス』でエディとヴェノムのイチャイチャもしばらく見納め。たっぷり眺めておきましょう。
『ヴェノム ザ・ラストダンス』を観る前のQ&A
A:1作目の『ヴェノム』と2作目の『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』の鑑賞を推奨します。物語は2作目のラスト直後から続きます。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズのファンなら |
友人 | :過去作をおさらいして |
恋人 | :気軽なエンタメ |
キッズ | :子どもでも観れる |
『ヴェノム ザ・ラストダンス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
フリーの記者であったエディ・ブロックは地球外生命体「シンビオート」に体を寄生されたことで人生が一変しました。ヴェノムというその存在がエディと信頼関係を深め、強敵を倒して世界を救ったりもしました。
現在、喧騒から離れたかったラフな格好のエディはメキシコのバーで酔っ払っていました。少々状況はややこしいです。なんだか飲んでいるうちに、別の次元の世界に来たらしいです。この世界は自分のいた世界ではなくて、何でもサノスとかいう奴のせいで全ての生命の半分が消失した5年間があったとか…。目の前のバーテンダーの話はにわかに信じられません。
しかし、また何の前触れもなく、後ろに吹き飛び、同じバーに戻ってきます。目の前にいるバーテンダーは先ほどと違って長髪。どうやら今度はエディの知る元の世界のようです。
お気楽なヴェノムは触手を伸ばし、ノリノリでバーテンダー気分。エディはテンションについていけません。
ふとニュースを見ると、エディは指名手配犯になっていることを知ります。パトリック・マリガン刑事の殺害容疑です。本当は危険な凶悪犯の仕業なのですが、エディのせいになっています。ちょっと羽を伸ばしている間に相当に厄介な状態になってしまったようです。
バーを出て、夜の町をトボトボと歩いていると、何かの気配を感じます。たくさんの犬が檻に捕らえられている場所に着くと、背後に怖そうな連中が現れ、銃を突きつけてきます。
しかし、エディにとっては恐れる存在ではなく、たちまちヴェノムの力を借り、相手を圧倒。息もぴったりです。
同時刻、先ほどまでエディがいたバーにレックス・ストリックランドという兵士が現れ、バーテーブルに残っていたヴェノムの一部を回収し、去っていきます。
それほど時間が経たずして、テディ・ペインという科学者は連絡を受けます。ペインは幼い頃に双子の兄を亡くし、それが後悔になっています。
ペインはエリア51の軍施設に到着。撤収作業が進んでいますが、インペリウム計画の地下秘密施設エリア55がまだ存在しています。ここでレックス・ストリックランドに会い、彼はシンビオートのサンプルをサディ・クリスマスに渡します。
その施設にはパトリック・マリガンが運び込まれてもいました。実はまだ生存していました。しかし、密閉された空間に隔離されています。シンビオートに寄生されており、ペインとストリックランドはガラス越しに会話を試みます。地球でのシンビオートの目的とは一体何なのか…。
その頃、ニューヨーク行きの飛行機の側面に張り付いていたエディ&ヴェノム。けれどもいきなり化け物が襲ってきて落下してしまいます。
着地後、ヴェノムはあの怪物はゼノファージだと説明します。ゼノファージはシンビオートの創造者であるヌルによって創造された存在。ヌルはシンビオートの反乱で牢獄に閉じ込められているのですが、シンビオートが宿主を蘇らせた時に作られる「コーデックス」を手にしてこの牢獄からの解放を狙っているのだとか。
つまり、エディこそが今のコーデックスの持ち主であり…。
ラブコメで3部作を忙しく走り抜ける
ここから『ヴェノム ザ・ラストダンス』のネタバレありの感想本文です。
『ヴェノム』シリーズはラブコメであるという前提で感想を書いていきますが、2作目の前作が新婚と倦怠期を描いているとすれば、『ヴェノム ザ・ラストダンス』はもはや酸いも甘いも噛み分ける仲となった熟年カップルの離別を描く大団円です。
とは言え、映画の大半はお気楽なムード。
もはや鉄板ギャグとなった、なかなか揃わない「We are Venom!(ウィー・アー・ヴェノム)」の決め台詞といい、ほぼ常にエディとヴェノムはボケをかましています。
心なしか今作のエディはずっと疲れ切っているけど…。やっぱり寄生されていることには変わりないから、エディの心身の負担は相当なもので、栄養も吸われているのだろうか…。あれはもう二日酔いのレベルじゃない気がする…。ジャンボジェット機の側面にしがみつくみたいな芸当ばかりさせられていたらそりゃあ疲れもしますけどね。
エディとはうってかわって、ヴェノムは元気盛り盛り。パラシュートになるわ、馬になるわ、魚になるわ、カエルになるわ、「お前、寄生相手の相性とかあったんじゃないのかよ」というくらいに変幻自在で、何でもやってくれます。体を張るのに全力な芸人みたいです。
ラスベガスではカジノで発散し(エディは付き合わされている)、チェン夫人とノリノリで「ダンシング・クイーン」の音楽にのって踊りまくるヴェノム。2024年のアメコミ映画は『デッドプール&ウルヴァリン』や『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』といい、何かしらダンスしてますが、今回の『ヴェノム ザ・ラストダンス』はタイトルに「ダンス」ってついていますし、題名に偽りなしの中身ではありました。ほんと、今作のヴェノムはよく歌う。幼稚園児のテンションだ…。
これだけ能天気なノリだったのに、最終盤のバトルで急に「ここは俺が犠牲になるしかない」的なやむを得ない別れが投入され、ヴェノムはゼノファージもろとも消滅。独りになって街をふらつくエディの脳内を投影するように、今までの2人の思い出のシーンが次々と蘇る。
「こんな超ベタな演出、イマドキの大作映画でもやるんだ!」という驚きのほうが勝って、私はしんみりするよりはびっくりしていましたよ。
3部作全体を振り返ると、ラブコメとしてはいささか急すぎる4コマ漫画的な起承転結ではあったとは思います。『ビフォア』シリーズのように2人の感情の機微を繊細に捉えるゆったりした時間は無かったし、『好きだった君へ』シリーズのように身近な青春でもないので、ちょっと超越しすぎていて掴みどころは無かった感じもあるし…。
それでも数あるアメコミ映画の中でも、こんなカップルペアに特化したトーンで突っ走った3部作は他にはなかったので、この『ヴェノム』シリーズは稀有な作品になったのではないでしょうか。
いろいろ食べ残しの多い3部作
一方で、『ヴェノム ザ・ラストダンス』…というよりはシリーズ3部作全体の総括的な感想になりますけど、やはりひととおり見終えて思うのは、3部作としての完成度は弱いな…ということ。観ていて思ったのですけども、この『ヴェノム』シリーズ、規模は違いますが、『スター・ウォーズ』の新3部作に似ている問題点が目立ったなと感じました。
要するに、事前に「こういう3部作にするぞ」というビジョンはないまま、1作ごとにその場の感覚だけで製作していった感じです。だから3部作を終えた今、「なんか1作ごとの積み上げはあまりないな…」という気分が残る…。
そもそも前作のラストでは「ついにMCUとSSUの合流が果たされるんだ!」という未知の展開を期待させるオマケのシーンがありました。当然、ファンは期待します。というか、ファンはずっと「このヴェノムとあのスパイダーマンが戦っているところが見たい!」と待望しているわけで…。
しかし、マルチバースを軸にした『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』でのヴェノムはオマケの顔出し程度で退場し、この3作目では完全に無かったことになっています。
一応、冒頭で繋がりを再度描いていますけど、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』とは違うシーンの演出になっていたり、妙に歯切れの悪い描き方です。
そして全くの突然にヌルという史上最強の雰囲気を醸し出すラスボスっぽい奴が3作目で出現。しかし、こいつとは直接は戦わないという非常にこれまたスカっとさせない扱いです。今作は本当にゼノファージという下っ端の化け物としか戦ってないですからね(シンビオート戦隊かのように大盤振る舞いでシンビオート人間合体を出しまくったけど)。
これを次なるSSUのシリーズの展開の布石だとポジティブに捉えることもできますけど、まあ、ぶっちゃけた話、全部が大人の事情なのだと思います。
別のSSU作品の感想でも何度も言及してきましたが、ソニーが「スパイダーマン」系の作品の映画化の権利を持っているのはあくまでマーベルとの契約があるからです。つまり、契約しだいです。なのでおそらくソニーとマーベルとの間には「将来的に契約はどうする?」という駆け引きが常に生じているのだと察せられます。
たぶんなんですけど、マーベルのクリエイティブ面のリーダーである“ケヴィン・ファイギ”すらも今後の見通しはよく知らないんじゃないかな。二大企業の経営方針が絡む事項なので、クリエイター側が関与できる次元ではないです。だから最近のアメコミ系のシェアード・ユニバースはクレジットのシーンでちょっと新キャラや新展開を匂わす程度のことしかできず、一貫したクリエイティブな長期計画を実行できずにいるのだろうな、と。元も子もない言い方をすれば、経営陣や投資家の気分しだいで振り回されているのでね…。
だから今作『ヴェノム:ザ・ラストダンス』も妥協点としてとりあえずエディとヴェノムの関係を解散させたのでしょう。もしシリーズが打ち切りになっても、仮に“トム・ハーディ”の再契約ができずとも、また2人の共演を描くことになっても、どうにでもなるような塩梅でキリをよくしておくという無難な着地。
ソニーが「スパイダーマン」というIPを捨てることはないと思いますけど、クリエイターや俳優は平気で捨てる可能性はあるのでね…。
結局はIPビジネスです。嫌だ嫌だ…ヴェノムさん、このカネの亡者の人間たちも食い尽くしてくれませんか?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の映画の感想記事です。
・『マダム・ウェブ』
・『モービウス』
作品ポスター・画像 (C)2024 MARVEL. All Rights Reserved.
以上、『ヴェノム ザ・ラストダンス』の感想でした。
Venom: The Last Dance (2024) [Japanese Review] 『ヴェノム ザ・ラストダンス』考察・評価レビュー
#アメコミ #マーベル #SSU #トムハーディ