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実写映画『キングダム』感想(ネタバレ)…邦画は武功をあげて登りつめる

キングダム

邦画は武功をあげて登りつめる…映画『キングダム』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:KINGDOM
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年4月19日
監督:佐藤信介

キングダム

きんぐだむ
キングダム

『キングダム』あらすじ

紀元前245年、春秋戦国時代の中華西方の秦の国。戦災孤児の少年であった信と漂は天下の大将軍になることを目標に掲げ、日々の剣術の鍛錬に励んでいた。王都の大臣・昌文に召し上げられた漂が王宮へ入り、信と漂はそれぞれ別の道を歩むこととなる。そして月日は流れ、孤独の中でも夢を捨てずにいた信のもとに思いがけない出来事が起こる。

『キングダム』感想(ネタバレなし)

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2019年邦画の最大の戦果

中国人が日本人に対して疑問に思うことのひとつでよく挙げられるのが「なぜ日本人はあんなにも中国史への関心が高いのか」ということ。え? 関心、高かったっけ?…と思ったりもしますが、あれです、確かに「三国志」などはさまざまなコンテンツ媒体で親しまれています。その一方で1900年代あたりからの、それこそ日本が植民地支配をアジア各地域に広げていた歴史に関しては疎かったりするんですよね。まあ、都合のいい国民性だと言われればぐうの音もでませんが…。

日本人がこれほどまでに中国史の一部時代に関心を持つ理由は私にはわかりませんけど、もしかしたら同じアジアとして通じるものを感じつつも、どこか自国にはないファンタジーな世界としても楽しみやすい、そういう距離感が良いのかもしれません。日本の戦国時代とかには飽き飽きしている中で、別の舞台を味わいたくなるのかも。その気持ちはわかります。

そういう日本に根強い中国史への関心は、今、220年~280年の間の「三国志」ではなく、それよりもっと前の紀元前となる俗に「戦国時代」と呼ばれる時代に注がれているようです。その注目の火付け役となっている漫画が「週刊ヤングジャンプ」で連載している原泰久による「キングダム」紀元前3世紀頃の中国が舞台になっています。

案の定、漫画カルチャーに疎い私は知らなかったのですけど、この「キングダム」は非常に大人気だそうで、2019年11月時点で単行本は56巻あり、累計4700万部を突破しているとか。あらためて「日本人は中国史好きだな!」と実感するところです。それにしても56巻か…今の時点で紀元前を描いているのだし、このまま次の時代を歴史に沿ってどんどん題材にしていけば、1000巻は余裕で超えるんじゃないか…。いっそ中国史完全制覇してほしい(まあ、作者の方もさすがに飽きるかもですけど)。

そんな超壮大な舞台を題材にしている「キングダム」。2012年からテレビアニメ化も始まり、順調にシーズンを更新しているようですが、ここにきてついに実写映画化されました。それが本作『キングダム』

まずこの映画化を実現できたことがひとつの奇跡です。これまでも漫画実写化はたくさんあってそのたびに悲鳴が聞こえる事態も起こりましたが、今回の『キングダム』は事情が違います。キャラを再現できるかとかそういうレベルのハードルではなく、あの中国史をどうやって日本が映像化するのかという問題が立ちはだかるのです。ファンタジーな世界観ならVFXを頑張ればいいのかもしれませんが、歴史モノはそうも言ってられません。なにせ実在の歴史という重みもありますし、下手なことをすれば目も当てられないクオリティになってしまいます。

そこで東宝、ソニー・ピクチャーズ、日本テレビと、大企業が横並びでタッグを組んで製作を指揮。中国ロケを敢行し、日本映画史上最大規模の製作費を投じたと謳われる、邦画史でもなかなかお目にかかれない超大作が誕生しました。

もちろん公開前は疑り深い意見も普通に聞かれました。大丈夫なのか、と。多額の製作予算を投入して大コケしたらそれこそ赤面では済まないです。私を含む映画好きの人たちの中にも半信半疑な目はたくさんありました。

しかし、そんな高すぎるハードルを見事に飛び越え、結果、興行収入は57億を超える大ヒット。これはじゅうぶん大成功と言っていいのではないでしょうか。原作者の“原泰久”も企画・脚本から入念に参加したおかげか、ファンの厳しい目線も跳ね除けのこの戦果。昨今の邦画業界はもっぱらテレビドラマやアニメの劇場版で(言い方が悪いですけど)手堅く稼ぐのが常態化している中、この挑戦が勝利を生んだのは邦画史にとっても重大な出来事であったはず。きっと製作陣もガッツポーズでしょうし、なにより自信がついたのではないでしょうか。

2019年の邦画はこの『キングダム』と『翔んで埼玉』が1年を象徴する顔になったと思います。

その『キングダム』、監督は『アイアムアヒーロー』や『いぬやしき』などの“佐藤信介”。VFXを得意とする監督のように紹介されますが、ベタベタなVFXありきではなく、しっかり作品に適合させようとするこだわりがある人だと個人的には思っています。作品の完成度は正直マチマチで、“おおっ!”と拍手したくなるものもあれば、“えぇ…”と落胆するものもあったのですけど、今回の『キングダム』は見事にハマりましたね。良かった…。

俳優陣も映画製作規模に匹敵するように豪華ですし、俳優目当てで鑑賞するのも良いのですけど、私みたいに原作を知らない人でも映画好きであれば邦画史に残りそうな作品ですから観てみるのも良いと思います。

なんども言いますけど2019年の邦画を象徴する一本ですからね。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(原作未読でも楽しい)
友人 ◯(大作なので語りがいあり)
恋人 ◯(一緒に原作を読むも良し)
キッズ ◯(歴史を知るきっかけにも)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『キングダム』感想(ネタバレあり)

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夢があるから…

中国の「戦国時代」は紀元前403年に「晋」が「韓」「魏」「趙」の3つの国に分裂したことから始まり、いろいろな対立が勃発を繰り返す中、やがて戦国七雄と呼ばれる7つの国「韓(かん)」「魏(ぎ)」「趙(ちょう)」「楚(そ)」「燕(えん)」「斉(せい)」「秦(しん)」の争いへと集約されていきます。このうち最も強大な国として存在感を強めたのが「秦」であり、後に全国統一を果たして長きにわたった戦国時代は幕を閉じます。このときの「秦」をまとめあげた君主こそ「政」であり、後に「始皇帝」と呼ばれる人ですね。

映画『キングダム』はそんな「秦」が中華統一を目指すスタート地点に立つまでを描く物語です。実質的にはプロローグ。すごく壮大な序章ですけど。

紀元前255年。「秦」の国。あるひとりの少年が奴隷として売り飛ばされるために木檻に入れられて運ばれていました。そんな少年、名前は「信(しん)」の見つめる地平の先、大軍を引き連れて勇ましく歩く将軍が目にとまります。それは「王騎」と呼ばれ、「秦」の六大将軍の最後のひとりで、その強さは国中に知られるほどだとか。「すげぇ」と感嘆の声を漏らす信。

なお、史実の王騎はそんなに重大な人物でもないみたいですけど、この「キングダム」の世界観では超重要キャラとして君臨しています。こういうアレンジが歴史フィクションものの楽しさですよね。

貧しそうな民家に奴隷として売られた信。そこにはすでに「漂(ひょう)」という同い年くらいの少年がいました。ひたすら労働にこき使われる日々。ずっと奴隷でしかない人生の中、それから抜け出す方法がひとつだけあるという漂。それは「剣」。武勇を重ねればいずれ天下の大将軍になれる。そう夢を抱き、互いに一緒に抜け出すために、鍛錬をすることにした二人の少年。

月日は少し経ち、青年へと成長した二人。鍛錬は続けており、なかなかの腕前になっていました。今日も日課の剣術トレーニングを二人でしていると、謎の男が近寄ってきます。かなり位の高い身分と思われる服装で「お前らどこで剣術を習った?」と聞いてくるその男。家に帰るとまたその男がおり、どうやらそいつは「昌文君(しょうぶんくん)」と呼ばれる秦の武将のようです。そして「漂を見受けしたい」と言ってきます。こうして初めて別れることになった信と漂。「二人の行きつく場所は同じだ」と誓い合って…。

それ以降もずっとひとりで黙々と訓練する信。ある日の夜中、怪我を負った人間が駆け込んできます。それは信じられないことに漂でした。追っ手が来ると告げ、説明も不十分なまま、地図を渡し、「俺を天下に連れてってくれ」と言い残して、重傷の漂は息を引き取るのでした。

何が何だかわからない信はひたすら怒りだけを爆発させて「殺す、ぶっ殺す」と剣を持って駆け出します。示された場所にたどりつくと、そこにいたのは漂でした。なぜ?と混乱していると、刺客が出現。そのやりとりから、漂は今、自分の目の前にいる「秦」の王「嬴政(えいせい)」に顔が似ていたから連れられたこと、そして替え玉であった漂が先ほど死んだことを理解する信。身代わりに犠牲になった親友への理不尽さに怒り、まずは朱凶を圧倒。とどめを刺したのは嬴政でしたが、いまだに信用できません。

気まずい雰囲気が流れる中、村は焼き払われ、居場所もなくなった二人。その二人の前に現れたのは変な格好をした怪しい奴。被り物をとると幼い顔立ちで、「河了貂(かりょうてん)」と名乗り、山民族の末裔らしく、抜け道に案内されます。

その道中、嬴政は事情を話します。弟である「成蟜(せいきょう)」の反乱を止められなかったこと、漂は危険を承知でこの役目を受け入れたこと、昌文君と西の果てで合流する手はずになっていること。それを知った信は漂の「俺を天下に連れてってくれ」の真意を知り、嬴政を助けるべく力を貸すと決めます。

一方、反乱に成功して有頂天になっていた成蟜の前に、隠居していたはずの王騎が出現。手土産に昌文君の首を持ってきて、血沸き肉躍る世界が望みだと不気味に語ります。

信と嬴政、河了貂の3人はなんとか目的地に到着。そこに現れたのは昌文君とその部下たち。これでは兵の数が少なすぎるのは歴然。そこで最後の手段として、かつて歴史的に対立をしてしまって以降、交流が断絶している山の民のもとへ向かうことに。その山の民の王「楊端和(ようたんわ)」は「秦」を受け入れ、仲間に加わってくれるのか…。

今、中国の歴史を動かす一大決戦が始まろうとしている…。

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映画の勝利の最大功労者は…

実写映画『キングダム』のクオリティを担保しているのは間違いなくロケーションの力です。安易にCGに頼らず、素直に本国の土地パワーにあやかったのは功を奏しました。

ロケなんて日本でもいいと思うかもしれませんが、どうしても日本は制約が多いですからね。日本時代劇モノを観ていてもそうですが、その厳しい制約の中で作れる映像には限界があります。

しかし、中国となると状況は違う。馬100頭を用意して大規模騎馬戦をするのも不可能ではない。春秋戦国時代の宮殿を再現したオープンセットもすでにあるし、浙江省寧波市の象山県にある象山影視城のロケ地はそこにいるだけでも世界観を構築したも同然。

兵士役のエキストラものべ1万人を投入し、作品の一番大事なスケールに関しては文句をつけようがないレベルでした。こういうのもあれですけど、やっぱりスケールに関しては日本は中国には敵わないですね。

衣装も素晴らしく、日本時代劇ではあり得ない中国史文化を感じさせつつ、漫画原作のアレンジもプラスされたデザインは一見の価値あり。とくに山の民のビジュアルは個人的にも大好きであり、楊端和、バジオウ、タジフといった各キャラのクセの強い存在感を完璧に引き出していました。楊端和はあの見た目のまま戦う方が絶対に威圧さで有利だったろうに…。河了貂の蓑型戦闘服もギャグにならないバランスで、ユーモラスな感じを残しており、ほどよい着地点。

王宮など舞台セットのデザイン班も素晴らしい仕事っぷり。

この『キングダム』の勝利の最大功労者はロケ地と中国スタッフとデザインチームと言い切っていいのではないでしょうか。

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大沢たかおの盤上の駒

俳優陣も上手く世界観にフィットしていました。

主役の“山﨑賢人”は実写映画化の主人公として毎度のように起用されるので一種のネタ化しつつありましたが、ついにベストな作品に出会えたのかも。勝因はあれですね、“普通”だということ。いや、どうしても少年漫画系は見た目がリアルから離れた主人公も多く、それを実写化するとコスプレ感が嫌でも出てくるわけです。その点、『キングダム』の信は見た目もいたって普通です。今までは違和感を出さないように役者自身が必死にフォローしている部分がありましたが、今回は何も考えずそのぶんアクションに徹することができたのではないかな、と。

W主人公的なポジションで登場し、一粒で二度美味しい役である漂と嬴政の二役で名演を見せた“吉沢亮”はファンも見ごたえありでした。ヴィランな役どころである成蟜を演じた“本郷奏多”は、毎回少年漫画原作の映画だと『進撃の巨人』や『鋼の錬金術師』など全然キャラが違う役を上手く演じ分けており、今回もあらためてその多彩な才能を見せつけていました。

河了貂を演じた“橋本環奈”は、なんでしょうかね、こういう役は“橋本環奈”がやるという方程式を我が物にしている時点でもう凄い女優ですよ。

楊端和を演じた“長澤まさみ”は貫禄が凄い。年齢的にまだ若手と言ってもいいはずなのに、誰よりも最強にもっとも近い空気感を漂わせている。この人が始皇帝になりますと言われても信じるもの…。

そして現最強を欲しいままにしている王騎を演じた“大沢たかお”。さすがとしか言いようがない大物っぷり。出番は少ないのに一番印象に残るのですから。全ては“大沢たかお”の盤上の駒だった…。

舞台が良いとキャストも100倍良く見えてきますね。

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気になる中国の反応は?

アクション面に関しては決して悪くはなく、これまで邦画が蓄積してきた剣豪アクションの集大成的なものを感じました。

ただその限界も見えなくもなく、これ以上の拡大性は難しいのかも…とも思います。ハリウッドも同じ課題に過去に直面し、今は役者が限界までアクションに挑戦するというリアル路線でオリジナリティを出している部分があります。なのでおそらく邦画もその方向性で進化していくのかもしれません。となるとアクションの訓練時間をたっぷりとれる俳優や撮影スタイルが必然的に求められてきますね。どうなるのやら…。

個人的には「武侠映画」みたいなひとつのアイデンティティになるようなジャンルになればいいのですけど、今のところ個性が見えづらいです。

物語の展開としては序章なのでしょうがないのですが、主人公の成長はそこまで乏しいのは魅力に欠ける部分でもあります。全体的に脳筋猪突猛進スタイルないつもの少年漫画にありがちな主人公ですから。ああいう人間が実際に歴史対立を抱える双方を和解させるのは無理だろうな…と冷めた目線になったのも正直な感想。あの山の民の説得シーンは信じゃなくて別の誰かに成果を譲ってあげて欲しかったです(河了貂とか)。

あと敵が最後の「左慈」よりも「ランカイ」の方が圧倒的に強そうな気がする…。

何はともあれ中国史に恥じない頑張りを日本が見せたと私は思う『キングダム』。気になるのは中国の反応です。当の中国人はどう思っているのだろう。中国の映画レビューサイト「douban.com」での本作の評価はまずまず。ネガティブな意見よりもポジティブな意見の方が多いです。まあ、中国ではまだ公開されていないようなので、あれなのですが…。

これだけ成功すれば続編も見込めるはずですが、なにせ規模がデカイのでどうなることやら。ぜひ映画に限らない、新しい挑戦に突き進んで武功をひとつひとつあげて登りつめていってほしいです。

『キングダム』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

続編の感想記事です。

・『キングダム2 遥かなる大地へ』

作品ポスター・画像 (C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会

以上、『キングダム』の感想でした。

Kingdom (2019) [Japanese Review] 『キングダム』考察・評価レビュー