FはFでもアクセルF…Netflix映画『ビバリーヒルズ・コップ4 アクセル・フォーリー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:マーク・モロイ
びばりーひるずこっぷ あくせるふぉーりー
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』物語 簡単紹介
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』感想(ネタバレなし)
ビバリーヒルズ再訪
1769年、ヨーロッパから植民地主義を引っ提げて白人たちがある地域にやってきます。そして1828年に牧場を開拓し始めました。1900年にはこの地で石油で儲けようと企む輩が現れますが、全然上手くいかず、この土地を売ることにします。
そのときのこの土地の売却名は別にあった農場にあやかって「ビバリーヒルズ」となりました。
当初は人気も低迷していたらしいですが、いつしかエンタメ産業の発展とともにこの地も活性化し、すっかりポップカルチャーの中でも有名な場所となります。カリフォルニア州ロサンゼルスのハリウッドに近いエリアとして、富裕層が集う娯楽の成功者の象徴へ…。
そんなビバリーヒルズですが、実は土地開発の初期にはこの地は「白人だけしか住めない」という協定があったそうです。しかし、それでも黒人など有色人種の移住は生じており、そこで1940年代に裁判沙汰となりました。結局、全米黒人地位向上協会(NAACP)も介入し、人種による差別は認められないとして、この白人だけの地という肩書は無効となります。
そういう歴史をあえて茶化してバカにするように、「ビバリーヒルズ」の名を掲げて話題となってしまった映画が1984年に登場します。『ビバリーヒルズ・コップ』です。
この映画は”エディ・マーフィ”が主演する黒人の警官がビバリーヒルズにやってきて自己流に捜査し始めるというストーリー。”エディ・マーフィ”を一躍有名にした大ヒット作となりました。
主人公のアクセル・フォーリーは本来はミシガン州デトロイトで仕事する黒人警官。デトロイトは公民権運動の歴史があるように、非常にアフリカ系アメリカ人の馴染みのある地で、実際の人口も8割近くが黒人となっています。8割以上が白人であるビバリーヒルズとは真逆です。
そういう世界が全然異なる黒人警官がビバリーヒルズにノコノコと殴り込むように踏み荒らしていくというところに、この『ビバリーヒルズ・コップ』の大前提の笑いがあります。あまり人種に疎い日本人客層はそこを理解できずに観ていることが多いですけど…。
『ビバリーヒルズ・コップ』はヒットしたので、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987年)、『ビバリーヒルズ・コップ3』(1994年)と、続編が作られていったのですが、3作目の不評もあってこれ以上の続きの企画は頓挫します。
しかし、なんと30年ぶりに4作目の続編が公開されました。
それが本作『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』です。
主演はもちろんこの人がいないと始まらない、”エディ・マーフィ”。キャリアとして不調だった時期を乗り越え、2019年の『ルディ・レイ・ムーア』から再び元気になりだした”エディ・マーフィ”。『星の王子 ニューヨークへ行く2』のような代表作の続編から、『ユー・ピープル ~僕らはこんなに違うけど~』や『キャンディ・ケイン・レーン』のような新しいコメディまで、最近は絶好調です。ついに自身のブレイク作の原点である『ビバリーヒルズ・コップ』にも帰ってきました。
新作『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』も2024年公開ながら、80年代のノリをそのままに好き勝手にやってます。過去作の俳優も招集して、すっかり同窓会の空気もあったり…。いつものテーマ曲もあり。
そんな知り合いばかりの真っ只中に今回はドラマ『スーパーパンプト/Uber 破壊的ビジネスを創った男』の“ジョセフ・ゴードン=レヴィット”が混ざっていきます。
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』の監督は、本作が長編映画監督デビュー作となる“マーク・モロイ”。
少し残念なのは、勢いを取り戻した“エディ・マーフィ”の近作全てが動画配信サービスでの独占配信ばかりで全く劇場で楽しめないことですかね。『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』も「Netflix」独占配信です。自宅でのんびり涼しい環境で眺めてください。
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2024年7月3日から配信中です。
A:とくにありません。過去作を観ていなくても基本は問題ないです。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ好きなら |
友人 | :暇つぶしでも |
恋人 | :ノリが気に入るなら |
キッズ | :子ども向けのギャグ少なめ |
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
アメリカのミシシッピ州のデトロイト。アクセル・フォーリーは地元に親しまれるベテランの刑事であり、今日も元気です。
熱気溢れる地元のホッケーのスタジアムへ行き、観客席に混ざり、双眼鏡で周囲を監視。隣には経験の浅い白人のマイク・ウッディがおり、アクセルは「黒人リーグがあったんだぞ」と嘘をついて揶揄います。そんな軽口の中でもしっかり怪しい奴の動きを見逃しません。
選手控室を占拠する強盗を発見し、銃撃戦になりながら追跡。バギーで夜の街を逃走する一団を捕まえるべく、除雪車を確保して追いかけます。上司のジェフリー・フリードマンに「これはどうしても追う必要がある」と力説するアクセルはもう止まりません。
めちゃくちゃに走りまくり、公共物を壊しながらも、なんとか逮捕。これもいつものこと。アクセルのやり方です。
署に戻ると同僚は拍手で讃えます。しかし、ジェフリーは苛立っていました。「もうあんな無茶できる時代ではない」と諭し、自分も退職するつもりだともジェフリーは言います。そして「娘と仲直りしろ」とアドバイス。「お前が街を必要としているだけ」とアクセルの行動を諌めつつ…。
自由奔放なアクセルですが、実はジェーン・ソーンダースという疎遠な成人の娘がいました。その娘とは連絡をとっていません。
一方、ジェーンはプロボノとして無料で弁護を引き受けるほどに困っている人を放っておけず、刑務所にまで通う弁護士でした。今は警官殺しの罪を被せられたというエンリケスの件に集中しています。
しかし、ジェーンは謎のマスク集団に「奴の弁護を降りろ」と脅され、車ごと吊り下げるという大胆な脅迫を受けます。只事ではありません。
アクセルとも関係があるウィリアム・“ビリー”・ローズウッドが現場に来て、自分を曲げずに周囲の制止を聞かないあたりは父にそっくりだとジェーンを評価します。
心配したビリーはアクセルに連絡し、アクセルは娘の危機にじっとしていられず、ビバリーヒルズに向かうことにします。ジェフリーに空港まで車で送ってもらい、「もう若くないんだぞ」と言われるもやっぱり気にしません。
アクセルにとってビバリーヒルズは昔に無茶をした思い出の地。懐かしい空気を楽しみます。まずはローズウッド探偵事務所へ。もう何か部屋を物色されており、どうやら問題が起きたらしいことを悟ります。
ビバリーヒルズでまたも自分が騒ぎに飛び込むしかないようです…。
エディ・マーフィの人種ギャグ
ここから『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』のネタバレありの感想本文です。
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』と似たような映画をつい最近も観たような…。そうです、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』です。こちらも(少し世代が新しいですが)往年の名作の続編で、黒人警官が主役のアクションコメディ。
しかも、脚本が同じ”ウィル・ビール”で、『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』も『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の“アディル・エル・アルビ”&”ビラル・ファラー”が監督する予定だったわけで、接点がかなり多いです。
では『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』の他にない個性は何かと言えば、それはやっぱり“エディ・マーフィ”以上に語れるものはありません。
新作でも『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズの世界観で“エディ・マーフィ”が持ち前のギャグセンスを披露しまくっています。ワンマンショー状態です。
本作の“エディ・マーフィ”のギャグのアプローチは大きく分けて2種類あると思うのですが、そのひとつは「人種」ネタ。これは外せません。そもそもこのシリーズのコンセプトが最初に説明したとおり、「属する世界が全然異なるデトロイトの黒人警官が白人空間のビバリーヒルズにノコノコと殴り込むように踏み荒らしていく」ってところにありますから。
本作でも冒頭からデトロイトのアフリカ系コミュニティが暮らす決して裕福ではない街並みをアクセルが安心感たっぷりに車で走っていく光景が映し出されます。もしこれが白人警官だったら「こいつら(黒人)、何か悪いことしてるんじゃないか」と人種的偏見を滲ませて緊張感を発しながら走行しそうです。しかし、アクセルにはそんな感情は微塵もない。これがこのアクセルという人間であり、そして『ビバリーヒルズ・コップ』という作品の肝でしょう。
そのアクセルが久々にビバリーヒルズに降臨。今回は多少人種的多様性を感じる雰囲気もありますが、やっぱりビバリーヒルズは今も白人の街です。
そんな2つの世界を知るアクセルは、白人風の喋りと黒人らしい喋りを使い分けて渡り歩こうとし、ときに全然通用せず、それが笑いになる。いつものパターンです。「ブラザー」としきり親しく接しても同じ黒人でもあっさり拒絶されたり…。
ちょっと残念というか、これはしょうがないんですけども、日本語利用鑑賞者は字幕でも吹き替えでもこの“エディ・マーフィ”の人種的トーク・テクニックをあんまり満喫できないんですよね。翻訳できないから…。声優の“山寺宏一”の吹き替えも独自の味を加えることに成功しているのですが、“エディ・マーフィ”原産の生の味はだせない…。オリジナルではそういうギャグなんだなと頭で理解するしかないですね。
もう若くないけど…関係ない!
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』における“エディ・マーフィ”のギャグのもうひとつのアプローチ…これは今作ゆえの新しいネタですが、それは「高齢に差し掛かり始めた男性」いじりです。
作中では、”ポール・ライザー”演じるジェフリー、”ジャッジ・ラインホルド”演じるビリーなど、かつての登場人物がカムバックしてるのですが、みんな揃いも揃ってもう年です。序盤からしつこいくらい繰り返されるとおり、「もう若くない」と自覚しています。運動能力も落ちたし、妻とはもうベッドで元気にヤれることもないし…とそんなボヤキばかりが口からこぼれます。
そんな男たちの前でも“エディ・マーフィ”はやけに屈託なく振舞います。これは“エディ・マーフィ”の過去の(子どもの認知スキャンダルも含めて)女性関係を意識させなくもない話ですが、とにかく“エディ・マーフィ”は前向きなのでした。体力も自信もない男たちに厚かましく発破を掛けるというのが今の“エディ・マーフィ”にできる最も無難で確実なギャグなのかな。
”ジョセフ・ゴードン=レヴィット”演じるボビー・アボット刑事が、異人種カップルとしても比較的新しい時代の象徴になってますが、そんなもの背負う暇もないくらいにアクセルが騒がしいので引っ張られまくりだった…。まあ、”ジョセフ・ゴードン=レヴィット”も年齢的にそんな若者代表ではないし…。
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』でも話しましたが『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』でも「コパガンダ」の問題は生じます。今作も例によって例のごとく、警察の汚職が事件の背後に描かれ(悪い“ケヴィン・ベーコン”はいつ見ても良いものだ)、警察権力の批判を入れることで、バランスをとろうとしています。
加えて、わりと唐突に今作で登場したアクセルの娘のジェーン(演じるのは”テイラー・ペイジ”)は刑事弁護人という職業であり、何かしらの理由で無実なのに刑に服役することになった人たちの味方になります。とても真面目な性格で、「本当にアクセルの子ども?」と疑わせる意図かと思ったけどそうでもなかった…。
このジェーンの職業的正義とセットになることで、警察不正への明確な「そっちには媚びませんよ」というスタンスとして強化されている感じです。
『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』は同窓会的なリバイバルで終わるわけでなく、まだ続編をするつもりみたいですけど、どうせやるならここから新しい家族の物語にするのもいいんですが、全く新しいスタートラインでシリーズを始める挑戦も歓迎です。
“エディ・マーフィ”は引き続き欠かせないと思いますが、このままだと引退作も『ビバリーヒルズ・コップ』になりそうだな…。それもそれで“エディ・マーフィ”には本望かな…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Netflix ビバリーヒルズコップ4 アクセルフォーリー
以上、『ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー』の感想でした。
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#エディマーフィ #警察